第一回イベントの翌日。夜雪は東のフィールドを散策していた。
何か新しいクエストやスキルがないか探していたのだ。因みに彼はあまり掲示板を見ない。そのせいで今凄いことになっているが、それには気づいていない。
そしてNewWorld Onlineが発売されて明日でちょうど三ヶ月。それに合わせて明日は大規模アップデートが行われる。幾つかのスキルの追加やアイテムの追加。それらもネットを賑わせたが目玉はそれでは無い。
目玉は現在のマップの最北端にあるダンジョンのボスを倒した者が、アップデートで新たに追加されたマップに進むことが出来るようになるというものである。
勿論パーティーで挑んでもソロで挑んでも問題無い。
分かりやすく言うなら、一層をクリアすると二層に行けますよということである。
夜雪もスキルを身につけたら行ってみようと思っているのだ。
「う~ん。やっぱり無いかなぁ?」
そう口にする夜雪。だが、それも仕方がない。何より3ヶ月も経っているのだ、そのほとんどが発掘されていても不思議はない。
「はぁ………お?」
ため息をついた夜雪は、下を見た拍子に何かの文字に気づいた。ただ、踏み荒らされていて文字を正確に読むことができない。
「ん~? ……矢印?」
辛うじて判別できたのは、上方向の矢印だった。
「このまま進めってことなのかな……?」
罠である可能性を考えない夜雪。βテスターがそれで良いのだろうか。
「よし! 進もう!」
大きな声を出して、下を見ながら矢印の方向へ真っ直ぐ進んでいく。それから数秒経って、また矢印を見つけた。今度は方向変換して、右方向の矢印だった。
夜雪はずっと下を見ながら矢印を見つけては喜び、そして進んでいった。
そられから数十分後。ついに夜雪は、とある館の前に来た。
「おぉ……大きい」
見上げるほどの大きさの古い屋敷。ただ、放置されてある程度経っているのか、所々がボロボロだった。
屋敷の前にも大きな門が建っていて、荘厳な雰囲気を漂わせている。
普通のプレイヤーなら、何らかのイベントやクエストだと見抜いて、準備を整えてから足を踏み入れる。がしかし、夜雪は躊躇いもなく門を押し開け、中へと入った。まぁ、普段装備しているものが夜雪の中では最強の装備なので、準備をすることもほとんど無いが。.……ポーションの確認ぐらいはしても良いと思う。
『汝……。ここは汝が来る場所ではない…。即刻立ち去れ…』
唐突に何処からか声が聞こえてきた。ついでに、クエスト開始報告も夜雪の目の前に出てきた。
名称は『堕ちる日の館』。東のフィールド内最高難易度のクエストだ。因みに、『光芒の洞窟』は南のフィールド最高難易度のダンジョンである。
「もちろん! Yesだよね!」
そうして、夜雪はフィールド最高難易度のクエストに挑むことになった。
そして、こっそりと付いてきていたフードを着けたプレイヤーが何処かに何かを書き込んで、その場を立ち去った。
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屋敷のドアを開けると、ギィィィィと音がした。屋敷の中は何故か
「う~ん。なかなか幻想的」
床は古めかしい木の板で、赤色の生地に白の幾何学模様が描かれたカーペットが敷かれていた。
一歩進むごとにギッギッと軋む音がする。
夜雪はまず、階段の後ろに向かった。そこは物置のように木箱が幾つか置かれていた。夜雪はそれを押し退ける。すると、床に地下へと続くだろうと思われるドアが現れた。
「フフン。大抵こういう所に隠し扉があるからね~」
誰も見ていないのにどや顔を披露する夜雪。製作者もビックリの早業である。本来ならば、屋敷の部屋を巡ってヒントを見つけるのであるが、夜雪は何のヒントも無しに一発で当てた。その理由が何とも不条理であるが。
夜雪は地下への隠しドアを開ける。特に湿っぽいだとかカビっぽいだとかそんな感じは無かった。無骨な階段が存在しているだけだった。
「よし! いざ!」
夜雪は意気揚々と降りていった。
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「【ライト】!」
少し長い階段を降りると、そこは真っ暗な空間があった。
