サーヴァント・サマー・フェスティバル推量 -マテリアルに記録されていない、芸術に彩られた夏の話をしよう-   作:影斗朔

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メインシナリオ『十人十色のサークルたち』の後のお話。
ジャンヌ・オルタ視点の物語になります。


十人十色のサークルたち その2

 聖女サマとの朝食をさっさと終わらせたのは良しとして、部屋に戻ってから昨晩半分くらい進めたネームがどうしてか気に食わなくなった。

 理由は多分、主人公の周りにいる人物のキャラ付けだと思う。

 サークルの話を聞いてから、自分が生み出したキャラクターの個性がどうも薄いように感じられて筆が全く進まなくなってしまったのだ。

 

 だからマスターを引き連れて気分転換に空港の方へと寄ってみたのだけど。

 明らかにハワイに似合わぬ羽織り姿が見えた辺りで引き返しておけば正解だったかもしれない。

 

「あ、マスターじゃありませんか! カルデアから遠く離れた南国の地でお会いできるとは……何というか、運命的な感じがしますね!」

 

 ブリテンの王様と似た顔を満面笑みに変えて、浅葱色のダンダラ羽織りを揺らしながら彼女は一瞬にして私たちに距離を詰めてくる。

 確か新撰組一番隊隊長の沖田総司、だったかしら。

 常夏だというのに厚着をしているもんだからどうも頭が茹っているようね。

 

「運命もなにも、ほとんどのサーヴァントがここに来てるわけだから、そう珍しくはないことくらいトンチキ英霊のアンタでもわかるでしょ」

「トンチキ英霊って何ですか!? 少なくとも沖田さんはトンチキまでいかずお間抜け英霊くらいですから!」

「トンチキも間抜けも一緒なんだけどなぁ……」

「自分で認めてるんだし、別にいいでしょ」

 

 夏の暑さに浮かされてるヤツなんてみんな頭のネジが数本外れているんだから、気にするだけ無駄なのよ。

 

「あのーマスター、そちらの方は……」

「ジャンヌ・ダルクよ」

「白くてピカピカしてる方じゃなくて、黒くてツンツンしてる方のね」

「余計なこと付け加えなくていいから。それで、新撰組隊長のアンタがなんでこんなところにいるわけ? ツレのキワモノなら浜辺でロケンロールしてたわよ?」

「私とノッブはセットの組み合わせみたいな捉え方はやめてもらえません!?」

 

 心外だとしかめっ面して言われてもねぇ、同じボイラー室横の部屋に陣取っている辺りよっぽどの物好きだと思うけれど。

 

「(オルタ、沖田さんはその……事情があるんだよ)」

「事情? ああ、なるほどね」

 

 藤丸の耳打ちで理解した。

 ツレと共にいない理由、コイツが持っていなくて信長が持ってるものを。

 

「アンタってまだそのカッコしか持ってなかったものね。海辺には水着を着たサーヴァントたちがはしゃいでいるものだから、敗北感から近付きたがらないんでしょ」

「! いいえ、それは見当違いですよオルタさん。ええ、確かに私は水着の霊衣を持っていません。ですがその代わりに、私には! ハイカラな! 和装が! ありますから!」

「……どっちにしろ夏場に着るようなものじゃないでしょ」

「こふっ!?」

 

 あ、吐血した。

 病弱なのに炎天下の中で何やら怪しげなビラ配りなんかしてたから当然だろうけど。

 というか、なんでわざわざクーラーの効いてない屋外でうろついているのかしら。

 

「ふ、ふふ。強気でいられるのも今のうちです。来年はきっとあなたよりも見目麗しい水着を貰ってマスターを悩殺、沖田さん大大大勝利ーの流れになるに決まってますから!」

「自分であまりハードル上げない方がいいと思うよ。焦らなくても、水着が貰えたらちゃんと見て褒めるからさ」

「は、はい。その時は是非……」

「……私は何を見せつけられているのかしら」

 

 まあ、別に、イチャイチャしたいならお好きにどうぞって感じだけど、目の前でやられるなら流石にムカつくわよ?

 何かしら、そんなに燃やして欲しいわけ?

 

「ええ、今年も水着を貰えなかったのは正直凹みましたとも!」

「マスターに優しくされたからって急に開き直るわね」

「で、ですが今回はサバフェスという行事に参加して、新たな志士たちを募集している最中なのです! ずばり、今の沖田さんはサークル新撰組一番隊隊長! なので悔しくはありません! ありませんからね!」

「悔しそうに言われてもねぇ」

「オルタ、正論だとしてもそれくらいにしてあげて……」

 

 そう言われても、ねぇ。吐血して息も絶え絶えな状態で強がられてもウザったらしくない?

