サーヴァント・サマー・フェスティバル推量 -マテリアルに記録されていない、芸術に彩られた夏の話をしよう-   作:影斗朔

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メインシナリオ『青空の下、泥のように書く』の直後のお話です。
今回は刑部姫視点で物語が進みます。


なによりも敵は己自身なり

 アビーちゃんや北斎さんと同じクラス、フォーリナーを持った敵のXX(ダブルエックス)ちゃんとやらを撃退したあとのこと。

 (わたし)の部屋に戻ってきたまーちゃんたちはどうもサバフェスのことで盛り上がっているみたい。

 ただ、その会話の中でどうも引っかかる言葉が聞こえた気がした。

 

「そういえばさ、ちょっと気になったことがあるんだけど……」

「気になったこと? アンタ、XXを見て何か気づいたの?」

「いや、さ。あのSFロボじゃなくって、オルタちゃんたちがさっきから話してることの方」

 

 姫抜きで盛り上がっているところ悪いんだけどね、どうも変な話をしているようでならないのよ。

 というか、あの手のロボット系なら姫には畑違いだし、それこそメカエリチャンとかまーちゃんの方が詳しいと思うんだよね。

 

「さっきからというと……同人誌作りのことでしょうか?」

「うーん、そうじゃなくて全体的にというか……」

「全体的、ですか? はて、何か変なことでも口にしましたか?」

 

 割とはっきり喋っていた割にみんなして姫の疑問にピンと来てないらしい。

 なんか触れちゃいけなさそうな話題だけど、もう口に出しちゃったし……ええいままよ!

 

「あのね、さっきから一度経験していることを話してる気がするのは気のせい、かな?」

「…………」

 

 姫の言葉にみんなの顔がみるみる青くなっていく。

 あっ……。これアレだ、地雷踏んだわ。

 

「それは、その……」

「も、もしかしなくても聞いちゃヤバかったやつだよね!? ごめん聞かなかったことにして!」

 

 あわわわわわわわわ……。どーしよう……。

 やっぱり聞いちゃダメなヤツだったじゃん!

 でもさ、姫がいる場で話し出すみんなも悪くない!?

 

 襲撃タイミングは把握してますとか、結局アイツとは最終日に決着をつける運命とか、ゲームに出てくるめちゃくちゃ強いライバルと決着をつける前の姫を見てる気分になるもん!

 それにアロハの人も早い段階で倒せていたら同人誌作りが楽になるって言ってたし、これはもうアレよね。

 まーちゃんたちってみんなでごっこ遊びをしていない限りループに巻き込まれてるよね!

 

「……ちょっと、待ちなさい。待たないとアレだから」

「アレってなに!?」

「いいからしばらく待ちなさい! いいわね!?」

「アッハイ」

 

 凄みの効いた笑顔を向けられて固まる姫をよそに、オルタちゃんたちは切迫詰まった顔でヒソヒソと相談し始めた。

 初めからバレないように気をつけてくれたら、姫も地雷を踏むなんてことなかったのに……。

 って責任転嫁よくない! 口は災いの元なんだから、姫も空気を読んどくべきだったなぁ。

 

「────よし、今回ばかりは事情をちゃんと説明するが、断られたら無理強いをしないってことでいいな?」

「私たちとしてはそれで良いのですが、問題は"手伝い"が過剰なものにならないかですね。いえ、刑部姫のことを信用していないわけではありませんが」

「ま、いざとなれば燃やせばいいでしょ」

「ちょっと!? 今不穏な言葉が聞こえたんだけど!」

 

 オルタちゃんも火属性キャラなの? きよひーみたいなこと言わないでよね!

 それとオルタちゃんの言葉に頷くみんなもみんなだから!

 

「それじゃ、よく聞きなさい。私たちが置かれている立場……漫画よりも奇妙な事実をね」

 

 さっきまで険しい顔してたのに、一変して楽しそうにオルタちゃんは話し始める。

 ……てなわけで、姫はまーちゃんたちの事情を聞いたわけだけど。

 

「なるほど、フォーリナーの一件に加えてサバフェス一位かぁ、そりゃあループでもしなきゃ無理だもんね。……正直、いくらループしても厳しいとは思うけど」

 

 創作はただ完成させるだけじゃ技量は上がらない。

 前の創作物よりも良いものを作るのは当然として、何が悪かったのか、どこを改良すべきかを客観的に見る必要がある。

 熟練の創作者でさえもそう簡単に直視できない問題を、完全初心者であるオルタちゃんがどのように捌くのか……見ものではあるけど、決して他人ごととは思えないんだよね。

 

「何周かは技量向上に使うってのはダメなの?」

「うーん、その手立てもあったんだけど、サバフェスで本を出さなきゃロビンが豚になっちゃうからさ」

「…………なんで?」

「そいつはオレもわかんねぇ。BBはどうしてもオレをいじりたいらしいんだわ」

 

 そう言われてみると、カルデアでもBBちゃんにいじられていたような。

 ロビンさんってぱっと見だと陽キャのチャラ男に見えるけど、案外苦労人なのかもしれない。

 ナンパした相手が粘着質だったりとかならザマァ感が凄いけど。

 

