それは、とてつもなく、大きな蛇のお話───

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「千」のお話

 これはとあるお話。

 彼は千の山にて座して待つ。

 千の剣を携え、大地の全てを覆す、千古不易を謳う王。

 天蓋を衝かんばかりのその体、身震い一つで山を削り、地殻変動を起こす。

 彼のまわりには常に無数の星々が降り注ぐ。

 その皮は王たる金剛のごとし。

 その尾鱗はしなりによって風を裂く。

 その眼は万物を睥睨する。

 その胸殻の硬度は是非もない。

 その鱗に触れようものなら無残に引き裂かれる。

 その扇刃のごとし鱗は身をよじるだけで大地の呻きが響き渡る。

 その爪は生殺与奪を握りしめている。

 その尾殻の一撃は天災として人の世を乱す。

 その命終えし時、血は海に、肉は陸に、骨は森となり、命の苗床となる。

 

 彼は山の頂にて栄華を謳う。

 

 彼に挑むものなら、刃の道を歩む覚悟を。

千剣の王冠を抱く彼は千の山にて静かに待つ──

 

 

 

「…じいさん、何の話だ?」

 

「ほっほほ。まぁ私の戯れ話だと思ってくれると嬉しいよ」

 

 ここはバルバレ集会所の酒場。狩猟が終わり、飯を食べてる時にギルドマスターのじいさんが俺の隣にきて今の事を話し始めた。

 

「なんか色々と壮大な尺度の内容だったが、何かのモンスターの事か?」

 

「私もこれは単なる御伽噺としか思ってないんだけど、ギルドの調査団から天空山付近で不穏な報告があってね。昔各地で調べた御伽噺の中に今話したコレが丁度、天空山周辺の事なんだよ」

 

 テーブルに置いてあるビールをグイッと飲み干し、じいさんに問いかける。

 

「そのギルド調査団の報告がその御伽噺と関係があるってか?」

 

「…嫌な予感がするんだ、私は」

 

 よく見るとじいさんのその小さな体が少し震えていた。

 

「コレは天空山付近の集落にあった話の一つなのは今言ったけど、コレの他にも色々と細かい話もあった。そして、そこには共通の伝説があったんだ」

 

 所詮御伽噺、そう割り切って聞いているが実に興味深い内容で、ビールの酔いが全く回らない程じいさんの話に聞き入っていた。

 

「常識が通らない天変地異そのものもとしか思えない、とてつもなく大きな蛇のお話。もしそのような者が本当にいるとして、大規模な移動を始めたらと思うと…」

 

 

 近くを通りかかった給仕アイルーにビールとつまみの追加を頼んだ。

 

「まぁ、まだそれがモンスターと決まったワケじゃないんだろ?今はギルドの調査結果を待とうぜ」

 

「…うん、そうだね」

 

 届いたビールを一気飲みする。

 もしそんな御伽噺みたいな奴がいるとして、それでも会ってみたいと思うのは狩人としての性だろうか。


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