雑感・おまけ
ここまで長い間、拙作をお読みいただきまして誠にありがとうございました。今後は梨々花世代三年生編へと続いていくわけではありますが、その前に私の完走した感想(まだ完走してはいないとはいえ)を書き殴りたいと思います。したがって、これは別に読まなくても問題ありません。一応最後におまけ的なものでちゃんとした文章は載せておりますが、まぁこれも読まなくても今後に支障はないと思います。あくまでも雑感と思っていただければと思います。映画・吹奏楽部日誌2も公開されましたので、ユーフォと言うコンテンツの節目になりますから、それも含めて綴りたいと思います。
Ⅰ・作品のテーマ
拙作のテーマとして根本的なところには希美をメインにハッピーエンドを目指すというものがあります。当初(改稿前)は特にその要素のみを強調しておりました。今考えると拙い文章と展開だったと思います。その頃から付き合ってくださっている方には改めて御礼申し上げます。
改稿前はギャルゲー形式をもっと強調していました。というか、本来はそういう話にするつもりだったんです。もっと短い、それこそ四十話くらいで終わりにするつもりでした。なので、選択肢のようなものを配置したりしていました。その名残は今でも章タイトルに残っているかなと思います。希美√というのはそこから来ていますので。
みぞれや優子など、その他の子の√を多数作成しようと思っていました。当時はそういう作品はありませんでしたし、これはこれでアリかなと考えて。とは言え書いていくうちにそういう感じが自分で上手く書けなかったのと、ユーフォと言う作品を原作にするにあたってこれは合わないなと感じ、いつしかしっかり書き始め、いつしかこんなに長い話になっていました。足掛け七年ほど希美を単一のヒロインとして書き続けた計算になりますね。
一時は恋愛に全振りしようとしたんですが、なんか違和感を感じて辞めたのは正しかったなと思います。恋愛するには、そこに至るまでの過程が無いといけないと思っていたので、じゃあもっとちゃんと背景を書かないといけないじゃん! と思い、今に至ります。
逆に個人的にあぶねーというか、やらなくてよかった・意識してよかったと思うポイントとしては
①麗奈と恋愛展開にしない
②サブヒロインは秋子だけに絞る
③関係性の濃淡をしっかり描く
④明確な敵役はあまり作らないで、最低限のフォローはいれる
⑤凛音君を出来る限りちゃんとした社会人として振舞わせる
⑥強引な展開にしないで論理性を重視する
⑦サブヒロインの処理をしっかりする
⑧レスバの時の論理と口調に注意し、相手を一方的に下げ過ぎない(これは特に涼音に)
⑨完璧超人にしない
あたりでしょうか。オリジナル主人公ものという地雷、ヘテロという地雷を踏む以上これは守っておいてよかったです。
改稿前と改稿後で私自身の考えの変化や原作からの供給などもあり、大きく話やキャラクターが変化しているところもあります。また、原作とアニメでは、どちらかと言えばアニメ寄りの書き方をしています。なにせ、原作風に書いたら凛音をはじめとするキャラクターはもっとヤバい感じになってしまいそうですので。ということで、この後は各キャラクターにフォーカスを当てていきたいと思います。
Ⅱ・傘木希美
私が一番長い期間向き合い続けているヒロインになります。出版版をご覧いただいた方はご存知だと思いますが、私が彼女と出会ったのは中学生の時でした。その時は普通のアニメとして見ておりまして、特段思い入れはありませんでした。当時の推しはリゼとか渋谷凛とか……この辺は変わっていませんが。ともあれ、さほど情熱は無かったのです。
契機は高校生になって、コロナ禍で暇な時分、『リズと青い鳥』を見たことにあります。それに伴いアニメも全部見直し、原作も読みなおし、そして映画を見て打ちのめされました。もちろん、作品は素晴らしいと思います。このような素晴らしいものを世に送り出してくださった武田先生、そして京都アニメーションの方々などには感謝してもしきれません。しかしです。それとこれとは別です。なぜ、こんなにも希美は苦しい目に遭っているのか、と怒りすら湧いてきたのです。
彼女は良くも悪くも、普通だったのでしょう。ですがそれは悪い事でしょうか。彼女の行動を批判する声も聴いたことがありますが、本当に責められるべきなのでしょうか。原作者の武田先生もどこかで「希美には良くない運命を背負わせてしまった」という趣旨の発言をされていたと記憶していた通り、彼女の周りには多くの苦しい事があって、本当の、本来の彼女らしさとか、魅力とか、そういう良い部分を発揮できなかっただけなのではないか。そう考えたのです。なにせ、そうでなければ南中での部長にもなれないでしょうし。
