この花の主人(偽)に祝福を! 作:GU
次の日。
ボクはクリスさんと共に冒険者ギルドへと向かっていました。
クエストを受ける前に装備とか必要無いのかな? と思ったのですが、クリスさんに「お金を稼いでからでしょ」って言われました。ぐうの音も出ません。彼女の言い分だと、どうやらクエストとはモンスターを倒すだけではないらしく、雑用的な事もやっているそうです。
なるほど。一文無しであり、装備もなければそもそも戦う気概も備えていないボクにはうってつけかもしれません。日給制らしいのでせめて宿代くらいは稼がなければ!
……え? 一文無しなのに昨日の夜は何処に泊まったのかですって? …………クリスさんの宿です。
待って! ボクだって最初は遠慮したんです! ボクは男でクリスさんは女の子ですし、流石にマズイというのはボクだって分かります! しかし……
『え? 家がなければ家族もいない? そしてお金がないから野宿する? ……だっ、ダメだよ! 街の中とはいえ女の子が野宿なんて……寝てる間にこわーい男の人に攫われちゃうよ!? ここはいい街だけど、領主はおっかない貴族だからユウみたいな女の子は特に気を付けないと! とりあえず今日のところはうちの宿に来なよ! お風呂だってあるよ!』
色々と白状させられた上にこんな事まで言われてしまったので、行かざるを得ませんでした。あそこで断るのは人の善意を踏みにじる行動に他なりません。
せめて他の部屋にと、それとなく伝えはしましたが、お金がかかると言われてしまったのでそこで試合終了です。ボクに意見をする権限などありません。
ちなみに替えの下着は……………………………クリスさんの物を借りています。
あゝ、死にたい……。
男の子なのに、というより自分が女であると偽って恩人の下着を着用している変態に成り下がった自分が嫌で嫌でたまりません。これも含めて天罰なのでしょうか……。アクア様、お答えください。
弁解するとしたら、まずボクは自分の事を女だとは一言も言ってません。相手が勝手に勘違いしているだけ……と思う事ができれば気が楽になるんですけどね……。実際に風呂では俺は悪くねぇっ!って思い込もうと頑張りましたがいつまでも付き纏う罪悪感。そして自己嫌悪。ダメでした。
それに下着を貸すと言ったのはクリスさんであり、勿論ボクは断固として拒否しました。しかし……
『そ、そんなに嫌だった……? ちゃんと洗濯してるし、綺麗だよ? 洗剤もフローラルな良い香りのやつを使ってるし、この前買ったばかりだよ? ……そ、そっか、分かった。ごめんね、もう言わないから、そんなに怒らないでよぅ』
ボクは断り方を間違えてしまったのです。いきなりはいと渡されて意図が分からず思わず興奮して(無論パンツにではありません!)がなり立ててしまったのです。これではクリスさんのパンツが汚いから拒否してしまったのだと思われるのも当然です。その時のボクは気が動転していて、何故クリスさんがパンツを貸そうとしたのか思い至りませんでした。
そう、ボクには替えのパンツがなかったのです!
女の子を泣かせる行為は男として最低の行いです。ましてやクリスさんは一宿一飯の恩義のある人。それどころか何も知らないボクに対して色々と教えてくれたり、お金も貸してくれました。ボクは眉の下がったクリスさんを見てハッと冷静になったのです。恩人に対して仇で返すような物言い。ボクは自分の事が恥ずかしくてたまりませんでした。
ボクは今までの言動に対して謝罪を行い、そして誤解を解きました。見ず知らずのボクに親切してくれる彼女です。ボクの謝罪を快く受けいれてくれて、やがてボクはパンツを借用するに至りました。
あな悲しきことなりや。ボクは自分が女の子でなく男であるという誤解を解く事は許されていません。
さらに言うならばノーパンで女装した変態と、人のパンツを履く女装した変態であれば、バレる可能性の低い後者を選ばざるを得ません。ボクは吐血する思いでクリスさんからパンツを借り受けたのです。
これが仮に誰とも知れない人のパンツだったなら、まだここまで鬱な気持ちにはなっていなかったかもしれません。しかし、クリスさんはとても良い人です! クリスさんへの罪悪感と自分への嫌悪感が天元突破しそうです。
あゝ、死にたい……。
「ど、どうかしたの? ……あ、もしかしてどんなクエストを受けるのか不安になってる? 大丈夫だって! モンスター討伐以外のクエストだって沢山あるし。酒場のウェイトレスとか土木工事とか。ユウは希望とかあったりするの?」
「ボクを殺してください」
「なんで!?」
己可愛さにクリスさんを騙すこのボクを、誰か殺してっ! 寧ろ殺してくださいっ!
