本家よりも不気味さやミステリー感を重視しました。
宵、夕日の明かりが山に隠れそれでも夜更けまではまだまだ時がある、そんな時間。 繁華街であるならば今からが酣なのだろう。しかしながら住宅街であればそうもいかない。 各々の家でもって家族団欒の時を過ごす者、床に就く者、帰路につく者。それぞれが明日を待 っている。
「なんだよ現、怖がり過ぎだろ。」
「真っ暗な学校がこんなに不気味だなんて思わないじゃないですか!」
……そんなことなかった。
彼らがいるのは彼らの通う高校の一階。人の気配が全くしない夜の学校というのは、暗さや心 霊現象的な意味においても怖いのだが同時にあるべきところにあるべき物が無いという不気味さを味わうことになる。そう言った意味で彼の反応は正しいと言えるだろう。
彼は現、高校の1年であり二次成長期を迎えた今でもその顔には幼さと可愛らしさを残している。少し長めに切り揃えられた髪は上品な印象を与え、その顔や小柄な体躯と相まって少女の 様でさえある。
「でもな、現。100歩譲って怖がるのは良いとしてさ、女の私を盾にするのはどうかと思うぞ?」
そう言って現少年をからかう彼女こそ彼を夜の学校に誘った張本人である悪夢である。
女の子に悪夢なんて俗称をつけるな、と世間の皆様から抗議の電話がかかってきそうだが、これが彼女の本名なので純粋な視点として、ただの傍観者である私に文句は言わないで欲しい。 肩のあたりで揃えられた髪はラベンダーの様な淡い紫色をしており、濃いクマのある目は切れ 長で、歯はギザギザしている。(ギザギザというのは歯並びが悪いという意味ではなく、ネコ科 の動物の様に鋭いという意味である。)全体的に悪の印象を受ける容貌だが頭につけたバグーの 可愛らしいアイマスクが印象をマイルドにしている。
そうこうしているうちに彼らは2階に上がったようだ。私も後を追う事とする。
「なんで先輩はいっつも僕を肝試しに誘うんですか?」
「さぁ何でだろうな、吊り橋効果を狙ってるのかもしれないな。」
「からかわないでください。」
「からかってるつもりは無いんだけどなぁ。」
そんな他愛のない会話をしながら2人はゆっくりと歩を進める。この高校の2階というと、3年 生の教室が並ぶフロアだ。因みに2階から順に3年生2年生1年生のフロアとなっている。
「んーと、この教室だったかな?」
彼女はそんなことを言いながら廊下から教室を覗き込む。幸い今日は明るい月が出ているた め、懐中電灯を使わなくても容易に室内を見渡せた。特に変わった所もない平凡な教室であ る。強いて他学年との違いを挙げるなら、受験までの日数を記した日めくりカレンダーがかか っている事だろうか。
「あの、先輩。一つ聞いても良いですか?」
「ん?全然構わないけど、トイレか?」
「違います。夜のトイレとか絶対無理ですから。それで、どうして先輩は2階から見て回ってるんですか?」
現は続ける。
「本来肝試しと言えば、それこそトイレとか理科室なんかをまわるものだと思うんです。でも 先輩は特別教室のある1階には目もくれず2階に上がった。その理由を知りたくて。」
そう素朴な疑問を放った現に対して悪夢は少し驚いた様な表情を浮かべていた。
「現お前、意外なところで鋭いのな。でもその疑問はちょっと的をずれてるな。」
「ずれてる?」
「そう、現は今大きく分けて2つの勘違いをしてる。1つ目は理由も無く霊は出ないという事、 2つ目これは肝試しではなくパトロールだという事だ。」
彼女自身は説明し終わった感じを醸し出しているが、現は何一つ理解できないどころか更に分 からなくなったようだ。
「む、まだ説明が必要か。なら言い方を変えるぞ。事故一つ起こっていない道路に幽霊が出る と思うか?」
「いやぁ、出ないんじゃ無いですか。」
「そうだよな、なら現はどうして何も起こっていない理科室や音楽室に幽霊が出ると思ったんだ?」
「いや、それは……」
現は口ごもる。
「そう、先入観だ。学校の霊と言えば、七不思議。動く人体模型、睨むヴェートーベン、後はトイレの花子さんとかな。でもまぁ、全部の学校に同じ霊が同じように存在する方が怖いよな。」
彼女は言い切る。
「だから私たちはここにいるんだよ。それだけ。」
「じゃあここに霊がいるって事ですか?でもそれって。」
「可能性があるって事。パトロールだって言っただろ?こういうのは実際に霊障が起こる前に対処してしまったほいが良いんだ。実際きっかけはあった。私個人としては出てもらっても全然構わないんだけどな。」
「僕は嫌ですよ。巻き込まないでくださいって。」
3年フロアを一通り見て回った2人は消火栓の前にいた。
「ここにお札を貼ります。」
「は、はぁ。そうなんですか?どうぞ。」
「そこはどうしてここなのか聞いてきてくれよ。」
「えー、そんな安っぽいショッピング番組みたいな事するんですか……じゃあ、どうしてここな んですか?」
「まぁ、実際どこでも良いっちゃ良いんだg 「じゃあもう貼っちゃいましょうよ。」 「待って、セリフまだ終わってないから。もうちょっと聞いて。」
最早恒例のというか何というか、この2人はいつもこの調子なのだろうか。軽薄な態度で淡々と ボケ続ける悪夢少女も相当なものだが、それをいなし続けている現少年もかなりのものだ。
最初あんなに怖がっていたのに、しれっとこの環境に適応しているあたり彼女に相当鍛えられ ているであろうことが伺える。そういえば怖がっていた時からツッコミはキレキレだったような気もする。
「消火栓に貼るのが1番カモフラージュしやすいんだよ、まず消火栓ってのは何処にでもあるも のだから注目されない。次に、消火栓は非常時に使いやすいよう廊下中央付近に置かれている から、お札の効果が均等に行き渡る。そして最後に、見つかっても火の用心のお札としてごま かし通せるってところ。」
「先輩らしくない詳しい解説ですね。ありがとうございます。」
(おそらく)いつになく語った少女は満足したように消火栓の裏にお札を貼って言った。
「よし、作業完了。現、帰るぞ。」
「やっと解放されるんですね。あー、怖かった。」
「怖かったのか?途中から全然気にしてない様子だったのに。」
「多少は慣れましたけどね。流石に不気味ですよここ。常に誰かに見られてるような感覚があ りますし。」
「まぁ、な」
「送って行きましょうか?先輩。」
「いや、それには及ばないよ。家近いんだ。」
校門付近まで出てきた2人はそれぞれの帰路につく。
「じゃあまた明日。現。」
「はい、おやすみなさい先輩。」
そう言って少年は歩き出す。少し歩いたところで何かに気がついたように振り返って言った。 「あの、先輩?……ってあれ?もういない。まだ別れてから1分も経ったってない気がするんだ けどな、まぁ明日聞けばいっか。」
今度こそ少年は帰路につく。振り返らずに。
「んで?お前は何者なんだい?」
振り返った私は悪夢と完全に目があった。
文章における視点は村上春樹のアフターダークの発想をお借りし発展させたものとなっています。