「よーし! 今日は……と」
夜雪はログインして、今日何をするか考える。
「装備が良いせいか随分目立ってるし……プレイヤーメイドの装備でも着ようかな? そしたらまずは……イズさんのとこに行かなきゃ」
自分が注目されているのは装備のせいだと勘違いする夜雪。
確かに彼の装備は一目でユニークシリーズだとわかるが、それ以上に彼は有名だ。
「よし! 早速!」
シュタタタッとイズの店へと駆け出した。
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「こんにちはー!」
「あら、いらっしゃい!」
夜雪がドアベルを鳴らしながら入ると、何かしらの作業をしているイズがいた。
イズは手を止めて、夜雪の挨拶に挨拶を返す。
「イズさん! 造ってほしいです!」
説明も無しに造ってほしいと言う夜雪。
「え? 何を?」
当然聞き返すイズ。
「武器とか防具とか!」
端的に告げる夜雪。
「どんなの?」
こちらも端的に問うイズ。
「目立たないの!」
これまた端的に言う夜雪。
こんな会話が数十分続き、イズは夜雪が欲しているものを理解した。
「う~ん。今あるのじゃあ貴方に耐えられるものは無いわね……すぐに壊したし」
イズは夜雪のステータスを知っている。これは夜雪が直接伝えたのもあるが、渡した自作の魔法武器をたったの一回の戦闘で壊された為に、ある程度の強さはあるのだろうと考えた。本来武器を壊すには、耐久値と呼ばれる武器防具に付けられた値を全損させなければ武器破壊をなし得ることはない。
「すみません……」
「良いわよ。どうせ失敗品だったから。気にしてないわ。それよりも、そうね。材料を採取してきてくれない?」
夜雪はイズが言った材料にふむふむと頷く。どうやら何か考えがありそうだ。
「わかりました! 全部採ってきたら戻ってきますね!」
「ええ。お願いね」
夜雪はイズにそう告げて、スタこらさっさとフィールドへと飛び出した。
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夜雪は地底湖方面へと爆走していた。ゲーム内でも動きすぎると脳が疲労して動きが鈍くなるのだが、これはプレイヤーによって個人差がある。因みに、夜雪は50メートル走6秒台だ。
脳がどれだけ上手く働いてくれるかによって反応速度やスタミナなどの
夜雪がここまで走れるのはVR慣れしているからである。
と言っても、これで三作品目なのだが。
走りながらモンスターを討伐していく。
狼型のモンスターが夜雪に近づき、その凶悪な牙で肉を引きちぎろうとするが、ヒラリとかわして片手剣で斬りつけた。深々と刺さり、モンスターのHPが急激に減っていく。
夜雪はそのまま剣を振り抜き、モンスターのHPを全損させた。
「ふぅ! 中々疲れる」
次々に襲い掛かってくるモンスターを一々討伐しながら走る。
実はこれも新たなスキルを発現させる為の行動だったりする。実際に得られるかどうかはわからないが、試しにやっているわけだ。
そして、遂に着いた。夜雪は湖に近づき、道中で買った釣竿を取り出して釣り糸を垂らす。
そして釣り始めてから一時間。
「ほっ! よし、十匹目!」
釣りは順調に進んでいた。
「おー魚にトドメ刺すだけでも経験値入るんだ……」
実際に着々と経験値が溜まり、レベルが上がった。効率は大分悪いみたいだが。これは高レベル者の弊害とも言える。レベルが上がれば上がる程必要経験値が高くなる設定なのだ。大抵のゲームにも適用されるので当たり前と言える。
「【釣り】スキルかぁ」
夜雪は一時間の釣りで【釣り】スキルも取得していた。これにより更に釣りの効率が上がるだろう。
「おおおお〜! すっごく早かった!」
と、外へと繋がる道から黒髪の少女と茶髪の少女────つまりは、メイプルとサリーが来た。
「ん?」
「ん?」
「ん?」
三人とも首を傾げる。そして数秒。夜雪はバッと自分の姿を確かめ、フードを被っていることに安心した。
