人形達と技術屋の指揮官   作:碧眼の黒猫

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帰ってきた指揮官

 〜基地が占領されてから一日後〜

 

「やっと帰ってこれた……」

 

 本部で色々と聞かれた私は疲れ切った体でヘリを操縦し、自分の基地まで帰っては来れたものの喜ぶ力も残っていなかった。

 

 だって、自分の母親がG&K本部に情報を渡していたとか衝撃的すぎる事実だったんだもん。まさか、徹底的に情報を消した後も私を探し続けてたとか信じられない執念。

 

 まぁ、正規軍の特殊部隊隊員で階級も上の方だから権力はあるし、自分で探すこともできるんだから反則と言ってもいいくらいの力は持ってるよね。だから徹底的に消したのに見つけ出せるとか凄すぎじゃないかな。

 

 ため息を何度ついたか分からない、私はお母さんのことはほとんど知らないのに向こうは私のことをよく知ってる。

 

 まったく、不公平だよ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、お母さんに会えたことが嬉しくて衝撃受けてるだけだから」

 

「驚きました。まさか、あの人が指揮官のお母様だったとは…」

 

「ジェリカちゃん、あの時の驚いた表情は傑作だったよ」

 

「そんな顔にもなります。レッドゾーンを調査して帰ってきた方ですよ?コーラップスによる汚染が酷い地域で部隊が壊滅、まともな支援もない状況からたった一人で帰還した人です。驚かないはずがありません」

 

 確かにレッドゾーンの情報を持ち帰ってきた事は事実だけど、多分お母さんの部隊が壊滅したのは他の国の兵士と戦ったからってことを知ってる人は私くらいなんだろうな。私以外に言うとは思えないし、お母さんに相談相手なんて居ないからね。

 

「くぅ〜…悔しい。本当に悔しい、私の顔写真も何も無い状態でどうやって……本当に意味不明でーす。鳥から聞き出したの?」

 

「私が幕僚として博士のところで働くことになったことの方が意味不明です。追い返されてもおかしくないのに……」

 

「社長でも流石に逆らえないだろうからね。私が弱みを握ってるように、お母さんだって弱みを握ってるはずだから」

 

「……それは、博士に私が何かしたら消せるって解釈しても良いですか?」

 

「知らない。ここまで私のことを心配してくれてるんだし、何かあれば明日が来るのを祈ることになるかもね」

 

「そうならないように全力でお守りしますよ。指揮官」

 

「頼りにしてるよ〜」

 

 実のところ、彼女はまだ任務を諦めてはいないと思ってる。誰かの命令か知らないけど、お母さんが言うには誰かによる独断の指令だったらしい。お母さんが誰が彼女に命令を下したのか調査してくれるらしいから、その間は私は彼女に注意しないといけない。

 

 ヘリを基地のヘリポートへ着陸させ、ヘリのエンジンを切ってから外へ降りると出迎えてくれた四人の人形に私は手を振った。

 

「おやおや、私のこと待っててくれたの?」

 

「ええ、やっと帰ってきたみたいだから」

 

「ありがとう。いやー色々と大変だったから…」

 

「指揮官がいない間、ここも大変だったけどね」

 

「ん?何かあった?」

 

 45ちゃんが笑いながら私に近付いてくると手に持っていた薬莢を私に見せてきた。45ちゃんが指で挟んで見せてきた薬莢は彼女達が使っている銃の物じゃなく、重機関銃や対物ライフルで使われる12.7mmの薬莢だった。

 

「12.7mmの銃を使う人形なんて居たっけ?」

 

「ブローニングM2の物よ。指揮官が留守の間に襲撃にあったの。何か、褒美をくれないかしら?」

 

「えぇ……襲撃を受けたの?ここを襲っても何もないけどなぁ…」

 

「そんなこと無いでしょ。指揮官の秘密兵器があるじゃない」

 

「軍ならともかく一般の人間が作るとすれば、数年はかかるだろうからねぇ。設計図は一応あるけどこの基地の端末内にしかないし…」

 

「そんなことはいいのよ。守ったんだから何か報酬が必要なの。何もないならお金でも良いわ」

 

「そんなホイホイと作れるわけじゃないけど、45ちゃんの言う通り報酬は必要だよね。考えるからちょっと待っててね」

 