 でも任務に支障が出るのならそうも言ってられないか。

 まーちゃんの護衛を務めているってことならなおさらね。

 

「なので、私たちが一位になるように仕組むのだけは控えていただきたいと」

「まー、不正して一位を取るのはダメだもん。そこんとこはしっかりと線引きするよ。だってヤラセって関わっただけでもロクなことないし、あくまで漫画上達の協力関係ってことなら問題ないでしょ」

「ありがとう、おっきー!」

「ふ、ふへへ……、頼られるって悪くないね……。でもそっか、一位を取れないと無限ループしちゃうのかー」

 

 仲間ができたと喜んでるまーちゃんたちには悪いけれど、次のループ時点で姫の記憶もリセットされちゃうんだよね。

 そうなるとまた姫に協力を仰ぐことになるだろうし……。

 

 そもそも、今回の週だけでサバフェス一位はまず無理だと思う。

 ジャンヌさんの描いた本があれほどのものなら、それを超える努力なんてサーヴァントであっても難しいし、初心者ばかりのまーちゃんたちが一週間でその域に達するなんてそれこそ夢物語だ。

 

 ループが無限だとしてもいつかは抜け出さなきゃだし、出るのも早い方がいいから、今のうちに教えられるだけを教えてあげたい。

 ええと、今の姫に出来ることで、次の姫に繋げられることといったら……。

 ────あ、そうだ。

 

「それなら次のループではもっと簡単に姫から協力を貰えるようにしなきゃね」

「それは、今よりも手早くということですね?」

「うん。今回は最初から最後まで事情を聞いちゃったから丸一日くらい無駄にしてるでしょ? それを10分くらいに収めたらより効率的だよね?」

 

 あのメカを撃退してから説明されているうちに日が海に沈みかけているし、その時間にセカンドハウスを作ってオルタちゃんへのアドバイスを一つや二つでもできたら上等でしょ。

 

「それはそうですが……、刑部姫は何か策でもあるのですか?」

「策ってほどのことじゃないよ。未来の姫からの伝言として『オルタちゃんの手助けをしないと、深淵龍(アビスラドン)Z装備を最大強化したクリハンのデータが消える羽目になる』って言えばいいだけだもん」

「オレのアロハ化みたいな脅しじゃねーか」

「え、そのアロハ自前じゃなかったんだ」

「そうよ。BBの企みでね、ざっくり言うならこの服自体が外せない爆弾ってところかしら」

「はえー、BBちゃんって器用なことするねぇ」

 

 なるほどぉ、創作活動にまるっきり興味なさそうなロビンさんがオルタちゃんたちを手伝っているのはそういうことね。

 それと好意を寄せられている女性から貰ったものを着せられている感があったのはそんな理由かー。

 まーちゃんの護衛といい、やっぱりロビンさんって苦労人なんだなぁ。お疲れ様です。

 

「刑部姫。お言葉ですが、背水の陣にしてもデータ全削除はさすがに辛くはありませんか……? もしわたしなら、辛さを紛らわせるあまり近くにいるであろう常陸坊に斬りかかりますよ?」

「弁慶……不憫すぎる……」

 

 ジェノサイド牛若ちゃんの言葉にまーちゃんが遠い目を向け始める。

 まあ、強面な弁慶さんの不憫さはさておいて。

 

「なに言ってるの牛若ちゃん、姫がほんとにデータを全削除するわけないでしょ。あくまで協力しなかったらそのうちデータが消えるってことと、未来の姫が言ったってことを信じさせたらいいんだから」

 

 姫のセーブデータは誰とも共有してないし、装備もくろひーに自慢するまで誰にも話さないようにしてたから、まず間違いなく未来の姫からだって信じるはず。

 うん、姫にしてはわりと完璧な作戦だと思う。

 なんて考えていたら、想定外な人から困惑の視線を向けられた。

 

「ん? どうしたの、ロビンさん」

「いやなに、ちょっと意外に思っただけだ。自分を追い詰めるような手を晒すなんて、そう簡単に出来そうにない気がするんだがな」

「まあ今の姫には関係ない話だし、ループ後の姫なんて他人事とも言えるからね。それに……」

「それに?」

「自分の敵は自分だよ。これは創作だけじゃなくてスポーツとかにも例えられるけど、やっぱり自分で自分の背中を押してあげなきゃ最初の一歩すら踏み出せないわけだからね」

「へぇ、案外スパルタ思考なんだな。案外レオニダス王と話が合うんじゃないか?」

「そんな体育会系代表と話が合うわけないじゃん! 姫ってば根っからの文化系なんだからね!?」

 

 ただ、ロビンさんの言ってるように、どんな事情があっても自分から行動に移すってところだけは、あの筋トレ王様とも話が合いそうな気がする。

 筋肉って確か運動とか食事に気を付けないとなかなかつきにくいって聞いたことあるし、そこんとこは継続が大事な創作活動と同じだと思うから。

 

「じゃあなんで今頃締め切りに追われてんのよ。クリハンとやらをやってなかったら、もう完成してたんじゃないの?」

「その話はやめれ!」

 

 姫ってばたまにはいいこと言ったかな? なんて上機嫌だったのに、オルタちゃんってば急にテンション下げるようなこと言わないでよね!

