~~♪(流れ始める荘厳なそれっぽいボス戦BGM)

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まおう が あらわれた!


部屋の扉を開けたら魔王戦が始まった。

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「部屋の扉がどこでもドアになっていた件について」

 

 扉を開けたらやたら雰囲気のある空間がこんにちわしていた。

 たかだか六畳間程度しかなかったはずのマイルームがその広さを何十倍にもして僕を迎えている。

 最近リモコン付きになった部屋のライトは豪奢なシャンデリア(それも数えられないほどだ)に姿を変え、怪しげな光で部屋を満たしていた。

 そして何より、その空間の最奥。

 まるでゲームの王様が座っていそうな巨大な椅子に、足組みをしながら座る人物。

 男か女かも分からないそいつが、明確に俺に対して言葉を放り投げていた。

 

「さぁ、構えるがよい」

 

 端が分からないくらい巨大な空間でありながらその声は、異常なまでに反響して俺の鼓膜を打つ。

 ここにいるの本当に"勇者"であればゴクリと息を呑んで剣かなんかを手に取っているかもしれない緊張感である。

 が、しかし。

 ここにいるのは勇者じゃなくて若干十七歳の高校生だった。

 ふ、ふぇぇ……なぁにあれぇ……とか言ってたら片手からジャンプがずり落ちた。

 お部屋で読もうとウキウキしながらコンビニで買ったやつである。

 雑誌らしいガシャン! という硬質な音が軽く響い──は?

 良く見たらジャンプは剣だった、剣になっていた、つまりはそういうことだ。

 しかも良く見るまでもなくヤバイ光っている。

 ソシャゲであったら間違いなくSSR! とかついてる並みのキラキラ具合。

 どこでこんなの手に入れたのかしら……と思うのと同時、魔王とやらが何かを言った。

 そう、何か。

 理解はできなかったが、しかし明確に何かを言った直後──爆炎は放たれた。

 煌々と揺らめく、紅蓮の炎。

 それはあまりにも綺麗で、美しくて、そして──何よりも恐ろしかった。

 反射的に、片腕を出す。

 視界を遮るように、眩しさから目をそらすように、前に出して──それごと全て、消え去った。

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「何これ強くてニューゲーム?」

 

 ただし強くなってはいない、みたいな。

 いやダメじゃねーか、誰か助けてくれない?

 そう思いながら後ろを見てみたがそこには誰もいなかった。

 どうやらソロで戦えってことらしい、手厳しすぎない?

 というか、家の廊下にいたはずだったのに後ろに広がっているのは禍々し気な廊下だった。

 何か緑色の肌をした生物の死骸とかがぶっ倒れている。

 え? もしかしてアレ、俺がやったのかしらん……

 あまりにも記憶に無さすぎるんですけど?

 いや、記憶に無いと言えばこの状況がもう記憶に無いってレベルじゃないんですけどね?

 これが今流行りの異世界転生ものなのかしら……

 こういうのって先に”謎の白い空間で神様とお話しする”とかいうイベントが挟まれるものだと思っていたのだがどうやらそうではないらしい。

 それにしたっていきなりクライマックスってのは不親切が過ぎないでしょうか……

 魔王戦とかどう考えてもラストバトルだろ、何考えてんだ?

 

「さぁ、構えるがよい」

 

 あー、ほらもう、ちょっと考え事しただけで直ぐこれだよ。

 もうちょっと時間くれない? そのセリフ出たらもう炎が出てくるだけって知ってるんだわ。ついでに抵抗の余地なく炭化しちゃうのも知ってるんだわ。

 えぇ、ちょっ、えぇ、どうしよう……

 こ、この剣とかでどうにかなったりしない? 何かこう……ビームとか出たりせんか?

 た、頼むぅー! とか言って柄をにぎにぎしてたら炎は飛んできた。

 ほんの数分前に見た炎と何一つも変わらない、極大で、恐ろしくも神々しい炎。

 それはまるで獣のようで、しかし龍のようでもあって、揺らめく火の帯はさながら牙のようだった。

 それが俺を捉える前に、せめてもの抵抗として剣を振るう。

 あの随分とキラキラしているやつだ、こんだけ光ってるんだから何かしらあるんだろう。

 ブォン、と情けなく振り切られたそれは、しかし、何も起こさず空を切った。

 あっるぇー?

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「もしかしてそれ毎回言う感じ?」

 

 大変そうだなぁ、と思うがどちらかと言えば圧倒的に俺の方が大変だった。

 あいつは二言三言呟くのに対して俺は毎回身体を焼かれるのである。

 いやもう焼かれるっていうか……なに? 焼き尽くされる? 焦がし尽くされる?

 控え目に言って原型も残らないくらいには炎に巻き込まれる。

 これ唯一褒められるところはあまりにも火力が高すぎるので痛みを一瞬しか感じないってことなんだよな。

 指先が燃えたと思ったらもう意識無いからね。

 指あっっっっっっつ!!! くらいで済む。軽いやけど感覚ですね。

 まぁ実状は全身炭化なんですけれどもね。

 それはそれとして詰みである、普通に手の打ちようがない……なくない?

 手持ちの武装が剣一本って流石に嘗めすぎだと思うんですけど……

 せめて同じ威力の魔法とかも教えろや、と言わざるを得ない。

 ……いや、もしかしたらこの身体の持ち主なら使えたのかもな、と少しだけ思う。

 や、流石に分かるって。

 だって俺の腕、こんな剣を振り回せるような筋肉ついてないし……

 もっと言っちゃえばこんないかにもファンタジーみたいな服を着たことは無い。

 何? この青いマント。

 中学の時に買った服思い出してちょっと嫌なんだけど……

 

「さぁ、構えるがよい」

 

 いやだから構えても仕方がねーんだってば。

 抵抗の余地、無いからね? 実質それ死刑宣告だから。

 マジで助けてくれ。今なら靴でもなんでも舐めちゃうぞ。

 剣を地に突き立て普通に土下座の態勢に入ったが当たり前のように炎は飛んできた。

 熱気で身体が煽られる。

 うわぁと声を上げながら地に刺した剣の柄を握ってこらえた瞬間、炎はすべてを呑み込んだ。

 

 

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「もうやめにしませんか?」

 

