指揮官が帰ったその日の夜、基地の外で葬式が行われた。
鉄血の人形達が見守る中、棺に入れられた亡骸の指揮官にMP7とスプリングの二人が近付いていくと白い花束を指揮官の胸元にそっと置き、ゆっくりと敬礼をする。二人の敬礼を見たスケアクロウが同じように敬礼を行うと、それを見た鉄血人形達が続くようにして次々と敬礼を行った。
二人が長い敬礼を終えると棺の蓋が閉じられ、416とG3から二人の手に松明が渡される。
「……指揮官、どうか安らかに」
「必ず仇は取るよ。必ず……」
二人は松明の火を棺に近付け、棺に火が付くと二人は松明を持ったまま火の勢いが増していく棺から離れていき、松明を416達に返すと激しく燃える棺を眺めながら再び敬礼を行った。
葬式を終えて基地に戻っていく鉄血人形達の背中を見送っていた416は基地から出てきたドラグノフと目が合う。ドラグノフが手を振ると416は手を軽く上げて返し、灰の山に変わった棺の前で肩を寄せ合っている二人の背中を見た。
「……あの二人、大丈夫かしら」
「416、何か心配事か?」
「ドラグノフ、貴女から見たあの二人は……鉄血に復讐心を抱いていると思う?」
「復讐心か。そんな厄介な感情は、人形は持たないはずだが……MP7が心配だな」
「どうして?」
「私と同じ感じがする。検査した方がいい。スプリングの方は設定されている性格からか、穏やかなものだが……アイツの方は傷がかなり深そうだ」
「……ことが悪い方に運ばないと良いけど」
「縁起でもないことを言うな。ほら、中に入って指揮官の顔を見に行くぞ」
「ええ…」
416は二人のことを気にかけながら、背中を向けて基地へと戻っていった。
指揮官の顔を見る為に研究室へと向かっていた416とドラグノフは廊下でタブレット端末を見ながら反対側から歩いてきた指揮官を見つけた。
「おーい、指揮官」
「ん?やぁ、ドラグノフ〜。どうしたの?」
「いいや、特に用はないんだがな。顔を見ておきたいと思ったんだ」
「ん〜顔かぁ。今は見せられないな〜」
「いや、単に会いたかったという意味なんだが……」
「あ〜なるほどね。でも、今はちょっと……あ、じゃあ丁度いいから二人共来てくれないかな?」
指揮官が二人についてくるように言うと、二人の間を通って何処かへと歩いて行った。二人はお互いに顔を合わせると、ドラグノフは首を傾げた。
指揮官に言われた通りについて行った二人は屋上に出ると、指揮官はヘリの兵員室の扉を開けて二人に手招きをする。二人が近付いていくと人一人が入れそうな大きさの箱が兵員室に斜めに置かれ、蓋には「人形収納ケース」と書かれていた。
「指揮官、新しい人形ですか?」
「そんなところかな、私の研究室に運ぼう。一人じゃ重くってさ」
「確かにこの大きさだと一人じゃ持てなさそうだな。よし、やるぞ!416」
「ええ」
箱をゆっくりと協力してヘリの外に運び出し、慎重に大きな箱を指揮官の研究室へと運んでいる途中で偶然スケアが通りかかり、興味を持ったらしく黙って三人の後について来ると、今度は偶々通りかかったスコーピオンも箱に興味を示して手伝うと言ってついてきた。
慎重に大きな箱を指揮官の研究室に運んだ三人は床に箱を置くと早速、指揮官が箱の蓋を開けるために暗証番号を入力してロックを解除する。
「おぉー、新しい後輩ができる!」
「落ち着きなさい、ホコリが立つから」
蓋が開く前から興奮しているスコーピオンの後ろから両肩に手を置いて落ち着かせる416は、ロックの解除音を聞いて視線を箱に向ける。
どんな人形が出てくるのかと人形達が箱に注目している中、蓋が外されて横へ退かされるとスケア以外の人形達は目を丸くした。
箱には黒い長髪で白い肌の損傷している人形が入っており、その人形は大剣を抱える形で箱に入れられていた。
「エクセ…キューショナー!?」
思わず、416が人形の名前を言うと視線を近くに居たスケアに向け、スケアの顔を見るとスケアは無表情のまま仲間のエクセキューショナーを見下ろしていた。
「指揮官、一体どこから拾ってきたんだ……」
「本部から帰る時にちょっと寄り道してね。損傷が激しいから、すぐにでも修理するよ」
「指揮官、私達にも手伝わせてくれないか?」
「ん?」
指揮官はエクセキューショナーを修理する為の準備を始めようとした時、指揮官が準備しているのを見た416とドラグノフが手伝いを申し出た。二人の顔を交互に見た後、指揮官は頷くと二人と共に準備を始めた。
「……エクセ、随分と酷くやられたようですわね」
「滅茶苦茶撃たれてるよね。これ直せるのかな…」
「あの指揮官であれば、直せると思いますわ」
準備を進める指揮官の背中を見ながら言ったスケアは、部屋の中央にある作業台に置かれたタブレット端末に視線を落とすと端末を手に取って操作し始める。端末には映像でハンターの姿が写っており、音は消音にされていた。