メイプルは目を瞑ってうんうん唸る。
サリーはと言うと、怪訝な顔で夜雪を眺めていた。
「あ〜すみません。私たちも釣りしたいんですけど……いいですか?」
夜雪を訝しげに眺めながらも、確認をとるサリー。
と言うのも、フードを被っているせいで夜雪の顔が見えないのだ。明るい色の外套だが、顔が見えなければどんな人物かわかるものでは無い。だからこそ、サリーは距離を置きたがった。
「え? あぁはい。どうぞ?」
夜雪は特に何も考えず了承した。……それが間違いだった。
「ありがとうございます。……ほら、メイプル。こっち」
「んー? んんー??」
サリーは未だに夜雪を見てうんうんと唸るメイプルを誘導して、夜雪から少し……いやかなり離れた場所に移動した。
「ほら、メイプル。始めようよ。と言うかどうしたの?」
サリーは地底湖に着いてから唸り続けているメイプルに唸る理由を聞いた。
「んーとね。何処かで見たことあるなぁって思って……あれ? あれれ?」
メイプルは何かに気づいた。それは(夜雪からすれば)気づいて欲しくはないものだった。そう、それは割と目立つ外套のど真ん中に大きく描かれた……勿忘草だった。一方夜雪はと言うと、いそいそと片付けをしており、二人に注意を払っていなかった。その為、背中の勿忘草が見えたのである。
「どうしたの?」
再びサリーがメイプルに聞く。しかし、メイプルにその声は聞こえていなかった。何故なら、勿忘草に注視……というよりも夜雪に注視していたからだ。
「あの人が、どうかした?」
「んーとね。何処かで見たことあるなぁ……って思って。記憶から引っ張り出そうとしてるんだけど中々出てこなくて。何か切っ掛けがあれば思い出すんだけどなぁ」
そう言ってまた唸り出したメイプル。サリーもメイプルに言われて、同様に今まであったことを思い返していた。
「よし。それではお先に失礼します」
夜雪は二人が話している間にもぱっぱと片付けを終え、律儀に二人に断ってからその場を後にした。そして振り返った時、今まで出していなかった
夜雪が弓を取り出したのは、帰りに一狩りする為と弓系統のスキルを上げる為である。夜雪はいつも忘れないように、覚えているうちに前々に準備する主義なので事前に弓の準備をしたのだ。今回はそれが裏目に出た。
サリーはその弓を見て、唐突に今朝のことを思い出した。
「あ………」
思わずサリーはそう溢した。それは近くにいたメイプルにしか聞こえない声だった。
「?どうしたの?」
「あの人……今朝メイプルが言ってた人に似てるなぁって思って。弓を持っていて勿忘草の外套を着てる人って、あの人なんじゃ?」
サリーがそこまで言うと、メイプルも思い出したようでグリンと音が成る程の速度で夜雪を見た。その背中は既に大分小さかったが、サリーならば走っても届く距離である。
「サリー!」
「オーケーっ!」
メイプルにプレイヤーネームを呼ばれた瞬間にその意図を察し、即座に夜雪を追いかけた。サリー自身も夜雪のことご気になるためか、その速度は洞窟に来た時よりも速い。……メイプルが背中に乗っていないからかもしれないが。(走る時の邪魔が無いという意味で)
「ん……?んん?んんん⁉︎」
夜雪は悪寒を感じて振り向いた。そこで見たのはサリーが全速力で夜雪に向かっているところだった。サリーの目が狩人のように鋭かった。
「うぇ?ちょっ、怖い⁉︎」
夜雪はサリーの顔に恐怖を感じて、その場から駆け出した。
「ちょっと……待って……止まって……」
息切れはしていないが、全力疾走で喋っているため、途切れ途切れの声が出る。
「いや、そんな鬼気迫る表情で見知らぬ人に追いかけられたら逃げると思うんですけど⁉︎」
真っ当なことを言う夜雪。夜雪が走っているため、サリーとの距離は徐々にひらいていく。
「くうう……早いぃ」
