「あ~、楽しい!」
これで三日連続ログインである。完全にどっぷりとはまってしまった。最初から予期していたようだが。
「あっ!そういえば初期装備のままだった……」
装飾の一切施されていない片手剣である。周りはまだそこまでレベルは上ではないだろうが、そのほとんどが装飾のついたカッコイイ装備に身を包んでいる。
……何故こんなにも彼女と重なっているのだろうか。
「むむ」
ただ、彼女と違うところがある。それは────、
「よし! ダンジョンに行こう!」
これである。何故装備が初期のままでダンジョンへ行こうとしているのか。装備を変えようと今まで思っていたのではなかったのか。率直に言ってアホだ。……これで初心者ではないのが甚だ疑問である。いや、初心者でもこんなことはしない。
「えーと、確か…」
うんうん唸りながらマップを見る。それを見ていた幾人かのプレイヤーが何処かに何かを書き込んでいた。
「あっ! そうだ! どうせなら…」
と、夜雪は武器屋へと駆け込み、初心者用の武器をいくつか見繕って購入した。何故そんなことをしたのか疑問に思う人が多く居るだろう。今一度思い出してほしい。彼は何を目指しているのか────そう、
装備を買った夜雪はその初期装備とも呼べるものをある程度まで使えるようにと考え、また森へと駆け出した。
それから一日後。
四日目のログイン。
「よぅし! 今度こそ行くぞ! ……その前にポーション買わなきゃ」
HPは60以上はあるが、お金が余り無いので最下級のポーションを買う。一応、回復魔法を覚えているので、緊急用だ。
準備を整えてダンジョンへと向かう。目指すは記憶にある【光芒の洞窟】だ。
いざダンジョンへと意気込んで町から飛び出した。
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森の奥へ奥へとスタスタ歩いていく。ここが街の外で夜雪が片手剣を持っていなければ遠足に行く中学生にしか見えない。
道中で何度かモンスターに襲われたがノーダメージで倒していく。
この辺りのモンスターは森のモンスターよりも頭がいいようで連携や障害物等を使って攻撃をしてきた。……驚異のAGIですぐに潰されているが。
目撃者が誰もいなかったため夜雪の異常な敏捷性が露見することは無かった。
夜雪がそうして歩いていくと次第に周りの木々が少なくなり風景が寂れていくのに気が付いた。
地面にはぼこぼことした土が多くなってきた。
そうして歩くことさらに十分。
岩盤にぽっかりと口を開けているのが見えた。
「あった!」
夜雪が中へと入っていく。中は思っていたよりも高い天井で飛行系のモンスターでも充分に飛び回れる高さだ。
奥へと進んでいくと神々しいスライムや蜥蜴が壁や地面を這って突撃してくる。
「はぁっ! やっ!」
スライムに刃を突き立て、その半透明の体の中を漂うように動き回る核を捉える。蜥蜴の方は一刀の下に切り捨てる。
もう何度目だろうか、核を切り裂き、蜥蜴を真っ二つにする。その時。
『スキル【
夜雪は早速そのスキルの説明を読む。名前から大体の内容は掴めていたが念のためだ。
【一刀】
剣系統の武器で攻撃する。威力はSTR依存。ノックバック効果小。即死効果小。
取得条件
一回だけの攻撃でモンスターに十五回止めを刺すこと。
「おぉ…。でもあんまり使わなさそう。持っていて不便でもないけど」
奥へ奥へと進む中、青色の見るからに毒っぽい霧を噴射する花があったり、何かを吐き出す魚が白い沼を泳いでいたりした。
それを掻い潜ってついに辿り着いた最深部。
目の前には夜雪の背丈の三倍はある大きな扉。
両開きのその扉を力を込めて開ける。
キィィィと何処かの屋敷のような音を発しながら扉が開ききり、中の部屋の全貌が明らかになる。
その中は薄く白がかった気体で満たされていた。
夜雪がその部屋に恐る恐る入ったと同時。後ろの扉が勢いよく閉まった。
「うわっ!」
その短い悲鳴をかき消すように岩影から神聖な光を放つ竜が姿を現した。……一度は来ているはずなのだが。
その竜の体は全体的に白く、普通の竜と比べると幾分か小さかった。プレイヤーからしたら大きさはどれも同じようなものだが。瞳はサファイアのような蒼。羽毛ではなくしっかりとした鱗で、しなりもあるようだった。
「よっし、行くぞ!」
言って、竜に向かって駆け出す。その体に剣を突き立てるが、バキィィンという音と共に半ばから折れた。
「やっぱり……」
すぐさまインベントリから代わりの剣を出すが、当然竜は待ってくれない。ギリギリで避けながら、再度攻撃をする準備を行う。
