夢の続きをもう一度   作:猫パン

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-1夢追う兎

 

 

 

 

 

「そのペンダント。君はそれをどこで手に入れたのかな?」

 

相対するうさ耳エプロンドレスの女性が、死んだ目を、ゴミを見るような目を彼に向ける。

だがその目を向けられても尚、彼はその態度を変える事は無い。

 

「これのことか?高々ペンダント如きで態々天災様が接触してくるとは、相当暇なんだな」

 

首からペンダントを取り出し、弄ぶかのように扱う彼の姿に、彼女は激昂し彼に掴みかかる。

だが彼は激昂した天災を赤子を扱うかの如く容易く、何も力を入れてないかのように軽く転がしたのだった。

 

「……っえ?」

 

だがそれに対して彼女は状況を理解出来なかった。

自他共に認める天災で、細胞レベルでオーバースペックと言われる彼女は身体能力が通常の人間とは常軌を逸する程高く、彼女の身体能力に着いていける人間はたった1人を除いて存在しない。

それ故に今の状況を理解することが、彼女には出来なかった。否したくなかったのだ。

それをしてしまえば自分自身を否定する事と同義だからだ。

 

だが彼女は科学者でもある。

現実から目を背ける事は科学者としての自分を否定する事であるが故の矛盾。

天災としての自分と科学者としての自分。

それ故に彼女は天災としてではなく、科学者として自己観測する。

彼の身体能力が異常だと。

天災として異常だった自身を上回る程に。

 

「随分な態度じゃないか、そんなにこれを弄ばれるのが嫌か?」

 

首元にかかるそれを彼女に見せるように示す彼。

そんな彼に彼女は自身の首元にかかる全く同じペンダントを彼に見せつける。

それを見て彼は絶句する。

傷の位置、入ってる写真、色褪せ具合、ペンダントヘッドの欠け方。

何もかもが同じだった。

 

「これは私が5歳の時に作って貰ったオーダーメイドのペンダント。世界にたった1つだけの私だけのペンダントなの、2つなんて存在する筈がない。もう1度言うけど、どこで手に入れたのかな?」

 

「生憎とその問には答えられないな、俺には記憶が無い。自分が何者で何故これを持っているのか、俺は今その理由を探している」

 

その答えに彼女は目を細める。

自分は情報を開示したというのに目の前の男は一切何も言わないと言うのか。

それが彼女の琴線に触れる。

そして思うのだ。自分が何時もやってきた事をやられると、ここまで腹立たしいのかと。

 

「………と言うことは記憶喪失?」

 

「かもな。まあ自分が何者であろうと生活には困らないだけの金は有る、このまま放浪して自分探しって言うのも案外悪くない」

 

彼女は思う。

このまま話を切ったら彼はそのまま去ってしまう。

だがペンダントの事を知りたい彼女としては是が非でも思い出して貰わないと困るのだ。

それこそ自らの科学力を使ってでも。

 

「だったら手伝ってあげようか?君の記憶を取り戻すのを」

 

「……それをする事であんたにメリットがあるのか?天災のあんたが何のメリットも無いのにそんな事をする訳が無い。何を企んでいる?」

 

彼女は世紀の大天災と称される科学者だ。

だが無償で何かをするような人物では無い事も知られている為、彼は訝しんでいる。

その為何かを企んでいるとしか思えなかったのだ。

 

「……そのペンダント。どこで手に入れたのかを聞き出さなきゃ、私の気が済まない。そしてそれに関する記憶が無いのなら、私が持ちうる全てを使ってでも思い出させる。その為に私は、手段を選ぶつもりは無い」

 

「ほう、それはいい。思い出させてくれると言うなら断る理由は無い。それで?こちらは何を差し出す?あんたの気が済まない事なら無償で解決するって言う訳ではないんだろう?」

 

「良く分かってるじゃん。いくらペンダントの為とは言っても無償なんて絶対に嫌、私が損するだけだもん。だから君には助手になってもらおうかな、記憶を探す対価は君自身って事で」