 四人の間を通り、基地内へ入った私は皆のところへ様子を見に行こうと宿舎を目指していると見事に扉が吹き飛ばされている食堂の前で足を止めた。

 

「ん?えっ?なにこれ?」

 

「そこに犯人が立て籠もったからドカンと派手にやったの」

 

「資源が乏しいのにどうして……とほほ」

 

「扉の1つや2つ吹き飛んだところで誰も困らないわよ」

 

 まだ食堂だから良いけどプライペート空間である宿舎の扉が吹き飛ばされたら大問題だった。この子、私の基地で暴れて少しは罪悪感とか感じないのかな。

 

 顔を見ても謝罪する気が全然無さそう。

 

「まぁいっか。とりあえず顔を見せてあげないとね」

 

 食堂だしそこまで気にしなくても大丈夫なはず、そう自分に言い聞かせて宿舎に向かうといつもより騒がしく宿舎から歓声やら怒号やらが聞こえてきた。

 

 何を騒いでいるのか気になって扉へ駆け寄り、少しだけ扉を開けて中を覗いてみると知らない人形達と鉄血とマイドール達がパソコンを並べて囲い、ゲームで白熱していた。

 

「M2!ゲームは得意なんですから意地を見せてください!意地を!」

 

「始めて8時間程度で一試合2キルなんだから褒めてほしいけど…!」

 

「ギャアァァァァァ!!こんなところにマットがぁぁ!!」

 

「おや、階段は足元を見ながら上るものではなくて?」

 

「やったなスケア!立ち上がったら頭を撃ち抜いてやる!」

 

「サソリ、君はもう死んでいますわ」

 

「スケアクロウ様、体力を回復しますか?」

 

「ええ、頼みますわ。ドラグーン」

 

「「「頑張ってください!スケアクロウ様!」」」

 

「M2、EMPをピンの所に頂戴。あとヒートチャージを設置してる間の援護もお願い」

 

「一番楽なオペレーターって話じゃなかった?416?」

 

「初心者にはピッタリで楽なオペレーターよ」

 

「優雅に、華麗に、大胆に!死にましたわ」

 

「すみません、ゲームとかやったことなくて…」

 

「問題ありませんわ。ルークはアーマーを置いたら用済みですの」

 

「端から期待されてない…」

 

「MP40、そう落ち込むことはありませんわ。だって置けば任務は完了ですから」

 

「ガード、体力が少ないですよ?大丈夫?」

 

「うーむ、戻れるか心配だな。罠にかかった敵をやりに行って帰れなくなるとは……面目ない」

 

「ゆっくりと戻ってくれば良いですわ。ガード」

 

「ドラグノフ、一緒に来て。仕掛けるわよ」

 

「了解だ。リーダー」

 

「すみません、頑張ってください!皆さん!」

 

「イェーガー、今度からスコーピオンの援護はしなくていいから私の言うことを聞きなさい」

 

 会話を聞いてるだけでも楽しそうにやっているのがわかるほど、皆ゲームに夢中になっていた。喧嘩が起こりそうで怖いけど皆なら多分大丈夫なはず。

 

「いつまで覗き見してるのかしら?」

 

「いやー、皆が楽しそうにやってるもんだからねぇ。入りづらくてさ」

 

「じゃあ、基地で起こったことの説明と報酬の件で話したいから……司令室で話すのはどう?」

 

「そうしようか」

 

 皆が楽しく遊んでいるところを邪魔するようなことはしたくないし、先に45ちゃんとのお話を終わらせてからで良いよね。

 

 私は宿舎の扉を気付かれないように閉めてその場を後にし、司令室で404小隊とのお話をすることにした。廊下を歩きながら基地で起こったことの説明を簡単にしてもらい、被害は少なかったことと襲撃してきた人形達がグリフィンの管理下にある人形ではないのに名前が銃器の名前であることを聞いた。

 

 彼女達から情報を聞きながら司令室に入った私は、司令室に積まれていたダンボール一箱をテーブルに持っていき、彼女達の報酬としてゲームでは必ず見る道具を上げることにした。

 

「これ、どこで使えばいいの?」

 

「それは45ちゃん達が考えてね。室内の偵察にはもってこいだから、貰っておいて損はないと思うよ?」

 

 45ちゃん達にあげる報酬として私が渡したのは、基地に着任したばかりの頃にちゃちゃっと作って寝かせていた小型のカメラ付き自走ドローンだった。




お久しぶりです。

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