「じゃあ早速! 【一刀】!」
あんまり使わなさそうと言っておきながら早速【一刀】を使う。
多少のHPが減った。
「やっぱりね! スキル攻撃なら入ると思った!」
その結果に喜びながら次々に攻撃を仕掛けていく。もちろん、白竜の攻撃を避けながらだ。
「うおっ! 危っ!」
精神を擦り減らしながら避けている為、時々危険な場面があった。側から見れば精神を減らしているのかどうかわからないが。
それでも着実にHPを削っていく。だが、そんな幸運も長くは続かない。
「あっ! また!」
二本目の剣も壊れた。お金が無いため、剣はもう無い。本来なら打つ手が無く、死ぬしか無いのだが……。(ボス部屋は脱出不可能のため)
「今度は弓!」
インベントリから初心者の弓を取りだし、装備した。
「【射撃 Ⅱ】!」
弓に矢をつがえて弦を弾く。
狙いが定まりにくいが、対象が大きいので問題はない。
少しだけHPが削れる。ほんの少しだけ。
「【射撃 Ⅱ】! 【射撃 Ⅱ】! 【射撃 Ⅱ】!」
矢が続く限り撃ち放ち続ける。もちろん、白竜の攻撃を全力で回避しながら。
流石に鬱陶しかったのか、白竜は口を開き、その口に光を集め出した。
「ハァッ! 【石突き】!」
それを見逃さず、夜雪は白竜の頭の下に走りより、武器を槍に変更。逆手に持って白竜の顎目掛けて目一杯ジャンプした、
ガッッ!!!
見事に白竜の顎に当たりその口を閉じさせることに成功する。そして白竜が集めた光は、白竜の口内で暴発した。これによって相当のHPを削ることに成功。
白竜のHPは俗に言うイエローゾーンに突入した。
夜雪はすぐさま離れて弓に持ちかえる。そしてまた遠距離攻撃を再開した。
「【射撃 Ⅱ】!」
白竜のHPは徐々に削られるが、そんなものは関係ないとばかりに体全体を低くする。これは飛び立つ姿勢だ。
白竜は夜雪の攻撃が届かないところまで飛んで、一方的に攻撃をしようと考えたのだ。が、しかし。ここはどこであるのか? ────そう洞窟である。
竜がのっしのっしと歩く程度なら問題はないが、羽ばたく広さも、飛んでも大丈夫な高さもない(竜にとっては)。故に。
ドガアアアアアン!!!
天井や壁に当たって更にHPを減らした。もう既にレッドゾーン────HPが赤色に染まっている。
因みに、なぜ白竜がそんなことをしたのかとと言うと、大抵のボスモンスターはHPがある程度減ると行動パターンが変わる。これは暴走状態と言われることもあるが、つまりはイライラしているのだ。そのせいで行動パターンが変わり、視野が狭くなる。それ故に行動が制限される場所では、ボス自身が体力を削ってしまうという結果になるのだ。......実はこれ、夜雪は狙ってやっていた。βテストの時にこの攻略方法を見つけて、何度もボスモンスターを討伐していたのだ。末恐ろしい限りである。
「よぉし! ラストスパート!」
夜雪は叫んで、新たな武器をインベントリから取り出した。それは刀だ。しかし、初心者用とは違い少しだけ装飾が施されている。柄の部分に赤色の宝珠が埋め込まれているのだ。
────魔法武器。武器自体に魔法が埋め込まれている武器だ。もちろん、モンスタードロップでもこれらの武器は出てくるが、今のところそこまで強い武器は出ていない。では何か? ハンドメイドである。つまり、プレイヤーが作った武器なのだ。
込められている魔法は【炎爆】。炎属性攻撃中位の魔法だ。本来、ここまで強力な魔法が作れる筈がない。しかし、そこそこの腕の生産系プレイヤーととある魔物の素材があれば、造れたりするのである。
そのモンスターの名は爆発テントウである。
これのお陰で、夜雪は強い魔法武器を手にした。一回限りの武器であるが。
「ハアアアアアッ!!! 【炎爆】!」
岩の出っ張り等を使って飛び上がり、白竜の頭上へと至る。そして白竜に刃を向けて、白竜に当たる寸前に魔法を発動した。
カッ! と白竜の頭が爆ぜ、吹き飛ばした。周囲は爆風で荒れ狂い、地面は焦げていた。
夜雪が持っていた刀は粉々に砕けたが、白竜のHPをしっかりと削り、討伐に成功した。
そして白竜の後ろに光輝く魔法陣と大きな宝箱が現れた。
『【光芒の洞窟】をクリアしました』
『スキル【
『レベルが20に上がりました』
夜雪はまずはステータスポイント20をいつものように均等に振った。
続けてスキルを確認する。夜雪もまさか【
【
ドラゴン、竜種などのドラゴンに関わりのある敵性体からの攻撃、また竜系統の攻撃全てを1/3にする。逆にこのスキルを持つ者の攻撃を2倍にする。
