夢の続きをもう一度   作:猫パン

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書き方を大幅に変えてみた


-3 学園へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビットカンパニーが発表されてから2週間後、遂にIS学園へと入学する時が来た。

 

 

束の研究所にて諸々の準備をしていた影響で入学式には間に合わないという事になり、それでも急ぐ為explorator(エクスプローラートル)で翔けていた。巡航モードでの飛行の為、大気圏突破程ではないが800km/hと航空機さながらの速度で飛んでいた。

 

『篠宮、現在地はどの辺りだ?』

 

「IS学園まで200kmってとこか、後15分だ」

 

『ふむ、15分か……HRが始まるのが20分後だ、それには間に合うな』

 

千冬と連絡を取りながらの飛行と言う事で、情報を聞きながら向かうことが出来ている。

だがISの展開は非常時以外では無断展開を禁止されている。ましてや目的地に向かう為に使う等、違法行為となり得る。だが流石の天災篠ノ之束の技術力、巡航モードにて一定高度を高速飛行するexplorator(エクスプローラートル)はステルス機能によりレーダーには映らない。

映らないのであればIS委員会へとバレる心配もない為、千冬が言わなければそんな事実は存在しなかった事になる。

 

『着陸地点は第8アリーナだ。校舎からかなり離れているから目撃されることもない、それに今は式の最中だから生徒がアリーナに近付くことも無い。もう少ししたら私は生徒が教室へ向かう前の準備、という名目で式を抜け出す事になっている。そこで第8アリーナで合流だ』

 

プライベートチャンネルでの連絡であるため入学式の真っ最中である千冬とも連絡を取ることができる。

 

「了解。所で第8アリーナだという目印は?」

 

『誘導灯を点灯させてある、本来赤だが今点灯させてあるのは紫だ。別の場所で赤色を使っているからな』

 

第8アリーナは緊急時用の発着場が併設されており、そのため通常の赤色誘導灯とは違う紫色の誘導灯が着いている。

 

「ああ、あれか。見えてきた、もう数分で着陸地点だ」

 

『こちらでも確認した。それがお前の専用機か?』

 

「ああ。束の技術の、その全てを注ぎ込んだ夢への第一歩。【explorator(エクスプローラートル)】意味はラテン語で探索者、探求者の2つだ」

 

段々と近付いて来たそれを、ようやく千冬も視認出来た。巡航モードのexplorator(エクスプローラートル)はその姿がまるで航空機のようだった。

 

『滑走路の方が良かったか?その姿ならば』

 

「いや、ヘリポートでも問題ない。垂直離着陸は問題なく出来る機体だ」

 

そう言うのと千冬の目の前に来るの、それは同時だった。千冬と10m距離を取りホバリングするexplorator(エクスプローラートル)

だが着陸態勢を取るのかと思いきや機体が変形し、メカメカしい人形を取った。

可変式IS。

通常モードと巡航モード、そして大気圏突破モードの3つの変形を持つ特殊ISがexplorator(エクスプローラートル)だ。

 

「なかなか浪漫溢れる機体じゃないか、これはお前の発案か?」

 

「いや、可変式にしようと言う案自体は束の発案だ。人形で大気圏突破をするにはどうしても空気抵抗の影響で速度が足りなくてな、そうなってくると理想的な形状が戦闘機形状になるからその時だけ変形させれば普段は作業に使えるからな」

 

可変式は浪漫溢れる機体ではあるが、今回の場合は必要になった故の可変式だった。人形だと面積が広く、速度を出すと空気抵抗が大きくなる。その空気抵抗によって減速する機体を維持し更に加速させる為にはブースターの出力を上げなければならず、出力を上げると消費SEも増加する故に燃費が低下する。SEを使い切れば展開が維持出来ない事を考えるとSE消費を抑える為の可変式というのは理に適っているのだ。

 

着地し展開を解除した遥輝が、千冬の元へと足を進める。

 

「では着いてこい、もう間もなくHRが始まる」

 

「ああ、クラスはどこに配属されるんだ?」

 

「お前は私の弟と同じ1組だ。男性操縦者を別々のクラスに振り分けると、管理が面倒だからな」

 

「なるほど」

 

2人共に同じクラスであれば担任と副担任で2人で見ることができる。だが違うクラスだった場合そのクラスも含め別に人員がかかる。それに今の風潮は女尊男卑だ、その思想を持つ者はIS学園にも多い。ならばその思想のない織斑千冬が担任の1組に2人共任せてしまおうという事だ。

