闇のぬけた雪原。陽の光を受けて僅かに煌めく氷の結晶。不気味な色が消え去れば、美しい雪景色が雪原に戻ってくる。崩壊した道路や馬車などの未だ荒れ果てた部分はちょくちょく見えるが、どことなく異国情緒を感じさせるファンタジーな街道と雪原がそこにはある。時間をかけて修復すれば本来の姿に戻るのだろうが、その前に果たさなくてはならない事が俺達にはあった。そしてそれを果たす為に他のプレイヤーたちに追いつかれる前に先へ、更に先へと進んで行く。向かう先は漆黒に覆われた帝都、その正門だ。北方にある最も大きく強く、そして飢える国家。それが俺たちプレイヤーを待ち受けている。
もはや道中のエネミーも悪路も、ここまで来れば関係がない。後は適度に速度を出して前に進めば到着する。山脈の麓に生まれたと言われる帝都は、今では山脈を削り、その斜面を抉り、山間を跨いで君臨する巨大な都市となっている。
その帝都も下層、中層、上層と分かれている。帝都城は上層に存在し、ロープウェイやリフトを使わない限りは辿り着くことが出来ない様になっているのが、この麓からでも見える。もし歩いて上る事を選んだら相当時間がかかる事になるだろう。攻略を考えると中々面倒な地形になっていると言えるだろう。
帝都前の、入口を務める門は闇色の鎖によって閉ざされており、中に入る事を拒否している。これ以上中に進もうとするには鎖をどうにかしなくてはならなそうだが―――近づき、視線を鎖に合わせるとホロウィンドウが出現する。
「大将、なんて?」
ベルセの言葉にホロウィンドウの内容を読み上げる。
「レイドコンテンツ”帝都解放戦”、必要プレイヤー数100人、上限300人だってよ」
「最低100人から開始するコンテンツか……予想してたよりも大規模なコンテンツになってるな」
「いや……寧ろ小規模じゃないか? 今のプレイヤー数とアクティブ数を考えると100や200って簡単に埋まる数字だと思うぞ。まあ、現時点でそれだけのプレイヤーがいるかどうかってのはちょっと解らない事だが。ただ、まあ、上限300のコンテンツってのはかなり人の多い感じになるな……どうなんだこれ?」
略剣の言葉にさあ、と首を傾げる。レイドウィンドウを閉じて振り返りながら腕を組む。
「まあ、言える事は現時点だと俺達だけじゃ開始できないって事だな。という訳で、人数そっちで頼むわ」
ユウギリ:お任せあれ
たぶん今の最前線プレイヤーだけで300は硬いだろうな
アクティブ数クッソ多いからな
アクティブ率常に7~8割りだっけ?
前の調査だと2万は常にアクティブプレイヤーとか言われてたな
「ニートしかおらんのか、とか言ったらブーメラン帰って来そうだしやめるか」
このために辞職しました!!!
このためにニートになりました!!
このために離婚しました(半ギレ
離婚ニキ復縁して???
どうしてぇ??
離婚する必要あったそれ??
ない……ですね……
草
「家庭板の闇を持ち出すなお前ら……」
溜息を吐きながらコメント欄を相手にしている横で、しばらく待機する必要があると理解した土鍋がニーズヘッグと組んで大きなかまくらを作り始めていた。それにレティシアと梅☆が合流して4人で他のプレイヤーたちが来るまでの間休める場所を作り始めた。それを横目に眺めつつ、此方はプレイヤーたちの仮設拠点の方へと視線を向け、これからの事をどうするかな、と軽く頭を掻いて考える。
「とりあえず生放送は一旦切るぞー。攻略する事になったらまた再開するわ」
乙乙ー
了解
がんばえー
生放送をいったん切ってどーしたもんか、と腕を組む。俺達は総勢8人のパーティーだ。これが大規模なレイドに参加するとなると、主導権はどうしても人数の多い所に持っていかれる。そうなると有利不利が出てくる―――主に分配とかドロップでの話だが。勿論、それは戦闘での担当や攻略の担当にも影響が出てくる。ぶっちゃけ大クランが参加すると、そこが指示を出すのが早く効率が良いのだ。だからウチみたいな少人数精鋭タイプはこういう大型レイドでは指揮が取れず、意見を通しづらい。
だからこそ事前にトップと話を付けておくのだが。それでも周りの人間はほぼ他のクラン、300人もいるとなると相当やりづらいなあ、とは思わなくもない。まあ、最終的に重要なのは、このレイドコンテンツをクリアすると先へ進める様になるって事だ。それさえ出来るのであれば、どこが主導となっても別に問題はないのかもしれない。最終的な目標は超高難易度コンテンツの攻略であり、ワールドレコードの獲得だ。その為の道中はある程度切り捨てたところで問題はないのだろうが。