ですから、私の最初の創作動機、このお話を書き始めた時のモチベーションはとにかく傘木希美という、報われない(と当時の高校生だった青臭い私は考えていた)子に幸せになって欲しいというものだったのです。今となっては原作の彼女も不幸だとは思いませんし、これから幸せを見つけてくれると信じていますが、それでももっと幸せになってくれたなら、と常に思っておりますし、創作動機の根本の部分はさほど変わっていません。
彼女に幸せになって欲しい、とは考えましたが、何もせず幸せになって欲しかったわけではありません。与えられた幸せを甘受しているだけでは、本当の幸せではないのではないか。私はそう考えました。本作の中でも希美はかなり苦労しています。それでも彼女は自分の善性で掴み取った縁や繋がりによって幸福を得ることが出来たのではないかと考えています。その結果本調子、それこそ多くが憧れた姿を取り戻し、最終的に麗奈を説得することが出来るという展開に繋がりました。
また、音大には入っていますけど器楽科ではなく指導系の学科を選んだため、毎日楽典とか音楽理論と睨めっこしています。当然教員になるための勉強も行っています。涼音のことを優しく見守り、毎日お弁当を作ってくれる良いお姉さんとして振舞っていますが、その裏では結構努力しているわけですね。凛音が楽典その他を叩き込み、ピアノも専属でスパルタレッスンを叩き込んだためギリギリで合格できました。
希美のことを好きになってくれる方が少しでも増えてくれたのならば、私としてはこれ以上言うことはありません。
Ⅲ・高坂麗奈
希美の次に向き合う羽目になった、という言い方が正しいかはさておき、考えることになったのが彼女です。改稿前は記憶が正しければ香織先輩の再オーディションを機に弟子入りと言う流れにしましたが、改稿後ではもっと大事な役割を担ってもらおうと思い、彼女から物語が始まるようにしました。久美子と同じく、凛音の物語も麗奈から始まったわけですね。
武田先生のいう「麗奈は優秀な人が好き」というのは特段変わっていません。ただ、色々な種類の優秀さを認識できるようになったのかなと思います。彼女との関係性は常に師弟関係になるようにしていました。ここは譲れない部分であり、改稿前後いずれも麗奈との関係性がその他のもの、例えば恋愛関係になることなどはありません。ここは大事にしたい部分でした。
その上で人間的にも大きく成長したと思います。原作の麗奈は変化しないことが素晴らしさであり問題点でもありでした。原作批判ではないですが、アメリカにこのまま行っても苦労するだろうなぁと思いますね。なので、そこを解消したかったのです。最終的には世界一を打倒してその玉座に座ることで特別になれる、というプロットに繋げたかったので。
また、三年生編における麗奈の数々の行動には賛否があると思います。私はこの時の麗奈の状態を「麗奈も揺れていた」も解釈しました。迷いが全くないわけではないのだろうなと。特にアニメ版はその雰囲気が強く出ていた気がします。この解釈は武田先生のそれとは少し違うかもしれませんが、私の描いた世界ではずっと凛音という直属の師匠がいて、彼が無条件に自分を追随しないように育てたのが大きかったのかもしれません。
三年の時が過ぎ、麗奈の中にあった師匠絶対主義みたいなのが薄まった時に丁度あの事件が来てしまった。麗奈の自意識というかアイデンティティーは師匠がぶっ壊し、涼音がそれを看破し、希美が治す手伝いをした。ある意味で、この三人による遠大な麗奈育成だったのかもしれません。それには当然背中から虎視眈々と追いかけ続けつつも返る場所を用意してくれた秋子の存在も欠かせませんが。
そのまま突き進むのも大事だとは思いますが、変わることだって悪くないでしょというのが私の考えなので、麗奈はかなり大きく変化したキャラクターかなと思います。秋子の頑張りも大きいですが、弱いところを見せたり、面倒くさがったり、ちょっと変な行動をしたり。
でもそういう寄り道みたいなのが音楽家を育てるんじゃないかなと。大抵の音楽家って変な人ばっかりですし、ずーっと音楽しかやってませんみたいなわけでもないんですよね。恋したり、旅したり、そういうのをしてる。私はある意味で、麗奈に寄り道をさせたかったのかもしれません。その中にある、練習だけしていては切り捨ててしまうような煌きに気付いてほしかったし、それこそがきっと音楽家高坂麗奈を輝かせるんじゃないかなと。
彼女はこれから欧州の大地でかなり苦労しますが、その物語は高坂麗奈音大編でお送り出来たらなと思っています。
Ⅳ・吉沢秋子
麗奈の物語に欠かせない存在。ある意味では本作の裏主人公。それが彼女でしょう。改稿前はただのサブヒロイン、もっと言えば賑やかしの負けヒロインでありました。ただ、改稿するにあたってこれはどうにかしないといけないと考え、彼女の「麗奈の唯一の同期」という部分をクローズアップしようと思いました。