 

「創作業って疲弊するからたまには休憩しないとやってられないの!」

「ああ、休憩が本業になるってヤツか。一度ハマっちまったらそう簡単に抜け出せなくなって、後で自分の行動して後悔するオチがつくんだよな」

「身に染みて理解してるからこれ以上古傷をえぐらないで!」

「ちなみに私たちが一位を取るのはいつになるかわからないから、この期に及んでサボろうとしたら世にも恥ずかしい物が世間に出回ると思った方がいいわよ」

「さ、サボる気は流石にないって! ……休憩は大事だからするかもだけど」

 

 いやほんと、休憩って大事なんだよ?

 ずっとハイペースで描き続けたりなんかしていると、そのうち勝手に鬱ってきちゃったり、一度筆を置いたらなかなか筆が取れなくなっちゃったりするんだからね!

 

 

「……よし、セカンドハウスを作る準備しなきゃ」

 

 オルタちゃんたちが部屋の片付けに戻ったので、原稿をきりのいいところ保存して荷物を整理する。

 サバフェスが終わるまで移動するつもりなんてなかったから、散らかった荷物をまとめるところから始めなきゃだからまどろっこしい。

 後回しにする癖は直した方が良いってきよひーによく言われるけどさ、めんどくさいことはなるべく避けたいんだよね。

 

「それにしても、まさか姫が教える側に回るなんてなー」

 

 いつになっても帰ってこないからきよひーの許可は得てないけど、まあ、まーちゃんの手伝いって時点で断ることはないだろうからよしとしよう。そうしよう。

 それにオルタちゃんが見せてくれた同人誌を読んだらハードルの高さも理解できるだろうしね。

 

 ……それくらい、あの同人誌は凄かった。

 姫が今まで見てきた中でも五本の指に入るくらいの傑作だったと思う。

 戦時中という重たい題材から熱い愛の物語への移り変わりが丁寧で不思議とページをめくる手が止められなかった。

 展開としてはシェイクスピアの"ロミオとジュリエット"に似ているようだけど、作者のオリジナリティが全面に引き出されていて少しも気にはならなかったし……。

 

 やっぱり天使が描いたんじゃないだろうか。神様というには劣るけど、姫のようなアマだと相当の努力を積んでたどり着ける領域だもん。

 ただ、著者名とサークル名が全く書かれてなかったから、ジャンヌさんが描いたものなのかは正直微妙だけど。そのあたり、くろひーなら何か知ってるかな。

 

「ていうか、姫が教えたところであの本を越すなんて無理難題じゃない!?」

 

 それこそ前回王者のジャンヌさんとか、シェイクスピアやアンデルセンに助けを求めた方がいい気がするんだけどなー。

 オルタちゃんの対抗心の高さがそれを許せないんだろうなー。

 

「……でもまあ、いっか。どうせループ前提の話だし、次の姫がなんとかしてくれるはず! きっと!」

 

 姫は難しいことを考えるのが苦手だし、そのあたりの問題は姫以外の誰かが解決してくれるでしょ。きっと。

 決してめんどくさいから後回しにしようなんて思ってないんだからね。

 

 それに、今は少しだけ嬉しさが勝ってる。

 素晴らしい同人誌に巡り会えたこともそうだけど、オルタちゃんという新しい創作仲間が増えたことがなによりも。

 

 創作活動をする人なんて想像するよりも意外に少なくて、ましてや継続できている人とかになるとほんとに微々たるものなのだ。

 だから、たとえジャンヌさんへの対抗意識とかBBちゃんからのお願いからだとかの理由があったとしても、創作者としての一歩を踏み出してくれたことが嬉しい。

 

 できたら、今回のサバフェスが終わったとしてもこれからも同人活動を続けてくれたらいいなぁ。

 なんて思いながら、漸くまとめ終えた荷物を持って姫は珍しく自分から部屋を出るのだった。




あとがき人物紹介その5
刑部姫
自業自得による修羅場中の身の自堕落姫。
暇を見つけてはグータラしたいからか、割と賢く頭が回る方。
他人の手助けをする時に限って本領をフルで発揮できるタイプなのだが本人は気づいてない。

藤丸
割と空気が読めるタイプなマスター。
今回はサーヴァントたちの聞き役に徹していたため発言は少なめ。

マシュ
マスターと同じく空気を読むスキルが高めな後輩。
ごくたまに会話に出すのはよろしくないことを発してしまったりするドジっ子。

ロビンフッド
ルルハワでは実質休みらしい休みが皆無だと宣告された不憫な弓兵。
苦労していることは口に出さなくてもわかりやすいので、多くのサーヴァントたちから哀れみの目を向けられる。

牛若丸
思考が通常よりもジェノサイド化している。
ロビンからして見ると、血の雨の中でも無邪気な笑顔で跳ね回っていそうだ、とのこと。
正確には子供っぽくなったことによる感情の発露が大きいことや、子供特有の無邪気な害意が表立っているだけ。
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