 

その言葉に目を細める。

天災である彼女に助手が必要とは思えないからだ。

ただその程度の事で記憶を取り戻す手伝いを世紀の大天災がしてくれるのだ、これ程にいい条件等他には無いだろう。

 

「良いだろう。俺自身の記憶の為に俺自身を支払うか…悪くない」

 

そう言うと彼は伸ばされたその手を掴んだ。

掴まれたその手を見て、彼女は満面の笑みを浮かべる。その笑顔はまさしく天使と言えるほど輝いて見えた。

 

「私は篠ノ之束、ISの開発者であり天災科学者。これから宜しく頼むよ助手君」

 

「宜しく博士。俺は……そうだな名無しの権兵衛(ジョン・ドゥ)ってとこか。名乗る名が無くて悪いな」

 

そう言った彼の言葉に、束は眉を潜める。

流石に今の時代で名無し等ありえない、無名だと呼ぶにも不便であるが故に。

それに戸籍の問題もある。

偽造するにも名前が必須だからだ、故に必要なものであった。

 

「………篠宮。うん篠宮が良いね、名前はどうしようかな」

 

「おいおい、記憶探しだけじゃなく名前までくれるってのか。太っ腹だなぁおい」

 

「だって名前が無いと呼べないじゃん?それに戸籍だって作るのに名前が居るんだから。戸籍が無きゃ国家に存在出来ないんだからね」

 

「ほう。と言うことはあんたが名付け親ってやつか、親って歳ではないと思うが」

 

うるさいと言いつつも思考を巡らせる。

だが名前を名付けた経験が殆ど無い束にとってはそれはかなりの難題。

研究等は簡単に進むのに、名前だけはいくら悩んでも決まらない。

その人に合うものをと思って付ける名前であると思っている故の苦悩だった。

 

「うーん…ごめん、今は思いつかないや」

 

「いやいいさ、名字だけでも嬉しいもんだ。今までの名無しの権兵衛に比べたら格段にな」

 

「そう、だね。うん、いい名前が思い付いた時に言うよ。さて、じゃあ私のラボにご案内〜♪」

 

パチンっと束が指を鳴らした途端、目の前に巨大な人参が浮かび上がってくる。

 

「ようこそ、吾輩は猫である(名前はまだ無い)号へ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な人参(吾輩は猫である(名前はまだ無い))に乗った篠宮は束の案内により医療ポッドへと寝転んでいた。

 

「んー、特に異常はないね。脳波もレントゲンも撮ったけど、記憶喪失は外傷的な要因では無いみたいだね」

 

束によるスキャン。

それによれば篠宮の脳には特に問題が無く、束を持ってしても外傷では無いとしか言えないものだった。

そして束は好奇心のまま全身をスキャンする。

 

そうして分かる篠宮の肉体異常。

細胞レベルでオーバースペックと言われる束の、約3倍を超える程密度が高い筋肉と骨。

それに驚愕しながらも反射神経や動体視力のテストをしても、束と同じかやや上回る結果となっていた。

 

「身体能力も君は可笑しいんだね、測定値だけでも私を上回ってるなんて。こんなのちーちゃんだけかと思ったよ」

 

「ちーちゃん?名前からして想像出来ないんだが」

 

ちーちゃん等という可愛らしい名前からして束の身体能力を上回ってる等と誰が思うだろうか。

何かマスコットキャラみたいな名前なのだから。

 

「ちーちゃんだよちーちゃん。織斑千冬、聞いたことない?私の親友なんだけど」

 

「織斑…織斑ねぇ。モンド・グロッソ初代優勝者が確かそんな名前だったな」

 

「そう、そのちーちゃんだよ!」

 

織斑千冬。

第1回モンド・グロッソにて圧倒的な強さで全戦全勝し無双の限りを刀1本で成し遂げた文字通り世界最強である。

 

そんな他愛もないような会話をしつつも、検査は進んでいく。

そこで彼女はとある項目へと注目する。

 

