サーヴァント・サマー・フェスティバル推量 -マテリアルに記録されていない、芸術に彩られた夏の話をしよう-   作:影斗朔

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イベントメインストーリー『Wake up! XX!』直後のお話。
今回はジャンヌ・オルタ視点になります。


だって男の子なんだもん。

 さて、と。題材は決まってないけど、漫画を描くと決めたからには何かしらの題材を決めなきゃね。

 やけに機械じみたフォーリナーを退けてからそんなことを考えつつ、ようやくホテルのスイートまで戻って来れた。

 とりあえずは道具一式を揃えて私の部屋に作業環境を整えると決まって、早速取り掛かり始めた……のはいいけど。

 

「あれ、牛若は?」

「牛若丸ならもう取材に出たわよ。藤丸、アンタ何ぼけっとしてんの?」

「お、おかしいな……」

 

 さっきからマスターの調子がおかしい。

 話しかけてもどこか上の空だし、返事も「うん」とか「そうだね」とか一言で済ましてる。おまけに話すら覚えていない。

 体調が悪いとかそんなんじゃなさそうだけど、だったらちゃんとしてほしい。

 

「まったく、さっきダヴィンチの真似して「まーかせて」なんて言ってたじゃない。しっかりしてよね」

「フォーリナーと遭遇してから、どこか心此処に有らずといった状態ですよ、先輩。何か気にかかることでもありましたか?」

「気にかかることがあんなら早いうちに言っといた方がいいぜ。後になればなるほど言い出しにくくなるし、初動が遅れちまったら必然的に全体が遅れちまうからな」

 

 どうやら残っていたマシュとロビンも気付いていたみたいだ。

 というか、ロビンってなんだかんだで人のことちゃんと見てるのよね。英霊としての在り方がそっち寄りなのかしら。

 

「ロビンさんもこう言ってますし、言い出しにくいことでなければ話していただけませんか?」

「下手に出る必要なんてないわよマシュ。こういう時ははっきり言ってやらないと、いつまでもダンマリを決め込むでしょコイツ。てなわけで、薄情しなさい? でないと燃やすわよ」

「わ、わかった、薄情するよ。マシュの言う通りフォーリナーのことについてなんだけど…………あまりにもカッコ良過ぎない?」

「────は?」

「え?」

「んん?」

 

 照れ臭そうにして何を言い出すかと思ったら、あのフォーリナーがカッコいい?

 ちょっと何を言っているのかよくわかんないんだけど。

 

「アンタあのバケツ甲冑が頭から離れなくなるくらい気に入っちゃったわけ?」

「おいおい正気か? あんな誰彼構わず殺意振りまいてる怪しさ満点のサーヴァントに、好意を抱く要素なんぞなかったと思いますけどねえ」

 

 ほら、ロビンだってこう言ってる。

 こんなのでも人理を修復したマスターなんだから、敵味方の区別くらいは流石につけているでしょうけど、こうもぼけっとされるのは困るのよね。

 

「いやまあ、たしかに人格はバーサーカーかなって思うくらいだし、積極的に関わりたいかって言われたら違うけどさぁ」

「そんならどんな理由なんだ?」

「今の時点で伝わらないから理解されないとは思うけど、……はっきり言うよ」

「……どうぞ?」

 

 別にどんな理由だろうと私はどうでもいいんだけど、それで作業に支障が出るのならそうは言ってられない。

 改善できるようなものなら改善されて作業に集中させる。

 まあ、一目惚れみたいな甘っちょろい理由だろうし、すぐ別のことに興味を移すでしょ。

 ……なんて考えを抱いていた私の方が、ちょっと甘すぎたかもしれない。

 

「BBちゃんはメカとも言ってたけど日本では機械装置をメカと例えるから、あのフォーリナーは一旦四足駆体ロボットとして説明するとして、まずはやっぱりフォルムかな。白に複数の彩色を加えたカラーリングに硬く柔軟な材質からして、近未来から来たような印象を持てるし、何よりスタイリッシュな人形にキメているのは痺れるね!」

「……え?」

「次に兵装だけど、全身を使った『Xビーム』に背後の『オールレンジレーザー』、頭部の『小型バルカン』に近接も可能にする『変な槍』と、細身の体にこれでもかと詰め込んでいるあたり、SFチックなのにロマンを追求していてこれまた魅力的だ!」

「あの、マスター……?」

「戦闘スタイルは遠距離武器からの牽制に隙を突いて槍で斬りかかるという堅実なものだけど、関節の可動域から人に似せて作られているんだろうね。フォルムが女性的だったのも『ガチガチの装備をした美少女ロボにしよう!』といった製作者の熱意が感じられて好きだなあ」

「な、なんつーマシンガントークだ……」

「結局は一目惚れしちゃったわけでさ、正直なところ壊すのが忍びないから、どうにか人格の方を無害にするすべはないなぁって」

「わかった、わかったからちょっと待ちなさい」

 

 いや、何もわかんなかったけど!

 あまりにも前のめりでガンガン話すものだから考える余裕すらなかったわよ。

 ロビンどころかマシュまでも引いてるし、普段の生真面目さはどこに消えたわけ?

