帰投するヘリの中でエクセは操縦桿を握る指揮官の隣に不機嫌そうな顔で腕を組んで座り、ガスマスクで表情の見えない指揮官のことを睨んだ。それを見た指揮官は特に何も言わず、エクセが口を開くのを待った。
「変なやつが居たぞ、ヘリからでも見えたはずだ。アイツは一体誰なんだ?」
「何か言ってた?」
「あ?」
「何か言ってなかった?」
指揮官は少しだけ顔をエクセに向けて聞くと彼女はため息を吐いてから両手を頭の後ろに回して目を閉じた。
「別の遊び場に行けば良いかとか言ってやがったな。そこに行けば奴に会えるんじゃねぇのか」
「なるほど、遊び場所かぁ」
「で?アイツはなんなんだよ?」
「多分…感情試験体“シュパース”かな。人間の基本的な感情である喜・怒・哀・楽の中で“楽”を担当する試験体だね」
「感情試験体?なんだそりゃ?」
「人形に感情を持たせるための実験を行うための人形だよ。主に研究のために使ってた試験体だけど、シェーンってば無邪気だからさ。あ、シェーンって言うのは私が付けてあげた愛称だよ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。オレのダチをボコボコにしやがったんだ。アイツのコアをぶっ壊さねぇと気が収まりそうにねぇ」
エクセは今にも爆発しそうな怒りを抑え、頭の後ろに回していた手を膝に置き、操縦席から兵員室の座席に移る。ハンターの反対側に座ったエクセは、目を覚まさないハンターを見つめたまま基地に付くまで口を開かなかった。
指揮官は基地に戻ったら何かあるかもしれないと、嫌な予感を感じながら操縦桿を握っていた。
あらゆることを楽しむ感情プログラム試験用の人形、シュパースは指揮官が行っていた実験、人形製作に携わることもあった人形。彼女が基本的に人に危害を加えるようなことは進んで行わないことは知っている指揮官だったが、人形同士となれば話は変わる。
指揮官はなるべく鉄血の人形を保護したいと考えているが、シュパースには人類保護プログラムが組み込まれており、人間に危害を加える人形の処分も命令されている。
つまり、鉄血の人形が排除対象となっている可能性が高い。
指揮官はシュパースのプログラムを書き換える方法を考えるが、特殊なファイアーウォールは指揮官でも容易に突破できるものではなく長い時間をかけなければならなかった。
基地に到着した指揮官はヘリから降りてシュパースの対処法で悩んでいると、空を見上げた時に何処からかパラシュートで飛んできた人形運搬用の箱を目にし、基地の敷地内に落ちてくるそれを指揮官は眺めながら額を手で押さえる。
敷地内に落ちてきた物を416達に回収してもらい、いつも使っている実験室ではなく地下の実験室へ箱を運び入れて、指揮官は謎の箱の中身を調べることにした。
「指揮官、箱の運搬作業が終わりました」
「ふーむ……差出人名が“シェーン”か。爆発物の反応は?」
「探知機で調査は済ませています。トラップが仕掛けられている可能性は限りなく低いです。箱の中には人形が一体だけ入っているだけで、一体なんの目的で送られてきたのか分かりません」
「シェーンのことだし、私を吹き飛ばすような真似はしないか。んじゃ、開けてみよっか。あ、416以外の皆は外してもらえるかな?万が一、何かあると困るからさ」
416以外の人形達には実験室から退室してもらい、残っていた416が指揮官の言葉に頷きを返し、箱へ近付いて鉄製の箱を開けようとしてあることに気付いた。
「指揮官、指紋認証が必要のようです。ここにリーダーがあります」
「ん〜?あ、ホントだ。そういえば私が前使ってた輸送用の箱もこんな感じだったかな〜」
「指揮官の指紋で開きますか?」
「やればわかるよ」
指揮官は右手の手袋を外し、薬指をリーダーに当てるとロックが解除される音が実験室内に響き渡り、箱の上部が二つに分かれて蓋がゆっくりとした動きで横へ動く。
『状態良好、“UMP40”起動。使用後、フリーデ博士にメンテナンスの申請を行ってください。ニーベル大尉』
機械音声の言葉を聞いた416は指揮官の顔を見た。ガスマスクをしていて表情を読み取ることができない指揮官は、416に視線を向けられても微動だにせず、箱の中から出てくる人形をじっと見つめていた。
箱の中でゆっくりと体を起こした一糸纏わぬ姿の人形は腕を上げて体を伸ばしたあと、周りを見渡してガスマスクをした指揮官と顔を合わせる。
「んー!ふぅ……やっと起こしてくれたの~?あたい、45とやらなくちゃいけないことが沢山あるんだよ?」
「ん~…これまた困った人形を届けてくれたね。まさか、君が届けられるなんて…」
「大尉、あたいの服は?あ、見ない顔の人形だ!新人さん?でも、こんな暗い場所で紹介なんてされたことないから─」
「あー…ちょっと待って40。説明しないといけないことがあるから」
「……?あー、なるほどね」
指揮官がそう言うとUMP40は416の方へ顔を向けて微笑みを見せ、ゆっくりと箱から出るとそのまま416に近付いて右手を差し出した。
「あたいはUMP40!よろしくね!」
「え…えぇ。私はHK416よ、416でいいわ」
二人は握手を交わし、416は少し戸惑っていたが40は笑顔のままだった。二人の手が離れ、UMP40は右手の表裏を確認するように動かすと何かを納得したように頷く。
