とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
さてと、無惨様が撃ちとれなかったし、竈門家も生存したので。
フワッとした理不尽な鬼退治の始まりです。
アベルが胡蝶姉妹の前から姿を消してから、四年が経った。
力も必要なく、簡単に鬼の首が切れるビーム・サーベルの存在は、鬼殺隊だけではなく鍛冶師達にも驚愕を与えた。
今まで警官などを気にして、隠すようにしていた刀。それが袖口に隠せるほどに小さくなり、威力もかなり高くなった。
鬼に当てればいい。首を斬ることなく、体のどこかに当てればそこから崩れていく鬼を前にして、誰もがことの重大性に気づく。
『これがあれば、鬼など恐れることない』。そんな考えが浮かんでしまうほど、ビーム・サーベルの存在は鬼殺隊を揺さぶっていた。
しかし、だ。その一方で製造や複製は不可能との結論も出ていた。
分解しようと近づいたら、警告音が鳴る。持主の胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、栗花落カナヲの三名以外が持っても作動しない。
鍛冶師達は早々に諦めるしかなく、鬼殺隊のトップ『お館様』からも『触れないように』との話もあり、その武器は四年もの間、鬼殺隊の中で禁忌とされていた。
『触れるな危険、分解したら爆発します』。
「アベル君」
充電器か修理機のような機械の裏側から、カナエが発見した説明書に手書きでそんなことが書いてあったとか。
強力な武器がある、なのに誰もが扱えない。ジレンマのような感情が鬼殺隊の中に流れている中で、事態に動きがあった。
噂が流れた。
ある山に『神様』が下りた、と。
噂を詳しく調べたら、眩しいくらいの光が山の周囲を削ったとか、百鬼夜行が行われたとか。
「アベルさん」
その話を聞いて、しのぶは思った。『あいつ、またやったな』と。
魑魅魍魎が溢れる。この世のものとは思えないほどの、悪鬼羅刹がそこをうろついている。
人間ではない、人間に見えない何かが山の中を徘徊していた。獣が蠢いている、子供が巨大な筒を抱えていた、そんな話が流れる山。
いつしか、その山は最初の名前を誰も呼ぶことなく、新しい名前で呼ばれるようになった。
『軍勢の山』と。
「・・・・・・」
栗花落カナヲは、その話に珍しく怒った顔をしたとか。
そして、胡蝶姉妹はその山の調査のために、ここに来ていた。
「あの山かい? まあ、近くに住んでいる分には、恐ろしくはないね」
山の近くの町に立ち寄ったカナエとしのぶは、まずは情報を集めることにした。茶屋に入り、何気なく話を振ったら、店主は山を見つめながらそう答えた。
「奇妙な鬼みたいな奴がいたって話や、鎧武者が歩いていたなんて話も聞くけどな」
山を見る店主の目は、とても穏やかなもの。怖いとか恐れている様子はまったくない、どちらかといえば。
護ってくれる存在に対する尊敬が見えていた。
「そうですか」
「お嬢さんたち、もし山に入ろうって考えているなら、丁度いい子がいるよ」
「丁度いい子?」
「丁度、炭を売りに来た。ほら、あの子だよ」
店主が指さす先には、大きな籠を背負った少年と少女が立っていた。
「おーい、炭治郎、穪豆子。この二人が山に入りたいんだとさ」
「あ、おじさん! この人たちが、ですか?」
少年のほうは、人懐っこそうな笑顔を浮かべていた。何処にでもいるようあ純朴な少年、という見た目。
一歩、彼が歩きだした瞬間にカナエとしのぶの顔が鋭くなった。
明らかに何か『剣術』をたしなんでいるような動き。普通の和装をしているようだが、服の材質に違和感があった。
一瞬、彼の右手が後ろ腰に向いた。
同時に少女の両手も後ろ腰に。こちらは隠そうとせずに今も後ろ腰に、両手を向けたままだ。
「初めまして、竈門炭治郎です。あの山の中に家があります」
穏やかに話しながらも、一部の隙が見えない。
「妹の穪豆子です」
挨拶しながら彼女の目線は、カナエとしのぶから外れない。その両手を捕えて、見落とさないと顔が語っていた。
「初めまして、胡蝶カナエです」
「妹のしのぶといいます」
自己紹介に合わせて笑顔で答えながらも、二人の両手は袖の中でそっとビーム・サーベルを握っていた。
お互いがお互いを、『普通じゃない』と感じていた。何処か今の時代にはない、何かを身につけているような。
「山に用事って、何があるんですか?」
炭治郎が笑顔のまま、世間話のように語りかける。その目線が、一瞬だけ鋭くなったのをカナエとしのぶは見落とさない。
「探している人がいるの」
世間話を続けるように気楽にカナエは答え、しのぶは笑顔を浮かべながら視線を妹へと向けていた。