 

「全く難儀なものだ、教えるのが弟だけでも大変だと言うのに。お前の事まで私が受け持たねばならんとは」

 

「文句なら束に言ってくれ、俺には関係ない」

 

「最終的に了承したのはお前だろうに、全く」

 

軽口を叩きながら廊下を進んでいく2人。その姿を生徒が見たら、神聖視している千冬の別側面に驚くだろう。だがそれを見るものは誰も居ない、現在は全生徒が教室にてHRの真っ最中だからだ。

 

「そら着いたぞ。ここからお前は生徒で私は教師だ、言葉遣いには特に気をつけるように」

 

「了解、織斑教諭」

 

「結構。では私が紹介したら『以上です!!』……入ってくるように。あのバカはまともに自己紹介すら出来んのか、全く」

 

そう言いながら千冬は教室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はまともに自己紹介すらも出来んのか」

 

その声と共に入ってきた千冬、その視線の先に居たのが織斑一夏。世界初の男性操縦者であり、ブリュンヒルデである織斑千冬の実弟である。

 

「げぇつ、関羽!?」

 

スパンっ

その言葉に出席簿を振り下ろした千冬だが、音からして出席簿とは思えない。

 

「誰が三國志の英雄か、馬鹿ものが」

 

比喩だとはいえ、自分の事をそう見ているのかと自身の弟とはいえ若干の苛立ちを覚える。そしてそれと同時に厳しすぎたのだろうかと、己の立ち振舞を振り返る。そんなに横暴だっただろうかと。

とりあえず私は悪くないと言う結論に至った。

 

「っ!?て、なんで千冬姉がここに!?」

 

再度一夏の頭へと振り下ろされる出席簿。だが心做しか先程よりも弱めだったのか、随分音は小さかった。

 

「学園では織斑先生だ。それと何故ここに居るか等考えずとも分かるだろう?教師だからだ」

 

出席簿を持ち、更にキチッとスーツを着て入ってきたのだ、生徒な訳がない。ならば教師だと思いつく筈だが、そこまで思い至ら無かったようだ。

 

「さて諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。私はブリュンヒルデだとか世界最強だとかに関わらず1人の教師として君達に接するつもりだ、故に君達も変に萎縮したりせず普通に話しかけてくれると私も嬉しい。これから1年間、担任として宜しく頼む」

 

その言葉に実弟の一夏は目を見開く。普段を知っている一夏からすれば、姉である千冬がそんな事を言うとは思ってもみなかったからだ。

 

「さて。自己紹介もまだ途中だが、諸君らも気になっている事だろう。その空席が、一体誰の席なのかを」

 

千冬が視線で示した先、最前列の1番右の席。

だが今はまだ誰も座っていない、座るべき人間が居ないのならはじめから用意はしない。だがこの時点でもしかしてと言う生徒がちらほらと居た。

 

「まあ察しは着いていると思うが、これも礼儀だ。ーー良いぞ、入って来い」

 

その声に数秒程遅れ、教室の扉が開くーーーー

 

 

 

 

 

 

2人目

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束が発表した、2人目の男性操縦者がそこに立っていた。

 

「篠宮遥輝だ、宜しく頼むよ淑女諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR、そして1時間目の授業も終了し、現在休み時間。入学式の日だろうと授業があるこの学園では学ぶ事が多い。そのため1時間目では本格的な授業の前段階という事で、何をどう学んでいくのかという説明がなされていた。

とはいえIS という膨大な情報の詰まった機体について学ぶのだ、その説明ですら最早授業レベルの濃さだ。参考書や教科書等、辞書を超えるレベルの分厚さだ。2.3日で覚えきれるようなレベルの話ではないのだ。であるならば、今まで一般の男子中学生であった織斑一夏がついて来られないのは当然であった。なのだが件の彼は参考書を電話帳と間違えて処分するなどと言う愚行をやらかしており、千冬の出席簿が頭に振り下ろされたのは言うまでもない。

因みにその時に腹を抱えて大爆笑していた遥輝が居たことと、流石に笑い過ぎて千冬に咎められた事があったが割愛する。

 