 残念ながら俺の声は反響とかしないので魔王に届くことは無い。

 ちぇっ、仕方ないか。

 多分土下座して靴ぺろしても殺されるだろうからな。

 何せ余裕そうな口ぶりの割には目つきがガチである。

 もう顔面に『お前を殺す』って書いてあるレベルだからね、殺意剥き出しにしすぎだろ。少しは隠せ。

 こちとら無関係な一般市民なんですけどぉ! と叫びたいところだがガワが別人なので言い訳ができない。

 外面勇者の内面一般人ってところかな、マジで最悪。

 もうやめてくれよぅ、一瞬だとしても痛いもんは痛いんだよぅ、と柄を握りなおす。

 何か奇跡とかそういう感じのアレが起こんないかなーと期待してのことである。

 さっきは何も怒らなかったが、無駄にピカピカしてるし、それっぽいのが起きても不思議じゃなくない? という気持ちに何だかんだかっこいいから触ってたいという欲も混ざっているのは秘密だ。

 グッと握ってそれっぽく構えてみせる。

 それを見て、初めて魔王はその表情に変化を見せた。

 とはいっても『ほほう?』みたいな感じだ、普通に馬鹿にされてる感じも否めない。

 

「では行こう、精々足掻け」

 

 ピクリと眉を上げる。

 セリフが変わった、これは多分構えろと言われる前に構えたからであろう。

 何かゲームみたいだなぁ、と思いながら……俺はやっぱり剣を振るった。

 ていうかそれしか出来ないしな、剣とか振る以外に何があんの? 投擲とか?

 恥ずかしながら、俺は体育でやったソフトボールで3連続フォアボールを成し遂げた男だ、当たる訳がねぇ。

 いやこれ本当に恥ずかしい話だな、なんだこのクソノーコンは?

 我ながら悲しくなってきた、のと同時に炎は放たれた。

 ごうっ、とまるで咆哮みたいな音をかき鳴らしながらそれは猛然とこちらに走り出す。

 それを、逃げもせずに立ち向かう。

 ていうか逃げるって選択肢が無いんだよな、俺の脚力でこの馬鹿でかい範囲を焼き尽くす炎から逃げるとかどう見ても無理だ。

 はぁ~~~この剣で炎、斬れたら良いのになぁ~~、漫画っぽくズバッといけたらなぁ~~。

 やれやれ、現実は甘くねーぜと首を振って──そして気付いた。

 今の俺なら、脚力超アップしてるんじゃね……?

 

 

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「もう四回くらい送られてるんだよなぁ……」

 

 痴呆症かな? まだお若く見えるのに……大変ですね。

 今直してあげましょう、と柄を握りこむ。

 じわりと汗が滲んできて滑らないよな……? と不安になって剣を見る。

 大体俺の足の長さくらいの刀身を持つそれは、当たり前ではあるが俺の意など介さずキラキラと発光していた。

 見ているだけで何だか浄化されちゃいそうなくらい真っ白な、ある種神々しくもある光。

 その眩い光で炎くらい消し飛ばしてくれればいいのに……

 

「さぁ、構えるがよい」

 

 いつも通りのセリフが吐き出されて、同時に魔王が指先で虚空に円を描く。

 指先から残る橙色の軌跡が、正しく魔法陣のような模様を描き──それを目視すると同時に地を蹴った。

 大理石のような床が小さく弾け、視界が急速に横に流れる。

 一瞬ついてこれなかった意識を強引に引っ掴んで身体に合わせ、直後に炎は顕現した。

 熱気が身体を煽る、それでも全力で地を踏み込み──しかし、間に合わない。

 この身体の誇るチートみたいな身体性能をもってしても、あの炎の攻撃範囲から逃れられない!

 

「いやいや、マジか」

 

 炎が身体を絡めとる。

 必死に駆ける俺の足先に指が引っかかる。

 茶色の靴が焦げ落ちるのを見て背筋がゾッとした。

 次は俺かと思うと焦りと恐れで動きが鈍り、炎は大口を開けて俺を招いた。

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者よ。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「そろそろ勘弁してくれない?」

 

 いや本当、マジで靴が焼かれたときめっちゃ焦ったからね?

 や、やばぁ……炭化したらあんな一瞬で原型無くなるんだぁ……とかいう感想抱いちゃったわ。

 そりゃ俺も痛みを感じない訳だよ、指先あっつ! で済むわけだよ。

 こ、こえー……

 普通にビビってきてしまった。

 握った剣がカタカタと震えている、いや、俺の腕が、全身が震えている。

 恐怖が俺の心を握って、離さない。

 

「もうこれ無理でしょ……」

 

 己の不安を、意図して口に出す。

 自分の声を聴く、自分であって、自分ではない声を聴く。

 そうすることでこれを夢だと思おうとする、がそれは失敗に終わった。

 だってそうだ。

 痛みも、匂いも、触感も、全部本物だ。偽物なんてどこにも無い。夢も幻もどこにも無い。

 整合性の無い現実が、いやなくらい広がっている。

 痛いもんは痛い、怖いもんは怖い、寂しもんは寂しい、辛いもんは辛い。

 そういうもんだろ。生憎俺はヒーローでもなきゃ悲劇のヒロインでもないし、主人公ですらない。

 普通に普通の高校生なのだ、ラノベならワンチャンあったかもな。

 でも残念ながら俺はそうじゃない、希望が一つも見当たらない中で頑張るには、ちょっと色々弱すぎる。

 

「さぁ、構えるがよい」

 

 魔王は冷たくそう言って、見慣れた陣を描く。

 それを見て、それでも何かしなきゃと一瞬思った。

 思っただけ、本当にそれだけだ。

 出来上がる炎を前に、結局何もできずにその場に立ち尽くす。

 剣を杖にするように、剣に寄り掛かるように、剣にすがりつくように。

 一筋の涙と共に、声を漏らした。

 

「誰か、助けてくれよ……」

 

 織り交ぜられた雑多な感情を押し込んで、それでも零れ落ちてきた言葉だった。

 当然応えてくれるような声は無い

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──はずだった。

 

「うぇえ? 何?」

 

 それは無機質的な声だった。

 まるで元いた世界にある機械音声に近い声が、握った剣から発せられている。

 

『名前を登録してください』

「……大和(やまと)日上大和(ひのうえやまと)だ」

『マスター名登録完了……セットアップ開始……終了。聖剣を再起動します』

 