「ウソ……IS起動適正C。えっ?まって、君男だよね?」

 

IS起動適正。

文字通りISを動かせるか否かを決定付けるもの。この適正が無ければISを動かす事は出来ず、低ければスムーズに乗りこなせないと言われている。

だがこの適正、開発から10年近くたった現在女性にしか存在しない。

その為、男である篠宮にそれがある事はおかしいのである。

 

「どっからどう見ても男だろうが。何だ?俺が動かせる事が何か問題なのか?」

 

「問題しかないよ!これは女性しか動かせないんだよ?今まで男性で動かせる人は誰も出ていないんだから」

 

束の言う通り10年近い年月、誰一人として男性操縦者は現れていない。

何度も搭乗しようとテストが試みられ、その尽くが失敗している。

そんななか搭乗出来たと知れ渡れば多方面から厄介が舞い込んでくる事は間違い無いだろう。

 

「それが問題だとは思えないが?ここは研究所であり、主はあんただ。あんたが外に言わなきゃ漏れない、そうだろう?ここは情報隔離されているだろうしな」

 

会ったばかりでありながらこの信頼、それには彼女の現在の動向が絡んでくる。

唯一ISコアを作ることが出来る彼女は、それこそ世界中から最重要指名手配を受けている。

そんな彼女が各国に情報提供するなんて、それこそ身内の為じゃなければありえない。

 

「確かに私が広めない限り乗れる事は知れ渡らない。でも乗れる事が分かった以上乗ってもらうのは確定事項だからね、君自身を対価として私は君の記憶を取り戻す手助けをする。対価が君自身である以上君をどう扱おうとも私の自由、違う?」

 

彼女の言う通り彼の身は彼女の思うがままだ、だが記憶を取り戻す対価として彼女が手を貸すと言うのは等価交換としては等価なのか疑問が残るが。

 

「いいや?その通りだ。俺をどう扱いどう動かそうとあんたの自由だ。あんたが俺の記憶を取り戻す手伝いをしている限り、俺はあんたに従う。簡単で良いじゃないか」

 

「まあそうだけど…自分でも無茶言ってる自覚はあるんだけど、そんなんで自分の人生決めていいの?」

 

束の言う通り彼女が出した条件はどう考えても等価じゃない。

正気とは思えない条件なだけに、即断即決した彼を束は疑問視したのだ。

 

「確かに無茶苦茶な条件だし、即決した俺は正気とは思えないんだろうな。だがな博士、人生ってのは刺激があるから愉しいんだよ。博士もそう思うだろう?」

 

「……その刺激を得るための条件が、自分の命だったとしても?」

 

この問がどれほど異常かは、聞いた束自身も理解していた。

もしかしたら当たっているんじゃなんて考えが過ぎるなか、彼の口がようやく開く。

 

「博士、勘違いしちゃあいけない 。確かに命を代価に得る刺激は余程のものだろうさ。だがな、俺は快楽主義者であって戦闘狂じゃない。命のやり取りに興奮を覚える程狂っちゃいない」

 

それにと、彼はそこで言葉を切り、束の目を見つめながらこう言ったのだ。

 

 

「生きている限り面白い事はたくさんあるんだ、一時の感情の昂りで死んだら勿体ないだろう?どんなに無様でも生きていてこそ、面白い事に巡り会えるんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を取り直して、君の専用機を創ろう!機体コンセプトはどんなのが良い?爆破?砲撃?それとも防御に特化しちゃう?当たっても意味ない位高ければ、相手の面白い顔も見れちゃうよ?」

 

「そんなものはいらない。ほんの少しの攻撃力と防御力があれば、あとは探知に全振りで良いだろう」

 

「…………はぇ??」

 

流石に天災の束でも、その言葉は予想外だったらしく、口を開けてポカンとしていた。

 

「えっと…冗談だよね?」

 

「冗談を言っている顔に見えるか?」

 

その顔を見て本気だと理解した。

だが現在の配備されている専用機などはある程度高い攻撃力と防御力を持ち、なおかつ特殊兵装を積んでいる。

 

そんな機体と相見えたとき、多少ではすぐに負けてしまいかねない。

 

だがそれも、素の実力が高ければ?