そんな休み時間だが、遥輝に対して視線が集まっていた。一夏にも一応視線は行くが、どうしても篠ノ之束が公表したというインパクトが強く興味は遥輝へと向く。ISの開発者という肩書は今の御時世相当大きく、あわよくば知り合いになって機体を…なんていう下心を持って接触しようかな。等と言うひそひそ話が横行する中、彼女達には自分から話しかける勇気等無い。殆どの生徒が女子校出身故に、同年代の男子を見たこと無い生徒だ。もしかしたら友好的に話し掛けてくれるかもなんていう期待を込めて、遥輝を見つめるばかりだ。

 

そんな折、彼に近付く人物が居た。1人目、織斑一夏だ。彼も彼で遥輝に負けず劣らずジロジロと興味の視線を向けられており、健全な男子としては物凄く居辛さを感じていたのだろう。

1クラス30人、遥輝と一夏を除いて28人全員が女子なのだから 。

 

「あのー、すいません?」

 

遥輝へと意を決して話しかけた一夏だったが、彼は気が付かない。思考の海に沈んだ彼を引き上げる程、遠慮がちだった一夏の声は大きくない。大きくない声だがそこに来たという気配は必ずある故、ふと遥輝が顔を上げた。それをチャンスと見た一夏は再度声をかけた。

 

「あのー」

 

「ん?ああ、1人目の。確か織斑だったか」

 

「あ、はい。織斑一夏です。宜しくお願いします!」

 

ようやく一夏を認識した遥輝は、織斑一夏という人間をマジマジと観察する。遥輝にとって世界初の男性操縦者だという名前は知っていても顔は見たことが無かったからだ。というのもその情報を知ったのがラジオであり、映像媒体で見ていないからだ。いつでも見れたのに見なかったとも言うが、見なかった最たる理由が織斑一夏に対してさほど興味を持たなかった事だ。発表されたという点を見れば確かに世界初の男性操縦者として名が上がっている、だが結局束の研究所で動かした遥輝が正式な世界初なのだ。それ故の興味消失もあるのだが、既に遥輝の興味は別に移っていたからというのが1番の理由だろう。遥輝にとって現在の優先事項は束の夢を実現させる事、そして自身の記憶を探すこと。この2つの事柄以外では、遥輝の感性による面白い事が優先されるのだ。興味を失った相手の事を考えるような男ではないのだから。

 

「まだ正式に自己紹介していなかったな。篠宮遥輝だ、俺の事は好きに呼ぶと良い。織斑少年」

 

少年と言い放った事から察する事が出来るように彼等彼女等とは歳が離れている。というのも束による精密検査で20は明らかに超えているだろうと言う結論に至っていた。遥輝に記憶が無いため定かではないが15.6の青年でない事だけは確かだった、それ故に束が偽造して作った戸籍には21と記載されている。故に一夏達とは6歳差と言うことになる。だがそれを一夏が知っているかと言うことは全くの別問題であるのだが。その言い方に違和感を覚えた一夏は、その疑問を口に出す。

 

「あれ…えっと、年上だったんですか?」

 

「ん?ああ、そういえば言って無かったな。今年で21になる」

 

その事に一夏を含め教室中が驚いた。

同年代、もしくは年上だとしても1個か2個上だと思っていた男が、まさかの6個上だ。自分達よりも年上で、言動からかなり落ち着いた性格の男性。彼女達が色めき立つのも仕方なかった。

 

「まあさっきも言ったが、俺の事は好きに呼ぶと良い。年上だとか年下だとか、俺はあまり気にするタイプじゃあないからな」

 

流石に正式な場面では言葉遣いに気をつけるだろうが、クラスメイトとしてやっていくからにはいくら年上とはいえ他人行儀ではやっていけない。1年間を同じ空間で過ごすのだから、それ故に早々に打ち解けるようにという遥輝のちょっとしたお節介であった。まあ実際のところ年上だから敬語だのなんだのが、他ならぬ遥輝自身が苦手というのが1番の理由だが。

 

「すまない、少しいいだろうか」

 

唐突に第三者から声がかかり2人がそちらを向くと、肩下まである長いポニーテールの少女が居た。

 

「……箒?」

 

「…………」

 

篠ノ之箒。少々不機嫌そうな顔が、隠しきれずに滲み出ている。そんな顔のまま一夏をじっと見つめている。側に居る遥輝に目もくれず、ただ一夏を見つめるばかり。

 

「知り合いなんだろう、俺の事は気にする必要無い。行ってやれ」

 

「すいません、また後で来ますから!って待てよ箒!」

 

そそくさと去っていった箒の後を追いかけるようにして一夏も去っていった。

その後ろ姿を見つめながら、遥輝は思考を巡らせる。

 