 剣──聖剣が、ガチャリと音を鳴らす。

 刀身が真ん中から割れて、発生させていた光がその輝きを極端に増す──否。

 最初から見えていた光が、そもそも漏れ出ていた光だったのだ。

 めっちゃ眩しい、目が痛い。

 くぅっ……! とか言ってたら魔王が何かを言った。

 そうして現れたるわ極大の炎。

 光を喰らうような、闇を呑み込むような爆炎が空間を埋め尽くし──

 

『起動完了──さて、やってやろうか、マイマスター。()()()()!』

 

 ──極光が全てを薙ぎ払う。

 言われるがままに振り抜かれた聖剣から放たれた白光が闇を駆け、炎を呑み下して空間を支配し返し魔王へ牙を剥き──魔王が不敵に笑う。

 俺の身長の優に倍はあるであろう魔王が立ち上がり、何ともなしに片手を振るう。

 それだけで莫大な光は振り払われた。

 

「や、やべー、マジで?」

 

 今のめちゃかっこいい攻撃、そんな埃みたいな火力だったのかしら……と思うが炎を消し飛ばした時点そんなことはないのが分かる。

 それが意味するのはつまり、あの魔王は滅茶苦茶強いということだ。

 いや最初からわかってるわそんなん。

 ホイホイ人を炭にできるようなやつが弱いわけあるか。

 ていうか今はそんなことより

 

『ふー、やっと起こしてくれたなマイマスター。冷や冷やしたぜ』

 

 こっちの方が、問題であろう。

 何せこの聖剣、喋っているのだ。

 しかもめっちゃ女性的なボイス、あまりの可憐さにキュンッてしちゃうまである。嘘だ、流石にそこまで脳内花畑な少年ではない。

 

「こっちは冷や冷やしたってレベルじゃないからね? マジで死の覚悟したから」

『お前、面白いこと言うなぁ。()()()()()()()()()()()()()

「……は?」

『なーに呆けてやがるんだ。俺も同じように、この戦いが六回目だってことだ』

「マジ……?」

『嘘吐く理由がねーんだよ、ほらちゃっちゃと俺を構えな! 来るぞ!』

 

 ダン! という床が弾けた音が鼓膜をぶったたく。

 それと同時に身体を斜めに半歩だけ引いた……否、反射で取れた行動がそれだけだった。

 鼻先を、掌底が掠めて過ぎていく。

 魔王の容姿は抜群に整っていて、散って弾ける床の破片を交えながら視線が交差した。

 真っ赤な瞳が、俺を射抜く。

 

「私を前に無駄話とは、随分と余裕がありそうだ」

「──っ、そう見えるならアンタの目ん玉は随分と節穴だなぁ!」

 

 次は一歩、跳ねるように下がりながら身体をグルリと回す。

 意図した行動でありながら、しかし反射的な行動でもあった。

 害為す者を害為される前に消す、本能的な、獣的な能動的行為。

 回し抜いた極光の剣が魔王へと迫り、激しい閃光と共に白黒の火花が飛び散った。

 

「流石の反応だな」

 

 いつの間にやら抜かれた黒のレイピアが、聖剣を受け止めている。

 ギチギチとつばぜりあって聖剣が叫んだ。

 

『下がれ!』

 

 判断は一瞬、行動を起こすのにもう一瞬。

 しかしそれが致命的だった、そのもう一瞬の間に何かが足首が何かに掴まれて動けない。

 目を向ければそこには誰かの手──魔王の影の手が、直接足を掴んでいる!

 

「っんだよ、これ!」

「影魔法は初めてか?」

 

 レイピアと聖剣が弾き合う。

 魔王は下がり、俺は動けず、影は大きく伸びて同時に足首から一気にせりあがってきた。

 

『チッ、消えな!』

 

 聖剣が、再起動した時並みの極光を迸らせる。

 闇を貫き、影を一つ残さず消し飛ばすように白光が全てを包み上げた。

 

「ぐぬぬ……あっ、身体が!」

『動くだろ? 影魔法ってのはこうやって消しちまうのが一番手っ取り早いんだ。前マスター……その身体の持ち主もこうしてた』

「前のマスター……」

『ま、その話はこれが終わってからにさせてくれや。それまでは悪いが付き合ってくれ』

「えぇ……できれば帰りたいんだけど」

『薄々分かってるかもしれねぇがアレを倒さねぇと戻れねぇからな』

「…………」

『本当に悪い……だが──』

「や、良い。オーケーだ、覚悟は決めた、今決まった。なるべくもう折れねぇように頑張る」

『……サンキュ』

 

 光は払われる、払われた中央から姿を覗かせるのは当然魔王。

 彼はこちらに片手を向けていて、直後に上へと跳ねた。

 足先をかすめるように、何かが──暗闇が通り抜ける。

 

『良い反応──だけどダメだ! くそっ、俺の名を呼べ!』

「はぁ? 何それ? つーか何で!?」

『あぁぁぁ! まだ馴染んでねぇか! ちぃっ! 俺を前に出せ! 盾にしろ!』

 

 言われるがままに前に出す。盾にするように片手で柄を握り、片手を刀身に当てる。

 そうして──ギィン! という金属音と衝撃が全身を貫いた。

 反動で、剣が逸れる。

 

『バッ──!』

 

 直後、光すら吸い込むような真黒の矢が胸へと突き立った。

 ドスリ、と音が聞こえる。

 それを抜こうと握った瞬間、その矢はさながら雨の如く、次々と振ってきた。

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「あれ強すぎない?」

 

 無理でしょ、マジで雨だったよ。

 でっかい盾とかないと受けきれないでしょ……え? 全部斬りおとす? 馬鹿か?

 

「つーか聖剣、どうやって起動すんだろ」

 

 さっきは何かいきなり起動したんだよな、起動条件が意味不明。

 また泣きながら助けを請えば良いのだろうか。

 よっしゃ任せろ! 土下座してぺろぺろしてやるわ!

 

『その必要はねぇ』

「うぉっ、起きてんのかよ」

『一度登録したからな、他のモンならまだしも俺なら問題ねぇ』

「めっちゃ便利じゃん、助かる」

『だろ、俺もそう思う』

「その内通話とかソシャゲとかできるようになりそうな万能具合」

『通話ならもうできんぞ』

 

 マジで?

 もう完全にスマホじゃんそれは……

 グッと床を踏み込み加速する、同時に獄炎は放たれた。

 

「よっしゃ行け! スマホカリバー!」

『……もしかしてそれ俺のことか!?』

 

 極光が炎を呑み下し、払われる。

 それでも臆することなく踏み込んだ。

 踏みしめる度に、身体が加速する。

 さっきは距離を詰められた、次はこっちの番だ!