あゝ、死にたい……。
クリスさんだけには決して打ち明けることの出来ない、一生掛けて背負わなければならない嘘に対してストレスを感じつつ、ボクはトボトボとギルドへと向かっていくのでした。
☆☆☆
「ウェイトレスですか?」
ギルドに到着したボク達は受付のお姉さんに希望の仕事に空きがないか確認しました。
土木工事かウェイトレスって言われましたけど、名前的に土木工事の方が明らかにキツそうなので、ウェイトレスにすることにしました。
ちなみにウェイターは一切募集してないらしいです。なんでも需要がないとかで。その点ボクは問題ありません。何故なら女装しているから! 何故か分かりませんが、ボクが男だと言うことは全くバレていません。いや、バレたら困るんですけど。体付きが華奢なのは認めざるを得ませんし、顔付きも……まぁ女顔に見えなくもありません。声も…………うん、声変わりの時期な筈なのに喉仏も出てなければ、声もちょっと低くなったかな? レベルである事も認識しています。
……で、でも、それだけですよ!? 髪はちょっと長いとはいえ精々ショートですし、一人称だってボクです! あとは、ええと、ご飯だって男らしく口にいっぱい入れて食べます!
うう、男だと認識されなくて悲しめば良いのか、女装がバレなくて喜べばいいのか、非常に複雑なキモチです……。
「う〜ん、夜なら募集してるんですけど、日中は足りてるんですよねー。どうしますか?」
「何時から何時までですか?」
「基本的に夜間の営業は17時から2時となります」
「……なるほど」
無理です。
普段ボクは
「ちなみに時給っていくらですか?」
「夜間分を加算すると1500エリスになります。賄いも出ます」
「むむむ……」
「……まぁ、そうは言いましたけど、ユウさん、貴女にはこれからクエストを選んで狩りに行って頂きます」
どうするべきか悩んでいると、受付のお姉さんから突然の指令が入りました。
「えぇ!? ど、どうしてですか……?」
「先日お話ししましたが、“フラワーマスター”という職業はこれまでの人類史にて初めて出現した職業となります。その為ユウさんにはよっぽどの事がない限りは今後、国が運営する公務員として、職業“フラワーマスター”の情報収集に勤めなければなりません。これも先日了解を得ましたね?
そして情報収集をするという事はレベルを上げてスキルポイントを貯めなければなりません。なのでモンスターを狩りに行って頂くことになります。
ポイントを貯めて習得できるスキルを確認し、その後に習得したスキルがどのような効果を持つスキルなのか。その結果、過程を週報にまとめて報告する義務が発生します。ノルマなんてものはありませんけど。
まあ、名目上は公務員というだけで実際は冒険者と殆ど変化はありませんよ。税金が免除されたり、月末に給料が出たり、経費も申請すれば使用出来たりといった優遇措置はありますが、その分報告書はしっかりと提出して頂きます。
今言った内容やその他詳細な情報は後日改めて連絡しますので、とりあえずはそのくらいでしょうか? 何か質問はありますか?」
「(よく分から)ないです」
正直半分くらいはハテナでしたが、とりあえずボクが使えるスキル? って奴を報告すればいいってことですね? そしてそのスキルを貯めるにはモンスターハンターしてレベルを上げなければならないと……うん。
「く、クリスさん……どうしましょう」
「ひとまず装備購入の申請をすればいいんじゃない?」
今のボクの格好は通りすがりの一般人です。クリスさんの言う通り、狩りに行くには装備が必要です。そして公務員は経費が使えるとの事なので申請します!