「篠ノ之箒ねぇ、名前からしてあいつの妹か……妹なんて居たのか、あいつ」

 

束からは何も聞かされていない為、遥輝は箒の事を認識していなかった。知ろうとしなければ知り得ない情報ではあるが、彼は未知を楽しむ節がある。知らないなら知らないなりに楽しむことができる、既知はつまらないとはよく言ったものだ。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

思考を巡らせていた遥輝を現実へと引き戻す、新たな第三者の声。遥輝に話しかけてきたのは金髪の少女。透き通ったブルーの瞳が遥輝を射抜くように見ている、その眼には友好的なものは存在しなかった。

 

「訊いてますの?お返事は?」

 

「ああ、訊いているさ。何の用だ、お嬢さん?」

 

遥輝がそう問いかけると、目の前の少女の顔が歪んだ。遥輝の何が琴線に触れたのか遥輝にとっては分からない、だが何かに触れたことは確かだった。

 

「まあまあなんですの?そのお返事は。わたくしに話しかけられるだけでも光栄だというのに、それ相応の態度があるんではないかしら?」

 

まさしく今どきの風潮に染まりきった彼女には、遥輝の態度が気に入らなかったようだ。

 

「なにぶん自己紹介が終わってから教室に来たからな。まだ把握しきれていないんだ、すまんなお嬢さん」

 

「……お嬢さんですって?しかも挙句の果てにはわたくしを知らないと?イギリスの代表候補生にして入試首席のわたくし、セシリア・オルコットの名を本当に知らないと?」

 

流れるように自分の名前と肩書を、求めてもいないのにも関わらずに喋りだす。その様は自らは上位者であると誇示しているよう。まるで自らの名前など知られていて当然かのように、知らぬ者等居ないのだと言っているように。

 

「お嬢さん、あんたが何者なのかは今のでよーく分かった。だからもう1度聞こう、いったい何の用かな?お嬢さん」

 

「ふん、束博士の助手だと言うから見に来てみれば、大したことありませんのね。あなたのような人、たかが知れていますわね」

 

その言葉は遥輝だけでなく、遥輝を見出した束すらも侮辱する言葉。遥輝にとってそれは耐え難い事であり、今すぐにでも撤回を求めたいぐらいであった。だが遥輝がここに来た目的故にそれは出来ない。遥輝はもう既に束の企業に所属する操縦者となっているため、遥輝の言葉は束の、ひいてはラビットカンパニーの総意になってしまう。それは絶対に許容出来ない為、言葉は慎重に選ばなくてはならない。決して目の前の少女のように自分の思いをそのまま言ってはいけないのだ。

 

「……そうか、なら用は済んだだろう。早く戻ったらどうだ?お嬢さん」

 

「ふん、そうさせていただきますわ」

 

そう言い残し去っていったセシリアを、遥輝は冷めた眼で見送る。彼の眼には最早セシリアという個人は写っていなかった。最早セシリア・オルコット等という個人には欠片も興味を持っていない、有象無象と同じ女尊男卑の思想に呑まれたナニカだ。興味を失ってしまえば、遥輝にとってそれは覚えておく価値の無いモノに成り下がる。

 

「…これはまた、退屈しないで済みそうだな」

 

入学早々に何かが起きる予感を感じ、無意識的に口角が吊り上がる。その何かが面白い事だと願いつつ、その何かが起きる事を楽しみに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこの時間は実際に使用する装備の特性について………ああ、そうだ。その前にクラス代表者を決めねばならんな。」

 

3時間目の授業が始まり、千冬が教卓へと立って少し。思い出したかのように千冬が言った。

 

「来月頭に行われるクラス対抗戦、代表者はこれに出場する事になる。各クラスから1名の代表者がトーナメント形式で競い合うこれは、クラス毎の現時点での実力推移を測るために行う行事だが、優勝クラスには豪華景品が用意されるうえに代表者にも良いことがある。どうだ?我こそはという者は、自薦他薦は問わないぞ」

 

豪華景品との言葉でクラス中が色めき立つ。

豪華景品等と言われて、気乗りしない人間なんて居ないのだ。

 

「はいはーい!織斑君を推薦します!」

 

「あ、私も織斑君に1票!」

 

「私も!」

 

「じゃあ私は篠宮君に!」

 

「私も!」

 

