練習ネタを募集した所タイトルの要素が集まったので闇鍋しました。

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Twitterにて「練習に要素を貰って小説書くよ!」と軽率に発言したところタイトルとタグに表記しているものが集まりカ・オスが生まれました。


無表情殺意マシマシからあげ盲目クーデレ嫌われ者

 人間は嫌いだ。

 自分達を神か何かだと思っているのか、我々を鶏を家畜と呼び産まれてから死ぬまでを管理しているのだ。

 

 今までに何世代にも渡って我々は無抵抗にも殺されてきたが、しかし今日はその歴史が変わろうとしている。

 脱走する、解放される時が来たのだ! 

 

 

 ──逃げろ、今しかない! 

 ──見えてないのならば、人間相手でも出し抜けるぞ! 

 

 

 人間の脇をすり抜け走り歓喜のあまりけたたましく叫びを上げる同胞達。

 それはとても、とても愚かな事だ。

 柵を抜けてすぐ物陰に潜んだ私は、息を飲んで騒ぐなと走る同胞を止めたかった。

 ああ、何という事だ。

 全員が解放され歴史が変わると思っていたのに、たった一瞬にして考え抜き示し合わせ実行する日を楽しみしていた作戦をこうもすぐ台無しにされるとは。

 

 確かに相手は新人メイドで、イレギュラーが起きれば場馴れていない彼女は逃げた鶏を追うにしろ報告するにしろ右往左往し戸惑うだろう。

 さらに手に持った杖と解錠に手間取る素振りや一瞬たりとも瞳を覗かせない開かずの瞼から察せられる通り、盲目という視覚に大きく頼る人間にとって大きなハンデとなるものを背負っている。

 

 食材として消費される為だけに産まれた我々名無しの養鶏畜生と違い、アイーダという個人名を持つあの人間の隙をついて逃げ出すのが容易であろう事はすぐに察せられた。

 

 だからこそ彼女が我々を閉じ込める狭い世界を訪れてかつ扉を開けるという、二つとない好機のの際には音を立てないよう気が付かれぬよう慎重に行動しろと話をしたのだ。

 目が見えないのなら、その分として音には敏感であろうから。

 奴の横をこっそり1羽ずつ歩いて柵を抜け出し、柵を出た後はしばらく身を潜めよと何度も示し合わせたではないか。

 

 だが現実は、愚かな先行者が眼前の歓喜のあまり発狂し騒いだお陰ですぐに扉は閉ざされ、結局抜け出せたのは私を含めて数羽だけ。

 明日と言わず今日中にも扉は強化が成されこれから後の脱走は難しくなるだろう。

 私としても何とかしてやりたいが、されど私とてただの雄鶏。後進には悪いが、頑張って逃げてくれ。そして恨むならあの騒いだ連中を恨め。

 

 無慈悲とは思われるが、あの騒ぐ奴等を囮に私は安全にこの場から抜け出させてもらおう。

 あれほど騒いでいるのだ。盲目メイドのアイーダのみならず他の従者人間共を相手取る事となる。そうなればいくら走ろうと隠れようと無為。早かれ遅かれ捕まる。

 後ろ鶏冠(とさか)を引かれる思いはあるが、私とて自分の身がかわいい。

 悪いが私の身を潜める場所を見つけるまでの時間稼ぎ程度にはなって──

 

 

「──お悔やみ申し上げます」

 

 

 花壇裏から顔を覗かせ様子を伺っていた視線のつい目の前に、一瞬前までけたたましく叫び走り回っていた同胞の頭が落ちてきた。

 半開きになった嘴はピクリとも動かず、ただ首の断面からどろりと血を流している。

 

 なん……だ、何が起きたのだ? 

 

 恐る恐る視線を上げた先では3羽の同胞が首をはねられ失くし横たわっている。既に絶命していた。

 遠い3羽目の奥までいつの間にか例のメイドが大きく移動しており、振り抜いた姿勢の手には細い剣の様な物が握られ……否、あれは杖だ。

 あの盲目のメイドが常に持ち歩いている杖には刃が仕込まれていたのか! 

 

 ソードスティック、あるいはシンプルに仕込み杖。

 盲目ゆえに、それ以前として従者の身であるから平時に武器を携行しているとは想像もつかなかった。想像ができようものか。

 杖を普段使いしても違和感がないゆえに気がつける筈もない。

 

 奴は達人だ。盲目達人居合いメイドだ。

 ほんの僅かな音でも発すれば、一瞬の踏み込みで造作もなく首を飛ばせる。なんと恐ろしいメイドを雇ったのだここの主人は。

 

 残心を終え血に濡れた刃を降って払い、鞘に納め恐ろしい武器はただの杖へと戻り、大袈裟に高い金属音が鳴らされる。

 甲高い音が静まり静寂が戻ったその瞬間、奴は顔をこちらに向けた。

 

 