なんかそのせいでどえらい強化されたキャラクターになりましたが、まぁプロの奏者にずっと数年間付きっ切りで指導されていたら多少は上手くなるよなとは思います。もちろん本人の才能と努力もかなり大きかったですが。
麗奈には音楽面でのライバル、親友、自分が蹴落とされるという経験が足りないなぁと思っていました。もちろんそれが麗奈の強さとか魅力に繋がるんでしょうけれど、それだけでは多分どこかで折れてしまう。麗奈の翼を大きく強くするのには秋子と言う存在が欠かせない要素となって来る。そんな話にしようと思っていました。
恋の上では彼女は負けヒロインと言うことになります。改稿前は告白せず、彼女の恋は静かに終わりました。しかしこれはどうなのかと悩みましたね。自分はあなたのことを好きである、と相手に告げて恋が終わる方がまだ幾分マシなのではないか。私のエゴではありますがそう考えて、彼女の恋はちゃんと告白して、ちゃんとフラれて終わりました。書いていてここはかなり苦しかったです。
そして秋子について恐らく皆さんが感情を動かしてくれたであろうラストオーディション。ここはアニメがどう描こうと二人きりのオーディションとする予定でした。まさかアニメが真由と久美子の公開オーディションにするとは思ってもいませんでしたが。この公開オーディションをやるという展開があるなら、それに乗っかろうと思いました。とは言え、どっちが勝つかは限界まで悩みました。麗奈を勝たせないと殺されるんじゃないかと言う恐怖がメインでしたが(笑)。それでも秋子を勝たせることにしたのは麗奈の成長と言う意味でもあり、そして彼女に最後に一回だけでもスポットライトを、という意味でもありました。
挫折や痛みを知っているほど強くなれる。という私の考えからくるものではありましたが、彼女が最終的に勝利したことに納得してくれる方が多くてありがたかったです。麗奈にとっては久美子とはまた別の「特別」な子になったことでしょう。
Ⅴ・香織とあすかと葵
この三人は序盤である久美子一年生編の大きなキーパーソンでした。まずは香織ですね。彼女がいないと凛音の受け皿が無くなってしまいます。罪悪感があったからとは言え、それでも絶対揉め事の種になる存在を受けいれてくれたところが香織の懐の深さであり、優子の惚れた存在としての貫禄があるかなと。
また、気持ちがどうであれ、受け取った相手がどう感じるかが大事である。ということを凛音に伝えるという大事な役目も持っていました。凛音も涼音も、この兄妹は素直に行動する、感情論で突っ走るということをあまりしません。理論武装して動いてしまうきらいがある。その結果救われている人も一定数いるのですが、そこに価値を見いだせていなかったというか、過小評価している部分がありました。それを否定するという意味で、欠かせない存在です。
これはある種結果論的でもありますが、凛音の人生という過程がかなり辛いものにおいて、現状(=結果)が幸せならそれでいいはずだ、という考えはかなり救いになっているとも思います。
あすかは難しい存在でした。久美子にとっては良き先輩ですが、凛音にとってはそうでもありませんね。むしろ同族に近いかもしれない。ですが同質の存在ではありませんので、お互いに踏み込まないことで上手い関係を保っていました。それが崩れるのがあすかの母親の件でしょう。
あすかの母親をどう扱うか。これは難しい問題です。ただ、悪役とするのも違うとこの歳になって思うようになりました。親の気持ちというのも理解できる部分があったからです。なので、理性的な説得を試みる、というプロットに変更しました。ハッピーエンドを目指すなら、ここは妥協できないと思いましたので。
葵も大事な存在でした。彼女の出番は決して多くありませんが、序盤のキーパーソンでもあります。改稿前は退部を見送る方針でしたが、それでいいのだろうかと。もちろん、吹部にいることが全てではありませんし、辞めたからと言って不幸とは思いません。それは吹奏楽部日誌2で武田先生も仰っていますし私もそう思います。真由ではないですが「たかが部活」なので。
ですが逆に言えば部にいることで得られるものもあるかなと。それは別に大したものでなくてもいいと思うんです。後輩との交流とか、同期との会話とか、同じ目標を共有している空間にいるということは、それだけでも意味はあると思いますし。加えて言えば、後輩への罪の意識が僅かにでもあるのなら(あすかへの感情とかも混ざっているとはいえ)部に残ってくれた方がその贖罪となると考えました。ここはまぁ、異論もあると思いますが。
とはいえ、彼女がいないと二年生編で北宇治は全国に行けません。葵が夏紀たちをはじめとするもなか組を強化してくれたことが二年生編の結果に繋がっています。
Ⅵ・大会の結果と各員の技量など