 ……あ、もしかして。

 

「ねえマシュ、コイツ暑さで頭がおかしくなっちゃったの? それとも嫌いな海に囲まれて気が狂っちゃったとか?」

「いえ、先輩はそういうところは男の子らしいというか……。ライダーの金時さんやメカエリチャンさんなどと長時間に渡ってロボット・メカ談議に花を咲かせていらっしゃいますよ」

「そういやオデュッセウスの旦那と話しているところを見たことはあったが、ありゃ宝具の変形ロボの事についてだったのか。やけに熱く語り合ってたからサーヴァントへの指揮について学んでいるものかと思ってたぜ」

 

 そういえばつい最近そんな名をした胸元露出男が来てたわね。

 美丈夫なところ以外はマスターと同じように生真面目なのかと思ってたけど、違う意味でもマスターと同じってことだったわけ。

 

「勿論兵法のことについても学んでいるよ。けど、んー、やっぱり誰もわかってくれないよね……。ロビンなら男なんだからあわよくば興味を持ちそうだと思ったんだけどなあ」

「あのなマスター、どうしたらそんな結論に至るのかわかんねーが、生憎とサーヴァントになってからしかメカとかロボとか聞いてないからな。それにオレはメタリックな素肌よりももうちょっと人間味のある肌の方が趣味なもんで」

「出たわね、プレイボーイ発言」

「円卓の皆さんよりも清々しいくらいに認めていらっしゃいますね。いえ、円卓の皆さんはむしろもう少し自分の行いを省みた方が良いと思いますが」

 

 シールダーは女好き三人衆を思い出したからか目を伏せていた。

 アイツらは確かに好色家で人目を忍ぶ気すらなさそうなのはたちが悪い。

 とはいえシールダーからしてみれば赤の他人なんだから、別にそんなにしょげなくてもいいとは思うけど。

 んで、マスターの方はまだ何か思うところがあるみたいで。

 

「人肌好き、かあ。それなら『人間と変わりない姿をしたロボが怪我をして、その傷痕から体内の機械部が露出する』といったメカバレってジャンルがあるんだけど……」

「ロボ・メカ関連にはやけに詳しいなおい! マスターってそっち系の趣味は持ってなかったんじゃねぇのかよ!」

「ま、アンタが何が好きなのかなんてどうでもいいけど……なるほど……メカ、ね。そういう路線もアリか……」

 

 そこまで好きというのなら、そっちに合わせてやるのも悪くはないかもしれない。

 ネタとして使えるし、からかう材料にも使えなくはなさそうだし。

 ……いや、やっぱりなし。フィクションならまだしも、夏場にあんな甲冑姿なんて暑苦しくてたまったもんじゃないわ。

 

「まあ、そんなに好きならアンタの案で同人誌を描いてもいいけど?」

「うっ。それは嬉しいけど……」

「けど何よ?」

「俺の案よりもオルタが好きに描いた方がいいよ。描くって決めたのはオルタだし、サークル『ゲシュペンスト・ケッツァー』の初作品がリーダーの作品じゃないなんて、あんまりだと思うからさ」

「……そう。まあそうよね」

 

 好きでもないことをしようなんて、モチベーションが続きそうにないし。

 避けようのない戦闘ならまだしも、やる気に左右される物作りならなおのこと。

 

「なら私が好きなようにやらせてもらうわ」

「好きなようにって言ってもだな……」

「わかってるわよ。『身の丈に合ったものを作る』、でしょ? 技術がないことくらいちゃんと理解しているわよ」

 

 ロビンの言い分はもっともだ。でも、私だって妥協したものを作りたいとは思わない。

 自分の実力に合ったもの、それでいて全力で取り組めばより良くなれるものを作りたい。

 それが無謀なことだとしても。ハワイ……もといルルハワに来たせっかくの機会、水着に着替えて霊基も変わったこの機会を大切にしたい。

 

────だって、帰ったらまたこの胸中は復讐の炎に焦されてしまうのだから。

 

「……うん、オルタの意思はしっかりと伝わったよ」

「マスター?」

「ちょっと浮かれすぎちゃったけど、これは任務だって思い出した。フォーリナーをどうするかは最善時まで一旦棚に上げて、今は同人誌作りに集中する」

「アンタ人の顔色というか、考えを読み取るのやめてくれない?」

 

 急に真面目ぶった顔してからこっち見て笑いかけるとか、ちょっとドキッとするじゃない。

 やる気になってくれたのならそれはそれで大歓迎だけど。

 

 実のところあの怪サーヴァントには、私もちょっとは気になる点があったりした。

 勤務時間の終了だとか、大規模交流(コンベンション)を許さないだとか。

 ……まあ、そのうちわかることでしょ。フォーリナーはまたどこかのタイミングで現れるだろうし。

 それよりも今は、

 

「そんじゃ、マスターの調子も戻ったことだし、牛若丸が戻り次第アイディア出しができるよう、作業スペース作りでもしようじゃねーですか」

「ええ、さっさと整えて題材を決めましょう」

 

 ジャンヌ(あの女)に勝てるものは作れなくても、どこか一つ、ほんの少しだけでも負けていないと誇れるような物を生み出す。それだけに全力を尽くしたいから。




あとがきキャラクター紹介2
・藤丸
ロボやメカが大好きすぎて少々拗らせたマスター。
メカエリチャンからバベッジに至るまで性癖の幅は広い。
ただしフランに対してはセクハラに当たりそうなので触れない。
またアヴィケブロンのゴーレムも機械ではないので触れない。
肝心なところでのみ人の心を読むスキル持ちだが、基本的に持て余している。

・マシュ
先輩がマシンガントークをしていてもしっかりと話を聞いてくれる懐の広い後輩。
円卓に対しては尊敬の念が強すぎるあまり辛辣になりがち。

・ジャンヌ・オルタ
バーサーカーになって何故かいつもより理性的&賢くなった厨二病。
おまけにいつものツンツン成分が減ってだいぶ素直になっている。
ジャンヌに対しては相変わらずツンツンしてる。

・ロビンフッド
ルルハワに来ても相変わらずついていない苦労人。
マスターとマシュは何かと気にかけることが多いが、たまに暴走された際には彼でさえも二人を止められなくなってしまう。
水着になってから楽天家成分がちょっぴり減っている。

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