サリーは完全に追いつけないことを悟り、速度を落として止まった。あまりメイプルから離れすぎると未だLvが1のサリーでは、モンスターに出会えば即お陀仏だ。そんな状況を迎えないためにも、ある程度の所までしか追えない。
「はぁ……捕まえれなかったなぁ……でも、目標ができたから、いっか」
既に夜雪は遥か彼方におり、その背中は豆粒程しか見えなかった。
だが、夜雪は後悔するだろう。何故ならーーーー夜雪はサリーにロックオンされたからだ。
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「ふぃー。逃げ切れた……と言うか何だあれ、怖」
夜雪は逃げた勢いで、街まで戻ってきていた。まだその心にはサリーに追いかけられたら恐怖があるみたいだが。
「ってあれ?待てよ……?もしかして、いやもしかすると……あれって白峯さん⁉︎」
今更ながらにサリーの顔に見覚えがあることに気づき、そしてそれが知人だったことに驚いた。本当に今更であるが。
「おおぅマジかぁ……リアルでも気をつけなきゃいけないしゃん」
夜雪は落ち込んだ。ただでさえ目をつけられるような真似をしたのに、今回は完全に目をつけられていた。リアルだとクラスメイトの為、バレたらどうなるかわかったものではない。そんな風に気落ちする夜雪であったが、当の本人たちはと言うと……、
「や、やっと三匹目!」
「あ、またかかった!」
夜雪を諦め、釣りに精を出していた。平和である。
「あ、そうだ。ちゃんと目標の数取れたのか確認しなきゃ………」
夜雪はインベントリを表示して、【白魚の鱗】の数を確認した。
「20個か……まぁ大幅に目標超えちゃったけどいいよね」
夜雪に頼まれた数は10個。つまり二倍の数を夜雪は取っていた。
「よし、早速造ってもらおう!」
そう意気込んで、夜雪はイズの店へと急いだ。因みに、他の素材については既に持っていたりする。唯一手持ちになかったのが【白魚の鱗】だけだったのだ。
「イズさーん!ただいま戻りましたー!」
「はいはーい」
店の奥からイズが出てきて、夜雪に応対した。
「あら?もうちょっとかかると思ったのだけれど、案外早かったわね」
「【釣り】スキルを得たので!」
「ああ、そう言うこと」
イズは夜雪が予想よりも早く帰ってきたことに驚き、その理由を知って納得した。
「それじゃあまた2日後に来てくれる?他の子の注文が入っちゃって。ああ、もちろんあなたの方を優先するわよ?早かったもの」
イズは申し訳なさそうな顔をしながら、夜雪に言った。
「別に問題無いですよー」
ふわりと笑って了承する夜雪。あまりにも返事が軽かったので、イズは夜雪が悪い人間に騙されやしないか心配になった。
実際は何度か危機的な状況がリアルであったのだが、その度に誰かが未然に防いでいたので、大事になっていないだけだったりする。
「それじゃあよろしくお願いします!」
「はい。承りました」
夜雪はリズの店を後にした。
「さて……あとはどうしようかなぁ」
未だもう少し時間があり、止めるには少し勿体無い気がする夜雪。
「レベル上げか……新ダンジョンの開拓か……新スキルの獲得か……あ、次の階層はどうだろう?もしくは有名な場所を探してみるか」
うんうんと唸りながら街の外へと向かっていく。
と、ふと視界の端に長い赤髪がチラリと見えた。赤髪など何処にでもいるので、夜雪は気にしなかったのだが、向こうの人物は違った。
「よ、夜雪さん!」
「あれ?ミィ?」
そう。何を隠そう視界の端に映った赤髪はギルド【炎帝ノ国】を支配する少女、ミィだった。
夜雪とミィは、初めて会った時から時々フレンドメールをしており、それなりと言えるほど仲が良い。まぁ、大体のメールの内容はミィが弱音を言い、それを夜雪が励ますだけなのだが。
そんなやりとりがあるせいか、ミィは敬意を込めて夜雪をさん付で呼んでいるのだ。夜雪は気恥ずかしい思いをしているので何とかやめさせたがっているが。
「直接会うのは久しぶりだね。そういえば第一回イベント五位おめでとう!」