キャラクターについてではないですが、二年生編の結果はかなり大きなこの作品の特徴だと思います。リズと青い鳥を全国で響かせるというのは絶対にやらないといけない事でした。そこが叶わない事にはハッピーエンドにはならないでしょうし。
なので、それに至るための布石を積み重ねてきました。先述の葵の存在もその一つです。元々かなり厳しい中ではありましたが、凛音というある種のドーピングがあってなんとかなりました。
では原作と比べて全員技量はどうなの? という風になると思います。結論から言えば、全員相当に上手くなっています。まず顕著なのは久美子でしょう。原作アニメとそれぞれ技量には論争がありますが、この世界線の久美子は素で、というか部長職というデバフを背負いつつ真由と対等に張り合えている化け物です。清良で一年からレギュラーだった子と五分の勝負に持ち込んでいる時点で相当ではないかと。
オーディションの結果は秋子を除きほぼ変わっていませんが、それは自分が上手くなるのと同時に周囲も上手くなっているからですね。葉月はその煽りを受けてしまいました。それでも原作より全員レベルはかなり高いです。希美やみぞれもそうですし、夏紀もそうです。ただ、奏がオーディションでわざと手を抜くのは絶対的な実力は向上しても相対的な実力は久美子>奏>夏紀の順だったからですね。
ドーピングとは言いましたが、かなり理論的な練習が展開されています。これは本作の一つの特徴であると自負していますが、演奏シーンと練習シーンには力を入れました。出来る限り指示を的確にしたかったのです。そこでは感覚派と言うよりかなり論理的な練習展開がされていました。桜地凛音という奏者は感覚派というより理論派でしたので、その影響が大きいですね。最大効率で最大効果を、という思想が根底にあり、それは凛音の母である千里が伝授したものです。音大に行けるようなレッスンを常時展開されているので、そりゃ上手くなるのも当然でしょう。
強豪吹部にありがちな滅茶苦茶な練習は一切行われていません。長時間やるのは無駄と思っているかなり合理性を重んじた練習方法を採用しているからです。なので、思っているよりは北宇治はブラックではないと思いますね。なお、生徒の内心は除きます。時間は長くないですが、その間にかなり集中して取り組むことが求められますので。一方走り回りつつ練習を考え指導をしている先生と凛音はかなりの労働量を求められています。
参考までに、凛音の一日のスケジュールを載せてみました。特に行事等の無い、大会曲練習期間の平日です。
凛音の一日のスケジュール(平日)
4:30 :起床
:朝食作り、涼音と自分の弁当作り、夕食の下準備
5∶30 :朝食、支度
6∶00 :登校
6∶20 :学校到着
:音楽室鍵開け・指導打ち合わせ・朝練監督
7∶45 :教室へ
:授業など
16∶00:放課後練習開始
18∶30:放課後練習終了
:麗奈と秋子の個人レッスン・自主練指導
20∶00:レッスン・自主練指導終了
20∶20:帰宅・夕食
20∶50:風呂
21∶10:仕事・指導計画作成開始
24∶00:仕事・指導計画作成終了、自分の練習開始
2∶00 :練習終わり、就寝
よく生きてるなという感じです。時々風呂で寝落ちしてることもありました。
Ⅶ・桜地凛音
本作の第一主人公ではありますが、本来は女子にするつもりでした。百合を書こうとしていたんですねぇ。ただ私に百合を書く技量がまるでなかったので没になりました。名前だけその名残があります。桜地、と言う名前は桜という漢字を使いたくて選びました。なぜこの感じかと言うと、それはもちろん三年生編で植樹されている桜に由来します。生徒たちを見守る存在として、この漢字がいいかなと。
彼自身も物語の中で大きく成長したと思います。義務感で生きているところがありましたが、それが少しずつ変わっていき、吹部のメンバーと交流することで人間味が生まれていきました。希美たちのおかげで辛うじて人間にとどまってると言えるかもしれません。もし日本にいなければ、多分なんか神みたいな誰も届かない場所で孤独に、そして孤高に生きていたと思います。
脳味噌を丸焦げにされた相手に勝ち逃げされ、そのままもう叶わない再戦を願い足掻き続けるという、まさに賽の河原的な人生を歩んでいましたが、そこから麗奈に希望を託すに至れたのはその一番大きな象徴かもしれません。そこに至るまでには当然、希美の存在が欠かせないキーとして輝いています。
大人と子供の間を揺蕩っている、出来ることは多いけれどポカミスをすることも多い。そんな存在です。私としても付き合いが長い分思い入れは深いですね。彼のビジュアルは、是非立華編をお買い求めください。なお、桜地家のモデルは私の実家です。