取得条件
上位のドラゴンを単独で正攻法、また一定時間内で討伐すること。
「おぉ.......中々強力だけどここら辺で竜ってダンジョンにしかいないんだよね」
うんうん唸っていた夜雪だったが、宝箱の存在を思い出して思考を中断する。
かなり大きい。横は三メートル、縦は一メートル、高さは一メートルほどの長方形だ。宝箱に夜雪はゴクリと唾を飲み込む。緊張と興奮で鼓動が高鳴る。
ゆっくりと蓋を持ち上げて中身を確認する。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!」
夜雪が興奮のあまり大声で叫ぶ。……かの少女と同じ反応である。
中に入っていたのは、白を基調とした所々に鮮やかな青の装飾が施された片手剣。
神秘的な輝きを放ち、
そして、美しく輝くアクアマリンが埋められている鞘を持つ落ち着きのある純白の太刀。
更に蒼い色をもち、柄と刃の間にサファイアが埋め込まれた夜雪の身長よりも少し長い槍。
矢をつがえる場所に銀の装飾がなされた白銀の弓。
最後は杖の上部に白い球体が浮かび、球体の周りに輪っかと菱形の装飾がある赤白い杖。
「もうっ……最っ高! 格好良い! くぅ~!」
それらを手に取り一つずつ説明を見ていく。
【ユニークシリーズ】
単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。
一ダンジョンに一つきり。
取得した者はこの装備を譲渡出来ない。
『
【STR +30】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『
【VIT +25】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『
【AGI +15】
【STR +12】
【DEX +10】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『蒼月ノ槍』
【DEX +13】
【STR +10】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『白夜ノ弓』
【DEX +30】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『暁ノ鎮魂杖』
【INT +25】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
まさに夜雪専用装備。全部が全部それぞれを強化するという、他の人が使ってもその強力さを十分に発揮出来ない装備である。
「破壊成長はたしか……壊れても修復されて強化されるやつだったよね。……帰ってから確認しよ」
夜雪は六つの装備を大事にインベントリに仕舞い込むと魔法陣の光に包まれてダンジョンからいつもの町へと転送された。
>>>>
夜雪は戻るなりそそくさとその場を退散して残ったお金で一日だけ、宿を一部屋借りた。
このゲーム内でも睡眠をとることは出来るため宿という設備があるのだが、今回の夜雪の目的は泊まることなどではなかった。因みに、とある少女もこの宿に泊まる予定である。同じ部屋では無いが。
【破壊成長】
この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。
スキルスロット
自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。
付与したスキルは一日に五回だけMP消費0で発動出来る。
それ以降は通常通りMPを必要とする。
スロットは15レベル毎に一つ解放される。
「フフフ……格好良くて! 強い! そして、お待ちかねの〜装備!」
夜雪が全ての装備を身に付けて鏡でその姿を確認する。
「おおおおおおお! 格好良いよ僕! ……いや、俺!」
それから一時間程その装備に慣れる意味も含めて鏡の前でポーズをとり続けた。……本当に初心者じゃないのだろうか。余談だが、夜雪のβテスト時のユニークシリーズとは全くの別物である。むしろこちらの方が強いまである。
「よし、いざ外出!」
勝負服を着て外へ出る様なものなのでかなり緊張している夜雪だった。
案の定、圧倒的存在感を放つその装備に注目している人が沢山いた。
もう夜も遅くなってきているが、もう一度狩りに行ってみようと町の外へ足を向けた。
コイツほんとにβテスターか?
行動原理はあの少女とほぼ同じ。