夜雪は光の魔法を使用して明かりをとる。
「おぉ?」
そこに見えたのは黒い魔方陣が床に描かれた、だだっ広い部屋だった。十メートル四方はあろうかという広さで、天井は十メートル以上あった。
「なんだろ………これ」
無警戒に黒い魔方陣に近づく。足が魔方陣に触れると、唐突に光だした。
「うわっ!」
夜雪は目を瞑る。光が落ち着いて夜雪が辺りを見回すと、そこには幻想的な光景が広がっていた。
今にも落ちそうな夕暮れと、燃えるように朱い雲。目の前には花畑が広がっており、一陣の風が吹いて幾つかの花弁が巻き上げられる。それがより一層幻想的だった。
「うわぁ……!」
思わず見惚れる夜雪。しかし、ここは未だ戦闘フィールド。そして、そこに出るのは────クエスト最終ボスだった。
地平線まで続くかと思われる花畑が、突如として盛り上がる。そこに現れたのは────、
「………小屋?」
小屋だった。紛れもない小屋だった。
だが、外見が全くと言って良いほどただの小屋とは言えない。真っ赤な雨でも降ったかのように血みどろで、何とも言えないホラー感があった。
とてもこの幻想的な光景とは釣り合わない。
「あー……もしかしてあれがボス?」
その名は【
「ハァッ!」
夜雪は駆け出し、剣を取り出して斬撃を与える。が、少ししか減らなかった。対象が大きいため、攻撃は当たりやすいがHPと耐久力が高い。そしてその攻撃力も。
「────っ!」
唐突にドアが開き、夜雪を吸い込もうとした。夜雪はそれに不穏さを感じて、地面に剣を突き刺して耐える。吸い込まれていったのは、花弁だけだった。
夜雪はすぐさま剣を抜き、新たに取得したスキルを使う。
「【縮地】!」
【
そしてまた、新たなスキルを使う。
「【終焉の
剣が白い光を発して大きくなってゆく。そうして小屋をかち割るほどの大きさになると、そのまま小屋の方向に倒れていき────。
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「いやー! 難しかった!」
屋敷から出ると同時に、クエスト完了報告が出た。
『クエスト:堕ちる日の館をクリアしました』
あの後、夜雪は【
そのユニークシリーズがこれだ。
『夕闇ノ軽鎧』
【VIT +60】
【破壊成長】
【
スキルスロット空欄
『黄昏ノ剣』
【STR +59】
【破壊成長】
【二刀流】
【黄昏時】
スキルスロット空欄
『夕陽ノ仮面』
【VIT +10】
【認識阻害】
【認識変更】
【変わらぬ眼差し】
スキルスロット空欄
夜雪がこれらを獲得した時には、既に深夜となっていた。夜雪の両親がそれについて怒ることは無いが、明日は学校だ。
仕方がないので夜雪はログアウトした。
ゲームのために現実を疎かにする訳にもいかないのだ。
「ふうっ……今日はこれで終わり」
夜雪はハードの電源を落とすとすぐさまベッドに横になる。宿題や翌日の準備は既に終えているのだ。
「お休みなさい……」
数分で夜雪はすぅすぅと寝息を立て始めた。
きっといい夢を見ることだろう。………たぶん。
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「それじゃあ、行ってきまーす!」
制服を着て学校へ向かう。
ここ数日で日差しも強くなってきてぽかぽかとした陽気が心地いい。ようやく春らしくなってきたと言える。
夜雪の席は窓際なので油断すると眠ってしまいそうだ。
と、そんなことを考えながら通学路を歩いていく。夜雪の家は学校から少し近いため歩いて登校しているのだ。その距離なんと徒歩十五分である。
心地いい風が吹いていて歩くことが苦にならない。
「うし! 今日も一日頑張るか!」
校門をくぐって、教室に向かい自分の席に着く。
「おはようー」
「ん? あ、おはよう!」
既に教室にいる本条楓に挨拶をする。その後、教室の気になった所を掃除したり、配布物を配ったりしているとふと本条楓が目に写った。
とてもニヤニヤしていた。正直言って怖い。そして、そろそろと教室に入ってきた人物を発見した。その人物は夜雪────
「なーにニヤニヤしてるのかなっ!」
すぱこーんと楓の頭に突っ込みを入れる。
突っ込みの主は理沙だった。
「べ、別に何でもない!」
