「天気は最高! 波も穏やか! ダイビング日和!」
「日頃の行いだな。 俺の」
「寝言は寝て言え桐ヶ谷。俺の日頃の行いに決まってるだろ」
「「あァ!?」」
船上で取っ組み合いを始める和人、伊織、耕平を冷めた目で見つめるのは今日も今日とて一緒にいる千紗に愛菜、ついでに桜子である。
桜子はライセンスを持ってないから一緒には潜れない、と和人から説明があったのだがそれでもダイビングはするとの事で着いてきたのだ。
「あぁ、そうだ千紗。 カメラあるか? 折角だから写真撮ろうぜ」
「あ、いいね」
六人が身を寄せ合いなんとかフレームに収まるようにしようとする。 桜子は伊織の腕に抱きつき文字通り「当ててんのよ」なんてことをし愛菜は憤慨した。
「そんなに腹ただしいのならお前もやればいいじゃないか」
「─ッ!!!」
耕平の言葉に天啓を得たとばかりに愛菜も伊織の腕に抱きつき写真に写る。 男女かしまし、大学生らしい青春を送ってるなーと思う和人達はいい笑顔だった。まぁ、愛菜に抱きつかれた伊織が抱きついてきたのが耕平か俺と勘違いしたせいで、愛菜に胸を揉まれることになったけど。
それはさておき、本日一回目のポイントに辿り着くと桜子とは別れ潜ることとなる。
考えればパラオから帰ってきてあまり潜ってなかったな、と思えば期待値は上がる一方だ。
ブイの下で集合するとゆったりと潜っていく。 今日の海は暖かい。
運が良かったのか寝ているサメやらなんやら、以前、沖縄に来た時には見る事が出来なかったモノが色々と目に入る。
俺がやりたいこと。やってみたいこと。
一度目のダイブが終わり再び船上に戻ると千紗が撮った写真を皆で見ていた。
やっぱり俺もカメラを買うべきか…
「桐ヶ谷くんもカメラ買う?」
「あぁ、千紗のを見ていたら欲しくなってきたよ。向こうに帰ったらドルフィンに行こうかな…付き合ってくれるか」
「もちろん」
ふんす、と気合を入れている千紗。さすがに高いものは買えないぞ? と牽制しておくと少し萎んだ。ダイビングが絡むとアホになるな…
気がつくと伊織と桜子がどこかに消えていた。
「二人なら船頭に行ったぞ。景色を見るとかで」
「伊織、あの人に構いすぎじゃない!?」
「まぁ仕方ないだろ」
「あぁ伊織だしな」
「なんで!?」
愛菜は納得がいかないようで喚いているが…
「私たちがダイビングの話で盛り上がると一人になっちゃうからじゃない…?」
千紗の一言は思いのほか的確だった。
伊織はなんというか騒動の元である事がほとんどだが巻き込む時は一人も余りなく巻き込みきってしまう。 それでどれ程、俺がキツい目にあったか…!!
まぁ、理由はなんにしろダイビングに着いてきた桜子を一人にすることは伊織の少ない良心が良しとしなかったのだろう。
まぁ最も下心もかなりあるとは思うのだが。
「はぁ…自己嫌悪……」
「自分の器の小ささにか?」
「そこまで言う!? いや、でも……うん。そうかも」
少し冗談めかして言ったつもりが愛菜は思いの外凹んでいたようで俯いてしまう。 いけない、千紗がこちらを睨んでいる……!
「だって和人や耕平の方が伊織のいい所沢山知ってたし…」
いけない、千紗がゴミを見るような目で俺と耕平を眺めている!
