「ニーベル……ニーベル!……おい!ニーベル!」
目を開けると今日の仕事で一緒に働く仲間の一人が私に声をかけてきた。
うるさいのは好きじゃないけど、嫌いでもない。
「たく……これから化け物どもと人形や兵器がわんさかいるところに行くってのに余裕そうだな」
「……そう言う貴方は漏らしてるのかしら?」
「漏らしてねぇ!」
男は否定しているがその通り、冗談で言っただけで漏らしてるかなんて知らない、適当に言っただけの冗談だ。
私は今日の任務に使う為に持ってきたG3のチェックを済ませ、降下までの時間をヘリの中にいる傭兵と一人の兵士を見て過ごす。
多分、ここにいる人達は全員捨て駒、私も含めて全員死ぬ前提で戦場へ送られている。
装備は旧式、そこら辺の傭兵を集めただけの即席部隊をE.L.I.Dと軍の兵器が戦っている前線に送って化け物の手に落ちた基地にある情報を回収するなんて不可能だ。
依頼主が言うにはそこまで強い奴は付近に居ないとのことだったが、そんなはずはない。
『降下準備をしろ。目的地に着いたぞ』
ヘリパイロットに無線機越しに降下する用意をしろと言われて各自が動き出す。
私もいつまでも座ってないでバックパックの中身と弾薬のチェック、ガスマスクがちゃんと着用できているかを確認する。
ヘリが傾き、減速する。
そして扉が開かれるとロープが落とされ、傭兵達が次々と戦場へ降りて行く、私も後に続いてラペリング降下で戦場へ降り立ち、銃を構えて周囲を警戒する。
「よし、前進だ……」
「頼むから大声を上げないでくれよ」
「問題を起こすなよ。集中しないと成功しないからな……」
「わかってるさ。軍の奴らに俺達も役に立てると分からせてやる」
ここにいる人数は私を含めて12人だ。
この数のおかげで緊張感が少し和らいでいるが、リーダーとして部隊を引き連れている軍の少尉は緊張して気が気じゃないようだ。
私達は傭兵、軍に雇われているだけの集団なのも原因の一つだろう。
本人からしてみればいつ後ろから弾が飛んできてもおかしくない状況に加え、見捨てられる可能性も高い。
絶対に足手まといな行動ができない少尉は軍に捨てられたことに気付いているんだろうか。
そう思いながら周囲を警戒し、基地へと向かう私達のところへ軍の戦術人形と兵器がやってくる。
私達とは違う方向へ向かった為、前線を押し上げるための増援だろう。
「ふぅ!落ち着いてらんねぇな、あんな奴らが走り回ってると思うと蛇に睨まれた蛙になりそうだぜ」
「じゃあ、蛙みたいに鳴いてみるか?ゲコゲコってな」
「うるさいぞ!静かにしていろ!」
ふざける二人組を注意する少尉は声から相当、緊張していることがわかる。
実戦経験も動きからして数回程度の素人、ましてや指揮もあまりしたことが無い様子だ。
傭兵よりも弱気で戦場の空気に慣れてないような人間を前線に出すとは、軍の上層部が相当気に食わない人間なんだろう。
「基地に着いたな……。……散開だ。散開して基地の中にある機密書類を見付けろ。見付けたら俺に言え」
「あいよ。じゃあ俺が分隊長になる。隊員はアンタが決めてくれよ」
「ああ、わかった。最初にそいつはお前のところだ。女は必要ない」
「わかったわ」
少尉の判断で決められた3部隊はそれぞれ少尉の指示に従って指定された場所へ行くことになり、私がいる部隊は放棄された基地の司令室へ向かうこととなった。
道中銃を持った感染者達と交戦しながら私達の部隊は順調に司令室へ近付いていったが、そろそろ軍が何かしてくるような気がした私は仕事を諦めることにした。
「……この仕事、私は降りるわ」
「急になに言い出すんだよ。アンタがそんなこと言ったら俺達どうすりゃいいんだよ」
「逃げたければ逃げればいい、私も逃げる準備をするから」
「おいおい、マジかよ。ニーベルがそんなことを言うなんて、冗談じゃないのかよ」
「ニーベル、冗談じゃないよな?」
「ええ、貴方達が信用しようがしまいが私は降りるわ。あの少尉のついでで死にたくない」
私が残っている弾薬と装備を確認すると他の傭兵達も任務を諦めて自分達の装備と弾薬を確認し始めた。
名が通ってる傭兵が言ったからって信用するなんて普通じゃありえないけど、私が優秀な傭兵であることと数少ない信用できる傭兵としても名が知れているからだろう。
「ニーベルが諦める任務なら、俺達ができるわけがねぇ。だよな、ジグラット」
「ああ、伝説の傭兵さんがそう言うんだ。間違いないだろうな」
「伝説なんて幻想よ。信じるなら自分の信じたいことを信じなさい」
「ああ、勿論。だからアンタを信用するんだよ。信じてるからな」