穪豆子も気さくな雰囲気を纏いながらも、しのぶへと注意を向けている。
「どんな人ですか?」
「アベル君って言うんだけどね」
空気が変わったのが、カナエとしのぶには解った。
「アベルさんに、何か用事ですか?」
炭治郎の笑顔は変わっていない。ただ纏う雰囲気が、とても険しくなっていた。
「あの人とどういう関係?」
穪豆子のほうは、後ろ腰にまわした手に力が入っている。あれは隠した何かを握っているではないか、としのぶは感じた。
「ちょっと、知り合いかな」
カナエも少しだけ気配を鋭くしながら、そっとそで口からあるものを取り出した。
「私たちは、これをアベル君から貰っているの」
彼女がとり出したものに、炭治郎と穪豆子の雰囲気が和らいだ。
カナエが持ち出したのは、ビーム・サーベルの柄。
「あ、同業者だったんですね」
ほっと安堵する炭治郎。
「な~~んだ、また鬼が化けてきたんじゃ、って緊張した」
穪豆子も安堵のため息をついて、両手を戻した。
「またって?」
カナエが疑問を口にするが、炭治郎と穪豆子は答えることなく周囲を見回した。
「この二人はアベルさんの関係者みたいなので」
「警戒態勢解除でお願いしまーす」
二人の声に、周囲の人たちが一斉に袖口に入れていた手を出した。
「撤収か、良かったな」
「また街中に入られたのかと思ったぜ」
「何言ってんだい! 外周の結界は入れ直したばっかりじゃないのさ」
「配線工事、遅れたって話もあったじぇねぇか」
「おーい、誰か外で警戒している奴らに大丈夫だって連絡しろ」
良かったと口にしながら離れていく町民たちに、カナエとしのぶは唖然として固まったのでした。
「改めて!」
そんな二人に炭治郎は笑顔で告げる。
「俺達の対鬼用城塞都市『鬼滅』へようこそ!」
「はい?」
その日、カナエは思った。
『アベル君には自重が必要だ』と。
城塞都市とは、ある目的のために防備を固めた都市構造の一種、とアベルの世界では言われている。
銀河戦争が当たり前で、惑星の中だけの戦闘が稀な時代に生きているアベルにとって、町一つ分を護るなんてことはやったことがないし、非効率的だとも思っている。
この時代の町くらいの大きさの場所に防御陣地を構築するくらいなら、大型戦艦を一隻、作った方がやりやすい。都市は動けないが、艦艇ならば動けるのだから、侵略者に対しての対処のしやすさ、攻撃された時の対応の多さを考えたら、絶対に大型艦艇のほうがやり易い。
あの時、鬼舞辻無惨の襲撃の後、何度も鬼の襲撃があった。
狂ったように、何度も何十回も。まるで竈門家を目的にしたように、何度となく迫りくる鬼に、炭十郎と炭治郎は弱音一つ吐くことなく迎撃し、同時にアベルも軍勢を使って退けていた。
毎回、危なげなく勝てる。家族に被害はなく、周辺の被害も抑えられるようになってきた頃、近くの町の町長から相談を受けた。
『もう限界だ』と。
毎夜、鬼が迫りくる。人の手に余る、人を超えた、人を食う鬼が来るのに、夜の間に眠れる人間はいるわけがない。
何度も襲撃されて街の人達は疲弊し切っていた。どうしてこんなことに、何で自分達が。そう思って竈門家の人たちに怒りを向けるのは、当たり前のこと。
迫害、憎悪、そんな眼を向けられることを覚悟していた竈門・炭十郎の前で、町長は深く頭を下げた。
『どうか、私たちにも戦える力をください』と。
現代ではなく、今は大正。人の意識は暗い、ドロドロとしたものがあるのは時代が違っても同じ。
あいつが悪いと責任転嫁すれば、あいつが憎いと思ってしまえば楽なのに、この街の人達はまったく違う想いを抱いた。
『鬼が悪い、鬼がいるから駄目だ、なら倒そう』。
いやそこは逃げるって選択肢があるでしょうが、なんて誰かが遠くで叫んでいたようですが、この街の人達の耳には入ってこず。
「鬼は絶対に許せん、平穏を返せ」
「あいつらは俺達から穏やかな日常を奪いやがった」
「家族を食う? 許せるかそんなこと」
「やっちまないよ」
「むしろ殺ろうぜ」
そんなことを言い合った街の人達は、最後に一致団結してこう告げた。
「鬼は死すべし、滅ぶべし、慈悲はない」
全員が一丸となって出した決意に、炭十郎は心を打たれ、そしてアベルに顔を向けたのでした。
「どうにかしよう」
「え?」
「アベル君、どうにかするべきだ」
「え、待って、え?」
「ここは立ち上がるべきだ!」
「炭十郎さん?!」
「鬼は討伐されるべきものだ!」
何故か、熱血がかかったように握りこぶしを作った炭十郎に押されるように、アベルは城塞都市計画を行うことになって。
街の人たちの前に出され、全員の期待のこもった目を向けられ。
