指揮官がハンターを連れて戻り、基地の医務室のベッドに運ばれたハンターの側で椅子に座ったエクセは静かに彼女の目覚める時を待っていた。
そこへ医務室に入ってきた一体の人形がエクセに声をかける。
「久しぶりですわね。エクセキューショナー」
「ん? スケアクロウ…! お前もいたのか?」
「ええ、随分と手酷くやられたようですわね」
「……M4はちゃんと見付けたぜ。まあ、やられちまったけどな」
「予想はしていましたけど、やはり一筋縄では行かない相手ですわ。エクセキューショナー、まだ追うつもりはありますの?」
「あん? 当たり前だろうが、お前は無いのか?」
その言葉にスケアは目を閉じて何かを考えるように動かなくなる。それを見たエクセは予想外の返事が帰ってくるのかと身構えるが、目を開けたスケアから電脳内通信が入る。
『もちろん、追いかけるつもりですわ。ですが、次は少々厄介なことになるかもしれません』
『どういうことだ?』
『AR-15、ハンターに対して内部から命令を書きかえた……これは危険なことですわ。それに…彼女は“知らないうちに”と言っていました』
『だが俺達の下っ端の命令を書きかえる位だろ? それがどう──』
『私達も知らないうちに”ある人物“の視点が見れるようになっていますの。先に暗号化しては見ましたけど、この程度では時間稼ぎにもならなかったようですわ』
『ある人物?誰だ?暗号化ってのもなん──』
スケアから暗号化されたコードがエクセに送られ、エクセの電脳内に映像と音声が何処からか送られてくる。
───とある前線基地───
AR-15が無事にM4A1達と合流し、彼女達は指揮官に会うためテントばかりの前線基地を訪れていた。その中でも最も大きいテントを目指して歩いていたM4A1達は、道すがらで指揮官について質問をしてくるAR-15の質問に答えていた。
「寡黙でヘリアンさんが緊張する程の雰囲気を持つ指揮官…。どんな人なのか想像しにくいけど、話を聞く限り人形を消耗品として扱わないみたいだし、不思議な人ね」
「見たら驚くよ~。だって私達より体大きいんだよ? こんな位に!」
元気よく腕を上げて説明をしようとするSOPIIに「はいはい」と相槌を打ってM4に視線を移したAR-15は、少し緊張気味のM4と目が合い、M4が悩むような表情を見せているとAR-15にプライベート回線からの通信が入る。
『珍しい、滅多に使わないのに。どうかしたの? まださっきの反省?』
『ううん、違うの。その……指揮官のこと』
二人はSOPIIに気付かれないように周りで補給などの作業をしている人形達を眺めながら会話を進める。
『今の指揮官、口数が少なくて無表情でなに考えてるか分かりにくいんだけど。人形を…私達をとても大事にしてくれているの。何かあればすぐに修理の手配をするし、無茶な任務に苦言を呈したりするし、他の指揮官からも慕われているみたいで…』
『つまり、良い人だって言いたいの?』
『うん…けど、誰にも話せない秘密があって』
『誰にも話せない秘密?』
『AR-15になら話せる。この通信なら傍受されることもない』
AR-15は周りを見るのを止めてM4へ視線を戻す。M4が再びAR-15と目線を合わせ、そして二人が急に静かになったことをおかしく感じたSOPIIが足を止めると、それに気付いた二人は足を止めてSOPIIに顔を向けた。
「二人で内緒の話してるの?」
「M4がまださっきの反省をしてるみたいだから、少し励ましの言葉をかけてただけよ。周りに聞かれるのは嫌だから誰にも聞かれないプライベート通信でね」
「私にはいいじゃん!」
「嫌なものは嫌なのよ」
素っ気ない態度のAR-15に対して抗議するSOPIIを放って目を閉じたAR-15は電脳内通信で「続けて」とM4に続きを促した。
『指揮官、今も正規軍に所属してる人らしいの。たまたま司令室に行ったらヘリアンさんと指揮官の会話が聞こえてきちゃって…。だから何かあるとかはないけど、正規軍がどうしてグリフィンに居るのか分からなくて…』
『確かにどうして居るのかは分からないけど、今はM16と合流することに集中してM4。そのことはM16と合流してから考えましょう』
『うん……そうするわ』
『それと……私の方からも報告しておきたいことがあるわ』
AR-15は目を開けて目の前で騒ぐSOPIIの頭に手を乗せ、頭を撫で始めるとSOPIIは大人しく撫でられて頬を緩ませた。
「指揮官に報告するつもりだけど、鉄血が何故かグリフィンのヘリを使っていた。紋章は消されていたけど間違いない」
「えっ? 鉄血がヘリを?」
「そう、おかしな話だと思わない? 鉄血がヘリを使うなんて聞いたことがない。鉄血の量産型人形がヘリを使っているなら納得できそうな話は思い浮かぶ……けど、エクセキューショナーみたいなハイエンドモデルが使うのは引っ掛かる」
「確かに…」
M4が腕を組んで頷き、話の途中でAR-15の手が止まったことで二人を見上げていたSOPIIは頭に置かれた手を両手でどかす。
「移動するのに奪ったんじゃなくて?」
「それはないわね、奴らはヘリを積極的に破壊するはずよ。仮に動かせる状態のものがあっても操縦士が必要になるから、パイロットが必要なことも考えると…」
「鉄血がヘリを使う理由は見当たらない。なるほど、それは確かにおかしな話ですね」
突然、背後から聞こえた声にSOPIIが一瞬だけ体を跳ねさせて振り返り、声の主に三人の視線が集まる。
