意識が少しずつ戻る。痛みが引くと同時に気づけば視界はひらけて、胸にあった螺子、そして、それによる傷はなかった事になっていた。
力を入れて、僕を壁に拘束する数本の螺子を無理やり壁から引き抜く。そして、螺子による傷と刺さっている螺子をなかった事にする。
辺りを見渡すと周りには壁やら床に螺子で拘束された負け犬軍団と裏の六人。おそらく、原作の主人公、黒神 めだかが都城 王土との戦闘を終えて、エレベーターに乗り、球磨川 禊と再会する数分前、と言った所だろう。
つまり。
予測通り、背後から感じた異常とは違う気配に、僕は自動操縦にて反射的に瞬間移動のスキル、足しげく通う、を使って、偶然近くにいた高千穂くんの体を拘束している螺子の一本を僕の右手に瞬間移動させ、それを背後に振り向きざまに振るった。
螺子と螺子がぶつかり合い。静寂とした空間に巨大な金属音が響く。
『あれ?』『止められちゃったや』
「…………」
『あはは』『そんなに見つめられると照れちゃうぜ』『ところで』
黙ったまま、螺子で螺子を防いでいる僕と自分のペースで話し続ける球磨川くん。が、急に少し間をあけるように黙り込み、そして、言った。
『まるで僕と同じことが出来るみたいだけど』『どういう原理なんだい?』『教えてくれないと夜も眠れないよ!』
球磨川くんのその感じに思わず、ずっこけて均衡を崩しかけるが持ち直す。
『……なーんて』『ま』『安心院さんが関わっている以上、只者じゃないってことだね』
言いつつ、球磨川くんは螺子を手放し、後ろに一度下がる。そして、新たな螺子を両手に持ち直し、再度こちらに向かってきた。
『とはいえ、もう君の弱さは分かってるし、結果は同じで……』
螺子を両手に携え、こちらに向かってきた球磨川くん……の背後。瞬間移動でそこへ移動した僕は隙をついて、全力で右の拳を振り抜く。
が。それは球磨川くんの予測内だったらしく。彼は背後への警戒を怠ってはいなかったみたいで、すぐに振り返りざまに左手に持った螺子で僕の拳にカウンターを合わせてきた。
人間強度、古賀ちゃんの改造人間の異常、と複数のスキルで強化された拳と螺子。いくら、強化されているとはいえ、螺子のような鋭利な物を殴り、無傷で破壊するのは難しい、と思われるので。僕は自動操縦の反応速度にて拳を開いて、指先で螺子を掴む。
『へえ』『螺子を素手で掴むなんて』『恐れ入ったよ!』
「……掴むだけじゃないよ」
掴むと同時、鶴御崎くんのスキルを使って、指先を傷つけずに螺子を溶かし、貫く。
『え』
「そのまま立ってて。そして……離れろ」
驚く球磨川くん。その隙に僕は王土くんのスキル、言葉の重みを使い、無防備に直立させると左足で球磨川くんのお腹を蹴り飛ばしながら、再度言葉の重みを発動させ、通常よりも相手との距離を開く。
『げほっげほっ』『……弱いってのは撤回かな』
咳き込みながら、立ち上がる球磨川くん。そして、瞬く間に全身に負ったダメージはなかったことになっていた。
「いいや。僕は弱いよ。と、いうか、君風に言うなら弱さが見えるんでしょ? そして、その弱さは僕の知るものでもある」
そう、僕の弱点。それは戦闘経験の不足と新たに取得したスキルに不慣れである事。そして、その不慣れな物をある程度使いこなして、今に甘んじてしまう事だ。一番最後の弱点が特に顕著で、表の六人のスキルを会得してからというもの、僕はそれに頼り過ぎている節がある。特に高千穂くんの自動操縦を得てからは防御も回避もそれに頼っていて、相手からの攻撃に対し、僕は後手後手に回り過ぎていた。球磨川くんから見れば、これはとても大きな弱点だろう。
「弱点は分かってる。だから、僕はそれを踏まえて、行動すればいい。僕が球磨川くんに勝つ方法、それはいついかなる時もその時点で持ち得る全力で臨む事だ」
「だから、スキル任せになんてしない。スキルに振り回されるんじゃない、僕が……スキルを振り回す」
覚悟は決めた。後は出来る事を出し切るだけだ。
幻覚を司るスキル、幻の幻覚と王土くんの電磁波を司るスキルを同時に発動し、自分へと自己暗示をかける。潜在能力を全て開放し、油断せず全力を尽くすように、と。
ちなみに、これは無謀ではない。僕の今持つスキル全てを名瀬ちゃんのスキル、改造で確認した上で、だ。おそらく、改造によってこれは更に上にも下にも変化できるのだろうけど、今この時においてはこれが最高だ。なので、僕は自信を持って、こう言う。
「これでおしまい。幻覚と電磁波による自己暗示の末の幻の姿、幻神(げんしん)モード! ってね」
おそらく、原作なら球磨川くんっぽい効果音が出てるだろう、というか、出てて欲しいな、なーんて、思いながら。幻神モードと化した僕は自己暗示のお陰が全力で油断なく、球磨川くんと対峙する。
幻神モード
詳細説明
霧島 響弥が対球磨川さん用に作った、スキル幻の幻覚と王土さんの電磁波を司るスキルを同時発動し、自己暗示にて自分の全力を油断なく、出し切るモード。ネーミングはめだかちゃんの〜〜モードをもじったもの。この場面では書いてないが見た目は黒い髪が白く染まり、全身を少し霧が覆っているのと電磁波のスパークが僅かに漂っている程度である。