この花の主人(偽)に祝福を!   作:GU

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二度ある事は三度ある
つまり、初投稿です(迫真)


第三話 失敗しました……

 

 

 

 

ギルドの中へ入ると、見るからに精強な方々が一斉にこちらに視線を向けてきましたので思わず怯みそうになります。しかし、ボクは魔王を倒さんとする者。このくらいで怯んではいけないと胸を張って歩きました。

 

中はシンプルで大部分は酒場で、壁にはボードがあり紙が沢山貼ってあります。そして奥には受付らしきところ。もしかしてあそこで登録を行うのでしょうか。

 

「ほら、あそこで冒険者登録の受付をやってるから行って来なよ。あたしはここで見ててあげるから」

 

「わ、分かりました」

 

やはりそうでしたか。まぁ見るからにそうですし。

 

「あ、ちょっと待って。冒険者になるには登録料が必要なんだけど、ちゃんと持ってる?」

 

「えっ? ……あっ!」

 

そ、そういえば女神様からお金貰ってませんでした! という事はボクは今……無一文?

 

バババッと身体を(まさぐ)りますが、そんなものはないと言わんばかりに何もありません。

 

自覚した瞬間、嫌な汗がダラダラと流れ始めました。何故こう、行動する度に何かしらのアクションを挟まなければならないのでしょうか。テンション浮き沈みが激しいとすごく疲れるので程々にお願いしたいです。はぁ、気分がどんどん沈んでいく。

 

……クリスさんに、言った方が良いのでしょうか? い、嫌だなぁ……見ず知らずのボクに優しい言葉を掛けてくれた上に案内までしてもらって、そして今からお金を無心? 厚顔無恥も甚しすぎます。クリスさんはボクの親ではないんです。そしてボクもそんな風に育てられた覚えはありません。

 

……しかし、厚顔無恥だろうがなんだろうが、今は借りなければならない場面です。此処においてはボクは、ひとときの間は恥知らずとなります!

 

「あ、あのっ、実は……」

 

「……あれ、その様子だともしかしてお金持ってない感じ? 全く、しょうがないなー。じゃあ貸してあげ──」

 

「ま、待ってください! 確かに言いづらいですが、このくらいはメリハリつけさせてください!」

 

そう、ボクはまだお金を貸して欲しいとは一言も言ってません。クリスさんが察してくれただけで、ボクは一つも意思表示をしていないのです。

 

ボクはお金を貸していただく立場です。ならばそれ相応の態度で相手にお願いするのが筋というもの。特に友人間のお金の貸し借りについてはお姉ちゃんにしつこく言われてきましたから。クリスさんがよくても、ボクが嫌なんです。

 

「……うん、その心意気や良し! じゃあ最後まで聞いてあげるから言ってごらん?」

 

クリスさんが微笑ましいものを見るようにボクへと視線を向けます。

 

それに対してボクは、覚悟を決めてクリスさんを見据えました。

 

「は、はい、言います! ……諸事情により私は今、お金がありません。ですのでクリスさん……私にお金を貸してください。

 

 

 

 

──なんでもしますから!」

 

 

 

 

「うん、いいよ。貸してあげる──ってちょっと待って? なんて言ったの? 今なんでもするって言った!?」

 

 

ざわざわ……

 

    ざわざわ……

 

  ざわざわ……

 

 

「お、おいっ、クリスってそういう趣味だったのか?」

「男っぽい見た目してるとは思ってたが、あんな小さい女の子が好みだったとはな……」

「く、クリスの奴、なんて羨ま……もといけしからんやつなんだ!」

「やだ、クリスさんってロリコンだったの!?」

「わ、私、若返りの薬探してくるわ!」

 

 

「わ、わあああああああああ! ま、まって! みんなちょっと待ってよ!? 誤解なんだってばああああああああ!!」

 

 

何故か周りがざわざわし始めてしまいました。も、もしかして、ボクがつい大きな声でお金を貸して欲しいと言ったからでしょうか!? やっぱりお金の貸し借りなんてダメだったんですね……。お姉ちゃんも緊急時でもなければお金の貸し借りは厳禁だと言ってましたし……。

 

そ、それよりも、ひとまず謝らないと!

 

「ご、ごめんなさい……! まさかこんな事になるなんて思わなくて、本当にすみません! 許してください!