「マカロフ! 後ろから声をかけないでって言ってるじゃん!」
「おや、失礼しました。気になる話をされていたので、つい聞き入っていたら声をかけるタイミングを逃してしまいました」
後ろ手に両足を揃えた姿のマカロフが微笑みながら言うとSOPIIが不満げな顔をしながら掴みかかろうとする。しかし、軽く躱され危うく転びそうになったSOPIIをマカロフが服を掴んで引き起こす。
「危ないですよ、SOPII。お遊びなら後でしますから」
「遊んでるのはそっちじゃん!このぉ…!」
「おっと、そこまでです。AR-15を指揮官に会わせなければなりませんので」
マカロフは人差し指をSOPIIの鼻先に当てて制止し、一度は動きを止めたSOPIIだったが、その指に噛みつこうとしたため2人が止めに入る。
「止めなさい、SOPII」
「えー!だってマカロフがっ…!」
「こんなところで騒いでる暇は無いの。マカロフ、案内して」
「ええ、ではこちらに」
マカロフは微笑みながら片手を目的のテントへ伸ばしながら言い、マカロフを先頭に四人はテントへ向かって歩き始める。
目的のテントまであと少しのところで、マカロフが後ろ手に歩いているのを見て、違和感を覚えたAR-15が二人に小声で話しかける。
「二人とも、少しいい?」
「どうしたんですか?」
「どうかした?」
「マカロフ、性格が知っているのと違う気がする」
「ああ…それは──」
「AR-15、これから見せて貰えると思うけどマカロフって凄く強いんだよ。マカロフだけじゃなくて、ドラグノフとかAK-47とAK-74Mとか…あとサイガも!」
SOPIIが少し大きな声を出したことで歩きながらマカロフが横目で三人のことを見る。三人はそれぞれ苦笑と溜め息、あかんべー等の反応を見せ、マカロフはそれに返すように微笑みを見せてから前を向いた。
四人がテントに到着し、テントの中へ入る前にマカロフが一度足を止めて軽く咳払いをする。
「んっん……指揮官、AR-15が到着しました」
「そうか、入れ」
「失礼します」
テントへ入ることが許可され、マカロフが先にテントの幕をめくり中へ入る。三人も続いてテントの中へ入っていくと、指揮官はテントの入り口に背中を向けて一人椅子に座り、テーブルの上に置かれた地図を眺めていた。
「無事で何よりだ、AR-15。体に支障は?」
「問題ありません、指揮官。すぐにでも実戦に出られます」
「……足音に違和感がある。どこか悪いな、すぐ修理へ行くことだ」
「いえ、指揮官。私は──」
「指揮官からの命令だ。エリートなら大人しく従うことだな」
側から聞こえた声にAR-15が驚いて顔を声がした方へ向けると、テントの隅でドラグノフがスキットルを手に椅子に座っていた。その隣にも椅子に座り、目を閉じたまま動かないサイガの姿もあった。
「ハハッ、その様子だと気付いていなかったか。味方の基地で気を抜くのはいいが、抜きすぎるのも良くないぞ?」
「もー喋っていい~?ドラグナー!ウォッカおかわり~!」
「貴様はアルコールを抜いた方が良さそうだなAK-47」
AR-15達を挟んだ反対側にも椅子に座ったAK-47とAK-74Mの姿があり、気配が全くしなかったことにAR-15は寒気を感じる。
「Здравствуйте、AR-15。貴女の帰還には指揮官も喜んでいました」
そう言いながら微笑みを向けようとしているのか、片方の口角を上げて歯を見せ、眉間にシワを寄せているAK-74Mに隣に座っていたAK-47が笑いながら肩を叩く。
「アッハッハッハ!!なぁ~に?その顔?ほんっと不器用なんだからぁ~」
「笑顔になっていませんか、困りました…。失礼、私はあまり愛想良くできないのです。不快な思いをさせたのであれば、お詫びします」
「い、いいわ。その……仲良くしたいということは伝わったから」
「仲良く?そのようなつもりでは無かったのですが…」
「AK-74M、友達の作り方くらい覚えないといけないわよ~?この先、お互いに助け合う仲になるかもしれないんだからぁ~」
「酒臭いです、AK-47」
肩を組もうとしてくるAK-47を無表情で両手で押さえているAK-74Mはその顔をAR-15に向ける。
「……ふむ、共に実戦に出られることを楽しみにしております」
「……そうね、私も楽しみにしてるわ」
お互いに無表情で言った言葉だったが、二人の間には何か闘争心のようなものがあることに気付いたドラグナーは微笑みながらスキットルに入ったウォッカを飲む。
「AR-15」
「はい、指揮官」
指揮官がゆっくりと振り返り、AR-15はしっかり目を合わせようと姿勢を正して指揮官の方へ体を向ける。
しかし、AR-15は指揮官の顔を見ることができなかった。
(これは…一体?)
AR-15が目を合わせようとした指揮官の顔は、横顔を見せる直前で黒い靄のようなものが顔を覆って隠してしまった。顔が黒い靄で覆われた指揮官はゆっくりと立ち上がり、AR-15を見下ろす形で手を差し出した。
「顔の見えない指揮官は不気味だろうが、よろしく頼む」
「は、はい…指揮官」
AR-15は何故、指揮官の顔が見えないのか困惑しながら指揮官と握手を交わし、その手から感じる暖かさから本物の人間と握手していることを実感する。
しかし、その感触までは伝わらない者達にとって異質でしかない指揮官の存在は不安にしかならないものだった。
あまり熱くなるなよ by.ミュート