この花の主人(偽)に祝福を! 作:GU
このすば完結記念に何か書きたいなと思い書いてみました。
(書き溜めなんて)ないです。
前略、オフクロ様
どうやらボクは自殺してしまったそうです。
知っての通りボクはお花が好きで、その日は育てたお花を死ぬほど部屋に飾って寝たのですが、目が覚めたら死んでいました。あ、いや、死んだので目は覚めなかったんですけどね。今のボクは精神体的なやつらしいです。
原因は酸欠。確かに植物は夜には呼吸を行います。まさか人が死ぬほど酸素濃度が低くなるとは思ってもいませんでしたが。お花畑で寝たいと思っただけなのに……。家族の皆、本当にごめんなさい……。
ちなみにですが、ボクは今よく分からない部屋にいます。そして目の前には水の女神アクア様という方がいて、椅子に座り事務机に肘を置いています。
水の女神と聞くとティアマトやサラスヴァティと言った神が連想されますが、彼女はそのどちらとも違うようです。日本の神とも言っていましたが名前はどう考えても日本名ではありません。これも近代のグローバル化の影響でしょうか。
ところでボクはこれからどうなるのでしょうか。聞いてみる事にしました。
「自殺なんだから地獄行きに決まってるでしょ?」
当たり前の様に言われてしまいました。ボクは等活地獄という所に落とされるようです。鬼灯の冷徹でなんか聞いたことがある気がします。
ボクは地獄になんて行きたくないので、どうにかこうにか口八丁手八丁で言い訳もとい説得をしました。これは事故だと、自殺する気なんてなかったと。
「うーん、まぁ確かにあなたの過去をちょっと見てみたけど、動機はなさそうなのよね。……ちょっと趣味がアレみたいだけど」
「あ、アレってなんですかアレって! い、いいじゃないですか! お花が好きなんてそんなに珍しくはないでしょう!?」
「それは別になんとも思ってないわよ? アホでお馬鹿で間抜けだなーとは思うけれど」
ぐうの音も出ませんでした。
「そもそもこの麗しくも気高い、水の女神アクア様を御神体とするアクシズ教には、教義でも犯罪でなければ何をやっても自由と記しているわ! 過去を見ててちょっぴり私の信者かしらと思っちゃったもの」
過去を見るって、プライバシーの侵害なんですけど……。それにそこまで好き勝手にやってた憶えはないんですが。精々お小遣い一年分前借りして家をキマワリの人形で埋め尽くしたくらいです。別に普通ですよ。ふつうふつう。
……ところでアクシズ教とはなんなのでしょうか。自由というフレーズにちょっとだけグッとくるものを感じちゃいました。
「あら? 魅力感じちゃった? アクシズ教というのはね、向こうの世界の国教にも勝るとも劣らぬダイナミック宗教の事よ! 全国1000万人の信者達が私の事を崇め奉っているの!」
1000万人……すごい! それが多い方なのかどうかは正直分かりませんが国教と比肩するのがすごい事というのは疎いボクでも分かります。向こうの世界? というのはよく分かりませんけど。
「そしてそんな素晴らしいアクシズ教に入れば、クラスメイトの前で女装したとしてもなんら恥ずかしがる必要はなくなるわ!」
「わあああああ! ふわあああああああ! ああああああああああーっ!」
やっ、やめーっ! やめてください! いきなりボクを辱めるのはやめてください! 過去を見てるならアレが本意じゃないっていうのは分かっていますよね!?
「そう? とても自然で可愛かったわよ?」
「あああああああああああああーっ!! ああああああああああああああああああああ!」
恐らくボクの顔は今真っ赤なりんごの様に染まっています。アレは学園祭だからって皆に推されて仕方なくやってしまったボクの封印されし黒歴史……! もう二度と思い出したくありません……!
