サーヴァント・サマー・フェスティバル推量 -マテリアルに記録されていない、芸術に彩られた夏の話をしよう-   作:影斗朔

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メインシナリオ『ビーチの女王』直後のお話。
マシュ視点の物語となります。


大和撫子七変化!

 自分で撒いた種は自分で回収するべき。

 はい、ごもっともな事だと思います。

 ただ……今回ばかりは回収をお断りしたい事態となってしまいました。どうしましょう……。

 

「とりあえず借りた衣装からいくつか見繕って、それらの服に着替えてキャラを演じてもらいましょうか」

「あ、あのー。どうしてもわたしじゃないといけませんか……? 牛若丸さんでも問題ないのでは……」

「牛若丸だと普段のキャラが強すぎて話にならないのよ。かといってロビンや藤丸に着てもらうのも、ねえ?」

「マスターはどうか知らねぇが、少なくともオレは御免だからな!?」

「いやいや、俺だって女装は無理だよ!?」

 

 お借りした衣装が全て女性物ですからね、マスターやロビンさんが嫌がるのはもっともな話ですが、今はもう一人くらいお仲間が欲しい気分です。

 ……はあ、まさかこんなことになるなんて……。

 

 

 事の発端はオルタさんが欲しがっていた資料……『傲慢ちきで、自分が世界一美しいと考えている感じの女性が、(ひざまず)いている写真』が手に入らず、仕方がないので不肖わたし、マシュ・キリエライトがその役を演じてみたのが始まりでした。

 

「ふーん、そんな経緯でアンタがメイヴ役を演じて見せたってことね。言ってくれないとわかんないわよ、そんなの」

「ですよね。申し訳ありません……」

 

 どうにもオルタさんから見ると、わたしが変な呪いにでも掛かったようにしか見えなかったそうです。

 確か何かを演じて見せる、なんてわたしには初めての経験なような気もしますし、上手いこといかないですよね。

 

「ん。まぁいいわ、へったくそだったけどそのやる気だけは買ってあげる。せっかくだから出そうとしている他のキャラも演じてもらいましょうか」

「あ、ありがとうございま…………え?」

「出来たら衣装も欲しいわね。牛若、なんかいい案ない?」

「でしたら確か刑部姫が参考資料にと、黒髭殿から衣装を何着か借りていらしたかと。ちょっと借りられるか聞いて参りますね」

「え、あの……」

 

 褒めてくださるのは嬉しいのですが、ちょっと想定外な話になってきました。

 これも良い機会ではあるのでしょうが、流石にわたし一人だけが服を着替えて演技をするというのは気が引けるのですが。

 

「ちょっとオルタ、まずはマシュに確認を取ってからじゃないかな? どうにも状況が掴めてなさそうなんだけど」

「まあまあ、そう固くなりなさんなよマスター。お前さんだって、マシュ嬢ちゃんの普段見れない服装に興味がないわけじゃないだろ?」

「いや、まあ、……うん。正直なところ、興味あるけど……」

「先輩!?」

 

 まさかロビンさんが先輩を言い包める側に回るなんて……!

 って、驚くほどのことでもないような気もしますが、どうしましょう……これでわたしの味方と言える方がいなくなってしまいました。

 せめて、牛若丸さんが刑部姫さんから衣装を借りられなければ、あるいは────。

 

「皆様、お待たせいたしました! 刑部姫にお聞きしたところ、快く数着お借りいただけました!」

「でかしたわよ、牛若!」

「まあ、そうなりますよね……」

 

 うきうきした笑みで戻られた牛若丸さんの手元には複数の衣装が掛けられていました。

 これはもう、どうあがいてもやるっきゃないようです。

 

 

 ……といった経緯で、わたしはコスプレを披露した上でオルタさんが望むキャラを演じるなんて状況になっていたのでした。

 

「まずはメイド服でしょ。コスプレって言ったらメイド、これに限りますよ」

「まあ妥当よね。てなわけで牛若、着替えの手伝いしてやって」

「任せて下さい! とはいえ私は、服を着せたり脱がしたりといった経験はないので、アドバイスをお願いいたしますねマシュ殿!」

「わ、わたしにもそんな経験はありませんが……」

 