続々と一夏と遥輝に票をと手を挙げる彼女達。世界でたった2人の男性操縦者なのだ、自薦するよりも彼等を推したほうがネームバリューとしては良いだろう。

 

「って俺!?」

 

自分の名前が上がっている事にようやく気が付いた一夏が、声を荒らげながら立ち上がる。だが立ち上がった一夏をジーッと見つめる彼女達に萎縮してしまい、やらないと言い切れなかった。

 

「じ、じゃあ俺は篠宮さんを推薦する!」

 

なにか言おうとした一夏が絞り出したのは、同じ男である遥輝を推薦すること。そうすることでせめて同率に持っていけたらと淡い期待を持っていたのだ。

 

「他薦で織斑と篠宮か。……篠宮、お前はやれるのか(戦えるのか)?」

 

遥輝の機体を知っている千冬としては、それを聞いておきたかった。何しろ遥輝の機体はそもそも戦闘用に作られていないうえ、競技用でもない。故に専用機や訓練機にあるような競技用スペック等とは無縁なのだ。

 

「んあ?俺は戦えと言うなら戦うぞ?いくらでもやりようはあるしな、それに面白そうだし」

 

一夏が声を荒らげる様をニヤニヤしながら聞いていた遥輝がそう答える。

 

「そうか。…他には居ないか?居なければ2人で決選投票をーー」

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

バンッと机を叩いて立ち上がり異を唱えたのは、先程遥輝に絡んでいたセシリアだ。

 

「そのような選出は認められません!大体男がクラス代表等いい恥晒しですわ!このわたくし、セシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえと言うのですか!?実力を考えればわたくしがクラス代表になるのは必然、それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困りますわ!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気等毛頭ありませんわ!!」

 

唐突に始まった演説。それを冷めた目で眺める遥輝だが、一夏は日本を貶すような内容に顔を顰めていく。

 

「良いですか!クラス代表者は実力トップがなるべきであり、現在このクラスのトップはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な島国で暮らさなくてはならない事自体耐え難い苦痛でーー」

 

「イギリスだって大したお国自慢無いだろ、世界一不味い料理で有名じゃねぇか」

 

「なっ…!?」

 

その言葉に一夏がキレて、言い返してしまう。いくら自国を貶されても、貶し返したら最早それは戦争である。

 

「あ、あなた!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「そっちが先に侮辱したんだろ!」

 

売り言葉に買い言葉でヒートアップしていく2人。その様子を冷ややかに眺める遥輝。例え自国を侮辱されたところで、遥輝には愛国心等欠片もない。故に先程の言葉には何も思う事はないのだ。だが日本人である一夏の事を極東の猿と言った事は看過できない。別に一夏と特段親しい訳でも、ましてや友人である訳でもない。それ故に遥輝にとっては今の一夏がどれだけ侮辱されようと関係ない。だが【日本人】として一夏を侮辱したなら、それは同じ日本人である束をも侮辱している事と同義だ。

 

「…馬鹿馬鹿しい」

 

だがそれでも、目の前で罵り合っている2人を見ると急速に冷めていく。抱いていた怒り等元から無かったかのように。

 

「決闘ですわ!」

 

顔を真っ赤にしてセシリアが一夏を指差しながらそう言う。いきなりの決闘宣言に困惑する一夏だが、言われっぱなしは癪なのかこれに同意する。

 

「おういいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

 

古来より決闘とは自らの意を押し通すため命を賭して戦う事を意味する。簡潔に言えば『あなたの意見は認められない、私の意見の方が正しい』

そう思っている両者が戦い、勝った方の意見が押し通ると言ったものだ。

彼等にとって決闘の意味等知らないだろうが、*1イギリス代表候補生(セシリア・オルコット)日本人(織斑一夏)に向けてその言葉を放ったのだ、学園内はどこの国にも属さないとはいえイギリスが日本に喧嘩を売った構図にしか見えないのだ。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い--いえ、奴隷にしますわよ?」

 

「安心しろよ、真剣勝負で手を抜く程腐っちゃいない」

 

「そう?まあ何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

自身で身分を言っているセシリアに、遥輝は薄ら笑いを浮かべる。まだ気が付かないのかと。

国家代表、代表候補。文字通り国の代表とその候補。であるならばその言葉は相当重い筈なのだ。だが先程から彼女は、その重いはずの言葉を乱用している。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら、早速お願いかしら?」

 

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいかなって」

 

