俺じゃない誰かなら   作:あたまくら

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三話

 

 二〇四七年七月三日

 

 僕、有田ハルユキはとある薬局の前で、中に入るでもなくまごついていた。

 

 つい先程、《キリト》改め《スター・ロード》との再戦が叶った。しかし、普段以上の闘志を以て挑んだその一戦は、はっきり言って完敗であった。

 僕は終始圧倒され続け、最後には《トラバサミ》なる蹴り技で首をはねられてしまった。

 最初の戦いのときよりも遥かに成長したと思っていたのだが、向こうのそれが僕を上回っていたということだろう。

 サーベラスに敗れたときのようにがっくりとへこんだ訳ではないが、まだまだ精進しなくてはと考えつつバーストアウトしようとしたのだが、何を思ったのかキリトが僕に声をかけてきたのだ。

 

 ―――リアルで会おう、と

 

 無論僕はええぇっ!? 何言ってんですか!!?と驚愕しながら叫ぼうとしたのだが、幽体状態の敗北後アバターではこちらの声は届かない。

 僕はいくらか逡巡した後、結局指定されたこの薬局に来てしまった、というわけだ。

 

 先輩や師匠にバレたらお説教確実であろうし、何よりリアル割れはバーストリンカーにとっては致命的。

 そのリスクを承知でここに来たのは、キリトという人物への興味と信頼故だ。

 まだたった2度戦っただけだというのに、彼は決して卑怯な真似はするまいという、妙な確信があるのだ。

 

 とはいえ、それでも禁忌は禁忌。この後に及んで入るか入るまいかを決めかね、僕は自動ドアの前を行ったり来たりしていた。

 と、そんなふうに挙動不審になっている僕に、いきなり声がかけられた。

 

 「やあ、君がクロウかい?」

 

 背後から響いたどこか中性的な声に慌てて振り向くと、そこには黒一色のボーイッシュな装いの女性が立っていた。

 僕はふぇぐぅと意味不明なうめき声を漏らし、その女性をジロジロ見つめ、半信半疑でこう言った。

 

 「え、えと。あなたが《キリト》ですか?」

 「ああ、そうだよ」

 

 僕の疑問に女性は外もなげに答える。思わず漏れそうになったマジですか!?という言葉をなんとか飲み込み、もう一度目の前の人物をまじまじと見る。

 肩まで伸びた艶のある黒髪、ブラックオニキスのように輝くきれいな黒い瞳、そして、華奢な身体に細い手足。

 うん、どっからどう見ても女の人だ。

 そう結論づけた僕は、意を決して口を開いた。

 

 「びっくりです、女の人だったんですね」

 「……殴っていいか?」

 「すみませんでしたぁ!!」

 

 可愛らしい笑顔から放たれたドスのきいた声に、僕は反射的に頭を下げた。どうやら男の人らしい。

 えー、本当かなあ、となおも訝しげな視線を向ける僕を、彼(?)は凄まじい威圧感を放つ笑みで封殺し、漸く口を開いた。

 

 「改めて、桐ヶ谷和人だ、よろしく。えーっと……」

 「あ、有田ハルユキです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 ごく自然にリアルネームを名乗った彼に、こちらも慌てて自己紹介を済ませる。

 

 「さて、立ち話も何だし、移動しようか」

 「え? あ、じゃあそこのファミレスにでも……」

 「悪い、飲食店はちょっとな……。あっちの公園でいいか!?」

 

 彼は苦笑しながらそう言うと、近くの公園を指差した。遊具のたぐいはないが人はおらず、ベンチが数台あるので話し合いにはうってつけだろう。

 僕の提案を断ったのはお金の問題かな……、と下世話な勘ぐりをしつつ、公園に入りベンチに座る。

 

 「えっと、それでどうしてリアルで……」

 

 まあ、真っ先に聞くべきはこれだろう。先走ってはしまったが、よく考えれば目的も要件も僕は一切知らない。

 あまりにも向こう見ずな自分の行動に内心でため息をついていると、キリトが口を開いた。

 

 「ああ、なんと言えばいいんだろうな……。目的探しのため、かな」

 「目的探し……?」

 