世界最強の織斑千冬と同等レベルの身体能力を持つ束を、容易くあしらう程度の実力を持つ彼が乗るのだとしたら?

 

「……ありかもしれない。君にとっては現行の機体より弱い機体に乗ってもなんにもデメリットが無い、しかも現行モデルの相手にその機体で勝てば相手の悔しがる顔が見れる。君にはご褒美だよね」

 

「まあな。だが博士、1つ忘れていないか?IS…インフィニット・ストラトス、無限の成層圏。名前からしてこれはそもそもが戦闘用ではないだろう?ならば戦闘能力なんて本来必要無いはずだ、違うか?」

 

その言葉に束は何も言えなくなった。

いや、何かを言おうと口は動いているが、肝心の声が出ていなかった。

 

Infinite Stratos(無限の成層圏)

 

当初は宇宙探査用のマルチフォームスーツとして束が作り上げたものだ。

ロケットなど使わずに、宇宙服など使わずに、ただこれを着るだけで大気圏を抜け広い宇宙を探索出来るようにと。

 

だがどこからか、束のシナリオが狂った。

数多のミサイルをいとも容易く撃ち落とし、未確認機を捕縛する為に出動した戦闘機を、その尽くを無力化出来る戦闘能力。

 

束が選んだ選択肢が悪かったのか、はたまた公表した時代が悪かったのか。

発表されたものを見ていた受け手側の理解力が悪かったのか。

もう既にそれらは過去の事であり、もう変えられない事実だ。

 

現行兵器に追従を許さない程高い戦闘能力を持つISに、世界各国はこぞって手を出した。

既存の防衛戦力、軍、戦闘機、戦車、歩兵。

何もかもが過去のモノとなり、全てISに取って代わられた。

500個弱のコアを創り、それを置き土産に姿を消した束を、今や世界中の国々が最重要指名手配として常に狙っている。

 

だからこそ束は今世界中にセーフハウスを作り、そこを転々移動する逃亡生活を強いられているのだ。

 

 

 

そんな彼女に向けて、彼は今こう言ったのだ。

 

「戦闘用では無いこれに、戦闘能力なんて本来必要無いはず」と

 

 

「無限の成層圏、良いじゃないか。無限に広がるあの宇宙へと羽ばたく翼に、戦闘能力なんて無粋な物必要無いだろう?」

 

その言葉に、束の中の何かが壊れた。

 

崩壊する涙腺を、彼女は止める術を知らない。

 

 

「あれ……おかしいな、止まらないや……ごめん、少しだけ1人にして…」

 

俯く束の背を見ながら、彼は退出する。

 

 

うぁぁああああぁぁぁぁあぁあぁあああ!!!!

 

 

ドアを閉めた途端に響くのは、彼女が泣き叫ぶ声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間

 

泣き叫ぶ声が途絶えたのを聞き、彼は部屋へと戻ってきた。

 

「…入るぞ」

 

「…良いよ」

 

1時間泣き腫らし、目元は真っ赤で未だ涙に濡れていた。

だがそれでも、顔は幾分スッキリとしていた。

 

 

「ありがとう、そしてごめんね。初めて私の夢を肯定してくれたから、嬉しくて…」

 

束が創り上げたISは今の今まで正常な使い方をされることは無かった。

それ故に彼女の夢を肯定し、認める人間も居なかったのだ。

だからこそ彼女は歪み、諦めていた。

故に認めてくれる存在に、嬉しくて彼女は泣いてしまったのである。

 

「まだ会って数時間の男の言葉だぞ、そこまで嬉しいものなのか?」

 

「出会って数時間なんて関係ない。君がその言葉を本気で言っているかどうかなんてすぐ分かる、分かるからこそ嬉しいんだ」

 