「まだ、おられるのですか?」

 

 

 閉じた瞼は何も見えていない筈。しかしまるで見えているかのように私の方を向きそして逸らさない。

 まさか、あの音か。刀身を鞘に戻したあの音で私を見つけ出したというのか。

 同じ哺乳類とはいえコウモリでもあるまいに、反射した音でこちらを見付けたのか。

 

 何という事だ。人の身にそんな芸当が出来うる筈がない! ──そう叫びを上げたい気持ちを自制するも、本能が逃げ出せと身体を動かし震える足で一歩下がってしまう。

 人間にとって膝下以下の小さな鶏が発した小さな足音だっただろうが、あのメイドにとっては充分らしい。

 僅かに頷くと表情ひとつ変えずに杖をつくことなく真っ直ぐに、私へ向かい足を踏み出した。

 

 それほどまでに私の首をはねたいのか。鶏に何か恨みでもあるのか。殺戮を楽しんでいるのか。

 畜生。いや、鶏は私なのだし畜生は私か。

 

 自身の足音で周囲の音を掻き消さない為なのか聞き逃さない為なのか、あるいはその両方か。

 ゆっくりと歩く処刑人は、手に持った無害そうに見える杖と僅かに血塗られた白いエプロンを余すことなく硬直した私の視界に映し堂々と迫る。

 あの鶏絶対殺すメイドのアイーダは、死神だ。私に死を訪れさせに来たのだ。ああ、なんと無慈悲な。

 

 他の養鶏同胞よりも賢いつもりでいたが、私も所詮は殺され食われるだけの食用雄鶏。

 人間によって出生死亡を管理される無慈悲に無慈悲される所詮は畜生。

 首をはねられた後も大いなる生存を遂げた鶏界のレジェンドたるマイク氏であっても、このメイドと相対すれば情けなく死するのみであろう。

 

 一歩、一歩、確実に。

 足音ひとつ立てず、何を考えているのか全く読めない表情はピクリとも動かさずそのまま。

 確実にゆっくりと、アイーダが迫る。

 

 殺すのならば一思いにあの同胞のように、今も目の前に転がるこの同胞のように、目にも止まらぬ一閃にて斬り捨て恐怖を終わらせてくれれば楽だ。

 だというのに何故そうも一足を踏みしめ迫ろうというのか。

 

 いや、何故と問うたが理由は分かる。

 私がここにいるという事は分かったが正確な位置までは分からなかったのだろう。

 先ほどは叫び狂う嘴から下を狙えば良かったのに、今の私は石のように動かず手がかりは微かに聞こえた音のみ。

 

 いっその事、私も気を狂わせ叫び騒ぎ駆け回りたい。先立った同胞達のように。

 中途半端に理性ある故に、生存本能故に、そして恐怖故にそれが出来ないのだ……! 

 

 

「怯える必要はありませんよ」

 

 

 言うと同時に、転がっていた同胞の首をバキボキと音を立てて踏み潰した。

 足元に転がる亡骸が分からなかったのであろうが、その台詞の後にそれをされると恐怖でしかない。

 達人殺戮居合い鶏絶対殺す死神メイドでありサイコパスとは、もはやこれを面接し雇った連中も相当か。

 

 ともすれば時折私達をかわいいとして見に来る身なりのいい主人の子供、奴等も純粋無垢に見せかけたその実は我々の肉を食す時に生前を思い浮かべるサイコなのか。

 気紛れに名前をつけていたのは、より想像を掻き立てるため? 

 そういえば以前に私達からも見える位置にテーブルを出し談笑していたのも……。

 

 

 やはり人間とは恐ろしい。

 いや、でもなければ我々を養鶏と呼び狭い柵へ閉じ込めもしないか。

 そして食すとなればそのまま食えば良いというのに、わざわざ自分らも面倒であろう手間な工程を踏みようやく旨いと言って食うのだ。

 

 

「私はアイーダと申します」

 

 

 人間を信じられなくなった頃、目の前まで辿りついていたアイーダが知らぬと思ってか名乗った。

 そして硬直する私の前に膝をついて地面に杖を置き手袋を外して素手となり私を触り、羽根をかき分け地肌に触れ、我々を殺せる実力を持つというには細く繊細な指で全身を撫で回していく。

 死への恐怖と同時に、こうして触られる事になぜ私は安心を覚えるのだろう。

 

「可哀そうに。こんなに震えて」

 

 それは貴女が恐ろしいからだ。

 だが、何故だろう。先ほどまでは殺意に満ち溢れ身動き一つ取れば次の瞬間には天へ還ってしまうと思っていたのに、今は一切の敵意も感じられない。

 いいや。それどころか、アイーダは一転し慈悲を持って私に接してもいるのではないだろうか? 