「狩りに行くために装備を揃えたいのですけど、申請書とか必要ですか?」
「今日のところは私がやっておきますよ。後日やり方を教えますね。装備購入の場合は、えぇと……あっ、これこれ。規則によると、一律10万エリスまでですね。前借りが出来ますが、どうしますか?」
その言葉に勢い良く頷くと、その後すぐにお金が支給されました。差額分を返却する事と領収書を貰ってくるように言われると、ボクたちはそのままギルドを後にしました。
「……それにしても凄い優遇されてるね。新しい職業が出るとこんな風になるんだ」
「公務員ってすごいんですねぇ」
具体的に何が凄いとかはよく分かりませんでしたが、ボクが公務員になったというのは、なんとなく凄い事だというのは分かります。だって公務員ですよ? 公務員! ボクの両親も公務員なんですけど、二人がよくボクに「お前も公務員にならないか?」って言ってたのできっと凄い事なんです!
……でもボクはフラワーショップを営むためにこの能力を貰ったわけで、うーん……ま、また今度考えましょう!
クリスさんに連れられて到着したのはゲームなんかでよく見かけるファンタジーな鍛冶屋。思わずボクは感嘆の声を上げてしまいました。中に入ってみると様々な武器や防具が売られています。蛇矛や偃月刀、視線を逸らすと方天戟や大斧なんかもあります。三国志かな?
「そういえばさ、フラワーマスターってどんな風に戦うの? それ次第では購入する物も大きく変わってくるんじゃない?」
「確かに……」
「どんなスキルが使えるか確認した? もしもポイントがあるんだったら、まず何かしらのスキルを習得して試してみてから買ってもいいんじゃない?」
「確かに……」
全てクリスさんの言う通りです。ボク達はお店を冷やかした後で街の外の草原まで歩いて行きました。道中には様々なお店がありクリスさんが色々教えてくれたのでとても楽しかったです。
草原に着くとボクはポケットから冒険者カードを取り出し、中身を見てみます。よく考えたら昨日は受け取っただけで、ちゃんと確認するのは初めてです。
「私も見ていいかな?」
「いいですよ!」
見てるとクリスさんがスススと近付いて、ボクの両肩に手を乗せると肩越しに冒険者カードを覗き込んでくるので、思わずドギマギしてしまいます。
フレンドリーというか距離が近いというか。これが同性同士の距離感というものなのでしょうか? これから女装して生きていく上で慣れなければならない物だと分かってはいるのですが、どうにも慣れる気がしません……。
「えーとなになに? ……ふむふむ、ほうほう……うーむ、大体聞き覚えのあるスキルばかりだね」
どうやらクリスさん的に目新しいスキルは載っていなかったようです。
「何かオススメのスキルとかってありますか?」
「うーん……あっ、この光合成ってスキルは結構いいんじゃない? 光を浴びると魔力が回復するらしいよ! しかもパッシブスキルらしいし」
「おおー! それいいですね! じゃあ取得で」
「いやいやちょっと待ちなよ。君まだ魔法スキル持ってないでしょ? 先にそういった系統を取っておかないと宝の持ち腐れだよ?」
クリスさんの言う事に間違いはありません。全てが正しいです。所持ポイントの問題もありますし、これからモンスターと戦うと言うのであれば、魔法系統……それも攻撃に関するもの。まずはそちらから取得する方が賢いです。
だとすれば……この花吹雪なんてスキルはいいんじゃないでしょうか? 一見するとお花がヒラヒラしてて綺麗だなくらいしか感想がでなさそうなスキルですけど、これはきっと攻撃スキルです。しかも広範囲技で、複数のモンスターに対して攻撃できるはずです。
そして他にも花びらの舞というスキル。これも一見するとお花がヒラヒラしてて綺麗だなくらいしか感想がでなさそうなスキルですけど、これは間違いなく攻撃スキルです。高火力技で、しかも2〜3ターン連続での攻撃です。そしてその後ボクは混乱するでしょう。
何故知ってるのかって? ……ふふ、ボクは詳しいんです。
では早速取得しましょう。ポチッとな。
「ねえユウ、早くしないとモンスターが出てきちゃうよ? ……って言ってる側から気配が背後から!」
クリスさんがバッと後ろを振り向くと、その先には地面から這い出ようとしているカエルのようなものが姿を現していました。
カエルと言ってもボクが知ってるようなちっちゃくて、種類によっては可愛いカエルなんかではありません。ボクの数倍はありそうな巨体。恐らくこれは昨日守衛さんが言っていたジャイアントトードというモンスターなのでしょう。
ボクは初めて見る大きなモンスターに恐怖を感じて悲鳴を上げました。
「ひぃやああああ!!」
「なっ、なんでこんな街の近くで! 私は金属製のダガーを持ってるから狙われないだろうけど、何も持ってないユウが狙われちゃう──ユウ! 早く何か対抗出来るスキルを! 私は職業の関係上、対モンスター用のスキルを持ってない!」
……はっ! そうでした! ボクは魔王を倒さんとする者! こんなおっきいだけのカエルなんかにびっくりしていては魔法討伐なんで夢のまた夢!