「本当に〜? っと、そうだ。今日はそんなことをしに来た訳じゃなくて、んん……ときに、楓くん。今日は重大な発表があるのだよ」
そう言って楓の友人────理沙が腰を曲げてずいっと顔を近づけてくる。咳払いをしてわざわざ言い直して謎のキャラを作っている理沙に楓も乗っかってあげる。
「よしっ。これでいいかな」
あらかたの作業を終え、自席に近づく雪。すると、楓達の話が聞こえてきた。
楓がパチパチと小さく拍手をする。
どうやら、理沙がゲームをプレイできることになったらしい。
「(ん……? あれ、と言うことは?)」
「と言うわけで、楓にゲーム押し付けただけになってたけど今日からやっとプレイ出来るよ〜」
「じゃあ、パーティーが組めるね!」
「うん、そうそう。パーティーが……って楓もう始めてたの!?」
理沙は驚いたのか大きな声でそう言った。そして雪はその言葉で察した。運動神経抜群で有名な理沙がプレイヤースキルをも要求するあのゲームに参加する、と。
因みに三人とも登校はかなり早いため教室には三人しかいない。周りのことは気にしなくていいのだ。
「(う~ん。マジかぁ……)」
理沙は話を続ける。どうやら、楓のゲームプレイを聞いているらしい。
「何レベルまで上げたの? それともアカウント作っただけ?」
「え、えっとぉ……その……に、20レベル」
理沙と雪は一瞬ポカンとした。理沙はニヤニヤと笑い出すが、雪は固まったままだ。
「おーっとぉ………予想以上に楓さんはゲームにハマっているようですねぇ」
「むうぅ……」
楓が頬を赤らめながら理沙を睨む。理沙はまだ少し楽しそうに笑っていたが、悪気は無さそうなので楓も何も言わないでおいた。その姿はとても可愛いと呼べるものであるが、下を向いて考え事をしていた雪の目には入らなかった。
「(あれ? ……案外普通のレベルだ……あんなにおかしなスキル持ってるのに、むしろ低いぐらいだと思うけど)」
雪は楓が天然なことを知っている。それ故に、レベルも規格外なのではないかと疑っていたのだ。……自分も同類だと言うことには気づいていないらしい。余談だが、勝手に他人のステータスを聞いたりすることはマナー的に悪いことなので絶対にしないように。
「(う~ん。ま、いっか)」
そうそうに考えることをやめた雪。別に頭が悪いというわけではなく、ただ単に考えても無駄なことだからだ。
その後は二人の会話を聞くことは無く、やって来た友人とお喋りを始めた。既に頭の中から理沙が参戦すると言う事実は無くなっていた。
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「でね? 痛いのは嫌だった筈なんだけど……その人の攻撃は何て言うのかな? 他の攻撃とは何かが違ったんだ」
「何か?」
「うん。………う~ん。やっぱり言葉じゃ表せられないや」
むーっと唸りつつ考えごとをする楓。そんな楓に不思議そうな目を向ける理沙。
「どんな人なの?」
「えっとね……白いフードつきのポンチョを着てて、後ろに勿忘草? て言うのかなそれが描かれてた。後は弓を使ってたぐらいかな?」
「ふーん……ちょっと私も探してみるよ」
「うん! お願い!」
こうして楓と理沙による謎のプレイヤー捜索が始まった。そして、今夜一緒にプレイする約束をして二人の話は終わった。理沙も自分の席に戻っていく。
「回避盾……難易度は最高クラス? でも、だからこそ燃えてくる……! それに……楓に攻撃を入れれた人も気になるし……」
小さな声で呟いたそれは楓の耳には届かなかった。
ゲーマーとしての性だろうか。
理沙は達成条件の難しいものを選択するのを好む傾向がある。
さっき理沙が言った、無傷の無敵パーティーのを実現するためには、まずは理沙が敵の攻撃を避け続けることが必須条件である。
何十発と打ち込まれる魔法。
高速の連続攻撃。
それを紙一重で避けて敵を倒す自分をイメージするだけで。
「ゾクゾクするっ……!」
理沙は今日の授業が早く終わって欲しくて欲しくて仕方なかった。
「(……うわ!? な、何!? 急に寒気が……)」
その頃、雪は敏感に危険を察知していた。
理沙もヒロインに入っていくぅ!
理沙ってヤンデレにしやすそうなんだけど何でかなぁ?