スケアは指揮官の背中を見た後、研究室から出て音量を上げていくと少しずつハンターと誰かの会話が聞こえてくる。
『そしてお前はその一員だ。資料によると非情なまでに理知的だそうだが、まさかこんな感情的な行動をとるとはな。もっとウマが合うかと思っていたが、失望したぞ……』
『そちらの情報はずいぶん一面的なようね。データーベースを更新した方がいいわ』
「この声は……AR-15?」
廊下でしばらく様子を見ていたスケアは、研究室に戻るとタブレットを置いて、再び研究室から出ていくと何処かへと向かって行った。
数時間後、エクセの修復が終わった研究室では彼女が再起動するまでの間、指揮官は腕にデバイスのような物を付けてテストを行っていた。
「できた〜。うんうん、ちゃんと動くね」
「本当に物作りが好きだな、指揮官は」
「好きだよ〜。物が便利になればなるほど、楽ができるし時間も増える。それに何より面白いからね」
「ハハ、楽しそうで何よりだ」
ドラグノフはお気に入りの弾丸を指の中で転がしながら、まだ目を閉じたままのエクセキューショナーを見る。
「……こいつ、確かMP7の基地を襲った張本人だよな」
「え?そうなの?」
ドラグノフの言葉にスコーピオンが反応すると、ドラグノフは頷いて答え、聞こえているはずの指揮官は何も言わずにデバイスの調整を続けていた。
「えぇっ!?じゃあ、こいつとMP7会わせちゃったらマズイんじゃないの?」
「流石にバカでもわかるか」
「あたしはバカじゃない!」
「そうか、そんなことはいい。今はMP7やスプリングがもし、仮にこいつと会ったらどう対処をするか。それを考えた方がいいんじゃないか?」
「ゲーム…するとか?」
「それで仲良くなれる訳がないだろ。あの二人は……こいつに指揮官を殺されたんだからな」
スコーピオンを腕を組んで首を傾げ、色々と考えるが何も思い付かずに頭を悩ませる。スコーピオンが一人で考えている間、部屋には沈黙と共に重い空気が流れていた。
「心配しないで。私がなんとかしてみるからさ」
少しの間の沈黙を破ったのは、指揮官だった。指揮官の一言にドラグノフ達が顔を指揮官に向ける。
「憎しみ合っても良いことなんて無いからね。私は、みんなが見せてくれる笑顔が好きだから」
指揮官はデバイスを閉じると目を閉じたままのエクセに近付き、彼女の頬を突っついた。
「んぐっ……うぅん………なんだ?……」
指揮官が頬を突っついているとエクセは目を覚まし、頬を突っついていた指揮官を見る。
「なっ!?お、お前…!」
「やぁ、おはよう」
「おはようじゃねえ!なんでお前が…」
「まあまあ、今ちょっと急ぎたいことがあるからさ。話を聞いてよ」
「断る。なんでお前の話を聞かなきゃ…」
「ハンターのことなんだけどさ」
上半身を起こして、エクセは箱から出ようと片足を外に出したところで動きを止めると睨むような目付きで指揮官のことを見た。
「……ハンターがどうしたって?」
「今ね。ハンターは餌を使って獲物を誘き寄せてるんだけど……優秀な指揮官がいるみたいでね。ハンターの勝ち目が薄いんだよ。そこで!」
指揮官はエクセに手を差し出し、差し出された手と指揮官の顔を見たエクセは少し戸惑いながらも、ゆっくりと差し出された手を握る。
「ハンターの回収に、エクセにも付き合ってもらいます!」
「は、はぁ…?」
指揮官の手を借りて立ち上がったエクセは困惑していたが、周りにいた人形は特に驚くような表情を見せず、ドラグノフは笑っていた。
「面白そうだな。敵を助けに行くわけだ」
「完全にグリフィンの任務を無視してるけど……今更よね」
「でも、あたし達が助けに行くと色々とヤバいんじゃない?」
「随分と冴えてるな。お前、本当にスコーピオンか?」
「えぇっ!?なんで疑われるの!?」
「大丈夫、特別編成で救出に行くから」
「「特別編成?」」
「そうそう、簡単に言えば鉄血の人形だけで編成した部隊だね。おっと、そろそろ出発しないと。ついて来て、エクセ」
ドラグノフとスコーピオンが首を傾げると、指揮官はタブレット端末を手に取り、起動させるとエクセに手招きをして研究室の扉を開いて外に出ていった。
「……ずっと思ってたけどよ。やっぱり変な奴だな」
「まぁそうだな。早く行ったらどうだ?友達が危ないんだろ?」
「あぁ…」
研究室を出たエクセは研究室の外で待っていた指揮官と一緒に廊下を歩いて行った。研究室から出て二人の背中を三人は見送り、二人が角を曲がって行ったところでMP7達のことを思い出した416は慌てて二人を追いかけ、ドラグノフは慌てる416を追いかけていき、スコーピオンはその後をついていくのだった。