……まあ、ここであっさりと主導権を譲っちゃうってのはちょっと悔しいよなあ、とも思ってしまう話だ。
「どーしたもんかなー」
「なんだ、そんなにウチ主導でやりたいなら俺が話を付けてやろうか?」
他の皆がかまくらや雪だるまを作ったりして時間を潰している中、略剣が此方へとやってくる。なんとなく俺の考えている事を察して口を挟んでくるが、
「正直そんな規模の指揮官を任されても困るっちゃ困るだろ」
「だったら素直に他の所に任せなよ」
「それはそれでもやもやするじゃーん!」
その言葉に略剣は苦笑を零すと、解らなくもないがと呟く。
「アビサルの音頭はお前が取ったんだから別に良いだろ、今回ぐらいは譲ってやれよ。というかウチはこれ以上人を増やす予定もないだろう? となると大型レイドコンテンツ参戦する度に主導を譲る事になるんだから諦めろよ」
「そうなんだけどさー! ……まあ、ココはほんと文句を言った所でしょうがないし、楽をさせて貰ってると考えるか」
「そそ、何もかも俺達でやろう、やれるって考える方が間違ってるし危ないんだ。楽出来る所は楽をしようぜ」
ぽんぽん、と肩を略剣に叩かれるとそのままかまくらへと向かって―――何時の間にかかまくらには2階部分が作られており、魔法を使って造形を掘り込んでいたり結構本格的になっていた。
「ん-」
最低参戦人数が100人という規模のコンテンツだ。ここまでくると流石に8人で全体をどうこう、とか8人だけで攻略とかは不可能な領域だ。俺達に出来る事と言えば、これから始まるであろう300人参加のコンテンツをどうやって攻略するか、統制するかという話になる。まあ、有力クランとは事前に話を付けてあるから問題は無いと思うが。それでも突然の裏切りとかあったらどうしよ。相当モチベーション吹っ飛ぶだけの自信がある。
さて、とりあえずこれからの事を考えたら、次は今ある問題だ。
そう、環境操作魔法周りにナーフが入った事だ。ロリフィエルを召喚しながら作成魔法のリストを召喚し、それを眺める。
「具体的に言うとどこら辺ナーフ入った?」
フィエルにナーフの内容を聞くと、フィエルがホロウィンドウを表示させながら眼鏡をすちゃ、と装着して指さしてくる。
「範囲と使用制限ですね。適応範囲が広すぎるのと悪用出来る所が多すぎて、これを野放しにしていたら仕様外の事を乱発されそうという事なので……そんな訳で使用できる場所の制限、規模と範囲の制限が追加されそうです」
「ほうほう」
ナーフ内容を確認すると、現状フリーフィールドで好き勝手に使えるとそれこそなんでもありすぎて魔法による戦闘や戦闘外でのバランスが大きく崩れてしまい、メレービルドのありがたみなどが減ってしまう為制限を入れざるを得ないという事らしい。実際魔法は取る範囲を広げるとやれることも増えて万能性が出てくる。メレーとの最大の違いは詠唱によって行動が制限される事であり、それがあるからこそやれる事の広さが許されている部分がある。
でも環境操作はそのバランスを崩壊させる要素があったからナーフされた、と。成程。
「納得しかない」
「良く考えると街中でいきなり吹雪発生させられた場合を全く想定していなかったんですよね。一部の開発者は”それもまたMMOとしての自由だからそれが良い!”って主張してますけど……全体からみると流石になぁ……という部分が多くてナーフが決定しました」
「せやろな」
ID外では半径30メートル範囲が限界、と。魔力次第で拡大しまくれた事を考えると、相当なナーフを喰らっていた。そしてIDやコンテンツ内だと半径50メートルが限度。その上であまり環境を激化させる様な事はID外では禁止される、と。吹雪を止める事は出来ないが、その影響力を緩和させる事なら出来る……という感じに変わった訳だ。
「後それ以外にも細かいナーフ内容が色々とあります。これまで見て色々と温めてた内容なので確認した方が良いですよ」
「ん-? あー、メレーのスキルコスト削減とか色々とあるなあ……」
「一応ナーフ内容が適応されるのは今から12時間後なのでそれまではナーフ前のままなのですが」
「え、マジで!?」
後12時間は悪用し放題なの!? マンモス周回するなら今しかないじゃん!!
「おい、お前ら! 遊んでる場合じゃねぇぞ! ナーフ前の極悪魔法連打してマンモス狩りでレベリングするぞ!」
「ま、迷わず悪用する事を選びましたよこの人!」
ナーフは確定されてもナーフされる前に使う事は違反でも何でもないんだよなぁ―――!!
ナーフされるんだったらされる前にガンガン悪用したる!!!
漸く最近暖かくなってきてこれにはにっこり! してたらマウスが逝って地獄を見てる。