ピンチだな!
正義の少女がピンチのとき――
今一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!

勇者一同「頼むから帰ってくださいお願いします」



ほぼ一発ネタ。
理屈もクソもないのでご注意ください。



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俺はなぜこんなものを……


変態現る

時は神世紀298年

人も、建物も、ほとんどのものが樹木に変わっているおとぎ話の世界のような空間に三人の少女と巨大な怪物が対峙していました。

三人は勇者。世界をバーテックスと呼ばれる怪物から守る人類最後の希望です。

相対する怪物は後に水瓶座の名を冠するアクエリアス・バーテックス。

三人の少女にとって初陣となるこの戦い、一時は連携も取れず窮地に陥りましたがついに接近に成功しあとはその刃を敵に叩きつけるだけです。

 

「よしっ!これでえええ!!」

 

赤い装束を着た少女、三ノ輪銀がついにバーテックスに突貫しようとします。

銀が足に力を込めたその時―――

 

「ピンチだな!」

 

よく通る声がしました。三人の少女が、へ?と疑問符を顔に出します。

 

「正義の少女がピンチの時―――」

 

よく通る声が続けます。

 

「今一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!」

 

三人が声のほうを見ると、大橋の上部構造体の上に一人の男がいました。

彼は白い学生服を着て、腰には一本の黒い鞘の日本刀を刺していました。

背中に背負ったシルクの純白のマントが、静かに風にたなびきます。

頭に真っ赤な一つのリンゴを乗せて胡麻色の犬耳を付けています。

引き締まった顔つきは白いマスクに隠されていました。

男の前を、今純白のハトが飛びながら横切りました。ちなみにスローで。

 

「な、何、あれ?」

 

驚き見上げている少女たちに男が静かによく通る声で、しかし力の入った口調で語りかけます。

 

「大丈夫か?勇者諸君!ピンチに駆けつけたぞ!」

 

「えっと、ピンチ違いますけど…大丈夫ですけど…」

 

銀がおずおずといいます。

 

「美少女の危機に駆けつけてこそ真の騎士!待たせてすまない!勇者諸君!助太刀致す!」

 

「「「結構です」」」

 

三人の声がはハモりました。これぞチームワークです。

 

「私の名は―――”純白の正義の騎士・四国犬仮面!”」

 

男はそう言うと、いつの間にか用意していた足元のラジカセのボタンを押し、ポーズを取りました。

完全にジョ◯ョ立ちです。ちゃらららーららーちゃっちゃちゃー軽快でどこか懐かしいBGMが流れます。

ちなみに”四国犬”とは四国原産の犬の種類でかつては土佐犬と呼ばれていましたが土佐闘犬と混同されるのでこう呼ばれるようになりました。見た目は一般的な柴犬とあまり変わりませんがやや体長が長くなっています。

 

「あ、やっぱ語呂悪いから土佐犬仮面で」

 

「「「どっちよ(だよ)」」」

 

ハモリました。これぞ以下略。

しかし妙です。樹海化した世界では勇者以外動ける人間はいません。

そして、あの男はどう見ても勇者には見えません。神樹が選ぶ勇者はいつだって、無垢な少女です。間違ってもこんな変態を選ぶとは思えません。

 

「わははははは!今参る―――とう!」

 

そんなことを知ってか知らずか変態―――もとい土佐犬仮面は、馬鹿みたいに笑いながら、大橋の上から飛び降りました。

そのまま、墜落死すれば話は早いのですが残念ながら土佐犬仮面はマントをたなびかせ、すたっ、と舞い降りました。

 

「三ノ輪さん、乃木さん、とにかく今は、バーテックスを倒しましょう」

 

気を取り直して戦おうと勇者の一人鷲尾須美が二人に話します。

 

「だな」「そうだねー」

 

と土佐犬仮面を無視し三人の意識がバーテックスに戻ります。

 

「「「あ」」」

 

ハモり以下略。気付けば、せっかく苦労して詰めたバーテックスとの距離が再び開いています。三人ががっくりと肩を落とします。

 

「さあ、とどめだ!どうした?勇者諸君!」

 

「あなたが余計なことするからまた距離空いたでしょ!」

 

須美がキレました。ぶちギレ。キレる十代です。

 

「気をつけろ……ヤツが神樹にたどり着くと世界が終わる…」

 