また、奏者としての彼について触れておきます。よく話題になる通り、学校の吹奏楽は良くも悪くも特殊であり、競技に近いです。実際の芸術である音楽とはだいぶ異なる部分が大きいですね。凛音は本来芸術の方の音楽の人であり、同時にオケ出身でもあるので適応しづらいはずでした。ただ、最初の師匠でもあり音大に行くにあたって指導をしていた母親が吹部出身だった影響と本人の気質のせいで競技性のある音楽が得意な人になっています。
じゃあ世界一にはなれないんじゃないの? と思うかもしれませんが、そこはずば抜けた技量で突破しています。上手すぎて他の人が文句言えないタイプということですね。芸術性という意味ではリリーに勝てないので、彼は未だにその背中を追い続けているというわけです。無論、高校生レベルでは比べることが出来ない領域の話ではありますし、そこに麗奈と秋子が片足を突っ込んでいるというのも事実ではありますが。オケとソリストでは全く違いますが、そこもまた調整力でどうにかしているため、首席トランペット奏者として迎え入れられたわけですね。
指導力に関しては元々あった才能+母親の教え方+加部ちゃんに教えている間に身についたもの+専門外は知り合いに聞いているという要素で構成されています。基礎の叩き込み方が音大仕様と言うかそっち系統の仕様になってしまっているため、この世界の北宇治部員が音大受験をする場合は結構有利かもしれません。
人生経験が他の子よりも多いですが、それは大学時代に色々な経験をしたりしたことに起因しています。なので、麗奈にもその一端を体験させようとしています。ということで高坂麗奈音大編は師匠に振り回される麗奈の悪戦苦闘が見られることでしょう。また、元ピアノ奏者だったのでピアノもかなり上手いです。幼少期はコンクールとか総なめしており、将来は名ピアニストの道を歩むことが嘱望されていましたが、ある日であったトランペットの輝きと母親の演奏に脳を焼かれ、いきなり転向してしまったという過去があります。
Ⅷ・桜地家
モデルは先述の通り私の両親の実家のミックスです。古い歴史を持つ旧家であり、21世紀に入ってもなお関西地方で大きな影響力を持っている家、という設定ですね。今の京都大学宇治キャンパスとか自衛隊の基地があるはずの場所にデカい屋敷があり、その周囲に住宅街が広がっています。希美の家やみぞれの家は元々桜地家の敷地だった部分が分譲に出されて出来た新興住宅地というわけです。
音大受験に必要な要素であるピアノも、防音室の中にスタンウェイのグランドピアノが鎮座しています。凛音のトランペットは母親の譲渡品ですが、これはイギリス製の限定モデルであり、通常価格は150万ほど。凛音が使っているものが仮に中古品として売りに出された場合、500万くらいから始まるでしょう。涼音のフルートはオーダーメイドの2、300万ほどのもの。バイオリンも同様の価格です。これらを特に何の制約もなく使用できる環境にあるというのはかなり特殊かもしれません。
Ⅸ・桜地涼音
改稿前はもっと普通の女子という感じでしたが、久美子世代三年生編を書くにあたって主人公に据えようと考え、設定の大幅変更を行い、南中編を加えました。兄に憧れ、兄を目指し、家に縛られた。幼くして両親を失い、本家の跡取りを押し付けられた。そして南中部長時代に、自分を救ってくれた希美が放ったある種の呪いを一身に受けた。そんな人生を歩んできました。
それでもそこから歯を食いしばって立ち上がっていき、多くの助けを受け、差し伸べられた手を取り、進んでいます。頑なだった彼女ですが、多少は柔らかくなってきました。それでもお堅いところは相変わらずではありますが。そうであっても真由には響いていますし、麗奈の方針に納得できていなかった子たちには自分たちが見捨てられていないという希望を抱ける相手だったと思います。だからこそ支持されているわけですし。
ある種麗奈のアンチテーゼ的存在でもありました。全国金を取りつつもそれをあまり肯定していないのも緑輝と同じ特徴でしょうか。原作寄りだったらかなりヤバい政治劇で麗奈を追い詰めていたかもしれませんが、アニメ寄りの雰囲気を私が選んだのでギリギリ踏みとどまっています。
頑固で自分の信じる正義を裏切れない。そんな彼女の不器用な直進性が誰かの希望になるのかもしれません。
Ⅹ・鎧塚みぞれと吉川優子
みぞれは「リズと青い鳥」を語る上では欠かせない存在です。彼女の感情は武田先生も仰っている通りやや幼いですが、それでも愛ではないかなと思い、そういうストーリー構成としました。私はみぞれは異性愛者だと思っているので、希美との感情は百合っぽくしていません。そこは解釈色々あるとは思いますが……。
みぞれは分かりにくいなりに感情はある子なので、そこはちゃんと考えているつもりです。凛音のことは大事な友達だと思っています。希美との関係に関しては若干呆れているところもありますが、それでも応援していますし、見守っています。