 

 

 

 

 

 

──なんでもしますから!」

 

 

 

 

 

 

「また言った! クリスのやつ二回も言わせやがった!」

「しかもあの女の子泣きそうになってるぞ!?」

「くそッ、あんな美少女を泣かせやがって! 大好物です!」

「こんな大勢の前でプレイに走るなんて……クリスさんってドSなのね……」

「なんて鬼畜な野郎なんだ! あんな奴だとは思わなかったよ!」

「ちくわ大明神」

「あ、あの子の泣きそうな面見てると、なんか目覚めちまいそうだ……!」

「私、Mじゃあないけど……クリスさんならアリかも……ぽっ」

「誰だ今の」

 

 

「ちょっとおおおおおおおおお! なんで二回も言っちゃったの!? 大事な事だとでも思ったのかな!? 大事じゃないから! むしろ大事(おおごと)な言葉だからぁ!!」

 

 

「ひ、ひえぇ……」

 

何故かざわつきが更に増えてしまいました。

 

も、もしかしてボク、また何かやっちゃいました……?

 

この騒ぎがボクのせいで起きているという事は理解しましたが、原因が全く持って見当もつきません。

 

ボクはただ、クリスさんにお金を返すまではどんなにキツい仕事や手伝いでもやり遂げるという覚悟を宣言しただけです。

 

ただそのせいで一度、女装という酷い目にあいましたが、あの時ほど自分の言葉に後悔した事はありません。なんなら今でも後悔しています。だって今ボクが女装してるのだって元を正せばそれが原因なのですから。あの出来事さえなければ女装するタイミングなんてありませんし、女神様だって目を付けなかったでしょう。

 

しかし、そんな事があったからこそ、ボクはようやく分かったのです……。

 

 

──信用できない人にそういう事は言っちゃダメだと!

 

 

つまり信用できるクリスさんになら言っても問題ない筈なのです! 出会ってまだ1時間も経ってませんが、ボクは信用できる方だと確信しています。なので大丈夫!

 

……の筈だったんですが、どうにもボクの言葉は何かがダメだったようです。どう考えてもボクの言葉におかしなところは一つもありません。一切の曇りなし。

 

それに、例えおかしなところがあったとしても、困るのはボクであり、クリスさんではありません。そしてボクは男の子です。仮に何を言われたとしても、信用できる人の言葉ならなんだって気合でこなしてみせます! 男に二言はありません! むん!

 

「ちょ、ちょっとユウ! 黙ってないで弁解して欲しいんだけど!? あたしこのままだとギルド出禁になっちゃうよ!」

 

「わ、分かりました。──皆さん! 私、クリスさんになら大丈夫なので、お気になさらないでください! クリスさんは何も悪くありません!」

 

「あああああああああああああ! もうやだああああああああああああああ!! こんな人前でこれ以上私の尊厳を辱めないでくださいいいいいいいいいい!!」

 

「く、クリスさん!?」

 

クリスさんはヨロヨロと壁際まで下がると頭を抱えて座り込み微動だにしなくなりました。

 

正直、イマイチ状況を把握出来ていないボクですが、唯一分かるのはボクが口を開くたびに状況が悪化しているという事です。

 

ぼ、ボクはいったいどうすればいいんですか!?

 

 

 

 

 

「皆さん! 落ち着いてください!」

 

 

 

 

 

 

その一言で騒ぎ立てていた冒険者の方達はシンと静まり返りました。

 

「皆さん、酔いを覚まして冷静になって考えてください。今までのクリスさんを見て、そんな事を言わせるような方に見えましたか?」

 

皆に語り掛ける声の正体は受付に座っていたお姉さんでした。お姉さんはこちらの方へと近付き、言い終えると周りを見渡します。

 

 

「ひゃっはっは! それがクリスの本性なんだよ! 良い子ちゃんぶってるやつほど中身はドブ川みたいな──イッテェ!?」

 

「ダストは黙ってて! 殴るわよ!?」

 

「このアマ! 殴ってから言うんじゃねーよ!」

 

 

一部は騒いだままでしたが大半は慎重に考え込み、そして口を開きました。

 

「言われてみれば……」

「この前一緒にクエストに行ったが、気のいいヤツだったよ……」

「……私はスキルのコツとか教えてもらったわ」

「俺だって! この前は盗賊スキルに助けてもらったぜ!」

「クリスさんに相談したら聖職者のように聴いてくれたわ!」

 