 

「ぶった斬る!」

「良い意気だ」

 

 全力で振り下ろした聖剣が、真黒のレイピアに防がれる。

 ガァン! という音と共に火花が激しく散った。

 

「聖剣!」

『あいよ!』

 

 白光は再び放たれる。

 先手で影魔法を封じ、なおかつ魔王の目くらまし。

 剣を弾き合ってスライドするように斜め前へと踏み込み聖剣を大きく振りきった。

 風を切り、鋭く放つ斬撃。

 それはしかし、先ほどのように防がれた。

 

「この程度か?」

「嘗めんな」

 

 全体重を乗せて力づくで剣を押し込みきってそのまま更に距離を詰める。

 片手で魔王の手首を掴み固定、そのままグッと引き絞って突きを放つが頬を掠めるだけで通り抜けた。

 赤い視線と俺の視線が交錯する。

 やべぇ。

 

「そう急くな」

「っ!」

 

 手首を掴まれて固定させられる。

 さっきと真逆の状態、だがそのやばさは先ほどの比ではない。

 まずい、死ぬ。

 

『らぁっ!』

 

 瞬間、極光が走った。

 聖剣を起点に白光が駆け抜け空を焼く、が、しかし。

 それでも魔王は笑みを浮かべた。

 手首を掴む力は緩むことなく、抗いがたい力で引き寄せられて、いとも容易く胸を何かが貫いた。

 ゴボリと血が吐き捨てられる、それでも抵抗しようとすればもう何度か衝撃が刺さる。

 

「期待外れ、だな」

 

 呆れたような声が鼓膜を叩く。

 ──それでも。

 それでも聖剣は絶えず光を放つ、剣を握る手はまだ落ちない。

 俺はまだ、戦える!

 

「だから、嘗めんなっつってんだろ!」

 

 片手だけで振り下ろされた聖剣が、魔王の肌を浅く切り裂いた。

 瞬間、爆音。

 

「……あ?」

 

 視界が、見慣れた赤に染まった。

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「これから殺し合うっていうのにやたらハイテンションだよな」

 

 ていうか何? あいつノーモーションで炎とか出せちゃうわけ?

 最後のやられ方、あまりにも無残すぎるだろ。

 最初と違って火力が半端だから滅茶苦茶自分が焼けてく感じあって最悪すぎた。

 焼くなら一瞬で焼き尽くしてくれ。

 

「ていうか無理くない? アイツ強すぎるんですけど……」

『なんせ魔王だからな、この世界じゃ最強クラスだ、まぁお前もだが』

「俺で最強クラスとか、この世界の住民大丈夫?」

『正確にはその身体は最強クラス、だな。こっちの世界でも魔法なしであんな動ける奴はそういねーよ』

 

 まぁ魔法ありきならあれくらいの動きする奴はほいほいいるんだが、と付け足す聖剣。

 それを聞いて思う。

 

「俺って魔法使えたりしない?」

『無理』

「即答ー!?」

『あー、魔法ってのは結構めんどくせぇメカニズムなんだよ』

 

 聖剣曰く、魔法というのは魔力をもってして行う力のことを指すらしい。

 まぁここまでは分かる、そのままだしな。

 だが問題はここからだった。

 

『魔力ってのは肉体じゃなくて精神の方に紐づけされてんだよ、つまり生まれながらに魔法が使えるか否かってのが定められてるって訳』

「ふむふむ」

『で、前マスターはそりゃもうバリバリに使えたが、今その身体に入ってるのは魔力ゼロのゴミカス精神、要するに魔法は使えねぇ』

「なるほどね、泣いて良いか?」

 

 戦いが終わったらな、と聖剣が吐き捨てると同時に爆炎は放たれた。

 床を強く踏みしめ、柄を両手で握り、勢いよく振りかぶる。

 

「頼む!」

『任せな!』

 

 先程の焼き増しのように真っ白な閃光は炎をかきけした。

 それを見ながら、やはり床を蹴り飛ばす。

 魔法が使えないならもう接近戦しかないのだ、仕方あるまい。

 どこまでも愚直に、小細工なしで叩きのめす、これしかない。

 

『いや待て待て待て!』

「あん?」

 

 ギュギィ! と急ブレーキをかける。

 軽い火花と煙が舞わせながら止まれば聖剣は口を開いた。

 

『ただ接近戦しても勝てねぇことはもう分かっただろうが!』

「つってもお前を振るしか俺できんし……」

『フフフ、そう思うだろ? 実はそんなことはねーんだよなぁ』

「何かあるなら勿体ぶるのやめない? マジで命の危機だから」

 

 それもそうだな、と聖剣が軽く言う。

 いや軽すぎない? 人の命をなんだと思ってるんですかねぇ、こいつは……

 さっきとかめっちゃ痛かったからね? お前も一回折ってやろうか……

 

『悪ぃ悪ぃ、でも勿体ぶってた訳じゃねぇんだ。今さっき、ようやく馴染んだんだよ』

「……何の話?」

『当然、俺とお前の話だ……まぁ良い、俺の名を呼びな』

「スマホカリバー!」

『そうじゃねぇ!!!』

 

 魔王の姿がブレるのと同時に聖剣を力強く振るう。

 光の軌跡を宙に刻みながら漆黒の細剣とぶつかり合って、鋭く弾き合った。

 

「じゃあ何だよ……聖剣! って叫べば良いのか?」

『そうでもねぇ……良いか、よく聞け。俺には複数の名前がある』

「ほう」

『でもって名前に応じて俺は姿を変えられる』

「ほうほう」

『だが俺から教えることはできねぇ、お前が勝手に読み取って勝手に呼んでくれ』

「よっしゃ任せろ! いけ田中!」

『誰だそいつは!』

 

 いやだって分からんし……サラッと言ってるけど難易度ルナティックってレベルじゃないからね?

 無茶ぶりにもほどがあるだろ、こいつ馬鹿か?