優子は凄く大事な存在ですね。凛音が部に戻るにあたって一番最初に話を通すのが香織ではなく優子なのが、彼の中の優子のポジションを物語っているかなと。暴走機関車みたいなところはありますが、それでも凄くいい子ですし、仲間想いの姉御肌であると思います。なので凛音のこともなんだかんだ言いながらも受け入れて、ちゃんと守っていました。それは再オーディションで対立することになっても。
トランペットパートのこの同期四人組には独自の絆というか関係性がありますね。もっとここの話を書きたいところはありましたが、色々な都合で書かないまま終わってしまいました。そこは少し後悔するところです。男女の友情、という部分においてはかなり理想的な関係性を作れている相手です。
Ⅺ・黄前久美子と久石奏と黒江真由
久美子という原作主人公の扱いは難しいです。それでも結構目立たせてあげられたかなと思っています。彼女も大きく成長してくれました。自分の理想をしっかり立てていて、そこに向かって藻掻きながら進んでいく様は涼音視点ではありましたがご覧いただけたと思います。彼女も凛音の教え子の一人ですから、当然強い影響を受けているわけですね。
北宇治高校の黄前久美子である、ということを意識させて過去のトラウマを見ないようにさせたことに関しては、かなり彼女も感謝しているところがある事でしょう。この世界の黄前久美子先生は滝先生や松本先生だけではなく凛音の影響も受けていると思われます。
奏は映画で大変私の脳を焼いてくれました。これはもう出番を増やすしかないでしょう。奏と凛音の関係性は表現しづらいところがあります。奏はオーディションで凛音に怒られるわけですが、あんなふうに怒られるのは優等生であろう奏にとっては初の経験だったかもしれませんね。とは言え、ちゃんと努力を見続けていたからこそ怒られたわけですので、奏としても思うところはあったと思います。
ですので、それを反映して涼音への対応が生まれてくるわけですね。友達、というのにはお互いバチバチしあっていたりする関係ですが、それでも仲がいいか悪いかで言えばいいと思います。お互いに足を蹴っ飛ばし合いながらこれからも協力して部を運営してもらいます。まぁその過程で色々あるかもしれませんが。
真由もアニメと原作で大分雰囲気の違うキャラクターですね。なので、本作では原作のエッセンスを取り込みつつもアニメを基調として描きました。本当の友達が欲しいという感情を持っていた真由が自分から涼音に友達になって欲しいと言えたのは大きな変化だと思います。もちろん、その裏ではつばめとの交流も存在していますので、真由つば派も安心してください。そもそも涼音が真由特攻のスパダリみたいなところがありますね……。
清良である意味で「特別」になれるはずだった子と別れてしまった真由にとって、全国で聞いた「リズと青い鳥」はどう響いたことでしょうか。原作やアニメとはかなり大胆に違う解釈でお届けしたこの曲は愛と希望を歌い、また逢うための物語となりました。これを聞けばきっと真由は北宇治に来たくなるのではないか。また、世代が変わり人も変わり、全部変化してしまっても、誰かの心の中で演奏は生き続ける。それが残る物であるというメッセージを伝える意味でも、秀塔大と合わせて大事な存在となりました。
他にも語りたいキャラクターは多く存在していますが、この辺りで一回終わりにしたいと思います。大分取っ散らかった上に長文乱文だったと思います。かなり長い間連載しているためか、多くの考えとか学びを私もしており、教職課程の中で思ったことなども反映しています。そのせいで考えが中々まとまっていないところも未だにあります。どうかお許しください。
これで終わるとただの随筆になってしまいますので、この後に幾つかおまけというか、特典を用意しました。
おまけ①
<秋子勝利IF ―もしあの時、秋子の告白が成功していたら―>
ずっと、好きだった。一年生の初夏から、ずっと。そのきっかけは胸の中に消えないまま、一年以上の月日が過ぎても残り続けている。麗奈ちゃんに勝てなくて、自分らしさを見失いかけていた私に手を差し伸べてくれた。他の人からすれば、取るに足らないことだったのかもしれない。多分、他の子が悩んでいたらきっと同じような事をしたんだと思う。でも、それでもよかった。例えそうだったとしても、先輩が私にそうしてくれたのは消えない事実で。それに私は私だから特別扱いしてくれるところじゃなくて、誰でもしっかり応えてくれる優しさに惹かれたのだから。
