俺じゃない誰かなら   作:あたまくら

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 まえおき

 原作を読んでいないという方にはブラウザバックを推奨します。
 そうでなければ詳細が理解できないところが多々あるからです。
 


 SAOとアクセル・ワールドのクロスです。
 
 原作十七巻から二十四巻までの話をやる予定です。

 一応最大の注意として、余りキリトさんとシルバー・クロウの戦闘に重きを置いていません。

 


プロローグ

 

 ―――咆哮が、響く

 

 

 どす黒い混沌を宿した瞳。

 全身から立ち上る赤黒いオーラ。

 背中から生える一対の翼。

 

 ―――悪魔は今、終末の神を殺さんとす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここは……、どこだ?」

 

 ぽつりと、無意識にそんな言葉が漏れた。知らない天井、知らない、薄暗い部屋。困惑気味にあたりを見回しながら直近の記憶を呼び起こす。

 ……なにか、夢を見ていたような気がする。それも、決していい夢ではなかった。思い出そうとすると、鈍痛が頭を襲う。喪失感の残滓がチラつく辺り、いつもの後悔の焼き直しなのだろう。

 肝心なのは眠りにつく前の記憶だ。確か、比嘉さんのとこでバイトを……、ああ、そうだ。

 小型STLの試作品みたいなもののテストダイブ、だったか? ダイブの際に不具合があったのか、記憶に混乱が起きたらしい。

 確か彼の話では今回のデザインはうららかな森だったはずだが、明らかに自然物ではないもので周囲が構成されているし。森林浴で身も心も癒されるッスよ! みたいなことを言っていた彼の眼鏡には、度が入ってないのかもしれない。

 実験が失敗したのか、それとも何かの手違いかと訝しみながら首に手を伸ばすと、そこには比嘉さんから渡されたテストダイブ用のデバイスが。

 つまり、ここはVRワールドではない……?

 

 とすると、ここはリアルの俺がダイブした部屋……ではないだろう。こんな何もない閑散とした部屋ではなかった。その上、人の気配もない。

 

 「誰かいませんかー!」

 

 一応確認のためそう叫んでみるが、案の定返事はないし、比嘉さんからのメッセージもこない。

 頭をがしがしかき、困惑と苛立ちの混じった声を漏らす。

 

 「ったく、どうなってんだよ……」

 

 とりあえず、現状を確認するために部屋を見回ることにした。 

 ベッドではなく、壁に寄りかかっていたことを訝しく思いつつ、歩きだす。それと同時に、電気がついた。思いの外ハイテクのようだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし、本当に何もない。三つ目の部屋を確認し終え、その事実に首をひねる。かなり大きな家―――マンションかも知れないが―――だというのに、生活感がなさ過ぎる。人が住んでいた形跡が全くないのだ。空き家なのだろうか。VRワールドならまだいいが、万が一ここがリアルなら、俺がいるのはだいぶまずい。何となく気味が悪いし、早く玄関を探して外に出てしまおう。

 そんなことを考えながら、目の前のドアを開け放つ。

 

 「なんだ、洗面所か」

 

 外れだなと呟きドアを閉めようとして、俺は動きを止めた。複数の収納棚のついた洗面台。当然その上に設置されている大きめの鏡。そこに映る人影の長めの、ダイブする前よりも長い黒髪に、同じく真っ黒な、ブラックオニキスのような瞳が目に入った。その瞬間、俺は絶句して、立ちすくんだ。

 

 「誰だよ、こいつ……」

 

 見慣れない、見覚えのない、()()()()()()()()女のように柔弱な顔が、こちらをじっと見つめていた。B級ホラー映画のような展開だが、ちゃんと俺と左右反転したポーズをとっているし、勝手に動き出す気配もない。つまり、これが俺?

 と、そこまで考えて、俺の頭にある考えがよぎった。いつかの焼き増しのように手を胸にもっていき、そこにふくらみがないことを確認する。

 ―――よし、絶壁だ。

 どうやら性転換という最悪の事態は回避できたらしい。

 理由は不明だが顔が変わっている以上、ここがリアルではないことは明らかになったので、不法侵入でしょっぴかれることはなさそうだ。

 ほっと安堵の息を吐き、ならどこのVRワールドかと思考を巡らせる。ビッグタイトルにこんな現代的なコンセプトのものは無かったはずだし、そもそもゲームでもない気がする。思考を巡らせては見るが答えは出ず、とりあえず俺はまた歩き出した。

 

 「はあ、ようやく見つけた」

 