 彼の言葉の意味を図りかねた僕は、訝しげな声を漏らした。目的を、探す……とは一体どういうことだろうか。

 

 「うん、あまり詳しくは言えないが、こっちにも事情があってね。俺がここにいる理由が、おそらく君にあると思ったんだ。」

 「え、えーっと、それはつまり……?」

 

 理解が追いつかず困惑する僕に、キリトは真剣な表情でこう告げた。

 

 「単刀直入に言おう。俺を黒のレギオン、《ネガ・ネビュラス》に入れてくれ」

 「え?」

 

 間抜けな声が、口から漏れた。彼の言ったことを脳内で反芻し、一応の理解をする。

 

 「え、ええっ。キリトさんが!? ネガビュに!?」

 「お、おいおい驚きすぎだろ……。やっぱだめなのか?」

 

 仕方がないだろう。いくらなんでも唐突すぎる。

 

 「い、いやそういうことじゃなくてですね!? あまりも急すぎたというか脈絡が無かったというか……」

 「ああ、悪い悪い。……ってことは、レギオンに入ること自体は良いのか?」

 「あ、いや僕の判断だけではどうにも……。先輩の許可がないとだめだと……」

 

 と、そこで不用意に先輩、と口に出してしまったことに気づく。

 今までの話の流れから、それが黒の王《ブラック・ロータス》をさしていることは明白だし、僕のリアルは先程の自己紹介で完全に割れているのだ。そこから黒雪姫にたどり着くことは難しくはあるまい。

 彼がそれを悪用するとは思えないので問題はおそらく無いだろうが、迂闊にレギオンメンバーのリアルに繋がる情報を漏らしてしまった自分のあまりのドジさに、ため息が出てしまった。

 

 そして、肩を落とす僕を訝しく思ったのか、キリトが口を開き、心配げに尋ねてきた。

 

 「大丈夫か? あ、やっぱり何か問題があるとか……?」

 「いえいえいえいえっ、何も問題ありません!! むしろ大歓迎です!」

 「そ、そうか……」

 

 慌ててぶるんぶるんと首を振る僕に、若干引き気味の声を漏らすキリト。

 

 降って湧いた彼のレギオン加入は、間違いなくかなりの戦力増強となる。なにより加速研究会との決戦に備えて、仲間が増えるのは願ってもない話だ。

 

 だが、今すぐには無理だろう。

 無論、黒雪姫の許可が必要なのもあるが、数日後に控えた七王会議の件もあり、ネガビュはかなり立て込んでいる。

 会議を終えて、一旦落ち着くまで待ってもらわなければならない。

 

 「ふむ……、なるほど」

 

 それを彼に説明すると、どうやら納得してくれたらしい。

 

 「その七王会議っていうのは、いつやるんだ?」

 「えっと、七日です。その後なら多分いつでも、先輩にも話しておきます」

 

 特に彼の質問を訝しむこともなく、僕はそう告げた。本当は言うべきではないのだろうけど、彼がそれを漏らすこともないと思っていたからだ。

 

 「ありがとう、よろしく頼む」

 「い、いえ、こちらこそ」

 

 そして連絡先を交換し、僕はキリトと別れた。

 ……別れ際に彼が浮かべていた、いたずらっぽい笑みに気づくこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 というわけで短めですが投稿です。
 あと、前話読み直したんですけど、あれじゃトラバサミがどんな技かよくわからないことに今更気づきました。

 あれは私が考えた技で、右足を相手の即頭部に添えて頭を固定し、左足を踵落としの要領で思い切り首に打ち込んで無理矢理切断する技です。

 自分の体が相手の体と垂直で、かつ足が相手の方に向いており、相手の首と同じ高さでないと使えないという凄まじい発動難度と、それに見合った威力を備えた大技です。殺傷力が高すぎるのでSAOではプレイヤー相手には使えず、ALOでは消されてしまった、という設定です。ついでに人型に近いモンスターぐらいにしか使えないのでキリトさんはこの技を使ったことがほとんどありません。思い出せたのは彼の飛び抜けた戦闘センス故、とお思いください。あとは星王の記憶。


 
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