 むしろ、そんな経験のある方がこの場にいらっしゃるとは思えませんが、それはさておいて。

 いつの間にか決まってしまった状況ではありますが、こうも皆さんから期待の眼差しを向けられてしまっては背に腹を変えられません。

 

「わかりました。不肖マシュ・キリエライト、皆さまのご期待に添えるようなキャラクターを演じてみせます!」

 

 そうして牛若丸さんを連れて意気揚々と隣の部屋に着替えに向ったのですが……あまりにも気が逸っていたようです。

 着替えを終えて部屋の前に立つ頃には緊張で声が震えていました。

 

「おおおお待たせしました! マシュ・キリエライト、入室します!」

「……私っていつから面接官になったのかしらね?」

「着慣れない服を着て人前に立つのは割と勇気がいるものだから……。落ち着いてからでいいよ、マシュ」

「い、いえ、大丈夫です、先輩! マシュ・キリエライト、行けます!」

 

 しかし、一度ドアを開け放てば落ち着かせたはずの気持ちが一気に乱れてしまうものでして、

 

「おおお帰りなさいませ、ご主人さま! ごごごご注文はいかがいたしましょうか!?」

「なんでメイド喫茶口調なのよ」

 

 仏頂面で出迎えたオルタさんに、ぐさりと一言物申されてしまいました……ぐすん……。

 

「おや、メイドというものはこのようなものだと、黒髭殿からお聞きしましたが、どこかおかしかったでしょうか?」

「牛若の入れ知恵? ふつーにおかしいわよ。主人を迎えたメイドが注文がないかって問いかけるワケないでしょ」

 

 です、よね……ちょっとおかしいんじゃないかなとは思っていたのですが、頭が真っ白になってしまってこの言葉しか出て来なかったのです。申し訳ありません……。

 

「こら、目を伏せないの。着ているのは際どいミニスカじゃなくてシンプルなクラシカルスタイルなのに、恥じらいとか不安が前に出てて役になりきれてないわ。それじゃ資料にならないじゃない」

「いやいや、これはこれでいいもんだぜ? 不安げな顔で恥ずかしさに頬を赤らめるウブさなんて、クラシカルなメイド服に似つかわず逆に映えるだろ。なあ、マスター?」

「い、いきなり俺に振らないでくれない!? 似合ってることを上手く口にできるよう、今考えているから!」

「先輩……」

 

 難しい顔をされていると思ったらそんなことを考えていたんですね……。

 大丈夫ですよ、先輩。似合ってるって言ってくださるだけでも、わたしは凄く嬉しいです。

 もちろん、ロビンさんみたいに詳しく言ってくださるのも嬉しいですが、嬉しさに大小差なんてありませんから。

 

 ……ただ、あまりにも具体的に褒められると、場合によってはちょっと引いてしまいそうになりますけど。

 

「じゃあ、いくつかポーズを取ってもらおうかしら。それが終わったら、次はこれに着替えてきて」

「次はチャイナ服ですか。了解です!」

「つ、次はもうちょっと、緊張しないように頑張ります!」

 

 衣服を持って颯爽と駆け出していった牛若丸さんを追いかけようと振り返って、長い丈のスカートがふわりと揺れる。

 それがちょっとだけ新鮮で、自分のことなのに可愛らしく見えて、頬が緩んだ。

 

 ……でも、次の衣装に着替える頃にはそんな気持ちもどこかに吹き飛んでしまいました。

 

「し、失礼します。え、えーと、そのぅ……」

「あー、さっきはああ言ったけど、無理にキャラ付けしなくていいわよ。恥じらいなんてそう簡単に捨てられるものじゃないし、ないものは自分で補完するわ。とりあえずポーズを取ってもらう程度で妥協するわよ。それくらいならできるでしょう?」

「は、はい。任せて下さい!」

 

 オルタさんは口調こそ強いですがちゃんとわたしを気遣ってくれてますし、その期待に応えられるように努めたい、とは思うのですが……。

 

「なんか動きがギクシャクしてるわね、もうちょっとシャキッと動けない?」

「す、すみません……。スリット、と呼ばれる切れ込みがどうしても気になってしまいまして……」

 