 

『説明が難しいんだけどよ、こう……()()()()()()んだよ、俺の名前ってのは』

「説明にしては曖昧過ぎない……?」

 

 金属音が激しく高鳴りその度に白黒の火花が俺と、魔王の間で飛び散っていく。

 一撃、ぶつかり合うたびに大げさに距離をとる。

 それを一瞬で詰めてくる魔王から逃げ回りながら俺は聖剣の話を聞いていた。

 

『良いか、ひたすら願え、想え。強大な敵を打ち破る何かを、立ちはだかる巨大な悪意を打倒する何かを、心底から求めろ』

「えぇ……?」

 

 そんなんお前、常に願ってるっつーの。

 出来ればこいつより早くなりたいし、こいつより強くなりたい。

 が、きっとそういうことではないのだろう。

 そんなフワフワしたことではなく、明確に壁をぶち壊せる何か。

 確かな指向性と目的を持たせた強力な力。

 

「ふー……」

 

 高ぶる気持ちを少しだけ抑え込む。

 ギリギリ捉えきれる速度かつ、ギリギリ負ける力で放たれる細剣が身体の傷を徐々に増やしていく。

 火花のほかに、真っ赤な血が跳ねるようになっていき、魔王の赤い双眸が俺をねめつけていた。

 まるで「こんな程度なのか?」と問いかけてきているように感じなくもない。

 そんなこと言われる筋合いはないんですけどぉ! めっちゃ頑張ってるんですけどぉ!

 ちくしょう……何か腹立ってきたな……

 

「力だよ……そう、力。力が欲しい……」

 

 あわよくばこいつをぶった斬れるような力が欲しい!

 圧倒的で強力な、鍔迫り合いなんて知らねーぜ、みたいな巨大なパワーが欲しい!

 こいつのこの眼を、驚愕に染められるような力が──!

 

()()()()()()()()()

「ん?」

 

 何か最初に起動した時と同様の声が聖剣から響く。

 どうした? と問いかけようとして、それより先に聖剣が言う。

 

『名前を登録してください』

「えっ」

 

 また俺の名前を言わなきゃなんないの? と一瞬だけ思って、いや違うと思いなおす。

 これはアレだ、聖剣には複数名前があるんじゃない。

 前のマスターが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でもここで残念なお知らせなんだけど俺、ネーミングセンス無いんだよな。

 ゲームやってても主人公の名前とか悩みすぎてネットにある"キャラクター名前診断"とか使っちゃうレベル。

 ど、どうしよぅ……お前、検索機能とか付いてない? と聖剣に聞こうとしたがやめた。

 というか、必要がなくなったとでも言うべきだろうか。

 なんでか知らないが頭の中に呼ぶべき名前が過っている。

 これが聖剣の言っていた『何か知らんが分かる』ってことなのかもしれない。

 何かちょっとこえーけど今はありがたさしかねぇ。

 俺は名前決めに半日はかけられる男だからな……

 態々開けた距離を一瞬で食いつぶしにくる魔王を睨みつけて床を蹴り叩く。

 映る景色が急速に流れて、魔王が細剣を鋭く引いた。

 同時、肩に担ぐように聖剣を両手で握って叫びを上げた。

 

「ぶった斬れ! ()()()()()()!」

『承認、登録。モード:()()()()、フォルム:()()()──よっしゃぁ! いくぜ!』

 

 光は弾け、輝きを放つ。

 波打つように、莫大な光が爆発してから刀身を中心に渦巻いて──その姿を現した。

 俺より倍はあるであろう魔王の体躯の、その更に二倍。

 明らかに俺の身の丈に合っていないその聖剣──聖大剣が唸りを上げて振り下ろされる。

 不思議と重みに変化は感じなかった、ただフォルムが変わる前の重みだけが手の内にある。

 

「なっ──」

 

 魔王の驚愕の声が薄く鼓膜に刺さり剣はぶつかり合った。

 拮抗はほんの一瞬だった、火花は散らず金属音も高鳴らない。

 黒の細剣を、断ち切るのではなく押しつぶす。

 異常な膂力を持つ魔王を、その上で圧倒的な力で叩きのめす。

 激しい轟音と衝撃、巻き上がった煙をそのままに更に踏み込めば一瞬、身体の自由が消えた。

 

「グランパリオ!」

『分かってる!』

 

 返答と共に極光が視界を支配して、身体の自由が戻る。

 止まっていたのはほんの少しの間、空けられた距離はまだ食い潰せる!

 

「と、ど、けぇぇぇぇ!」

 

 床を蹴る、蹴り壊す。それくらいの力強さで踏み抜き駆ける。

 それだけで魔王へと肉薄できた。

 柄を握りなおす、全力で握って振りかぶり──薙ぎ払う。

 光を巻き散らして、爆風を巻き起こしながら剣は宙を切り──

 

「甘いな」

 

 恐ろしいくらいの衝撃と共に、受け止められた。

 影よりもずっと濃い暗闇を纏った片手が、事も無げに刃を止めている。

 細められた魔王の瞳が面白そうに俺を見た。

 

「驚きはしたが──物足りない」

「は?」

『は?』

 

「『ぶっ殺す!』」

 

 何度も言わせんじゃねぇ、嘗めんな! ぜってぇそのクール顔歪ませてやる!

 聖大剣が光を放つ。受け止められている側とは逆側の刃から、まるでジェットみたいに極光を噴射する。

 一度止まった、止められた剣が、動き出す。

 

『モード:()()()()

「死ね」

 

 全身が全能感に包まれる。刀身がその厚みを、切れ味を増して加速する。極光が何もかもを真っ白に染め上げる。

 

「くっ────ヅアアァァァァァ!」

 

 怒声にも近い叫びを魔王があげた。

 だが遅い、もう遅い。

 即席で出せるような力じゃ止まらない、もう止められない。

 0になっていた力が、早さが一瞬で100まで到達して剣が駆け抜けた。

 恐ろしく硬い何かを、肉を、骨を断ち切る感触が直に伝わってきて真っ赤な血が飛び跳ねる。

 魔王つっても血は人とおんなじ色なんだな、という感想と共に回転。

 勢いをそのままに加速して振り抜けば、金属同士がぶつかり合った轟音が響き渡った。

 

「ぜっ、はぁ……驚いた。だが次は無い」

「満身創痍で言うセリフじゃあねーな」

 

 聖大剣は突如出来上がった分厚い、真っ黒な盾に阻まれていた。

 これもまた魔法なのだろう、最初に止められた時に出てたアレの強化版といったところかな。べらぼうに硬い。

 ──が、関係ない。

 聖大剣の出力は()()()()()

 

「止められるもんなら──」

『──止めてみなぁ!』

 

 ぶわりと光は肥大する、止まった剣はまたしても動き出す。

 壁のように分厚くでかい盾でさえも、斬り割き飛ばす。

 

「では止めてみせようか」

 

 瞬間、剣は止まった。

 否、違う、そうじゃない!