慌ててボクは良い感じのスキルを探します。先ほどは花吹雪と花びらの舞は攻撃スキルだと言いましたが、いや流石に……。本当にお花がヒラヒラするスキルだったら目も当てられませんし。
という訳で、なんかないかなんかないか……。
「……むっ!?」
「何かいいスキルあった!?」
こ……これだ! これしかない!
ボクは決して東方projectに関して詳しい訳ではありません。
しかし、そんなボクでも知っているものはあります。それがこのスキル。
──“マスタースパーク”
今のボクが所持しているスキルポイントをほとんど使い切らないと取得することのできない攻撃スキル。……多分攻撃スキル、なはず。
マスタースパークという名前から考慮するに、電気的なものが物凄くバチバチする物だと思います。電気は生き物にとって非常に危険なもの。つまりあのカエルにとっても有効打になり得るスキル!
……正直に言って攻撃スキルなのかはあまり自信はありません。だってそもそも東方projectのゲームなんて一切やったことも無いし、知ってる事といえば風見幽香というキャラクターが花を操る能力を持っているって事くらいのものです。その中でマスタースパークという言葉を少し目にしただけで……。
ともかく! モンスターが現れてしまった以上、しのごの言ってる暇はありません! 習得します! そいやっ!
「クリスさん、ボクの前を開けてくださいっ! 一撃で仕留めますっ!」
「おっ、おうともさ! やっちゃえ、ユウ!」
ボクとおっきいカエルの直線上にいたクリスさんに退いてもらいます。そしてスキルを放つ為に準備を……準備を……。
「くっ、クリスさん! スキルってどうやって使うんですか!?」
「えぇっ!? ど、どうって言われても……私もキミが何を習得したのか分からないし、えーと……むむむ、おりゃって感じじゃないかな!?」
「な、なるほど、そういうことですか……!」
「分かっちゃったの!?」
大体わかりました。
つまり、むむむは溜め。そしておりゃで溜めたエネルギーを解放。この一巡の流れを満たす動作と言えば、ボクは一つしか思い当たりません。
幸い、まだボクとカエルには距離があります。どのくらいの溜めが必要なのかは分かりませんが、やるしかありません……!
ボクは呼吸を整えると半腰になり、そして例のあの構えをとりました。はっきり言って、命のやり取りをしている今であっても少し恥ずかしさを感じます。
しかし、他にイメージ出来るものがないのでやるしかありません。ボクは幼い頃に何度も何度も練習していた記憶を思い出します。物心がついた時からお花に囲まれる生活を送っていたとはいえボクだって一端の男の子。この構えはもちろん履修済みでした。
「──か……」
カエルを抑えてくれていたクリスさんがボクの隣でダガーを構え、厳しい目つきでカエルを睨んでいます。
「──め……」
ボクの存在に気が付いたのか、カエルはクリスさんには目も向けずボクの方に向かってぴょんぴょんと跳ねて向かってきました。
「──は……」
カエルはどんどんとこちらに近付いて来ます。クリスさんが焦れったそうにこちらをチラチラと見ているのが分かります。ごめんなさい。でもボクもどのくらい溜めればいいか分からないんです。
「──め……」
でも安心してください。クリスさんの言った事は間違っていませんでした。だってほら、ボクの両手にはこんなにも凄い魔力が……。
やがてボクは、両手に集うために溜めた青白く輝く膨大な魔力を、遂に解き放ちました!
「波ああああああああああああああじゃなくてマスタースパークでしたああああああああああああ!!!!!!」
「ひょええええええ!!!!」
極太のビームと称してもいい凄まじい光の奔流は、側にいたクリスさんを掠りつつカエルを包みます。地面を抉りながら放たれたマスタースパークはやがて夕陽が沈むように消え去りました。