 それと顔も青ざめているんだし、いっぺん息を整えさせた方がいいでしょ。だから黙らせたのよ。実に効率的じゃないかしら?

 

「ところで沖田さん、勧誘はサバフェスの趣旨から外れているような気がするんだけど」

「そうなのですか? ワルキューレのお三方は行っていましたよ? 『ヴァルハラ・シュトラーセ』というサークル名で、ヴァルハラへと向かう勇士を募集中だとか」

「それを見て考えなしに真似しようなんて、アンタも相当ね……」

 

 コイツ絶対ヴァルハラがどういう場所を指しているか理解してないでしょ。

 まったく、藤丸もそうだけどやっぱり日本人ってどこかしら振り切ってる面があるのかしら。

 誰が言ったか『日本出身サーヴァントは誰しもバーサーカー適性がある』ってのもあながち信憑性がありそうね。

 

「勇士って言っても限られた人だけじゃなかったっけ」

「一旦仮勇士として保留して、そこからヴァルハラへと向かう資格のある者だけを選別するそうですよ」

「うへー、結構なことをするのね」

「ええ、それは沖田さんも思いました。新撰組は何人来てもらっても大歓迎ですけどね!」

「それもそれで大概ではあると思うよ……」

 

 名案ですよね! と顔を輝かせている沖田だけど、藤丸が目を逸らしているのはどうも見えていないらしい。

 局中法度とかいう決め事もあって、敵よりも味方を斬った数の方が多い組織に望んで入りたがるヤツなんているのかしら。

 

 というか、ワルキューレたちって死んだ勇士たちをヴァルハラに連れて行くのよね?

 何かしら、サークル『新撰組』って名のっているけど、そのうちの大半が『ヴァルハラ・シュトラーセ』に流れていきそうなんだけど。

 ……ただ、そう考えるとサークル同士の関係って割と面白いわね。

 

「ねぇ、アンタみたいなサークルって他にもあるわけ?」

「おや、オルタさんもどこかのサークルに参加しようとお考えですか?」

「んーそうじゃなくて、敵情調査、みたいな? 俺たちがサークル参加する以上、他のサークルについても知っておきたいからさ」

「なるほど。でしたら私が知っている範囲でお教えしましょう! 他でもないマスターからのお願いですからね!」

「ありがとう、助かるよ!」

 

 他サークルにはどんなヤツがいるのか、などと考えているうちにトントン拍子で藤丸と沖田の間で話がついていた。

 お願いを言い出したのは私なんだけど……まあ、いいか。

 

「まずは有名どころの『藤紫の物絵巻』ですかね。紫式部さんのサークルです。昔ながらの巻物に物語と絵を付けて配布されているそうで、売り子は自身を"なぎこさん"だと名乗る謎のパリピギャルだとか」

「本人は当日に参加しないのね」

「ええ、なんでも『泰山解説祭(たいざんかいせつさい)』という術の影響が悪く出てしまうから、だとか」

「……なにそれ」

「話すと長くなるから後で説明するよ……」

 

 長くなるなら思い出した時でいいわね。今知りたいのは紫式部の術ではなくてサークルの情報だから。

 ……まあ、気になるのは気になるから後で聞いてみたけれど、『相手の思考や経歴などを、地の解説文みたいに、相手にのみ見えないように表示させる』なんてとんでもない術だった。

 相手の思考が周囲にダダ漏れになるんじゃ溜まったものじゃないだろうし、サバフェスとかいう密集地で発動した暁には……ああ恐ろしい!

 紫式部ってヤツがどんなサーヴァントなのかは知らないけど、サバフェス会場に入らないってのは英断だと思う。

 

「お次にインド系サーヴァントの方々で構成されたサークル『ガンジス・マサラ』。何でもサバフェス後夜祭のステージライブで本場のダンスを披露するとか」

「ダンスねぇ。ドラゴン娘がライブをやったり坂田金時がバンドしたりするのは聞いてたけど、ダンスを踊ったりってのもアリなのね」

「芸術の形は人それぞれだからね、そういうのも面白そうでいいんじゃないかな」

「ふーん」

 

 ま、私が踊るわけじゃないから別にどうだっていいわ。

 あのインド系サーヴァントたちがサバフェスの参加者側で、しかもダンスを踊るってのは意外だけど。

 インド系のダンスってどんなものだろう。特異点の新宿で踊ったワルツ? それとも人気のあるブレイクダンスかしら?