「えー、割と良い感じだと思ったんですけど」
「むしろヤな感じ〜です! ボクは歴とした男の子なんです! 可愛いと言われても喜ぶ訳がありません! と、というか結局ボクはどうなるんですか!? 地獄ですか!? 天国ですか!?」
ボクは誤魔化す事にしました。これ以上は恥ずかしくて死んじゃいます! …………あっ、もう死んでるんでした。
「そうねぇ……うーん、まぁいいわ。ごほん──さて、動機もなく割としょうもない理由で自殺しちゃったあなたには3つの選択肢を与えます」
急に雰囲気が厳かになりましたが言葉選びで台無しでした。
「一つ目は地獄で罪を洗い流し、何になるかも分からない転生の道を進むか。二つ目は人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。三つ目は天国的なところでお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」
恐らくですが、選択肢を三つに増やしてくれたのは女神様の計らいだと思います。
「……それぞれのメリットデメリットを教えてくれませんか?」
「どれもメリットなんてないわよ? 地獄は獄卒から罰を受けた後はやり直しの効かない火の鳥ガチャが始まるし、人間への生まれ変わりも魂を浄化させた後の話だから今の人格も記憶も無くなるし、天国的なところなんて本当になんにもないのよ。食べ物もなければ娯楽もない。既に死んだ先人達と日向ぼっこしてお話するくらいしかやる事がないわ。ある意味地獄ね」
むむむ、なんだかどれも微妙ですね……。
一つ目の地獄はまず論外です。だって、他の選択肢があるのにわざわざ地獄を選ぶ必要なんてありません。あと自殺じゃありませんしー。事故ですしー。考え足らずだったのは認めますけど。
つまり残り二つがボクにとっての分かれ道。慎重に選ばなければいけません。
自分の意識があるままで何もない天国へ行くか、ボクという人格を無くしてまで生まれ変わるか。うごご、甲乙つけがたいです……。
そんなボクを見兼ねたのか、女神様はとても嬉しそうな様子で第四の提案をしてきました。
要約すると、先程女神様が言ってた向こうの世界、いわゆる異世界に転移しないかという提案。そこにはファンタジー系ではお馴染みの魔王がいて、そのせいで人類がピンチなのだそうです。しかも異世界で亡くなった方達は魔王軍にやられた訳で、もう同じ所に生まれ変わるのは勘弁との事。人口も年々低下しているそうで悩みの種だそうです。
そこでボクのように不慮の事故で亡くなった人達を姿形はそのままで異世界に転移させて、勇者候補として魔王を討伐させようというのが神々の会議で決定したらしく、ボクにもギリギリ白羽の矢が立ったのだそうです。
これはもう4つ目で確定ですね! 今の記憶を持ったまま、日本男児が夢見る剣と魔法のファンタジー世界への転移。これで憧れなければ男の子ではありません! しかも魔王と対抗するべく何かしらのチート能力を一つ授けてくださるそうです! やるしかないでしょう!
フンフンと意気込んでいたら女神様が「あっ、そうだわ!」と唐突に口を開きました。な、なんだか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか……?
「転移させる条件として今後は女装して過ごすというのはどうかしら?」
「???」
……あれ、なぜか女神様の声が聞き取れませんね。……とりあえずもう一度だけ聞いてみる事にします。
「転移したら女装して過ごしなさい」
聞き間違いではありませんでした。しかも語彙が強くなってます。正気ですか? 冗談ですよね? この女神様はボクを社会的に抹殺する気なのでしょうか。
「だって、あなたの女装姿って中々似合ってて面白いし、もう少し見てみたいんですもの」
「に、似合うですって? しかも面白いって……憤死しそうなんですが」
「もう死んでるわよ。とにかく大丈夫よ! あんたが女装したら男の娘だって絶対にバレないわ!」
「そういう問題ではありません! というか簡単に人の心を抉るような事言わないでください!」
「あんた文句ばっかりねぇ。私としては別に生まれ変わりでも天国的なところでもいいのですよ? それをこの儚くも美しい水の女神アクア様が! 温情で! 異世界転移を提案してあげてる訳で、そこのところ分かってますか?」
ぐっ……そう言われると痛いです。……そうですね、確かにボクがわがままでした。元はと言えばボクが欲張らずに適量のお花を摘んでいれば酸欠で死なずに済んだ事。
「……分かりました。ボクは……これから、グッ……女装して……ッ……異世界で、過ごしますん……ッ!!」
「あー! ちょっと! あんた今誤魔化したわね! 女神の耳を欺けるとでも思ったの!? 地獄に落とすわよ!?」
「過ごします!!」(吐血)(絶望)(死兆星)
そう宣言した瞬間、何故かこれまでの人生が駆け抜けるかのように頭の中を流れていきました。
「……まぁいいわ。納得できないなら女装が自殺の罰とでも思いなさいな。というか元々そのつもりだし」
女神様はため息を吐きながらそう言いました。女装が罰と言われてボクは少し冷静になったので疑問を投げかけました。
「どういう意味ですか?」
「どうって、そのままの意味よ。元々自殺でむこう100年は地獄行きだったあんたを償わせもせずに異世界に送るわけないでしょ? 自殺って本当に重い罪なんだから! そこで、あんたが一番嫌がる行いを償いとする事で、異世界転移を向こうの女神にも納得させようって訳! 決して私の趣味じゃないわよ!」
「……なるほど。でもボクが一番嫌がるのはお花を禁止される事だと思うんですけど」
「それでもいいけど、あんた生き甲斐を取られても生きたいと思うの?」
「……ありがとうございます」
そこまで説明されたら納得しない訳にはいきませんね! ここまで御膳立てされたのですから、男らしく腹を括りましょう! 覚悟完了です! ええ!