 今わたしが身につけているチャイナ服は赤を基調とした体にフィットする綺麗な衣装なのですが、左足のスリットが腰付近まで伸びている仕様となっていて、これが、その……地味に恥ずかしいのです。

 

「普段の鎧姿よりも露出は控えめなはずですが、どうしてでしょうね?」

「そりゃあ、素肌を全て隠せそうなほど長い丈の衣服を着ているのに、少し動くだけで切れ込みの入っている腰付近まで見えちまうってのが気になるんだろ。赤の服に艶やかな白い足はとても映えるからな」

「ま、その部分こそチャイナ服の醍醐味みたいなものだし、視線を集めるには十分な破壊力を持っているものね」

 

 皆さんが各々の意見を交えながらわたしの足に注目してくるのも、恥ずかしさの原因とはなっているのですけどね。

 ただ、マスターはさっきよりわたしの方を見てくれないのはなぜでしょう。あまり似合ってなかったのでしょうか……。

 

「マシュお嬢さん、マスターなら気にしなさんな。男ってものは直視できるもんとできねーもんの二つに分かれてて、マスターは後者なだけなんすよ」

「……?」

「私が言うのも何だけど、アイツただのムッツリなだけだから。アンタの服が似合ってないってことじゃないわよ」

「む、ムッツリなんかじゃないって! ……ちゃんと見れなくてごめん、マシュ。でも似合ってるよ」

「そう、ですか? ……ありがとうございます、マスター!」

「はいはい。とりあえず見たいものは見れたわ。じゃ、次はこれで」

 

 

 ────こうして、わたしは着せ替え人気みたいに色々な服を着てまわりました。

 中には男装用スーツであったり、先輩の通っていた学校の制服に似た衣服もあったりして、普段では感じられることのない新鮮な経験ができたと思います。

 ただ……。

 

「はい、お疲れ様。とりあえずこんなもんかしらね」

「大丈夫でしたでしょうか」

「ん? と言うと?」

「わたしはあまり上手く演じることができませんでしたし、衣装が似合っていてもオルタさんの資料にならなければ意味がないので……」

 

 わたしが着替えていたのは、あくまでオルタさんが求めていた資料が手に入らなかったから、代わりの資料としてのことでした。

 だから、役に立てなければ意味はないですし、貴重な時間を無駄にしているだけだと、そう思ってしまうのです。

 

 対して、オルタさんは小さくため息を吐いた、ように見えました。

 呆れからだと思うけれど、失望は感じられなくて。……ただ純粋にバカなことを喋っていると言いたそうに。

 

「あのね、上手いか下手かなんてどうだっていいのよ、今書いてる漫画の登場人物だって演者の卵だし、熱意に突き動かされているバカばっかなんだから」

「熱意ですか。刑部姫さんが言っていましたね、アマチュアだからこそ熱意だけは忘れてはいけないと」

「ええ。私だってそう、同人姫からしてみたら『アイツに負けたくないから』っていう熱意に動かされているらしいし、最初はそれが何よりも大事なんでしょ? だったらアンタが着替えていたのも決して無駄にはならないわよ」

「オタクもたまにゃいいこと言うじゃねえか。そう、肝心なのは楽しむこと。出来栄え云々はひとまず置いといて、まずは心の底から楽しみましょうやマシュお嬢さん」

「たまになんてことはないでしょ。けどまあロビンの言う通りよ、衣類なんてものは自分を飾るもの。恥ずかしがっていたら飾られているように見られるわよ」

 

 ロビンさんに口を出されて少しばかりムッとしたようですが、オルタさんなりに励ましてくれているのでしょう。普段からは考え難くはあるのですが、案外世話焼きなところもあるのですよね。

 

 ……熱意。確かにさっきまでのわたしは皆さんのお役に立とうと思う熱意だけはあった気がします。

 ですが、やはり上手く演じられているわけではないのは事実。

 

「でしたら、どうすれば良いのでしょうか?」

「簡単な話よ。自然体でいなさい」

「そ、それだけで良いのですか?」

「当然でしょ、外も中も取り繕ってたらあまりにも作り物臭くて見てらんないわよ。アンタは素材が良いんだから、何を着たって堂々と自分を演じてたらいいの。変なスイッチが入っているタイミングなら着こなせる服のレパートリーが増えそうだから尚更ね」