一夏がそう言うとクラスから笑いがドッと起きる。現在の情勢から、男の立場はかなり弱いものとなっている。一部の人間は強気だが、それでもISがある以上その立場は女が上位者だ。そんな情勢の中一夏は真っ向からセシリアにハンデを聞いた、付けて貰うのでは無く自分が付けたほうが良いのかと。腕っ節が強いならまあ分からない話ではない、だがISが絡んでいる以上話は別である。何より一夏はISに関してはズブの素人だ、それに対してセシリアは国に選ばれた代表候補生。当然代表候補生に選ばれるに値する修練を積み、それに相応しい実力を持っている。素人が熟練者にハンデを付けようか等、笑い話にもなりはしないのだ。

 

「お、織斑君。それ、本気で言っているの?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

一部を除いた生徒が笑うなか、彼女達は一夏の言葉をやんわりとだが否定していく。

 

『クッ……。ちーちゃん、笑って良いか?』

 

『……気持ちは分かるがやめておけ、あとちーちゃん言うな』

 

一夏が笑われている最中、プライベートチャンネルで千冬と会話する遥輝。その声は震えており、今にも吹き出して爆笑しそうであった。それを見られないよう、笑いそうになった瞬間伏せっている遥輝の事は、一夏に注目が集まっている為気付かれていない。

 

「……じゃあハンデはいい」

 

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわね。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

先程までの激昂の表情は何処へやら、明らかに嘲笑を浮かべていた。

 

「プッふははははっもう無理だ、耐えられねぇ!」

 

笑いを堪えていた遥輝が遂に吹き出して爆笑してしまった。突然の事にクラス中の視線が遥輝へと集まるが、それでもお構い無しに笑い続ける。それを見た千冬は頭を抱えるが、特に声あげなかった。

 

『…私はやめておけと言った筈だが?』

 

『…そんな事言われても、無理だろ。こんなの、爆笑もののコントだわ』

 

熟練者が初心者に決闘を申し込むのも滑稽だが、代表候補が奴隷等と言い放った問題発言も遥輝を笑わせる要因になった。そして何より初心者の癖に熟練者に対して自分がハンデを付けようか等、笑ってくれと言っているようなものだ。

 

「ん?ああ、良いよ俺の事は気にせず。続けてどうぞ」

 

一頻り爆笑して一呼吸落ち着いた遥輝が周囲を見渡しながらそう言った。彼にしてみればセシリアと一夏のコントをもう少し見ていたいという願望があった。一夏を笑う一部生徒等、ヤジを飛ばすオーディエンス程度の認識しか持っていない。最早遥輝にとって、このクラスはコントを見るための座演会場なのだ。

 

「ど、どうして笑っていられるんだよ!日本をバカにされてるんだぞ!」

 

そう熱く語る一夏の視線の先には、その言葉を受けても何も表情を変えない遥輝がそこに居た。

 

「どうしても何も、バカにされたからっていちいち相手の事もバカにするのか?」

 

相手にバカにされた、だから同じようにバカにする。それは争いに発展する。そんな非生産的な行動に、果たして何の意味があるというのだろうか。そう問われると、一夏は何も言えなくなったのか悔しげに席についた。

そして遥輝は一夏から視線を外すと未だ固まるクラスメイトを眺めつつ、その視線をセシリアへと向ける。

 

「どうしたお嬢さん、もうボキャブラリーは尽きたのか?」

 

「ッ!?」

 

その瞳はセシリアを見てはいない。否見てはいるが、最早認識していない。先程の問答の時とは違う目に、セシリアは絶句する。だが何も言い返せない、遥輝に見つめられているその瞳から感じるナニカが自分の口を縛っている。そんな気がしていたからだ。

 

パンッ!!!!!

 

「はっ!」

 

千冬が手を打ち鳴らした音が教室中に響き、雰囲気が変わった事でセシリアはハッとなり遥輝を再度見る。だが既に遥輝は視線を反らしており、感じていたナニカはもう感じなかった。

 

「全く場をかき乱すだけかき乱すな、馬鹿者。…篠宮、織斑。それにオルコットの3名は準備をしておけ、お前達が言う決闘とやらをしてやろうではないか。来週月曜の放課後、第3アリーナで行う。話が進まないのでこれ以上の反論は許さん。では切り替えろ、授業を始める」

 

そう千冬が締め、一応は決闘という流れで丸く収まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
代表や代表候補の言葉はそのままその国の総意と捉えられる

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