西暦2138年――人気を誇ったDMMO-RPG『ユグドラシル』もサービス終了の時が近づいていた。
既にゲームは過疎化し、かつて名を響かせたギルドとて多くは引退していた。
悪名高き異形種ギルド、アインズ・ウール・ゴウンもそんな落日のギルドの一つ。
今やギルドメンバーとして登録されている者はわずか四人。
その多くも疎遠であり、今や訪れるのはギルドマスターたるモモンガのみとなっていた。
その拠点たるナザリック地下大墳墓、第九階層、円卓の間。
ユグドラシル最後の日、かつてのギルドメンバー全員にメールを出したモモンガだったが……訪れたのはただ一人。
そんな
ログアウトしようとしているのだ。
実際に限界なのだろう。スライム種である彼の体はゆらゆらと揺れ、寝落ち寸前を思わせる。
「じゃ、そろそろ睡魔がやばいので……アウトします」
モモンガとしてはサーバーダウンまでいてほしかった。
だが、内心でどれだけ引き留めたくとも、彼のリアル事情を聞いた後で、そんな言葉は口に出せない。
モモンガの
職場のブラック加減も含め、けして他人事ではない。
「最後に、モモンガさんに会えて……ああ!」
「ど、どうしました?」
突然、ヘロヘロが大きな声を出す。
「すみません! ずっと忘れてました! ぺロロンチーノさんから預かったのに!」
「は? ぺロロンチーノさん?」
骸骨姿のモモンガが、「驚き」の
ぺロロンチーノといえば、モモンガにとって最も仲の良かったギルドメンバーである。
彼もまた引退して久しいはずだ。
彼の名前が突然出て、驚かざるをえない。
「いやー。ぺロロンチーノさんとタブラさん、ホワイトブリムさんがせっかく作り込んでくれたのに、すっかり忘れてました。すみません!」
「えっ?」
なつかしい名前が羅列される。
この場には二人しかいないが、他の三人を思い出し、モモンガの心は少し癒された。
「これ、モモンガさんの拠点NPC、パンドラズ・アクターの外装と設定です」
アイテムボックスから大容量型データクリスタルを取り出し、渡してくるヘロヘロ。
「パンドラズ・アクター? ……うっ」
己が造ったNPCについて詳細を思い出すと、突然に猛烈な羞恥心と焦燥感が襲った。
胸に杭が刺さったような気分である。
正直、のたうち回りたい。
思えばモモンガはギルメンが去った時、ゲーム内ですら厳しいリアルに直面し、厨二病を卒業したのだ。
そして未だ、厨二病をわかった上で楽しむほどの余裕もない。
今まではモモンガ一人、金貨やアイテムを放り込みに行く折に見かけるだけだったパンドラズ・アクター。
彼に込められた設定、アクションを思い返すと……いや思い返すまいと、彼を常にギルメンの姿に変えていたのだろう。そしてギルメンと想定して話しかけたりもした……。
仲間がいれば……いろいろと作り変えていただろう。
いや、仲間がいれば今も厨二病だったろうか。
ともあれ、確かにパンドラについてはコマンド時の行動とか、設定とか、できれば外見もいろいろ変えたい。
「ははぁ、やっぱり黒歴史になってます?」
そこに刺さる、容赦ないヘロヘロの言葉。
「いや、その」
「当時もみんな、そう思いましてね、モモンガさんの作った外装と設定を重視しつつで、別パターンをこっそり作ってたんですよ」
「ぐわああああ! そんなことしてたんですかああああ!」
してたんです、と疲労ハイテンションのドヤ顔アイコンを出すヘロヘロ。
PVP用の挑発アイコンなのだが、身内の会話ではドヤ顔アイコンと呼ばれるものである。
もっとも、モモンガにアイコンを見る余裕などない。
彼が厨二病どっぷりの頃、仲間たちはそれを生暖かく見ていたのだ……。
(死にたい……)
今までの寂寥感とはまた別の、なんとも言えない羞恥の極み。
「いやぁ、モモンガさんがパンドラズ・アクターでのたうち回る時に渡そうって話だったんですが……」
その時は来るより早く、ぺロロンチーノたちも引退し。
ヘロヘロも疎遠になってしまったのだ。
「そ、そうですか、みんなが……」
己の厨二病の結晶を思い出すのはモモンガにとって、なかなかきついものであり。
それをギルメンが生暖かい目で見ていたという事実はかなりアレであったが。
最後の最後に、仲間たちとの思い出がもたらされ、贈り物をもらえるならば。
羞恥心と同時に、あたたかな満足感もある。
たぶん、ある。
「なら、さっそく宝物殿に行って、パンドラズ・アクターに使ってみましょう」
自他をごまかすように早口で言うモモンガだが。
「…………」
ヘロヘロの返事はない。
「あれ? ヘロヘロさん?」
「…………」
スライムボディがどろどろと、今にも椅子からこぼれ落ちそうになっていた。
「ちょ! ヘロヘロさん! サーバーダウン時の寝落ちはヤバイですよ! 神経にダメージ入っちゃいますって!」
「え、あ……あ、すみません、モモンガさん。最後に渡せてよかった……」
何とか身を起こしたヘロヘロが、遺言じみた言葉と共にログアウトする。
円卓の間にはモモンガ一人となった。
社会人ギルドとして、本来ならもう少しきちんと挨拶すべきだったが……。
(ユグドラシルⅡで会いましょうとか無責任に言われるより、こういう別れ方の方が、俺たちらしいし……そうそう、前はよく寝落ちしちゃう人もいて、みんなでがんばって起こしたよな)