クリスさんへの度重なる称賛が耳に入り、やはりボクの判断は正しかったのだと改めて思いました。

 

「あ、あれ……? もしかして、顔上げてもいい感じ?」

 

チラチラと周りの様子を眺めるクリスさん。

 

こんな場面でアレですが小動物のようでとても可愛らしいです。

 

「ええ、もう大丈夫でしょう。後は説明お願いしますね?」

 

「あ、ありがとうっ……ルナさん……!」

 

「ふふっ、いいんですよ。クリスさんには私達ギルドもお世話になってますから」

 

そう告げると彼女は席へと戻って行きました。その後クリスさんは安堵のため息をつくと同時に怒り心頭な様子でボクへと詰め寄りました。

 

「ちょっとユウ! あたしに何か恨みでもあるの!? あたしを社会的に辱めようだなんて、天罰が下っても知らないよ!?」

 

「ほ、本当にごめんなさい。私の所為だとは分かるんですけど……何がいけなかったんですか……?」

 

「わ、わざとじゃなかったの!? 確かにあたしを陥れる動機はないだろうし……と、と言うことはまさか、天然で……!?」

 

クリスさんは再び頭を抱えてしまいました。

 

「あ、あの……」

 

「ってそうだ! こんな事をしてる場合じゃないんだった!」

 

ガバッと顔を上げたと思えばクリスさんは事の詳細を冒険者の方達に聞こえるように話しました。話を聞く限りやはりボクの言葉が原因だったようです。

 

「俺は信じてたぜ! はなっから冤罪だってよ!」

「そ、そうよね! まさかクリスさんがあんな鬼畜外道な訳ないわよねっ!」

「……でも、それはそれで……!」

「お、俺もだぞ!? クリスがんな卑劣な事する訳ねーよ!」

「あんたはいの一番に野次ってたでしょーが!」

 

全員が納得すると次にクリスさんは懇々とボクに説明しました。出会って間もない人に、しかも人前でなんでもするなんて軽々しく口にするものではない。それで酷い目にあっても自分の所為になるんだよ、と。ボクは一度痛い目を見ているので素直に頷きました。

 

「ご、ごめんなさい! 今後は気を付けます……」

 

「本当だよ! 危うく今まで築き上げてきた皆からの信頼が一瞬にして無くなる所だったんだから! わざとじゃないみたいだから今回は許すけど、次に今みたいな事したら天罰が下るんだからね!」

 

全くもう! と頬を膨らまして怒りを露わにするクリスさん。申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 

しかし、ボクは学ぶ男です。今回の原因はしっかりと把握しましたし、対策も練りました。

 

まずはおさらいですが、一度目の失敗はさっき言った通りで、人を選ばなかった事。前回はこれを怠ったせいで人の尊厳を破壊するような酷い目に合わされてしまいました。

 

そして二度目、つまり今回の失敗は周囲の環境を考えずに発言してしまった事。クリスさんに指摘された事ですね。

 

ボクはそこまで頭が回らずこんなに大勢の人の前でお金を借りようとしてしまったのです。お金の貸し借りなんて人前で堂々と行う事ではありません。言う相手さえ間違えなければ大丈夫という油断がこの様な事態を引き起こしたのです。

 

それらを踏まえると、人にお願いをするときには信用出来る人で、尚且つ二人きりの時である必要があると考えました! その条件が整ってさえいれば先程のようなことにはならない筈です! 人通りが少ないところや何処か静かな部屋である事が望ましいかと思います。我ながら完璧な対策ではないでしょうか……!

 

「……まぁ、終わり良ければ全てよしって事でもう気にしないからさ! ユウももう気に病まなくていいよ? じゃあ、はい!」

 

「これは……お金ですか?」

 

「そうだよ。登録に必要な千エリスきっかり! なってきなよ、冒険者に!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

クリスさんは言葉通り、本当に気にしていない様子でした。な、なんて器の大きい方なのでしょうか……! ボクがクリスさんの立場であればきっと当分は許せないと思います。それをこうも簡単に許してくれるなんて……尊敬の念に絶えません。

 

きっとクリスさんほど人の出来た方に付いていけばボクも彼女の様に人として、そして冒険者としても大きく成長出来る筈です。出来る事なら彼女と一緒に冒険がしたい。

 

そんな思いを抱きながらボクは受付の方へと足を運びました。

 

 

 


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