「……でもさっき面白いからって言いましたよね?」
「言ってない」
「言いました! ……まぁいいです。バレなければいいのですから。では異世界転移でよろしくお願いします」
「分かったわ」
そう言うと女神様はボクの目の前にカタログのようなものを差し出しました。なんだか段々と神聖さというものが薄れてきている気がしてなりません。
「選びなさい。たったひとつだけ。あなたに、何者にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界へ持っていく権利をあげましょう」
女神様の言葉を聞き、一通り目を通してみます。見たところどれもこれもすごい能力の武器や異能が多いのですが、どうにもボクが望む物は見当たりませんでした。
剣や鎧とかは別段欲しいとは思いません。憧れはしますけど、ボクの筋力じゃそうそう重い物は持てませんから。それよりもボクは、昔からあったらいいなと常日頃考えてた能力があるのです! 貰える能力は、カタログに載ってないものでも大丈夫なのでしょうか。
ちなみに女神様は暇そうにポテチを食べながら漫画を読んでいます。……この方、本当に女神なのでしょうか。
「女神様、これには載ってないんですけど、一つ欲しい能力がありまして……」
「えー、面倒くさいわね。まぁ言ってみるだけ言って頂戴」
「あぅ……え、えっと、その」
もう趣味については既にバレているとはいえボクはちょっとだけ恥ずかしい気持ちになりました。けれど、しっかりと伝えます。
「か、風見幽香の能力が欲しいんです!」
「風見幽香? ……ああ、もしかして東、方? ってやつ?」
「そうです!」
ボクが言った風見幽香というのは、東方projectというジャンルのゲームに出てくるキャラクターの一人で、ボクが一番好きなキャラクターです!
彼女の持つ能力は『花を操る程度の能力』。それは文字通り花を操る能力で、花を咲かせたり、向日葵の向きを太陽に向けたり、枯れた花を元どおり咲かせるとても、とっても素晴らしい能力です! アニメで見たあのひまわり畑はボクの憧憬で、いつかは実現させようと夢にまで見ていました。血涙を流す程度には欲しいです。
ボクの目から本気度が伝わったのか女神様は面倒臭そうにしながらも、手元に持っていたタブレットで色々調べてくれている様子でした。
「……えぇ、これはちょっとずるくないかしら。……え? ギリギリ大丈夫なの? 本当に? 悪魔とは書いてないけれど妖怪よ? 飛ぶし極太ビームも出すのよ? 創作物だから問題ないって? ……それもそうね! ついでに女キャラみたいだし丁度いいわ」
何やら小声で誰かと話している様子です。こちらまでは聞こえませんが。
「よし、あんたを風見幽香のようにしてあげるわ」
「あ、ありがとうございま──あれ?」
何かちょっと違ったような……。
「風見幽香の能力を頂けるんですよね?」
「ええ。あなたを風見幽香みたいにしてあげるわ!」
あれ? あれ? なんだかちょっと違うような気がするんですけど、何が違うかが分かりません!
「何度もごめんなさい。『花を操る程度の能力』を頂けるんですよね?」
「だからそうだって言ってるじゃない! あんたを風見幽香っぽくするのよ。見た目も能力も」
「やっぱり違うじゃないですか!」(憤怒)
あ、危ないところでした……。能力は欲しいと言いましたが、風見幽香になりたいなんて一言も言ってません!