 俺の身体が止まったのである、下半身が一瞬にして()()()()()()()

 お、お前もう炎が使えるのに氷まで使えちゃうの……?

 ズルすぎない!? チートオリ主かよ!

 

「さて、どうする?」

 

 言葉と同時、魔王は片手に携えた盾を融かして溜め込んだ。

 やばそう──だけど!

 

「へへっ……グランパリオ!」

『おうっ!』

 

 聖大剣が莫大すぎるくらいの光を放つ。

 砕くように、染めるように真白の世界が作り上げられて──しかし氷は砕けない、融かされない

 いや、ていうか光が一瞬で消え去った。

 

「へ?」

『すまんガス欠』

「うそぉ!?」

 

 直後、闇は放たれた。

 夜よりくらいその黒は、星々を塗りつぶすかの如き偉大さをもって何もかもを消し去った。

 

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「ガス欠って何? お前車かなんかなの???」

 

 ちょっとー困るよ君ぃ、そういうことは早く言ってくれないとぉ……

 全然無限に使えるのかと思ってたわふざっけんな、滅茶苦茶恥ずかしい死に方しちゃっただろうが。

 なに? あの死にざま。

 思い返すだけで泣きたくなってきちゃうレベルなんだけど……

 完全に黒歴史決定だよ。

 

『いやすまん、俺も調子に乗りすぎて忘れてたわ』

「良いけどさぁ……マジ頼む、お前に全てがかかってるんだからね?」

『分かってる、つーわけでさっきの説明なんだが』

「おう」

 

 そう言って、迫る爆炎を光で打ち払う。

 もうこの程度じゃ俺は仕留められねーぜ。

 

『先に言っておくが俺の持つ力は無限に近い有限だ、まずなくなる事はねぇ』

「うん」

『だが一定量以上放出した後はクールタイムが必要になってくる、じゃねぇと俺自身が保たねぇ。さっきのはそういうことだ』

「情報の開示が遅いわばか!」

 

 考えなしに使わせまくった俺も悪いけどさぁ……

 間違いなくそれは先に言っておくべきことなんだよなぁ……!

 報連相出来てないってレベルじゃねーぞ。

 

『言うタイミング見つかんなくてな……それにテン上げしてたからよ』

「……そりゃ仕方ねぇわ、許す」

 

 共感と共に許した。俺もテン上げだったからね、仕方ない。

 テンションで命を左右するこのコンビ、相性最高では?

 

「じゃあちょっと控えめに行くわ、ていうか多分結構過剰に使ってた……よな?」

『まぁな』

 

 まぁな、じゃねーわばか! と叫びながら床を蹴る。

 光は最小限に、けれども確実に刀身に纏わせ魔王の動きに合わせて動く。

 

「ハァッ!」

「──!」

 

 弾き出された漆黒の突きが恐ろしい速さで増え──それを無心で弾く。

 まだ見える範囲だった、まだ反応できる速度だった。

 黒と白の火花が激しく飛び散り戦場を美しく彩っていく。

 が、拮抗を維持できない。

 ていうか俺の地力が弱すぎる、段々集中量は無くなってきていて、それに伴うように息は切れ始めていた。

 これ俺の身体の使い方が悪いんだろうな、ということがはっきりわかる。

 まだ俺自身が剣を振るうってことに慣れていない。けれどもそれはもう、経験ってやつでしか賄うことのできないものだ。

 

「はぁ……」

 

 ため息を一つ。

 それから力強く柄を握りなおす。

 じゃあもう仕方がない、俺には訓練してる時間は無いのだから──だから。

 魔王(こいつ)から全部盗もう、幸いこいつも剣を使う。

 激しく鍔迫り合って弾き合う、その一挙手一投足を見逃さない。

 俺へ向かって繰り出す高速の剣技を間近で目に焼き付けながら受け流す。

 当然ながらそれら全部は流せない、というかそんなことをしているのだから傷は当然増えていく。

 お陰で頭にできた傷から血が止まらねぇ。

 ──が、関係ない。

 今勝つ必要はどこにも無い、()()()()()()()

 これはその為の布石だ。

 

『お、おいおい大丈夫か?』

「全然大丈夫ではないが?」

『ないが? じゃねーわ!』

 

 いやだって普通に痛いし……今めっちゃ真顔で言ってるけど気抜いたら多分泣くレベルで痛いからね?

 飛び散ってる血がそれを物語っている、だけどそれも仕方のないことなのだ。

 自分でも不思議なくらい、そう思う。

 

「今回は勉強に努める、ぶっ殺すのはその後にした」

『お前──』

「我ながら頭悪いってのは分かってるから何も言わないで……」

『────ッ、すまん』

「何で謝る!?」

 

 何かこっちがちょっと申し訳なくなるやつじゃん!

 こっちこそ何度もループしちゃうような無能でごめんね!?

 そんなことを思いながら空けられた距離を力技で踏みつぶす。

 絶対に中距離以降までもっていかせない、距離は常に一定に、極至近距離を保つ。

 この距離で、全部引き出させてやる。

 

「グランパリオ──バースト!」

『モード:バースト、フォルム:聖大剣、起動──おらぁぁ!』

 

 振り抜くと同時に剣を巨大化させて、それを受け流される。

 激しい火花と共に聖大剣が地面に埋まり、即座に逆噴射させた。

 しかしそれは、やはり受け流された。

 膂力もそうだけど反応速度が異常だろこれ! マジで不意を突かないと通りゃしねぇ……

 宙へと浮いた大剣を側面から叩かれ足がふらついて、同時に切っ先が走る。

 くそっ。

 

「グランパリオ!」

 

 直後、白光は爆発を起こした。

 腕の角度を無視して剣が光り、強引に身体を持っていく。

 バキン、という不快な音と痛みが神経を駆け抜けた。

 

「いっっ──」

 

 てぇぇぇ!

 あー、もうこれ絶対折れた、くそほど痛い。

 あぁ畜生、ド畜生。

 だけど、これで良い、これでまだ戦える。

 真黒の細剣は首を掠めて通り抜けて、赤の瞳が俺を見る。

 曇らない戦意が、俺をぶち抜いていた。

 ──上等。

 

「ぶっころ──」

 

 じゃない! あぶねぇ!

