「うたちゃんへ
大切な話があるので、放課後屋上に来てください。
つよしより」
歪んで開けづらくなった下駄箱を大きな音を立てて無理に開くと、そこには、ピカピカにデコレーションされたお手紙が入っていました。
うたちゃんは、脱いだ外靴と入れ替えるようにそのお手紙を手にとって、まじまじと見つめます。
つよしくんというのは、うたちゃんととっても仲の良い男の子で、お調子もので、ちょっとしたことにもすぐに喜ぶ、素直で、笑顔の素敵な子です。
さて、別にお手紙じゃなくて直接言いに来ればいいのに、なんておもったうたちゃんは、キラキラしたお手紙を手に持って、つよしくんのいるであろう教室にむかって歩きます。
つよしくんは3年生で、うたちゃんは一年生なので、周囲の先輩たちの視線は、めったに三年生の教室になんかは来ない、一年生の生徒に釘付けです。
そんな視線に気づいてか気づかずか、ずかずかとつよしくんがいる席にまで詰め寄り、件のお手紙を見せつけて、
「だいじなお話ってなあに? 今じゃだめなの?」
なんて、あっけらかんと訊ねます。
みんなの前で、キラキラのお手紙をさらしあげられてしまったつよしくんは、あわあわとあわてて、顔をまっかにしながらうたちゃんを教室の外まで連れ出します。
「うたちゃん、お願いだから、そのお手紙のことは、他の人には秘密にしてね。」
とっても必死におねがいするつよしくんの様子に、うたちゃんはなんどもうなずきました。
うたちゃんにとって退屈な、つよしくんにとっては長すぎる、一日の授業がおわりました。
とうとう、つよしくんとの約束の時間になったのです。
今日じゃなくたって、毎日、屋上でつよしくんとうたをうたったりしているうたちゃんにとっては、楽しい日常の始まりにすぎませんでしたが、つよしくんは心臓をばくばくと鳴らして、ぱちぱちと、過剰なまでに目をまばたかせるほど、だいじで、緊張する日なのです。
屋上への入り口につながっている階段の周りには、いつもの数倍、いや、数十倍の人が集まっているというのに、うたちゃんはまるで不思議に思わず、いつもどおり、さっさと階段を登って行きました。
屋上への入り口、学校からの出口を開くと、王子様みたいなかっこうをしたつよしくんが、手を後ろに組んで、うたちゃんが来るのをまっていました。
うたちゃんが頭の上に、?マークを浮かべていると、つよしくんはうたちゃんの前にひざまずき、後ろ手にもっていた、真っ赤なバラの花束と、小さな箱を取り出し、女王さまに剣を捧げる騎士のように、うやうやしく、うたちゃんへとそれらを差し出します。
「うたちゃん、その、僕と、結婚してください!! 」
緊張のあまり、すっこけそうになるほど回らない舌になりながらも、なんとか、つよしくんは気持ちを伝えることに成功しました。
やっとなにが起きているのかわかったうたちゃんは、差し出された花束を抱きかかえて、つよしくんに近づくと、ひざまずくつよしくんの額にキスをして、今まで見たことのないような笑顔を見せました。
「とってもうれしい。約束する、あたしたち、きっと結婚しましょう。けれどね、まずはお付き合いしはじめてからじゃないかな。」
額にキスをうけたつよしくんは、嬉しさや気恥ずかしさや照れがごちゃごちゃになって、バラの花束よりも真っ赤な顔になって、何度もうなずきながら、うたちゃんを抱きしめました。
青くてどこまでも続く空に、バラをくわえた白いハトが飛び去っていきました。