「……はっはい!」

「何よ、今の間は」

「いえ……オルタさんって、ファッションへの理解も深いのですね」

「これくらい当然でしょ。プロはもっと沢山のことを考えているんだから、そう簡単に詳しいなんて言わないの」

「ホント、お前さんはどうしてそうも卑屈になるかねぇ……水着のセンスはお前さんらしくていいと思うんだけどな」

 

 確かにロビンさんの言うとおりです。オルタさんは存外知識が豊富なのですから、もう少し自分の事を認めてもいい気がします。

 ただ、わたしも人のことを言えそうにないので口を噤んではいますが。

 

「それより、意外だったのはコイツね。水着サーヴァントを見慣れているんだから、ちょっとばかり過激なのを見ても大丈夫だと思ったらこの有様よ」

「それに関してはオレも同意だわ。漫画でもないってのにショックのあまり失神するなんてな」

 

 そう、私としてもビックリだったのですが、先輩はどうやら刺激が強いものには弱かったみたいです。

 オルタさんの悪ふざけでちょっと露出が強めの衣装を着たところ、十秒も経たずしてその場で失神するとは……。

 今はベッドに寝かせていて、牛若丸さんにミネラルウォーターを買いに行ってもらっているといった状態でした。

 

 先輩には悪いですが意外に可愛らしい面もあるのだと初めての発見でした。

 ただ、お二方が調子に乗って横になっている先輩をつつき始めたので、その邪魔になるようにベッドに座りますが。

 

「ただまあ、マスターは一度としてマシュお嬢さんの服が似合わないとは言わなかったんで、そこんとこは自信を持っていいと思うぜ」

「そう、でしょうか」

「そうそう。たださっきみたいな刺激の強いのはあんまりみたいだけどね。こいつにとってはアンタが自然体でいられる服が好みなのよ、きっと」

 

 それなら、よかったです。

 慣れないことをしてしまったせいで、先輩に迷惑をかけてしまったのではないかと心配していたので。

 

 でも、色々と着替えてみてわかりました。────普段着ることのない服に着替えてみるのはとても楽しいと。

 いつものわたし、マシュ・キリエライトとしての振る舞いが、服を替えるだけで全然違ったものに変わるのですから。

 これはきっと、オルタさんが言っていた情熱に繋がるものなのでしょう。

 創作ではないですし、私自身の内面が変わったわけではありません。それでも、普段とは違う自分を演じ、内側にある感情を外側に出すという行為に繋がる着替えというのはとても楽しいと、そう思います。

 

 あくまで今回はサバフェスの資料役として様々な服に着替えましたが、またいつか機会があれば、もっといろんな服を着てみたい。

 そして、先輩にみてもらいたいな……なんて、思いながらわたしは真っ赤な顔のまま眠っていらっしゃる先輩の頭を撫でるのでした。




あとがき人物紹介その8

マシュ
着せ替え人形にされるうちにコスプレ趣味に芽生え始めた後輩。
元々変装に関しては興味があったところを今回の件で熱が入ったらしい。
カルデアに戻ってからも時折こっそりとコスプレをしはじめ、ハロウィンではなんとデンジャラスな衣装を披露するほどに。
……ただ、その翌日に理性を取り戻したのか、数日間は恥ずかしさのあまり他人の顔を見れなったとのこと。

藤丸
あまりにもウブだったカルデアのマスター。
実のところ肌色耐性や過度な露出に耐性がないわけではなく、相手がマシュだったからこそ見てられなくなったのだが、それを知っているオルタやロビンは面白いから敢えて黙っているのだった。

ジャンヌ・オルタ
マシュにコスプレ趣味を芽生えさせた張本人。
地味に自己満足感が低く、自身が求めるクオリティーは結構高め。

ロビンフッド
今回は逆に苦労させる側に回った苦労人。
多くの女性に声をかけてきた経験からか、衣服の褒め方などが上手。語彙力も強め。

牛若丸
着せ替えの手伝いや買い出しなど今回は裏方に回りがちだった平安武士。
言動がバーサーカーっぽいことを除けば指示に従い予想以上の成果をもたらしてくれる筋金入りの忠犬。
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