 

 てか、ダンスの話題が出たってのに隣にいるコイツは全く顔色を変えたりしないけど、私とのダンスを覚えてないのかしら。それはそれでなんか癪に触るわね。

 ……念のためにドレスを持ってきてたらよかったかしら。

 

「お、オルタ? 急に睨まれても反応に困るんだけど」

「なんでもないわよ。で、他には?」

「後は、アヴィケブロンさんとパラケルススさんのお二方が立ち上げたサークル、『ケテル・マルクト・ホーエンハイム』ですね。サバフェス1日前に行われる造形専門祭(ワンダーステージ)の優勝候補とまで言われているそうですよ」

「そんなのもあったわね。締め切り前日だったからすっかり忘れてたわ」

 

 ミケランジェロやロダンとかが現界しているなら、ソイツらの独壇場な気がしなくもないけど、意外な二人組が優勝候補なのね。

 ……いや、石造掘りって確か非常に繊細だって聞くし、現界のタイミングが悪いと作品の完成すら怪しいから当然と言えば当然なのかしら。

 

「私が知っているサークルはこれくらいでしょうか」

「え、それだけ? 思ったより少ないわね」

「新参サークルですからね、知らない方が多いに決まっているじゃないですか。ただ、サークル以外で有名な方々も多少は知ってますよ」

「……一応聞いておこうかしら」

「サーヴァント当人の御名前およびサークル名がわからない所でよく聞かれるのは、サバフェス後夜祭の夜に海上から満天の花火を咲かせる寡黙な"花火師" 、前触れなく大規模なパフォーマンスを敢行して終わると共に暗がりへ姿を消す"フラッシュモブのアサシン"、ピカイチの腕前を持つ礼儀正しき謎のカメコ"ライダー冤罪剣"などでしょうか」

「最後だけ聴き覚えがあるなあ……」

 

 言いたいことはわかるわよ。それを自分から名乗るのか、でしょ?

 別にいいんじゃない? 夏になると誰だって浮かれちゃうみたいだし。

 私としては"フラッシュモブのアサシン"とやらを一度は目にしてみたいものだけど。

 

「すみません、私が知っているのはこれくらいしかありません」

「ま、いい話が聞けたわ。割とこういったものに興味のなさそうなヤツらも参加してるものなのね」

 

 インド系のサーヴァントもそうだけど、藤丸から聞いた円卓の男たちもサークル活動に励んでいるそうだし、割と幅広いサーヴァントが参加してるのね、サバフェスって。

 

「沖田さんは何か知りたいことはない? 俺たちに答えられることなら答えるけど」

「でしたらマスター、土方さんがどこにいるか知りませんか? 空港で待ち合わせをしているのに一向に現れないのですよね。ただでさえ斎藤さんや永倉さんといった隊長格が現界してない人手不足な状況だというのに、どこで何をやっているのやら……」

「土方さんなら確かクカニロコで見かけたような」

「え、クカニロコにですか? なんで?」

「私だってなぜか聞きたいわよ」

 

 唖然とした顔で丸くなった目を向けられても困るんだけど。

 あの男はどうしてハワイ有数の、それも安産・子宝祈願のパワースポットに来てまで沢庵食べてる理由なんて知ってるはずないでしょ。

 というか、いつもどこでもアイツ沢庵食ってるわよね。もう"新撰組のバーサーカー"から"沢庵のバーサーカー"にでも改名したらいいんじゃない?

 

「そうですか……でしたらマスターも"新撰組"の一員となるのはどうでしょうか! マスターならサークルの掛け持ちくらいなら許可しますよ!」

「は?」

「あのー、勧誘しただけで殺気飛ばしてくるのやめてもらえません? 時が幕末なら即座に首を跳ね飛ばしますよ?」

「牛若丸といい切り替え早くて逆に気持ち悪いわね……」

 

 私も割と喧嘩好きだけど、ここまでパッと命のやり取りに意識を切り替えられたら逆に引くわよ。

 どっかで聞いたことわざ……だったか忘れたけど、『ヤガでもそれは引く』ってヤツよ、きっと。

 