 それから少し歩き回って、ついに玄関にたどり着いた。とりあえず外を確認してみないことには考察も何もあったもんじゃない。

 用心深くかけられているチェーンを外し、ドアを開け放つ。視界に入るのは、所狭しと立ち並ぶ無数の建造物と、雲一つない青空。

 

 「嘘…、だろ」

 

 そこで俺は、今日何度目とも知れない驚愕の声を漏らした。漏らさずにはいられなかった。

 せわしなく歩き回る人の波、幾多の高層ビルの合間を縫って、かろうじて目に入る紅白に彩られた電波塔、仮想の世界にあるはずのないもの、東京タワーがこの世界には存在していた。

 いや、無いとは断定できないか。それでも、俺はここが現実世界であることを何となく理解していた。

 既存のVRワールドではありえない、リアルそのもののグラフィック。アンダーワールド以外にこんな大規模な世界を作ったという話は聞いていないし、リアルの東京都を、そこで暮らす人々さえも再現する必要があるとは思えない。

 ダイブ中に運ばれたのか? 何のために? そもそも顔が変わっていることに説明がつかない。

 

 受け入れがたい、しかし信じざるを得ない事実に、俺は唖然と立ち尽くす事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――日が、暮れた。

 

 身じろぎもしない俺を心配した通行人の一人が声をかけてくれたことでなんとか我に返り、とりあえず出てきた家に戻ることはできた。

 唯一の手がかり、というよりこの異常事態の原因としか考えられない件のデバイスをおそるおそる、曖昧な記憶で四苦八苦しながら起動させ、検索エンジンを稼働させる。しばらくして、俺はこの世界が二〇四七年、ダイブする前から二十年以上もたっていることを知った。

 ちなみに、このデバイスは《ニューロリンカー》と呼称されているらしい。同じものかは解らないが、少なくとも機能には一切違いがなかった。

 しかしそれ以上に驚愕したのが、この世界でSAO事件は起こらなかった、ということだ。

 内蔵されている検索エンジンを使って調べた情報によると、SAO自体は存在しているらしい。世界初のVRMMORPGとして凄まじい知名度を得たようだが、デスゲームに変貌することも無く数年のうちにクリアされ、何度かのアップデートを経て今はいくつかのタイトルと併合されたそうだ。

 つまりこの世界は並行世界、俺が住んでいた世界とは別の歴史をたどった別の世界だ。

 また頭を抱えかけたが、そこでいつかの比嘉さんの言葉を思い出した。確か、量子コンピュータは別の世界に干渉する云々。

 だが、その理論では転移するのは俺のフラクトライトだけのはず。肉体まで転移することは流石にありうるまい。

 ならばなぜと思考を巡らしては見たが答えが出るはずも無く、代わりに別の疑問が浮上した。

 

 すなわち、この世界の俺は存在しているのか、という疑問だ。茅場晶彦が存在していることは確認済みだし、なんとなく彼がいるのなら俺もいるのではないか、と思ってしまう。

 そして、俺が存在しているのなら、他のみんなも。

 俺の家がある埼玉県川越市まで、物理的な距離はそうない。一瞬訪ねて見ようかなとも思ったが、今の俺は見知らぬガキであり、あの人たちの息子ではない。いや、向こうでもそうなのだが。

 それに、この世界にSAO事件は存在しない。

 つまり、俺はアスナとは出会わない。なぜなら彼女はあの日、たまたま好奇心であの世界に足を踏み入れたに過ぎないのだから。

 俺をはじめとするネトゲ中毒者のようにサービス開始と同時にログインしたりもせず、おそらく一時間もしないうちにログアウトしただろう。

 その後はVRゲームとは縁のない生活を……、いや、レクトがあるのか。

 まあ、俺と関わることは間違いなくなかったであろうが。

 そして、この世界の俺はアスナと出会わず、故に人との距離感が解らないままに成長し、いかなる場所でも、無論家庭でも孤立したまま大人になったのだろう。

 『人よりゲームが少し上手いだけの少年』は、救世主にも、勇者にも、英雄にも、反逆者にも、ましてや王になることも無く、ただの社会不適応者になったのだ。

 所詮、俺が自身の力のみで辿り着ける末路なんてそんなものだろう。

 それに十七、直葉が高校生になる時には俺が兄ではなく従兄であることを知られる日が来る。

 あるいはもう少し早く、冷めきった俺の態度に耐えかねた彼女が翠さんに直談判したり、俺が詰め寄られてうっかり漏らすかもしれないが。

 どちらも、特に後者はありそうだな。

 