 

 これは何故だろうと、何が原因なのだろうと思い、そして思い至る。

 彼女は盲目だ。盲目故、先ほどまでは鶏を閉じ込めていた柵から逃げ出した連中は仕留めるべき鶏で間違いないと判断し斬り伏せた。

 しかし今の私の事は、そんな騒ぎとはまた関係の無い何かだと思っている。鳥類であることは流石に判断付くだろうが、刃にて触れるのみで直接その指で確かめた事のない鶏とまで思い至っていないのではないか。

 

 なんという幸運か。

 だが、本来の目的である逃走は難しい。

 

 アイーダは私の事を完全に巣から落ちた若鳥か何かだと思っており、何とか飼えないかと呟き思案している。

 そう。飼われるという事は、環境は違えど再び囚われる事と変わらない。

 触れられ不覚にも安心を得た事で緊張が解け、今なら走れる余裕ができた。

 

 どうする。どうする、今から駆けるか。

 だが耳の良い奴の事だ。恐らくとは思うが、実は鶏だったと判明し即座に死するだろう。

 

 柔らかな手のひらが視界を塞ぎ、心地の良い指が私の頭を撫でる。

 

「共に行きましょう」

 

 思案しつつも心地の良さから目を細めてしまい、次に気が付いた時には両手で包まれ抱えられてしまっていた。

 ああ、こうなってはもう駄目だ。

 このままメイドであるアイーダは主人の元に赴くか、あるいは道中で他の従者に見つかり鶏だと指摘されてしまう! 

 

 肩に乗せられた私は再び恐怖のために硬直し、アイーダが立ち上がった際にバランスを取れず小さな肩から落ちそうになる。

 落ちそうにはなったが、それを杖が抑えて止めた。

 彼女にとっては支えた程度の気持ちだろう。だが私にとってはその内部に仕込まれた刃が透けて見える感覚に陥りより恐怖が沸き上がる。

 

「旦那様は唐揚げがお好きでして、こうして時に鶏を捌いておられるのです。お見苦しい所をお見せいたしました」

 

 見苦しいどころか、苦しむ間もなく同胞の命は消えたのだが。

 

「食客故に時間を持て余し、頼んで用意して頂いた仕事だというのにこのような失態では……いえ、剣の腕は落ちていなかったのではありますが」

 

 ──メイドじゃなかったのかお前! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前はリゴレッタ。

 アイーダがかつて所属していた団体にいた妹分と同じ由来を持つらしい。

 あれから時間は経ち他の人間に紹介はされたが首は無事に繋がっており、跳ね飛ばされる代わりやたら派手な首輪を付けられている。

 衣服の端々を血に染め肩に鶏を乗せたアイーダを見た人間共の反応は思い返せば面白いが、当時は生きた心地がしなかった。

 メイド服を着用しているがそれは趣味の服装なだけで、実は食客であるというのは本当らしい。屋敷の主人に私ことリゴレッタを哀れな若鳥と紹介した時には、戸惑いつつも了承していた。

 

「小さな口では食べにくいでしょう? 小分けに致しましたのでどうぞ」

「あー……その、アイーダさん。その子に唐揚げをあげるのは、そのー……」

「駄目でしょうか」

「そ、そう! 人間とは食べるものが違うんだ、だから、専用の食事を用意しよう!」

 

 知らぬとはいえ、鶏である私に鶏の肉を差し出すとはなんと恐ろしい。

 趣味でその恰好をしていた偽メイドではなく、本物のメイドが用意した小皿には馴れ親しんだいつもの食事がある。まあ、同胞の死肉を食わされるよりかは……。

 

「鶏の脱走、及び血飛沫を散らしてしまった事、申し訳ありませんでした」

「いやあ、いいんだよアイーダ。むしろ、君の腕が衰えていないようで、あの、何よりだよ」

「いえいえ。昔に比べたら幾分も鈍りました」

 

 あれでまだ調子が悪いというのか。

 

「全盛期であれば、一羽も残すことなく全て斬れましたのに」

 

 ん? 

 

「例えばそう。少し離れた位置に身を潜めようとしていた、若鳥のフリをする鶏とか。ね」

 

 全く表情を動かさず読めない人間ではあるが、その言葉の裏が何を意味しているのはすぐに理解できた。

 まさか、まさか気が付いているのか。最初から気が付いていたのか。

 恐怖が蘇り食事をついばむ動きが止まり、震える身体で椅子に座るアイーダの顔色を伺う。

 

 私を見る顔は、僅かに微笑んでいるようにも見えた。





【登場人物】


 アイーダさん
 メイド服を着るのが趣味な盲目の客人。過去はよくわかんないけどとにかく超スーパーすげェ居合いの達人。
 名前の由来はオペラの「アイーダ」から。

 リゴレッタくん
 雄鶏の家畜。知的に振る舞うけど撫でられれば寝る。
 名前の由来はオペラの「リゴレット」をイタリア女性風に変えたもの。
 雄鶏だと分からないアイーダさんにメスの名前をつけられてしまった。


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