カッコいいところも、弱いところも、厳しいところも優しいところも、沢山見てきた。最初は好きだな~くらいの感情だったのが、あがた祭りが終わるころには恋と形容してもいいくらいの形になっていった。そこから少しずつ、どんどんと育っていって、燃え盛るような炎になったのは多分文化祭の頃かもしれない。冬休みに入って、部活がちょっと暇になったタイミングでお出かけも何回か出来た。風邪を引いた先輩に、お見舞いにも行けた。尻込みしそうだった弱気な私を叱り飛ばし、時には押すっきゃないと背中を叩く麗奈ちゃんの助言に従って行動し続けてきた。
そして今に至る。花火大会の夜、私は先輩を誘った。あがた祭りとは違う、二人きりの逢瀬に。これをデートと思ってくれているのかは分からない。先輩は年上が好きなんだと滝野先輩が言っていた。年下の私は涼音ちゃんと被って恋愛対象外になってしまうのかもしれない。それでもと好意をアピールしてきたし、涼音ちゃんとは違う女の子なんだぞって伝えられたはずだ。
希美先輩と言う強敵。みぞれ先輩と言う伏兵。この二人と、先輩がどういう関係性なのかは分からない。ただのトモダチにしては重たい関係性だとは思うけれど、でも恋愛感情ではないと思う。それは、優子先輩もそう言っていた。麗奈ちゃんのイマイチ当てにならない恋愛観察よりは、優子先輩の観察の方があっている確率が高いと思う。
先輩の事を考えると、胸が苦しくなる。呼吸が浅くなって、頬が赤くなって、眩暈がするような感覚があって。その笑顔がいつも眩しくて、その声がいつも聞きたくて。雪が綺麗って言ってくれるのは先輩が良くて、海で暑いって笑ってくれるのも先輩が良くて。もっと可愛い人なら優子先輩とかみたいにいっぱいいる。もっとカッコいい人なら、麗奈ちゃんとか夏紀先輩みたいな人がいる。ミステリアスな人ならみぞれ先輩だし、明るい人なら希美先輩がいる。そんな人たちに比べれば、私が芋っこいのかもしれないし、特段目立ってはいないし、ザ・普通。
鏡の前に立つと、ちょっとナーバスになる。でも、それは前提だから、諦める理由にはならない。もっと可愛い人がいたって、私が良いって思ってくれるようになる。それくらいには本気の、初恋だった。
だから、今日こそ決めに行く。待っていても、王子さまはやってこない。先輩は立場上、自分から告白するっていうのは難しい気がする。だから私から行くんだ。屋台を回っている時、ずっと上の空だった。告白。そのに文字を考えるだけで、心臓が飛び出そうになる。苦しくて、死んでしまいそう。でも、ここで尻込みをして先輩の隣にいられなくなる未来を考えたら、怖さもどこかへ消えていた。
先輩の提案で場所を移動して、花火の良く見える場所に来た。少し高台になっているこの場所の手すりを掴みながら私は顔を乗り出した。遠くには屋台の列が見える。タイミングを伺いながら、私は会話を始める。鼓動がどんどんと早くなっていく。
「こんなところあったんですね」
「穴場だからね。混んでるところで見ると疲れるから」
お面を頭に乗せながら、私はかき氷のカップを片手に空を眺める。先輩の声を聴いていると、やっぱりドキドキが止まらない。その表情を見ていたら考えていたこと全部どこかへ消えてしまいそうで、理性が蒸発してしまいそうで。だから、ちょっとだけ目を逸らしていた。間もなく始まるというアナウンスが流れる。麗奈ちゃんからは花火が上がっているタイミングで! と言われていた。私もそれが良いと思っている。早く始まって欲しい。でも始まって欲しくない。こんな矛盾した感情は、大会以来かもしれない。
そして、ドーンと言う大きな音と共に、赤い花が空に咲く。赤以外にも何色もの花が大空に咲き誇る。まばゆい閃光が何度も何度も私の目を刺激する。黒いキャンバスに描かれた光の芸術。一瞬のきらめき。いつか消えてしまう、まるで青春のような存在。光っては消える華。行くしかない。今しかない。手が震える。握った左手に汗がにじむ。お願い、私の中の勇気。どうか、ここで躊躇しない力をください。小さく息を吸い込んで、私は口を開く。麗奈ちゃんの「行け!」と叫ぶ声が聞こえた気がした。
「先輩」
私は先輩の浴衣の袖を少し引っ張って声をかける。目を逸らさないように、その瞳を見つめる。きっと私の頬は紅く、時々遠くで光る花火に照らされているのだろう。
「あの、良いですか」
「うん」
「言わないと、いけないことがあって。あがた祭りの時とか、ずっと言いたかったんですけど、中々言えなくて。聞いて、くれますか」
「もちろん」
私の呼吸が少し早くなる。喉の奥から、音を絞り出す。何かに祈りながら、私は最後のセリフを告げた。
「私は、先輩のことが好きです。今日は先輩として来てくれましたけど、私の……私の彼氏になって、一緒に帰ってくれませんか」
ちょっと早口になってしまった。でも言っちゃった。言っちゃったんだ。もう戻れない。無かったことには出来ない。先輩は大きく目を見開いて、私の言葉を受け止めていた。どんな結末でも、私は受け入れる……なんて嘘だ。振られたら、きっとみっともなく泣いてしまうんだろう。