そう言われると嬉しくて口角が上がってしまうが、私はすぐに切り替えて目的を脱出することに変更した。
私は指揮するような人間ではないから、傭兵達のことは放っておき、私は私の身を守ることに集中する。
私の後に続いて傭兵達も付いてくる中、突然目の前の壁が破壊されて人の形を留めていない化け物が現れた。
私は頭を狙って撃つものの、骨董品では皮膚を貫通できずに弾かれてしまう。
威嚇射撃程度に考えて後退し、来た道を戻ろうとすると今度は砲弾の音が化け物が空けた穴から聞こえ、私は床に伏せると同時に傭兵達も床に伏せた。
そして、すぐ近くに砲弾が落ちたらしく建物が崩壊して私達は化け物だらけの外へ放り出され、空からは砲弾の雨、地上には化け物どもと最早死ぬ未来しか見えない状況だったが、諦めずに私は立ち上がり、生き残っていた傭兵達も立ち上がって砲弾が降ってくる中を走り抜けようとする。
砲弾に巻き込まれて死ぬ者、降ってくる砲弾に気を取られ過ぎて化け物になったE.L.I.Dに食われて死ぬ者、そして私に付いてくる傭兵はたった一人だけとなった。
安全なところまで走って逃げて来たものの、後ろを見て付いてきている傭兵を見るとその傭兵は化け物に右腕を食われていた。
「チッ、しくじっちまった……。俺としたことが……へへ、全くついてねぇな。……なあ、ニーベル」
「……何か言い残すことはある?ジグラット」
「ああ、それなら……この銃を家族に届けてくれないか?俺が、父親がいた証として家族に届けて欲しい……」
「配達業をさせられるってわけね。ついでに葬式屋の真似事も。報酬は貴方の命だけど、文句はないかしら?」
「アンタは変わらねぇな。ハハハ、ゴホッ…ゴホッ……まずいな、そろそろヤバイ……」
「そう、それじゃあ……」
私は自分の銃を男に向け、引き金に指をかけた。
「おっと、すまねぇ。あと……一つだけ言わせてくれ」
私は引き金を引こうとしていた指を止め、男の本当の最後の言葉を聞いて上げることにした。
「アンタのこと、好きだったぜ」
「……フフ、そう。私も貴方のこと、好きじゃないけど、嫌いでもなかったわ」
私は引き金を引き、男の命を絶った。
持っていたライターで遺体を燃やし、私はその場を去った。
安全な場所まではかなり遠いけど、私の足なら行けるはずだ。
私は一人、安全な場所まで走り続けた。
彼の遺品である銃を抱えて。
THE END
「どうでしたか?指揮官様。良い映画だと思いませんか?」
「う、うん。良い話だったね~」
正直、個人的には微妙に感じたのに、期待の眼差しでそう言われては否定もできなかった。
ジェリカちゃんはこういった映画が好きなようだ。
何故、ジェリカちゃんと映画を見ることになったのかを説明すると、彼女が映画をみたいと言うから私が作ったプレーヤーで試しに見ることになったのがキッカケだ。
こんな感じの映画が好きじゃないから微妙だと感じたわけではない、なんだか好きになれないのだ。
話が悪いのか、登場人物がイマイチだったのかとにかく良い話だと思うところがあまりなかった。
「まだありますよ!映画ニーベル・イルジオン。実話をもとに作られた良い映画ですよ!」
「へ、へぇ……あっ、そろそろ416達が帰ってくるかもしれないし、今日はこの辺で……」
「これからなんですよ!ニーベルが彼の銃を届けてその後が見所なんですよ!彼女が言う台詞も良いものばかりで……」
「答えは自分で見つけるもの、他人に見つけてもらうものじゃないとか言ってたり……」
「よく知ってますね!もしかしてタイトルを覚えてないだけで見たことあるんじゃないですか?」
「うーん、そうかもね。前は映画はいっぱい見てたし、その内の一つにこれがあってもおかしくないかな」
「こんなに良い映画のタイトルを覚えていないなんて、思い出せるように観ましょう!続編!」
彼女は私が答えを返す前にディスクを機械に入れてしまい、また観たいと思ってもいない映画を見ることとなってしまった。
映画を見てたのは事実だけど、道具を作るのに参考になるものが無いか探すつもりで見てたから昔の武器で化け物と戦う映画とかには興味がないのに。
「……早く帰ってこないかなぁ」
解放を望む私は二人きりの司令室で416達が後方支援から帰ってくるまでの間、この辛い状況に耐え続けることとなった。
ドルフロの世界で映画が作られるとしたらこんな感じになるかもという作者の妄想です。
何処かで404小隊がガジェットを使うお話を書いてみたい。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
では、また次回。
「2分で片付けるぞ」by.フューズ