ニコニコと笑顔でミィを讃える夜雪。ミィは顔をほんのり紅くした。
「い、いえ。ありがとうございます!夜雪さんも四位おめでとうございます!流石夜雪さんです!」
そう。夜雪の順位は実は四位に上がっていた。と言うのも、最後の大規模な攻撃で大量に倒した為に、それがカウントされて順位が上がったのだ。
「ミィ、その方は?」
楽しげに会話をしていると、話しかける女性がいた。夜雪が目を向けると、長く美しい金髪と透き通る緑目を持ち、神官のような服装を着ているとある部分が大きい女性がいた。右手には、先端に飾りのついた白い長杖を持っている。
「あ、そうだね。えっと、こちら夜雪さん。私がまだ初心者の時に手助けしてくれた人で、とっても強いの!」
ミィが女性に夜雪のことを紹介する。
「で、夜雪さん。こちらミザリー。聖女って呼ばれてて、回復魔法が得意なんです。今は私の補佐役をしてもらってます」
ミィが夜雪にミザリーを紹介する。
「どうも、夜雪です。よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。ミザリーです」
お互いに頭を下げて挨拶をする。夜雪とミザリーはこれから仲良くできそうだと謎の確信を得た。二人してニコリと笑い合う。
「………?」
ミィは二人が何故笑いあったのか分からず、二人の顔を交互に見て最後に首を傾げた。
それからまた会う約束をしてから二人と別れ、街の外へ出る……直前に、夜雪はフレデリカと出会った。
「や、やぁ。……フレデリカ」
ここで出会うと思っていなかった夜雪は引き攣った笑顔でフレデリカに挨拶した。
「あれ?夜雪じゃない!」
夜雪と会い、花が咲くような笑みを浮かべるフレデリカ。二人の顔は対照的である。
「こんなところでどうしたの?」
フレデリカは不思議そうに夜雪に聞く、探そうとしても見つけられない夜雪が、何故今日目の前に現れたのか不思議でならないのだ。まぁ実際は夜雪がフレデリカを避けているだけであるが。
「あーえっと、ちょっと散歩に……」
苦し紛れに夜雪は言う。
「ふーん……じゃあ暇なんだ?」
意味深な聞き方をするフレデリカ。夜雪は不穏な空気を察知した。
「あー、いや。別に暇というわけでは……」
「ねぇねぇ。私行ってみたい場所があるんだ〜」
フレデリカはそう言って、強引に夜雪の手を引く。
「え、あ、ちょっ!」
咄嗟のことで反応できない夜雪。そのまま流れるように腕を組まれ、街を出た。
「よ〜し! 行こう〜!」
気の抜けるような掛け声を出して、二人は森の奥へと消えていった。
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一方その頃。メイプルとサリーはと言うと、夜雪同様釣りをしていた。サリーは釣りというより素潜り漁と言うべきだが。
夜雪と別れてから順調に魚を狩っていき、その数は80枚を優に超えていた。
それをメイプルに渡して、潜水している時に見つけた横穴のことを話した。
恐らくはダンジョン。地底湖に沈んでいることから、水中系のダンジョンだとサリーは予想した。そう言うわけでサリーは【潜水】と【水泳】のスキルレベルを上げている。
(メイプルやあの男の人に追いつくには、これぐらいしないといけない。ダンジョン初攻略に貰えるユニークシリーズ。これを確実に得る!)
サリーは気持ちを新たに、スキルレベルを上げていく。メイプルは遥か先にいる。洞窟で別れた男性だって、もしかしたらメイプルよりも遥か遠い場所にいるのかもしれない。今現在でさえ油断ならない。メイプルに近づく為に。男性を超える為に。強く強く、ならなければならない。
初めのダンジョンでなんか、躓いてられない。
「プハッ!」
ザバリと水から顔を出し、空気を取り込む。と、同時にスキルレベルが上昇したアナウンスが流れてきた。
(絶対、負けない!)
フレデリカ……強引な子になったなぁ。後悔はないけど。