 ―――だってしょうがないだろ、本当の家族じゃないんだから。

 

 俺の言いそうなことだ。

 しかし、たとえそんな言葉を俺が吐き捨てたところで、彼女の、直葉の態度は変わるまい。

 心優しく、そして一本芯の通った、俺より、ましてやこちらの世界の臆病な俺よりもずっとずっと強い自慢の妹だ。

 そんな言葉に動じることもなく、俺を兄として慕い、むしろ積極的に接するようになるだろう。

 しかしその彼女の厚意に、この世界の俺が応えることは決してない。

 家を離れたいがためにあえて遠くの大学を受験し、もしくは直葉の追求を避けるために高校の時点で家を出るかもしれない。

 今はどこかでひとり寂しく、いや、その孤独を居心地良く感じながら生活しているのだろう。

 その腐りきった性根と臆病さが、俺の本質だ。

 

 それでも、元の世界の、つまり俺自身の方が、もっと最低だ。

 アリスを逃がすためとはいえ……、それも言い訳だな。

 本物の仮想世界で生き、そしてそこに骨を埋めたいがため。

 それだけのために、俺は帰れないと解っていながらあの世界に残ったのだ。

 アバター喪失のリスクと、無限の苦痛を承知で俺を救いに来てくれた彼女たちの想いを踏みにじり、彼女たちを諦めた。

 アスナが残ってくれなければ、俺は魂の寿命を使い果たし、二度と目を覚ますことはなかっただろう。

 俺の帰還を願う大勢の人々を悲しませ、消えない傷を刻みこんで、俺は死ぬつもりだった。

 

 人が一人で死ぬなんてあり得ない、俺の中にももう君がいるんだ、なんて偉そうにシノンを諭したくせに。

 

 もうどこにも行かないと、涙を零す直葉に約束したはずなのに。

 

 最期のときまで、ずっと一緒にいると、抱き合いながらアスナにそう誓ったというのに。

 

 その上たまたま生きていたから、のうのうと元の生活に戻り、何食わぬ顔でアスナの彼氏面をして、彼女達とも今までどおりに接している。

 

 なんだ、客観的に見れば、いや、主観的でも充分、最低の屑野郎じゃないか。

 こんな()、別世界に飛ばされるのも当然だ。いなくなったほうが彼女たちのため……、と、こんなことを考えていてはまたユイとアスナに怒られてしまう。

 呆れた顔で、「パパは自己評価が低すぎます。」だなんて言われそうだし、他のみんなにも色々言われるだろう。そんな言葉に心地良さを感じてしまう自分に、さらなる嫌悪を募らせる。

 そう考えると、こちらの俺のほうが幾分マシか。

 とはいえ、こんな考察に意味などあるまい。どちらが下か比べることになんの生産性もないし、時間の無駄だ。

 

 それよりも、もっと生産的なことを。何か帰還の手がかりになるようなものは……。

 

 そこで俺は、ニューロリンカーに通知が一件届いていることに気がついた。

 時刻は、ちょうど俺が目を覚ましたのと同じくらい。いや、それよりも少し前か。首を傾げながらそれを確認する。

 

 《Brain Burst2039をインストールしました。》

 

 表示されていたのは、そんな一文だった。ブレイン・バースト? なんだそれは。

 ゲームの題名のように思えるが、なぜいきなりインストールされたのだろうか。

 事態に追いつけずにいると、今度はマニュアルが表示される。

 

 《バースト・リンクと発声してください。》

 

 この上なく簡潔な説明文に、俺はええい、ままよとやけくそで叫んだ。

 

 「バースト・リンク!!」

 

 直後、バシイイィィッ!と小気味のいい衝撃音が鳴り響き、世界が凍った。

 意識が浮上し、訳の解らない空間に転移する。

 おそらくは仮想空間だろうと、コマンドからあたりをつけ周囲を確認するが、先程までいた部屋に輪をかけて何もない。

 

 「どうすりゃいいんだよ……。」

 

 ぼやきながら半ば無意識に手を振ると、ウインドウが出現した。

 まさかALO式だとは思っていなかったので少々面食らったが、とりあえずログアウト操作をしようとメニューを操作する。

 

 「へ?」

 

 直後、無慈悲にも視界が暗転し、ウインドウが消滅する。

 目の前に表れた【HERO COME……】の文字を訝しく思う間もなく、俺はまた別の空間に投げ出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 
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