最後までいっしょにいられなかったのは残念だが、悪くない。
湿っぽい最後より、かつてを忍ばせてくれた方が、ありがたい。
それに、ただ最後まで時間を過ごすだけでなく、しっかり楽しみもくれた。
「最後の時間は、みんなの遺してくれた外装と設定を見て過ごすか」
思わぬサプライズにモモンガの気分は明るく、足取りは軽かった。
ナザリック地下大墳墓、第十階層、宝物殿。
タブラ・スマラグディナの姿に変えたままだったパンドラズ・アクターを本来の姿に戻し、いくつかの行動コマンドをしてみる。
逐一、無駄にオーバーアクションだ。
「うーん、この動きは……ださいわー。なんで、前はかっこいいと思ったんだろ……」
ヘロヘロさんがいなくてよかった、と口には出さず苦笑する。
このデータを皆がいて渡される時には、ギルドメンバーから盛大にいじられていただろう。
いや、その後も延々とネタに使われたに違いない。
「……それも、いい思い出になっただろうけど。一人ですることになったのはまあ、悪くはない」
一人でいることに少しだけ感謝する。
自然と、ポジティブな気分になれていた。
そうして……やたら膨大なデータクリスタルの内容を、パンドラズ・アクターに適用する。
「あー、やっぱり」
ぺロロンチーノ、ロリコン公言者。
彼が加わった以上、至極当然ながら幼女。
「うわー、設定長っ……」
タブラ・スマラグディナ、設定魔。
彼が参加している以上、その設定は膨大。
「うん、でもさすが見事なかわいさだ。さっきちらっと見たプレアデスともまた違う個性的な顔だな」
ホワイトブリム、現役プロ漫画家。
女性キャラの描き分けは、さすがのプロ。
「へぇ……軍人っぽい感じの動きだな。さっきと違って絵になってるし、機能性重視な感じか」
ヘロヘロ、今も昔もプログラマー。
多くのNPCに“動き”という命を与えた。
「みんなさすがだなぁ。俺も自分でいろいろできたらよかったんだけど」
新たなパンドラズ・アクターの外装を唸りながら見つめ、またさまざまなコマンドで動きを見つつ。
設定を読み始めた。
「ふむふむ……パンドラズ・アクターの名はコードネーム扱いか。本名は女の子らしいんだな」
「へぇ、対外攻勢指揮官でもあるのか……拠点NPCだから外には出れないし、フレーバーかな?」
「この姿のままでも、衣装のみ変えてギルドメンバーの能力を使用可? え? 外見を変身せずに能力使えるってこと? ……ああ、フレーバーか。びっくりした。できたら、読み合いで強すぎだろ」
「知性の優秀さ、アイテム知識はそのまま、軍事知識と戦略にも長けるのか。アイテムフェチはなくなって、能力主義や合理主義……ドイツ語もある程度は使う、と。ちゃんと活かしてくれたんだなー」
「誇りある軍人で、民間人に危害が及ぶことを嫌う。慎重だが、一度戦いを決断すれば容赦なく徹底的に敵を滅ぼす……」
悪くないアレンジだ。
オーバーアクションの設定もなくなり、きびきびとした行動をとり、自他に厳しいとなっている。
軍服キャラらしく変えたのだろう。
外見は幼女だが。
長い設定をさらに読み進める。急がないとサーバーダウンまでに読み終えられない。
「ん? なんで途中から俺の話になってるんだ……?」
「え? 俺がアンデッド化する前になくした娘の代わりに作った? は? 守護者統括アルベドも、俺がタブラさんに頼んで妻に似せてもらった!?」
「リアルじゃ未婚どころか童貞なのに、なんで妻子がいるんだよ……」
勝手に個人の過去をねつ造しないでほしい……確かに、特に何も考えていなかったが。
まあ、本来なら見て慌てるところを見て、さらに弄る予定だったのだろう。
仲間たちの煽る声が聞こえてくるようだ。
「普段は俺を閣下と呼ぶが、二人きりだと父上と呼ぶ……おおう。これはぺロロンチーノの仕業か? いや、甘えてきたりしないなら、タブラさんの裁量か? きっとシャルティアもこういう……いや、もっとヤバイ設定がついてるんだろうな」
「守護者統括アルベドを育ての母としており、彼女を母上と呼ぶ、と。んん? あれ? これってマジで俺とアルベドが夫婦ってこと?」
何やら嫌な予感がしてきた。
「そういえば、このデータ適用時に他のNPCの設定が書き換えられましたってメッセージあったな……無駄に凝ったことしてるなって思ったけど……まさか……」
少なくともアルベドは書き換えられているに違いない。
「前に見せてもらった時、そんな設定はなかったはず。嫁にどうですか、なんて言われたけど……冗談だと思ってたのに……異形種で骸骨から、結婚してもなぁ」
せっかくできた家族だが、あとわずかな時間で世界もろとも消えてしまう運命。
「えーっと、まだあるのか」
設定魔だけあって、やたら長い。
チラと、時計を見ると、サーバーダウンまであとわずか。
設定から仲間との思い出に浸るのは悪い最後ではなかった。
無理に玉座に座って、魔王ロールするより有意義だったろう。
黙ってささっと、残り少しとなった文章を追う。
(人間関係や少し苦手。言葉が足りず勘違いされたり、勘違いしたりしやすい……まあ幼女だし、かわいげがないとな)
23:59:00
(両親の苦労や愚痴もよく聞いてくれる……嬉しいけどさぁ! 幼女にさせると親の甲斐性が!)