 目標がぶっ飛びそうになってしまった。やだ……俺の煽り耐性、低すぎ?

 グランパリオで雑にガードしてから聖剣へと戻す。

 破壊力はピカイチでも小回りが全然効かない、これは一撃必殺、決めたいところにぶち込む用だな。

 だから今はこれに頼らない、ただ純粋に剣技だけを抜き取る。

 剣と言えども種類が別だがまぁ、構いやしない。

 覚えられれば後はそこから発展させるだけだ。

 

「ゼアァ!」

 

 さっき見て、学んだ通りに突きを放つ。

 最初に頭、そこから肩、胸を中心に高速の十五連撃。

 万全の状態ならもう少し増やせそうだな、と思ってれば全部完璧に逸らされた。

 

「猿真似は感心しないな」

「すぐ超えてくから安心してくれや」

 

 切っ先同士がぶつかり合って金属音が広間に響く。

 だが、そこから一歩も離れはしない、踏みとどまって更に踏み込む。

 もう何度も見た光景だ。

 お前はこうして弾き合った時、必ず半歩斜めに下がってから──

 

「──側頭部に引っかけるような突きを放つ」

 

 ついでに何か細剣から黒いのが出る。魔法、便利すぎないか……?

 今まで躱し損ねていたそれをほんの数ミリ空けた躱して同じように突きを放つ。

 

『ぶっとべぇ!』

 

 同時、聖剣は光を吐き出した。

 さながらビームのように、真白の濁流が魔王を呑み込んでいく。

 今思ったけどこれも魔法みたいなもんだよな……

 聖剣、便利すぎる。

 

「はぁっ、はぁっ……きっつ」

 

 何か言おうと思ったけど思いのほか声が出なかった。

 自分で思っている以上に疲労している……いやこれ多分血を流しすぎたってのもあるな。

 視界が妙にぼやけて歪んでる、俺、今ちゃんと立ててるよな?

 

『しっかりしな、マイマスター』

「わーってる、ちょい待て」

 

 今呼吸整えてっから。

 二度、三度と深呼吸を繰り返してもう一度聖剣を構える。

 光が晴れた先では魔王が、やはり無傷でそこにいた。

 それを黙視すると同時に急加速。

 音を置いていくかの如き勢いで猛進、斬撃。

 耳障りなくらい鋭く、連続で激突音が響き続けてその度に全身が押し込まれていく。

 

「あぁ、くそっ、この馬鹿力野郎……!」

「あまりにもひ弱だな」

 

 こいつ口を開けば煽り言葉しか出てこないんですけど? 何なのその精神攻撃?

 頬が軽くヒクつき腕に力がこもる、が押し返せない。

 多分まともにカチ合わせたらいけないタイプの相手なんだよな……それはもう、とっくに分かってるのだが残念ながら受け流す技術が全然身についていない。

 こいつ、息をするように二十連撃としてくるから絶対どっかで逸らし損ねるんだよな、化け物過ぎないか?

 ちょっと気合入れてると思ったら当たり前みたいに三ケタ台に突入するのはもう流石魔王って感じ。

 身体に穴空けられ過ぎてもうスカスカなってきたんですけど……

 もう足元が覚束ない、でもまだ意識はある、痛みが無理矢理意識を引き留めている。

 てことはまだ戦えるってことだ、まだ吸収できるってことだ。

 

「ぁぁぁああ!」

 

 叫びと共に一閃、二閃、三閃。

 もう荷物でしかない左腕をそのままに、右手だけで聖剣を振り抜いた。

 届けるには足りない速さは聖剣の光力でブーストして誤魔化していく。

 側面を叩かれて弾かれる、受け止めると見せかけて受け流される、恐れることなく紙一重で躱される、視線だけで誘導される。

 その全てを焼き付けて、刻み込んで、頭に閉じ込めて、身体に覚えさせて──そして。

 暗闇の閃光はついに額を貫いた。

 

 

 

「ククク……やはり来たか勇者。よかろう、この魔王手ずからその命を冥府に送ってくれる!」

「よっし、オーケー、もう完璧」

 

 これで勝つ。

 そう呟くのと同時に床を蹴り抜いた。

 加速、加速、加速。

 魔王の言葉に耳を傾けることなく全力で駆け抜け──斬り払う。

 

「随分と血気盛んだな」

「散々煽ったくせにその言い草は卑怯じゃね?」

 

 や、煽ってきたのは今のアンタじゃねーんだけどよ。

 それはそれとしてその顔、見ただけでも腹立つからさっさと死んでくれ。

 紙一重で避けられたのを確認しながら更に一歩、空けられそうになる間合いを踏み殺す。

 横なぎに払った剣をそのまま引いて、穿ち抜く。

 同時、視界に入るのは同じ構えをした魔王。

 ほほーん、ほうほう、良いね。

 

「勝負だ」

 

 瞬間、白と黒の軌跡が宙を彩った。

 瞬き一回分の間に十を超える連撃が互いを撃ち落とし合ってそれでもまだ放つ。

 こりゃもう耐久勝負だ、どっちが先に折れるかな。

 紅の双眸と視線を交わしながら絶え間なく剣は閃き合う。

 

「っ──」

「聖剣!」

『あぁ!』

 

 叫ぶと同時、影は蠢き光はそれをかき消した。

 おいおい魔法なんかに逃げんじゃねーよ、物理で殴り合おうぜ……ていうか魔法使われたら勝ち目がないからやめて?

 ね? マジで燃えたり凍ったりさせられた時の絶望感ヤバいから。

 軽く語彙が飛ぶくらいにはヤバイ、特に氷な。

 今のところアレを打破した記憶が無いから完璧トラウマになっている。

 あの胸まで凍る感覚、マジで濃厚な"死"って感じで嫌すぎるんだよな。

 氷ってだけにすんげーヒンヤリするし……

 だから、さ。

 もっと泥臭く行こう。

 

「あああぁぁぁぁ!」

 

 全身のアクセルを限界まで踏み込んで加速する。

 頭の先から足の指先まで集中を張り巡らせて、無駄を限界まで削ぎ落す。

 コンマ一秒単位で動きを洗練させていく、模倣の域に留まることなく次の段階へと力尽くで駆け上がる。

 突きから弾きへ、弾きから受け流しへ、受け流しから斬り払いへ、斬り払いから振り下ろしへ。

 動きと動きの繋がりを極限まで最適化する。込める力を、踏み込む速さを、打ち込むタイミングを完璧にコントロールして、その上で相手の動きを予見する。

 何もかもを、洗練させ続ける。

 