未だ涙で潤んだ瞳で彼を見つめ、彼女はにっこりと微笑んだ。

その顔を直視出来ず、彼は目を逸らす。

その顔は薄っすら赤くなっていた。

 

「あ、赤くなった♪フフ、照れてる?」

 

「うるさい、照れてない」

 

「…ねえ、聞いて?君の名前。私の夢になぞらえて宇宙から。遥か彼方に輝くあの星を、私は行きたいって、探索したいって思ったの。でも私の夢は否定された、夢物語だって。そこから私のあり方は狂ってしまった、諦めてしまった。でもね、君の言葉で救われた。君が私の夢を肯定してくれた、君が私を照らしてくれた。遥か彼方に輝く、そこから取って遥輝。安直だけど、君の名前は篠宮遥輝だよ」

 

「……じゃあ改めて自己紹介だな。篠宮遥輝だ、よろしく」

 

「うん!私は篠ノ之束、特別に名前で呼んで良いよ。よろしくねはーくん!」

 

感極まった束は、そうして遥輝へと抱き着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえはーくん。君との契約、破棄していい?」

 

遥輝の体に抱き着いた束は、冷静になってから瞬時に離れてそう言った。

 

「君の言葉のおかげで、もう一度だけ夢を追いかけたいって思ったの。あの未知なる宇宙へ、私が憧れたあの星へ。でね、えっと……君には、えっと…隣で私を支えて欲しいんだ。あの宇宙に行くのは大変だから」

 

「だから契約を破棄すると。記憶探しはどうした?このペンダントの謎を、何をしたって知りたいんだろう?」

 

「ううん。もういいの。君の記憶は探し続ける、でもそのペンダントの事はいいの。どうあれ君と私を引き合わせてくれたって、そう思うから。だからね、私と……私と……一緒にあの宇宙を目指して欲しいんだ」

 

顔を真っ赤にした束がそう告げる。

 

「……元々記憶を探して放浪していたのだって、他にやることがなかったからしていただけだ。面白い事を求めながら、ぼんやりと見える場所に記憶を探す鍵があると思ってな。だがずっと思っていた、そんな場所が本当にあるのかってな。願望が生み出した幻想何じゃないかってな。だがそんななか博士と、束と出会った。無限の成層圏(Infinite Stratos)に乗れると知った、興奮しない訳がない。未知なる宇宙に行けるってな。こんな浪漫、断れると思うか?」

 

「思わない!」

 

再度涙を溢れさせ、それでも笑顔を浮かべた束は、まるで天使のようだった。

 

 

 

 

『緊急速報です!!なんと世界初の男性操縦者が現れました!!名前は織斑一夏!なんとあのブリュンヒルデの実の弟です!繰り返します!初のーー』

 

 

「……え?」

 

流れていたラジオが報道した驚愕のニュースに、2人は固まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで束が研究室へと駆け込み、1つのフラグメントマップを稼働させる。

 

これは世界中全てのISの搭乗者とその履歴が表示されるモノ。

これを見れば誰が何時どの機体に乗ったのかが一目で分かる。

そこには……

 

「誤報じゃない…本当に載ってる」

 

そこには確かに織斑一夏の名前が存在した。

 

「ありえない、男は動かせない。この10年間どれだけの企業が試しても無理だったのに……」

 

「最初の1号は後ろに居るぞ?」

 

「あぁ、そうだった…」

 

存在しないと思っていた男性操縦者は、つい数時間前に自分自身の目の前で発見している。

つまり他にも居てもおかしくないのだ。

 

「なあ、この場合こいつはどうなるんだ?織斑千冬の弟って事は知り合いだろ?」

 

「んー、そうだね。確かにちーちゃんの弟だから会ったこともあるし話した事もあるけど…今私が出来る事はないかな。いっくんには悪いけど。でも処遇ならどうなるかは想像がつくよ。織斑千冬の威光を恐れて表立って何かはしないだろうけど、研究所に捕まったら良くて幽閉、最悪モルモットだろうね。だからIS学園に強制的に入学させられると思う」