23:59:45
(これが最後か。実は21世紀初頭に死んだエリートサラリーマンの記憶を持つ転生体……んん!?)
寝不足のせいかと首を振り、もう一度見る。
23:59:52
『実は21世紀初頭に死んだエリートサラリーマンの記憶を持つ転生体』
23:59:55
「ええええ!? 男!? サラリマン!? サラリマンナンデ!?」
23:59:56
23:59:57
(た、タブラさんギャップ萌えってレベルじゃねぇぞ!)
23:59:58
「これは……ギルド長権限で……いや、でも、タブラさんの」
23:59:59
だが、設定を書き換えるような時間はない。
00:00:00
「まぁ……これが最後か。まあかつての気分にも浸れたし、全ての終わりとして悪くは……」
00:00:01
00:00:02
00:00:03
「ん? あれ? どういうことだ?」
すわ運営の不手際かと首をかしげ、コンソールを開こうとするが。
「どうしたんです、父上」
堂々とした、しかし愛らしい声を、目の前の幼女が発した。
「ああ、パンドラ。いや、ターニャ。どうやら運営が……えっ?」
「はい?」
金髪の幼女の姿をしたパンドラズ・アクターことターニャ・デグレチャフが、不思議そうに首をかしげている。
このあとめちゃくちゃ感情鎮静化した。
というわけでパンドラが『幼女戦記』のターニャさんになる話。
中身が男は入れるかどうか迷いましたが、原作ターニャと別キャラにはしたくないのでこの形に。
パンドラズ・アクター大好きなんですが、モモンガさんの羞恥心発動させず動かすために別キャラ差し替えになってしまいました。
ヘロヘロさんログアウト後、いそいそと宝物殿に行ったため、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは持ってません。
セバスもプレアデスもスルー。
玉座の間には入ってもないので、アルベドについては設定読んで思い出しました。
終了までの時間はターニャを動かしたり、設定読み込んだりで終わらせてます。
直前にサプライズプレゼントを受け取ったため、モモンガさんのメンタルは原作より良好。
黒歴史じゃなくなったパンドラ(ターニャ)を初期からフルで使います。
たぶんリアルとかユグドラシルのことも、全部教えちゃいます。
設定読んでる間の独り言も、全部聞いてるのでターニャは理解者になってくれるし、他NPCも信用していいよ!って教えてくれます。
アルベドの設定は書き換えていませんが、タブラさんの無駄に凝ったセッティングでなんか書き換えられてます。
誰だお前ってくらい変わってる可能性も(ガグ設定とかビッチ設定は消えてそう)。
関わってる人たちも他キャラも一部変更ないし設定追加の可能性あり(ニグレド、ルベド、シャルティア、ソリュシャン)。
声的な理由で、クレマンティーヌと出会った時どうなるか気になりますね!
他の話がどれか終わるか、ほぼエターした場合、続くかもしれません。
とはいえ続ける場合、どうやってモモンガさんを女体化させるかが問題……(作者的必須条件)。
現状イメージでは以下の流れかしら(悩)。
モモンガ(アルベドと夫婦設定だけど男になると18禁行為することになっちゃう!)
モモンガ(こここ心の準備が! せや女のアバター選ぼ!)
アルベド「ご安心ください、サキュバスのスキルで(ry」
モモンガ(女の体でもアルベドからは逃げられなかったよ……)
アルベド「モモンガ様も母親になりましょう!」
ターニャ「母上、薬師に作らせた亜鉛の錠剤を持ってきました」