「あ、愛菜だって俺と耕平みたく朝から朝まで伊織と一緒に居たら見えることあるんじゃないか? たまたま俺たちは居る時間が長いだけだろ……!」
「ケバ子、お前と俺達の違いはなんだ?」
「え、……性別?」
「それもそうだが、一番はお前が
耕平の癖にいいこと言うな。しかし彼の言うことは最もだ。俺も最近アスナの好意に甘えて好き勝手やり過ぎたかもしれない……気をつけねば。
ふと、千紗の方を見ると無表情でフリーズしていた。あれはキャパシティを超えた時に見られる顔だな。ここ数ヶ月過ごしてきて何となくわかるようになった。 もしかしなくても愛菜が伊織を好きと気が付いていなかったか。
「何の話してるの?」
「毒島様がしょうもないな、って話だ」
「どういう事よ!?」
船頭から戻ってきた桜子に対してシレッと嘘を伝えながら冷えたお茶を手渡すと彼女は分かっていたかのようにそれを受け取り、隣に腰を下ろした。
「そういや元々ホテルを取ってた伊織と千紗はまだしも、耕平達はホテル取れたのか? なんかどこも予約一杯だっただろ」
「「…………」」
なんだその無言。
「ラブホにでも泊まったのあんたら」
「そ、そんなわけ、わけないじゃ!? げほっごほぉ!!!」
見後なまでの狼狽だ。しかし、この二人が……
いやまぁ、どうせ泊まるところが無かっただけだろうし愛菜の事だ。耕平を縛り上げて浴槽に放置でもしただろう。
「え、マジで?」
「そういう桜子はどうしたんだ。 和人と同室だったのか?」
「まさか。 シングル二部屋よ」
「俺が予約したんだけどな?」
「私は別にどうでもよかったんだけど、コイツってば菩薩みたいな表情をしながら鼻で笑いやがったのよ」
桜子に褒美として同室でもいいわよ。とか言われた瞬間、鼻で笑ったし何なら愚か者を見る目をしてたと思うんだが?
「和人……」
「いや、二人っきりの沖縄旅行をし始めた伊織達に俺を責める権利はない」
「明日奈さんに報告する?」
「馬鹿か。 この俺がアスナに黙って旅行に来るとでも?」
「「「「うん」」」」
毒島様以外みんな肯定…
たしかに、ここ数ヶ月の俺の行動を思い返してみれば少し酷かったかもしれないな。向こうに帰ったらアスナに会いに行こう…
「俺も同行しよう」
「耕平は来なくていいんだが…?」
「貴様だけ俺の妹に会うなど笑止千万!」
「直葉はお前の妹ではないんだが!?」
最近のコイツら本当に油断出来ないぐらいにヤバい気がする。
その後も二度目、三度目のダイブを終えて夜の便で帰ることになったのだが伊織と桜子だけ最終便で帰ると言い始めた。 ぶっちゃけ俺はそうなることを知っていたので喚くケバ子の背を押して先にGrand Blueへと帰るんだ。
「しかし何故、桐ヶ谷はアイツの肩を持つ?」
「あー…バイトの件も色々とあったんだけど。 前にちらっと聞いたんだよ。 何で伊織が好きなんだ?って」
「ふむ。金か?」
「『本気の好きを大事にしてくれる』って」
最初は半信半疑だったけどアレを聞いちゃうとな。 先輩たちが持ってきてくれた水を飲みながら苦笑すると耕平も頷いた。
「なら、仕方ないか」
「あぁ、仕方ないだろ」
「和人くん、耕平くんちょっといいかな?」
「どうしました、奈々華さ……ん…」
その時俺たちは幻視した。 今の
「あのね伊織くんどこかな?」
「いいいい伊織なら、も、もう少しで帰ってくるかと!?」
「そ、そうです。3時間ほど後の飛行機なのでそろそろかと!!」
「そっかぁ。ありがとうね」
スタスタと、いつも通りの微笑みを向けながら去っていく奈々華さんに俺と耕平、あと様子を伺っていた先輩方も静かに、静かに酒を飲む。
さようならだ、伊織。
「ん?」
心の中でいずれ帰ってくる伊織に合掌をしていると不意に端末が振動した。 誰からだろうか
【摩耶さん 1件】
いけない。耕平に気が付かれないように処理をせねば。