「・・・・・・はい、解りました」
折れたのでした。
「こうして、俺達の対鬼用城塞都市『鬼滅』が完成したんです」
話は戻って現在。
アスファルトで舗装された山道を歩く炭治郎の話に、カナエとしのぶは頭を抱えそうになっていた。
何をしているのか、あの人は。普通は断るだろう、いくら街の人達の期待を向けられたとはいえ、そんなことで都市開発なんてやる。
いや、やる、と二人は思い直す。あのアベルなら、そのくらいはやりかねないと思い至る。
自重を忘れた馬鹿だから、やると決めたら徹底的にやりそうだ。
「そうなの」
気を取り直して、カナエは前を歩く炭治郎に話を振った。
もうアベル関連では驚かないぞと思いながら。
「それで、炭治郎君はこれと同じものを?」
きっとそうなのだろう、と彼女は思ったのですが。
「いえ、僕のはこれですね」
炭治郎が取りだしたのは一本の刀。何処にでも有るような刀には、カナエとしのぶを震えさせるほどの圧力が込められていた。
「古い知り合いが持っていた刀を貰ったって言っていました、アベルさんは『屈伏』させられなかったって話で」
「そうなの」
「はい、でも僕は何とか『仕方ないな』って付き合ってくれるようです」
嬉しそうに刀を脇にさす炭治郎。
彼は知らない、その刀の名前はある世界では最古とか最強とか呼ばれていることを。
「銘はあるんですか?」
しのぶの問いかけに、炭治郎は自信を込めて答える。
「はい! 『流刃若火』だそうです!」
何故か、カナエとしのぶの脳裏に、『全力なら鬼周囲が蒸発しそうです』なんて言葉が流れたとか。
「そ、それで、穪豆子さんは?」
「私も特別ですよ」
フフンとか鼻を鳴らして取り出したのは、ごく普通の剣。ただ柄と刀身の間に宝玉が一つと、飾りに小さな宝玉がついていることを除けば。
「『覇王剣』です!」
「あ、そう」
本気になったら星ごと砕けます、なんて言葉が二人の脳裏を走り抜けていった。
「炎とか氷とか出せる改造版なんですよ!」
もう止めて、ライフはゼロよ。なんてことを、何故かカナエは思ったのでした。
そしてどうにか辿り着いた炭治郎の家の前、一人の女性が立っていた。
「母さん! お客さんを連れてきたよ」
穪豆子が走っていく先、女性は穏やかに微笑んでいた。
「お帰りなさい。ようこそ、我が家に」
優しそうな女性だ、とてもいい母親なのだろう。しのぶはそんなことを思いながら、視線を彼女だけに固定していた。
カナエもそうしたかった。他は見ないようにしたかったのだが、見てしまった。
彼女がさっきまで持っていた、巨大な鉄の棒のようなもの。家の壁に立てかけてあったそれに、じっくりと見てしまった。
それはたぶん、対物ライフルとか呼ばれているもの、じゃないといいなぁという武器です。
「狙ってたんだ、母さん」
「当たり前じゃないの炭治郎、母さんの狙撃の腕は知っているでしょう?」
「この前の鬼、粉々だったのも覚えているから」
「破片掃除が大変だったって、怒られたわね」
穏やかな家族の団らんなのに、どうして内容が生々しいのだろう。鬼が死んだ話なので、喜ぶような話なのに喜べない胡蝶姉妹だった。
そして、ついに運命の時。
「アベル君!」
「アベルさん!!」
「あれ、カナエさんにしのぶ。久しぶりぃ?!」
「君は少し自重しようか!」
「何してんですか?! あれですか私たち鬼殺隊への当てつけですか?!」
「ちょ待って!」
「待てないわよ! 何よ対鬼用城塞都市『鬼滅』って!」
「ふざけないでください! 何を考えているんですか?!」
「待って! 本当に待って!」
アベル、胡蝶姉妹に締め上げられる。
「母さん、あれって」
「痴情のもつれかしら?」
「アベルさんを助けないと!」
「穪豆子! ここで使ったら都市の中央区が吹き飛ぶから!」
「止めないでお兄ちゃん!」
「止めろ穪豆子!!」
「炭治郎も、流刃若火を『解放』しないのよ」
何故か、その傍で兄妹のケンカが始まって。ちょっと困った顔の母がいて。
「ならば私が止めよう」
最終的に、父の偉大さを誰もが実感したのでした。
あんた死にかけじゃなかったのか、と誰もがツッコミをいれたとか、入れなかったとかって話です。
鬼を倒すのに、アベルとか竈門家だけで何とかなりそう。でも、そうなったら近場の街の人たちも大変だよな。
いいや、巻き込んじゃえ!
普通の手段じゃない極致って、そのためだけの城塞都市を構築するだとサルスベリは思うわけです。
はい!
炭治郎の刀が流刃若火だった理由。
「がんばる!」
「よかろう!」
「死ぬ気で頑張る!!」
「見事じゃ!」
とか、炭治郎の後ろで褒める山本総隊長が見えた気がしたので。