「「「誰のせいだ(よ)!」」」

 

ハモ略。

 

 

「そうカリカリするな。その年でカルシウムが足りないのは問題だぞ。煮干しをよく食べ牛乳を飲むんだ。骨粗鬆症は危険な病気だ。甘く見てはいけない。」

 

三人は、この男を半永久的に無視することにしました。言葉にせずとも三人の心は一つです。

 

「ミノさん、鷲尾さん急ご?」

 

勇者の一人乃木園子が二人に呼びかけます。

三人は気を取り直して、バーテックスに向かいます。

園子が槍を盾にして、攻撃を防ぎ二人が盾を押しながら近づく戦法です。

近づけば近づくほどバーテックスの攻撃は強くなっていきます。

しかし、勇者たちは粘り強く少しづつバーテックスに近づいていきます。

そこで、

 

「とりゃー!うりゃー!成敗!」

 

馬鹿侍が突っ込んでいきます。

なぜだか勇者でも苦戦した水球をやたら目ったら振り回されている日本刀は弾いていきます。

それだけならよかったのですが、変態が弾いた水球が変な角度で勇者たちに向かっていきます。

 

「なにやってんだ、あのバカ!」

 

銀が盾を一際強く押し、無理矢理移動して水球を避けます。

しかし、なおも多くの水球が変な角度から勇者たちを襲います。

バーテックスはもう目前だというのにこれでは攻められません。

 

「ねえ、二人ともちょっといいかな」

 

園子が小さく二人に何かを囁きます。

 

「それしか」「ないわね」

 

どうやら話はまとまったようです。

銀と須美が盾の裏から動きます。

 

「我が愛刀の錆にしてくれる―――ぬっ!?」

 

気付けば土佐犬仮面の後ろに須美と銀が近寄っていました。

二人は全力で土佐犬仮面の背中を蹴り、一際大きな水球の中に変態を叩きこみました。

 

「ちょっ、この水球でか―――っッッボボボボボボボボッ!ボゥホゥ!ブオオオオバオウッバ!」

 

「今よっ!!」

 

その直後に三人はバーテックスに突貫しました。

須美が水球を打ち落とし、道を開きます。

その隙を見逃さず、銀を園子が槍で投げ飛ばします。

 

「どおりゃあああああ!!!」

 

銀の烈火のごとき猛攻がバーテックスを破壊していきます。

みるみるバーテックスはその形を失っていきます。

 

「どうだぁああああ!!」

 

しばらくすると橋が一際光り輝き、バーテックスはいなくなりました。いわゆる鎮火の儀です。

 

「「「やったー!!」」」

 

三人が勝利を喜び、抱き合います。こうしてみると年相応の少女そのものです。

そんな幼気な少女たちに黒い影が忍び寄ります。

 

「ふふふ、無事だったか。勇者諸君。」

 

それは土佐犬仮面でした。残念ながら生きていたようですが、もうずぶの濡れです。それでも何故かリンゴは落ちてません。どうなってるんですかねあれ。

 

「あなたは、一体…」

 

須美が疑問をポロリと口にします。

なんだかんだで三人は優しい女の子だったので、生きていたことに少しホッとしていました。さすがに殺人犯にはなりたくありません。人かどうか怪しいですが。

とりあえず、正体が分からないうちはどうしようもありません。

 

「それは秘密だ!さらばだ!また会おう!」

 

三人のもう二度と会いたくないという思いをよそに土佐犬仮面はどこかに去っていきました。

やがて、樹海化が解けていき気が付けば、大橋近くの祠の前に三人はいました。

あの変態はいません。

須美はこれからのお役目が想像以上の困難を伴うことを自覚し、ぎゅっとこぶしを握り締めました。

 

 

 

同じ頃、大橋近くの高校の教室に一人の男子生徒が入室しました。

 

「すみません。寝坊して遅刻しました。」

 

さわやかによく通る声で言いましたが、教師にとってはその真意はどうでもよく、なんでこいつはびしょ濡れで頭にリンゴを載せてきたのか聞きたくて聞きたくて仕方がありませんでした。

 

(高校に入ったばかりでちょっとおかしくなってるんだろうな。新入生にはよくある……)

 

あえて無視しました。

 




学園キノネタ
続かない(続かないとは言ってない)


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