サーヴァント・サマー・フェスティバル推量 -マテリアルに記録されていない、芸術に彩られた夏の話をしよう-   作:影斗朔

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メインシナリオ『何度も服を着替えて恥ずかしくはありません』の直後、牛若丸視点のお話になります。


メイヴちゃんという高すぎる絶壁

「よし、メイヴたちに聖女様も行ったな。んじゃまあ、帰りがてらに今後の活動予定のおさらいといきますかね」

「はい。オルタ殿と合流して策を練りましょう。具体的には、あのあばずれ女の首を落とす方法を! お喋りな頭さえなくなってしまえば文句はありません!」

「まあまあ牛若、メイヴちゃんにいくらたてついたって鼻で笑われるくらいだから、かまってやらなきゃいいんだよ。……でなきゃ身がもたないからさ」

「ああ、先輩の顔が暗く……。大丈夫です! 先輩の身辺は私がお守りしますから!」

 

 辛いことを思い出されたのか死んだ魚の目で怪しく笑う主殿を励ますマシュ殿。

 多くの英霊と縁を結んだ主殿だからこそ、誰がどのような行いをしていても達観した考えを持たれているのでしょう。

 ですが、あのような不逞の輩が身勝手を働くことで他の方々に不幸が降りかかるのも事実。

 残念ながらこの牛若、今回ばかりは黙っていられません。

 

「幸いにも今の私はアサシンの霊基、闇討ちくらいならお茶の子さいさいですとも。まあ武士道精神どうこうはこの際置いとくことにして────」

「ストップだ牛若。これ以上の怒りを吐き出したって、真夏のビーチの空気が悪くなるだけだぜ」

「む……。確かに、ロビン殿の言う通りですね。申し訳ありません」

 

 私の肉体を馬鹿にしただけでなく、幼気なアビー殿から壁配置を搾取したあの女狐めは手痛い目に遭って貰わねばですが、キラキラと眩しく笑顔と活気に満ちたビーチにて語ることではありませんでした。

 

「あの女王様は悪質なからかい癖の持ち主だから、対抗心を持っちまうのはわからんでもないけどな」

「気持ちの切り替えは大事ですからね。それにしても、メイヴさんにジャンヌさん、サバフェス参加サークルとしては優勝の有力候補とされるお二人に出会えるとは思いもしませんでした」

「有力候補なんて言葉じゃ甘いですぜマシュ嬢ちゃん。正確にはその二大サークルしか優勝候補の席につけねーんですよ」

「え? それほどまでに狭い門なのですか? 同人界隈って存外にも血で血を洗う排他的な場なのですね……」

「そんなスプラッタな業界があってたまるかよ……。牛若丸にでも影響を受けちまったのか?」

 

何故かしゅんとした顔になるロビン殿。マシュ殿は純粋な方ですけど、スプラッタ表現が強めのミステリですら熱心に読んでいらっしゃいますし、実情を知っても割と早い段階で順応出来る強さを持ってますから。

 それにロビン殿はご存知無いかと思いますが、武士の界隈などまるっきりマシュ殿のおっしゃるとおりの界隈ですけどね。

 

「ねぇロビン、二人のサークルしか優勝の資格がないって、一体どんな理由から?」

「いやなに、二人のサークルが他サークルよりも全てにおいて優っているとか、そう言った話ではなくてな。簡単に言っちまえば『売上を競う場』に他のサークルが立てねーんですよ」

「なるほど。知名度と戦法の差こそあれど、それを物差しとする舞台が『物売』ならばそうはなりますか」

 

 ロビン殿の言い分はおそらく……。

 売上で勝敗を決める戦いならば、往年にして人気であり知名度も抜群なジャンヌ殿と、多くの信者と姑息な手を臆することなく使うメイヴめのサークルが圧倒的に優位だということでしょう。

 

「だから今のうちに言っておくが、今回だけはメイヴを敵に回すのをやめとけ」

「何故ですか!?」

「何故ってそりゃ、優勝候補のサークルに喧嘩を売っちまったらオレたち新米サークルがどんな目に遭うかわかるだろ? 喧嘩を売ったりちょっかい出したりして疎まれちまった暁には、出版しようとした同人誌をおじゃんにされかねないぜ」

「でしたらなおのこと黙らせれば手っ取り早いではありませんかー!」

「そっか、それが一番逆効果になるんだね……」

 

 マスター殿とマシュ殿はなぜか納得したように頷いていらっしゃいますが、どこも納得のいく箇所がなかったと思うのですが!