「いったい何を怒っているの? 服装くらい別にいいじゃない。どうせ女装させてから向こうに行かせるつもりなんだし」
「女装はとにかく、コスプレをしたい訳ではなかったのですが……」
「日傘はサービスしたげるわ! 服はそれっぽいので良いとして……髪色は自分でなんとかなさいな」
女神様は何故かノリノリですが、ボクの表情は曇っている事でしょう。もちろん、わざわざ髪を染めるなんて事しません。
女装で、しかもコスプレかと内心唸っていると、突如ぴこんと閃きました。よく考えてみると、ボクが初めから風見幽香の格好をする事はメリットしかありませんでした。何故なら男のボクがしたくもない女装の為に女物の服を見繕うという、最終的に悟れそうな苦行を受けずに済むのですから。しかも風見幽香の服装自体も派手な物ではありませんし、極端ですがミニスカートやホットパンツを着るよりかは一億万倍マシだとでも思っておきましょう。
「ぜ、是非ボクを風見幽香のようにしてください!」
「なによ、やっぱりそのけがあるんじゃない。ちょっと待ってなさい……よし、今からこれに着替えるのよ!」
今すごい不名誉な事を言われた気がしますがスルーします。
渡されたのは風見幽香の服装と似通った衣装でした。思った通り、それ程目立つ様な衣装ではありません。そしてロングスカートです。成し遂げました。
……しかし、それはいいのですが、何やらよく分からない白い布切れも一緒に渡されました。いったいこれはなんなのでしょうか?
広げて見てみますとそれは……女性のぱ、パンツでした……。しかも真ん中に小さなリボンまで付いているプリティーなやつです。まじまじと女性の下着を見てしまった為、ボクはつい照れてしまいました。
「あ、あの……下着も、ですか?」
「当たり前じゃない。逆に聞きますけど見た目女の子でスカートの中身がトランクスだったらどう思います?」
「乱馬みたいでいいと思います……」
「そういう意味じゃないわよ! しかもあれは失敗してるじゃないの! やるなら細部までこだわり抜きなさいって言ってるのよ! パンチラで女装だってバレてもいいの?」
「むむむ」
「何がむむむよ!」
困った事に何も言い返せません。女神様に後ろを向いてもらって着替えてみると、見た目は妙にしっくりきているのが筆舌尽くし難いです。
下着は言わずもがな感触が気持ち悪いです。普段はトランクスだったというのもあり、慣れないのもあるのでしょうが、その……ぺたりと張り付く感覚に違和感しか覚えません。色々と。
ただ服装自体はシンプルな物なので着替えやすいのはいいと思いました。まぁ良い点はそのくらいですけど。
さて、男としての尊厳を奪われてしまったボクですが、遂に旅立ちの時が来たようです。能力ももうボクの中にあるそうなので異世界に送ってもらったら早速試してみたいと思います。
「じゃあそろそろ送るわよ。あ、聞かれなかったから言うけど向こうのお金はちょっと渡すし、言葉や文字も私達神々の親切サポートによって、異世界に行く際に脳に負荷をかけて一瞬で習得できるわ。運が悪いとパーになっちゃうけど」
「……やっぱり人間への生まれ変わりに変えてもらっても良いですか?」
「風神悠さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として」
「聞いてください」
ボクはジト目になるのを自覚しつつ、急に態度がまるで女神様の様になった女神様の言葉に耳を傾けました。もうなるようになれ、です。
「魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」
「贈り物ですか?」
「ええ。魔王を討伐すると言う事は世界を救うという事。……たった一つだけ、たとえどんな願いでもたった一つだけ叶えて差し上げましょう」
「おお……!」
願い事ですか。でしたら『花を操る程度の能力』を持ったまま地球に生き返るなんて事も可能なのでしょうか。この能力があれば個人経営のフラワーガーデンだって夢ではありません! なんだか興奮してきました。頑張って魔王を討伐してみせます!
意気込んでいると青く光る魔法陣が足元を浮かび上がってきました。
「さあ勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。……さぁ、旅立ちなさい!」
「め、女神様! 最後にひとつだけいいですか?」
口を挟む場面ではないという事は分かっていましたが、ボクはどうしても聞いておきたいことがありました。
「ちょっとあんた! 最後の締めなんだから水を差さないでよ! 私が旅立てって言ったんだから行って! ほら早く行って!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ……あの、どうしてここまで色々と良くしてくださったのですか?」
女神様は温情と言いましたが、それだけではないような気がします。もしかして、ボクに勇者的な素質を見出して──
「今日は死んだのあんたが最後だったから、定時いっぱいまで引き延ばしたかっただけよ?」
あっけらかんと言い放つ女神様に、ボクは開いた口が塞がらず、そのまま光の中へと包まれていきました。
自意識過剰でごめんなさい……。
感想、評価お待ちしております!