 

世間的には初の男性操縦者だ、それを良く思わない人間も多い。

特に今の風潮が女尊男卑だ。

女性中心の社会を乱すような異物は、最悪排除される。

それを阻止するのに手っ取り早いのは、外からの干渉を法的に出来なくなっている全寮制のIS学園へと強制入学させるのが一番なのだ。

 

「そうだ、この際はーくんもIS学園に行かない?」

 

「……行くメリットと目的は?」

 

突拍子もない提案に怪訝そうに束を見つめる。

遥輝がIS学園に行くと言うことは否応無しに世間の注目を集める事になる。

未だ遥輝が動かせる事を知る人間は、束ただ一人。

言わなければ世間が騒ぐことも無いのだ。

 

「あそこはIS操縦者を育成する学園だし、今年はいっくんが入るから各国の代表候補生も、調整が済んだら入学させると思うし面白い事はたくさんあると思う。目的はそうだね、人材確保かな?」

 

「人材?大天災の束がか?」

 

「うん。束さん思ったんだ、宇宙進出するなら人もお金も全然足りない。だから起業してお金を、IS学園で人材を確保しようかなって。その為のスカウトと宣伝の為に入学して貰おうかなって」

 

何事も1人の力には限界がある。

故に彼女が考えたのは、育成機関にてスカウトをしようというものだ。

IS学園は操縦者と整備士の両方を育成している。そのどちらも束の目標に必要で、そのどちらも一朝一夕には育たない。

なればこそ育てる機関から持ってこようと考えたのだ。

 

「……どう?受けてくれる?」

 

「受けるさ。束の夢を叶える為に必要なんだろう?」

 

これを受けると言うことは3年間拘束されるのと同義。ましてや貴重な男性操縦者だ、研究者達から狙われる事もあるだろう。

それでも遥輝には受ける選択肢しかない。

 

束の夢を叶える為に必須とも言える人材が育つ場所であり、様々な人が集う場所。

 

「それにもしかしたら、俺の事を知っている人がいるかも知れない。それを考えれば行くメリットは十分にある、それに何より面白そうだ」

 

「じゃあ早速準備するね!戸籍偽造して、えっと…」

 

そう言うと束はPCの前に座り、物凄い速さでキーボードを打っていく。

 

コンコンっ

 

「束様、只今戻りました」

 

「あ、クーちゃん!お帰り、入っておいで」

 

「では、失礼します」

 

ノックの音と共に入ってきたのは、両目を閉じた流れるような銀髪の少女だった。

 

「ん?この気配…束さま、こちらの方は一体…」

 

「紹介するねクーちゃん!はーくんだよ!」

 

「おい束、流石にそれでは分からないだろう」

 

人を紹介するときにあだ名で紹介しては、どう考えても入ってこない。

あだ名とは当人同士でしか通用しないのだから。

 

 

「篠宮遥輝だ。今日から束の助手として、色々と手伝うこととなった。よろしく頼む」

 

「そう言うことでしたか。私はクロエ・クロニクルと申します、束様の身の回りのお世話を任されています。これからよろしくお願いします。」

 

初対面ながら早速打ち解けたようで、後ろで見ていた束も満足そうに頷いていた。

 

「うんうん、打ち解けたようで何よりだよ。じゃあ私は早速ちーちゃんに電話しなきゃ」

 

そう言って彼女は電話をかけ始めた。

 

「もすもすひねもすー。あ、ちーちゃん?ちょっと伝えたい事があるんだけどーーーー」

 

 

 

 

 

 

 





【ロケットペンダント】

束が持つオーダーメイドで作られた唯一無二のペンダント、中には宇宙を写した写真の切り抜きが入っている。
長年着用していた影響からか多少の傷やくすみが着いている。


嘗て夢を見た。
それは彼女が宇宙へと羽ばたく為の結晶を生み出すきっかけとなった。
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