先輩は一歩だけ距離を詰めた。そして戸惑う私の手を取り、跪く。まるで、王女様に相対した騎士みたいに、その綺麗な顔が私を見上げた。ドーンと大きく花火が上がった。その影の下で、先輩は私の手に口付けをする。その意味を、恋する乙女が知らないわけがない。嬉しさと喜びで死んでしまいそうになっている私の心に、先輩は最後の幸せの蜜蝋を注ぐ。
「何処へなりとも喜んで、付き合うよ。君の、恋人として」
フィナーレの花火が絢爛な華を天に描いている。キラキラと光る光の粒は、まるで私を祝福しているかのようだと、そんなことを思った。今この瞬間に世界が滅んでも、きっと私は後悔しない。張り詰めていた気が抜けて、よろめいた私を、立ちあがっていた先輩は優しく抱き留めた。その温かい腕の中に包まれる。このまま身を預けて、ずっとそのままでいたかった。
夢にまで見たこの時間は、もう夢じゃない。これから何度だって、こうしてその温度の中にいられる。あぁ、何て幸せなんだろう。私は、あなたの人生のヒロインになれたのだから。
「やっと、応えてくれましたね」
「そんなに、鈍感だった?」
「にぶにぶです。でも、良いんです。今こうして、私を受け止めてくれましたから」
花火はもう終わっていた。そして、どちらからとは分からないけれど、私たちは手をつないで歩き出す。私も先輩もまだ高校生で、これから想像できないような色んな苦労とかがあるんだと思う。でも、そんなのは二人なら乗り越えられるはずだし、乗り越えられるような恋愛をしていけばいいはずだ。そうやって二人で、生きていこう。この手のぬくもりがあり続ける限り、きっと私たちは大丈夫だから。
「◎」
その絵文字が自分の携帯に表示されたとき、高坂麗奈は「よッッッし!!」とガッツポーズをしながら吉川優子のような近所迷惑級の叫び声をあげて自分の母親に怒られることになる。
おまけ②
<桜地凛音の卒業祝いメッセージ、久美子宛>
拝啓
春寒次第にゆるみ、寒さの中にも春の足音が聞こえてきます。いかがお過ごしでしょうか。
さて、この度はご卒業おめでとうございます。また、妹より受験も志望校に合格なさったとお聞きしました。それも合わせて、この場にてお祝い申し上げます。
あなたにお会いしたのは三年前の春の日でした。あれから随分と時間が経ちましたが、あなたの成長は日々目を見張るばかりです。中学生の時に感じていたあなたの気持ちに気付き、そして練習の日々の中で感じた悔しさを抱え、それでも挫けることなく練習に励む姿勢は大変素晴らしいモノでした。あの時感じた気持ちを、どうか忘れないでください。それがいつかあなたの背中を押し、そしてまた誰かの背中を押すことでしょう。
三年生になり、多くの悩みや迷いがあり、決して楽しい事ばかりではなかったはずです。しかしあなたは自分の掲げた理想を決して手放し諦めようとはしなかった。それはとても素晴らしいことであり、そして誰にでもできる事ではありません。先代や先々代に勝るとも劣らない、立派な背中を背中を見せることが出来たのではないでしょうか。
教職を目指して進まれるとお聞きしました。一年先に生まれただけの先輩ではありますが、それでも何か言えることはないかと思い、この文をしたためています。これから大学で多くの出会いをして、多くの経験を経ることでしょう。それを大事にしてください。高校生の時分よりも大きく視野が広がり、世界が広がり、様々な価値観や景色に触れることが出来る。その中で感じたこと、迷ったり悩んだりしたことはいつかあなたの財産になるはずです。
この先様々な事情で今思い描くのとは違う進路を取るかもしれません。しかし、今思っていることは決して無駄にはならないでしょう。そしてもし教職をそのまま希求されるのでしたら、そのまま突き進んでください。あなたは痛みを知っています。苦しみを知っています。悔しさも知っています。
だからこそ、未来のあなたの前で、いつかのあなたと同じ苦しみや悩みを抱いている誰かに手を差し伸べることが出来るのではないでしょうか。それがあなたの良さであり、あなたの強さであり、あなたの誇るべきところだと私は思っています。上手く行く事ばかりではないかもしれませんし、生徒と接する難しさはありますが、臆さず真っ直ぐぶつかってください。生徒が尊敬するのは間違えない教師ではなく、藻掻きつつも前に進もうとする姿を見せる教師だと私は考えています。
一人の指導者として、先輩として、あなたという後輩の成長を大変嬉しく思い、あなたの未来に幸のあることを切に願って、この手紙を終わりたいと思います。どうか、あなたの音楽が奏でられ続けますように。まだまだ寒さが残っていますので、どうかご自愛ください。
敬具
三月一日
桜地凛音
黄前 久美子 様
追
同性として見ても塚本君は大変良い男だと思います。あんな優良物件はそういません。逃がさないようにしてくださいね。