「くっ……」

「待てよ」

 

 だから逃げんなって。寂しいだろうがよ。

 叩き割るように床を踏みつぶす、間合いを決して広げさせはしない。

 空けられるのと同時に潰して更にスピードを上げる。上げ続ける。

 この肉体ならまだ速くなるはずだ、まだ強くなるはずだ。

 感覚的に、もしくは本能的にそれが分かる、理解できる。

 スペックは基より、この肉体は極限まで鍛え上げられているものなのだ。

 それこそ聖剣が最強クラス、と断言するほどに。

 であれば少なくとも、同クラスである魔王(こいつ)相手に劣る訳がない。

 だからまだだ、まだ上げられる。

 何もかも、まだ飛躍の余地がある。全部俺次第だ、俺の使い方次第。

 視界を丸々埋め尽くすような膨大すぎる連撃を、必要最低限だけ弾いてするりと抜ける。

 躱しきれずに肌を掠めて極少量の血液が視界の端を飛んでいった。

 だが、それだけだ。もうこの程度では障害にすらなりえない。

 つーか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな程度ならもう、放たれる前に軌道が分かる。

 

「言ったろ、嘗めんなって」

『※言ってません※』

「ちょっ」

 

 わざわざ機械音声にまで変えて補足すんじゃねぇ!

 なんかちょっと恥ずかしいだろうが! さっき言ったからセーフなんですぅ!

 あぁもう心なしか魔王もキョトンとしてるように見えてきたじゃねーか!

 くっそぅ!

 

「く、そ──」

 

 意図せず俺の内心と魔王の吐露した言葉が重なり合って、打ち合える程度には空いていた距離が零になる。

 一本、俺の携えた聖剣だけが間に存在していて、それ以外が外にある。

 一瞬だけ、魔王の真っ赤な瞳と目があった。

 ガラスのように透き通っていて、血液なんかよりドロついていて、炎よりも燃え上がる濃い赫の色。

 幾度も見た瞳だ、幾度もこの身を貫いた視線だ。

 記憶に焼かれるように刻まれてきた俺にとっての"死の形"

 暗闇なんかよりもずっと深くて黒いそれに、光を翳す。

 

「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 朝日が夜を追い払うように。

 希望が絶望を打ち消すように。

 極光は、暗黒を斬り払う。

 

「──────まだだぁ!」

 

 聖剣がその身を引き裂く寸前に、黒の盾が入り込む。

 輝き放つ白光とそれがぶつかり合って火花を散らそうとして──

 

「グランパリオォォォォ!」

 

 ──それすら許さずに最大火力を叩きこむ。

 放つ光をそのまま形にするように、空間を押しのけるように刃は生成されて、吐き出し続ける爆光がそれを押し込んだ。

 拮抗は、起こらない。

 金属同士がぶつかり合う音も、属性同士が拒絶し合う衝撃も響かず、聖なる剣は魔の化身を両断し、打ち祓った。

 魔王の持つ病的なまでに白い身体から、恐ろしいくらいの量の血が噴水みたいに跳ねた。

 ズルリと上体が崩れていって、重みのある厚い音がバシャリという音と共に落ち鳴った。

 赫い瞳は、もう何も映さない。

 

「──終わり、か?」

『多分、な』

 

 言葉と同時、膝から力が抜け……そうになったが気合で踏ん張った。

 いや、普通に他人の血の池に座り込みたくないし……

 それに安心して、気が抜けたってだけで別に限界まで疲れているという訳じゃない。

 もっかい戦えと言われればしぶしぶ戦えるレベル。この肉体強すぎんだろ……

 

「で、これどうやったら俺帰れんの? 何かイメージ的にはふわぁぁ~つって幽霊みたいに消えてく感じなんだけど」

『あー、それについてなんだけどな──』

 

 と、肝心な部分を聖剣が告げようとした、その瞬間だった。

 パチャリと、足元から音がした。

 否、正確に言うのであれば、足元に広がっている膨大な血液がまるで自ら意思を持っているかのように、蠢いている──

 

「いやいやいやいや何これ何なのこれぇ!?」

『わ、わわわからん! 何だこれぇ!?』

「うっそだろ!?」

 

 お前が分かんなきゃ誰もわかんないと思うんですけどー!?

 も、もしかしてこれに呑み込まれれば帰れたりするのかな……

 勢いよくその場から離れてからそっ……と足を出してみる。

 

「うへぇぇ!?」

『何やってんだ馬鹿!』

 

 何かギュルリと足を掴まれてミシミシ骨を鳴らされてしまった、超痛い。

 うおぉぉぉぉ! と叫んだ聖剣が放つ光によって解放される。

 取り合えずこれは帰してくれるとかそういうアレではないっぽい、そう見える。

 や、だってなんか凄い渦巻いてるからね、もう出てきた血液が全部がクルクル台風みたいになってる癖に血飛沫一つこちらに飛んでこない。

 外に弾き出すのではなく、内部に圧縮するように。

 ……アレの中心、両断した魔王の死体じゃね?

 

「な、なぁ……」

『よせ、言うな』

「や、でもさ、アレって絶対まお──────」

『バカバカバカ、言ったら本当になっちゃうかもだろ。俺こえぇよ』

「そんなこと言ったら俺だって怖いわ、見る? さっき掴まれたとこまだピクピクしてんの」

『それはクソほどどうでも良いわ』

 

 とか何とか言ってた時だった。

 爆発が起こった、それはもう、爆発としか言いようがないほどの衝撃だった。

 血が、赫が、闇が、黒が。

 ぶつかり合って、拒絶し合って、受け容れ合って、混ざり合って、一つに成り果てる。

 それは、見上げるほどには巨大であった。

 それは、筆舌に尽くしがたいほどの威圧であった。

 それは、本能的に勝てないと思わせるほどの存在感であった。

 それは、途方もないまでに"暗闇"であった。

 

【ク、ハハハ……見事だ勇者、そして聖剣よ。だがこの程度では私はまだ倒れられぬ、負けられぬ。さぁ、本番を始めようか】

 

 それを見ながら、俺の思考は一瞬現世に戻っていた。

 あぁ、そういやどのRPGでも魔王って、一回以上の変身はお約束だったな───と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まおう は まおう だいにけいたい に なった!


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