「なるほどね~、指揮官…か」
ニヤついた表情で見てくるUMP40に指揮官は顔を背け、指揮官の初めて見る様子に416は驚いていた。
「貴女は一体…」
そう問いかける416に対し、UMP40は笑顔を見せるだけで何も答えない。
「指揮官…」
「彼女は……他の人形とは違う人形なんだ。特殊な任務のため、必要な機能を備えた最新型の人形」
「そう、あたいは潜入型戦術人形UMP40!あたいにかかれば、どんな秘密もお見通し!実はその機能の一部を使ったんだけど…分かったかな?」
「い、いや…分からなかったわ」
自慢げに語る40に416はやや困惑気味に答えた。そもそも潜入型戦術人形とは何かと416が思っていると指揮官がガスマスクをゆっくりと外していることに気付き、416はそちらへ目を向けると悲しそうな目で40のことを指揮官が見ていることに気付いた。
「指揮官…?」
「おっと、指揮官…いや、ガスマスクを取るってことは”大尉“って呼んでいいのかな?」
指揮官は目を閉じて何も言わなかったが、ゆっくりと頷くと416に顔を向ける。しかし、その顔には迷いがあり、いつもの様子とは違うことに相当重要なことではないのかと416は思い始める。
「えっと…どう説明したらいいかな……。いつもの調子で喋ればいいのかな……」
「ああ、大尉って考えすぎることがあるよね。416ちゃんに本当の自分を見せるか、そうしないのかは自由だよ。あたいはどっちでもいいと思う」
「……ふふ、本当に変わらないね。別れた時から君は君のままだ」
「大尉は変わったね、指揮官に昇進してるなんて思わなかったよ!」
「いや昇進したとかじゃないよ…。コホン、冗談にはあとで付き合うから今は説明させて」
軽く咳払いをしてニコニコしている40と話すことを一旦やめて40の側へ来た指揮官は羽織っていたコートを40に着せて再び416に顔を向ける。今度は迷いを見せずに指揮官は説明を始める。
「416、これから話すことはなるべく外には出さないように。なるべくって言ってるのは、どうしても説明が必要な時が来ると思ってるからだよ。でも、今はその時じゃない」
「はい、指揮官」
「それじゃあ、まずは自己紹介かな。私は元正規軍…第13人形試験大隊所属、ニーベル・イルジオン。階級は大尉、部隊の隊長を勤めていたんだ。目的は人形部隊の運用方法と戦術の研究、人間では到底叶わない長時間の作戦行動や人間ではできない戦い方とかを研究していたよ」
「今度はあたいの番ね!あたいは潜入型戦術人形UMP40!正規軍の研究機関、機械工学部門に所属してるフリーデ・ラインハルト博士の警護を担当してるよ。まぁ、今は元になっちゃったのかな?」
勝手に自己紹介をした40が指揮官に顔を向け、顔を向けられた指揮官はぎこちない笑みを見せた。
「……指揮官、一つお聞きしたいことがあります」
「いいよ、言って」
「その名前はコードネームでしょうか?それとも本名でしょうか?」
前にフリーデから聞いた情報で指揮官が出した名前のようなものはコードネームであり、本名ではないことを知っていた416は指揮官に質問した。質問された指揮官は416の様子に何かを感じたのか、目を閉じて考え始める。
「大尉、隠し事するならもっと上手くやらないとね。その名前、コードネームってバレてるよ」
「……なるほど、404小隊の仕業だね。どうやって情報を手に入れたのやら……」
流石、噂の特殊部隊とでも言いたげに笑みを浮かべる指揮官に416は404小隊が部屋を見付けた方法を教えようかと一瞬迷ったが、言わなくてもいいことだと言わないことにして口を閉じていると、40が微笑みを向けてきていることに気付いて首を傾げる。
「一番下にある4冊の本を足で押して上から三段目の自然について書かれた本を押すと扉が開く。それを転んだ戦術人形が偶然やって、扉が開いた…みたいだよ?大尉」
40の発言に416は驚いて目を見開いた。扉を開ける方法はUMP45から教えてもらったもので、404小隊と416以外は知らないはずだった。ましてや、今起きたばかりの人形が知ることができるはずがない。
「言ったよね?どんな秘密もお見通しって」
「……指揮官、彼女のことを聞いてもいいでしょうか」
「うーん…40、私が説明してもいいけど誤解されるのも嫌だし、自分で説明して」
「えー、乙女の秘密なのに…?仕方ないな~、まあ裸も見られちゃったからね~」
からかうように言う40に416が反応に困っていると40が手を差し出し、少しの間を置いてから416がその手を握った。
「あたい、両手に触った機械からデータを抜き取ったりコピーしたりできる工作機能があるんだ~」
「えっ…」
「だからこれは本心からの握手だよ~。さっきのは情報収集の為にだったけど、こっちはただの握手だから顔を青くしないでもらえると嬉しいな」
「それは……顔に出ないように努力するわ」
「それじゃ、改めてよろしくね!416!」
箱から出てから変わらずに笑顔を見せる40、416と40の握手を見守る指揮官。二人の秘密を知った416はこの先どうなるのか、秘密を守りきれるのか不安を募らせていたが、秘密は守ると40の手を握る手に力を入れて決意するのだった。
かなり長いこと更新してなかったので、読み返しながら進めます。R6Sもかなり変わったのでガジェットどうしよう…。
「多分、それで行けるだろう」by.イェーガー