 

「あのな牛若、メイヴ自身がオレたちを直接潰そうとは考えないだろうが、行き過ぎた挑発行為はやっこさんのスレイブたちやカメコたちを逆上させるからな。おまけに他のサークルからしてみても、オレたちの印象が悪くなっちまう」

「確かに。どこで集めたのかわかんないけど百人は下らないって凄い数のカメコたちが悪い情報を拡散するだけで相当に厳しいもんね」

「おそらくだがそのカメコたちもそこらにいるプロを騙った有象無象のアマじゃねぇ。あの女王様はそこんとこの審美眼が凄いだろうからな」

「彼らも正当な手段で集められた者ではなさそうですが……」

「そりゃまあ一般人からしてみれば、英霊なんざ天の上にいる手の届かない存在だしな。声をかけられた暁にはお近づきになれるチャンスだと目を輝かせるに決まってる。それに、大半の人ってのは富・名声・欲に抗えねぇもんで、コノートの女王メイヴへ従えるというメリットを切り捨てられないのは自明の理だと思いますがねぇ」

「……そう、ですね。ロビン殿のおっしゃる通りです」

 

 認めたくはありませんが、相手は一国の女王。男女を問わず相手を振り回す魅了の力と、国をおさめた手腕は本物です。

 勿論、私を含む我らサークル内の精鋭たちに魅力がないなど断じてありませんが、全員の力を合わせてもメイヴめの威光を前に尻込みしてしまうのもまた当然のこと。

 認めたくはありませんが……!

 

「私たちの目的はあくまで同人誌を無事に出すことですからね。相手の邪魔をするよりもまずは自分たちの作品に目を向けなければいけません」

「でも、出した同人誌が一冊も売れないなんてことは避けたいよね。新米サークルで知名度がないから難しいだろうけど……」

「そんならサークルと仲良くなるのが一番だ。ジャンヌ・ダルクのところなんかは特におすすめだぜ? 昨年王者と良い縁があるって広まりゃ、オレたちが出す同人誌にも箔がつくってもんだ」

「ただそうなると問題はオルタさんですね」

「そこですね……。どう考えてもジャンヌ殿に対抗心を燃やしていらっしゃるオルタ殿が仲良くなれるとは思えません……」

「そいつはまあ、マスターがどうにか間を取り持ってやってくれ。オルタの舵取りにゃもう慣れたもんだろ」

「それくらいならお安い御用だよ」

 

 そういうことで、

 メイヴめからちょっかいを出されても手や口を出さない。

 ジャンヌ殿と親しくなって知名度を伸ばす。

 以上の点を考えた上でサバフェスまでの残りの日を過ごしていくことになりました。

 

 メイヴめに手出ししないということが難しいですが、まあたぶんどうにかなるでしょう!

 と、そう考えていた矢先、先導を取っていたロビン殿が振り返って、

 

「とにかく、オレの貞操がかかっている以上、無駄に敵を増やすんじゃねえぞ? わかったな?」

 

 なんて、念入りに言ってきた。

 

「もしかしなくてもさっきからそのことしか考えてませんでしたねロビン殿!?」

「あったり前だろ! バカンスを碌に楽しめないだけでも嫌だってのに、この期に及んで豚になるとか死んでもごめんだっつーの!」

 

 ……まぁ創作物への取り組み方は人それぞれですし、絶望的な未来からの脱却も十分な理由にはなりますか。

 オルタ殿はジャンヌ殿の対抗心から。

 マスター殿とマシュ殿は初体験から来る好奇心から。

 行方不明になった茨木はさておき、だとしたら私はマスター殿への忠誠心からということになりますかね。

 

 ────もしも自分から作品を作りたいと思える時が来たら、私はどんなことを思うのだろうか。




あとがき当時人物紹介その3
・牛若丸
水着に着替えたことで直情的になったものの、状況分析など理性的な面も残している忠犬。
ただし気に入らない相手には積極的に噛み付いていく模様。

・藤丸
サーヴァントたちに振り回されるマスター。
どんな状況にも割と順応出来る方だが、あまりにもアレな状態が続くと目と精神がしぬ。

・マシュ
気遣いも完璧な身辺警護系後輩。
環境適応能力は誰よりも高く、ハロウィン・クリスマス・ユニヴァース時空にやってきても、突っ込むことなくすぐに割り切ってしまう。
ただし、突っ込みどころはマスターが代わりに言ってくれるんじゃないかという気持ちがなきにしもあらず。

・ロビン
頭の回転が早く機転の効く苦労人。
問題と解決策をわかりやすく説明してくれるが割と話が長い。
状況によってプレイボーイなのと自身の身の安全を優先することだけが玉に瑕。
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