「悪いけど、コイツ私のアシで重要な戦力なの。人手不足はこっちも同じなんだから、勝手にトンチキサークルに入られても困るのよ」

「えー、いいじゃないですかー! ね、ほんのちょっと! 爪先だけでいいので!」

「爪先だけ、かあ。……爪先だけ新撰組ってどうなのかな?」

「アンタはなにちょっとだけなびいているのよ。ていうか爪先だけで新撰組隊士になれるんなら、やっぱり名ばかりのトンチキサークルじゃない」

「単なるもののたとえですー!!」

 

 これだから揚げ足取ってくる相手は嫌いなんですよ、と不貞腐れている沖田だけど、それは同感。アンタもだいぶ相手をするのが面倒な方のタイプよ。私にとってわね。

 でも、ここでコイツに出会えたのは割と良かったかもしれない。

 正直なところ、あの聖女サマから聞けたサークルって漫画系ばっかりだったし。

 別に他の漫画系サークルの特色とか知れたのは良かったけど、それだけじゃこの祭典に関わる人たちの全体像が知れなかった。

 

 おまけに、話を聞くことでネームの改善箇所も見えてきた。

 私がコイツや聖女サマが苦手なように、主人公にだって苦手なヤツがいる。

 自分が描きやすい、思いつきやすい人物ばかりではなくて、絶対に描きたくない想定外な性格も加えてやるべきだと思う。人間、誰だって同じ性格で仲良しこよしだったりしたら逆に寒気がするし。

 

「さて、いい情報も得られたし、さっさとホテルまで戻るわよ。正直、こうして話してる時間も惜しいくらいなんだから」

「ちょっと、オルタ? 急に走らないでくれないかな! あ、沖田さん色々とありがとう! サークル活動頑張ってね!」

「は、はい。マスターも頑張ってくださいね!」

 

 藤丸め、なんでわざわざ別れ際の挨拶してるのよ。どうせ特異点を解消したらいつでも挨拶できるでしょ!

 私は思いついたアイディアを早く出力したいのよ! このままじゃ頭から飛んでっちゃうじゃない!

 あーあー、お互い別れ際がわからなくなって手を振り合っちゃって……もう、じれったい!!

 

「ったく、遅いわね。ほら、手!」

「え? う、うん」

 

 困惑した表情でおずおずと差し出された彼の手を引っ掴んで、さっさと戻るぞと足を早める。

 余計なことを頭の中に入れないように前から視線を外さないようにしてる私の耳に、沖田の声が聞こえてきた。

 

「オルタさーん、我々新撰組のお話もぜひ検討してくださいねー!」

「ええ、殺伐としすぎているからやめとくわ!」

「そんなー」

 

 アンタがいくらしょぼくれようが知ったことじゃない。邪魔しないで頂戴、今は早く描きたいの。

 きっと面白くなる会心のアイディアを、内側から外へと余すところなく出さなきゃなの。

 そうしなきゃ、アイツには勝てない。アイツを超えられる漫画なんて生み出せないんだから。

 

 

 そうして彼女はマスターの手を引いたまま、空港からホテルまで駆けていく。

 多くの視線を気にも止めず、ただ描き出したいという衝動を胸に抱き一心不乱に。

 無意識にまばゆい笑顔を浮かべるオルタに引っ張られていく困惑顔の藤丸は、まるでどこかにありそうな青春映画のワンシーンのようで。

 

 ……その日の夜にロビンの口から『エモいことしてるじゃねーか、お二人さん?』と、場を引っ掻き回す爆弾を投下されることとなった。




ジャンヌ・オルタ
だんだんと創作の楽しみを分かり始めてきた厨二病。
実はマスターに対して異性の目を向けることはあれど、恋愛対象としては見ていなかったりしる。
彼女からしてみると、藤丸は"長年付き添ってきた悪友もしくは舎弟"といったポジション。
ただ、誰にもその位置を取られたくないが故の独占欲であり、開き直る程度に認めているので非常にワガママ。

藤丸
創作に対しては未だ疎いマスター。
女性経験はないが、学生の頃は意外にも女友達が多い方だった。
そのためか女性から異性的に好かれるというよりは、気の合う同性として見られている節がある。

沖田総司
来年にケッタイな水着を貰うこととなった新撰組一番隊隊長。
ポンコツ幕末脳なのだが謎のカリスマ性があり、オルタたちと別れてからサバフェス終了までに数十名の隊士を加入させることに成功する。
ただし、ループの影響で翌日にはまた0名となる模様。是非もないよネ。
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