スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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一部、追記しました(2019年5月16日



5話 組み分けの儀式

「まもなく『組み分けの儀式』が始まります。ここで待っていなさい」

 

 マクゴナガル副校長と名乗った魔女は、それだけ言うと去って行った。

 その途端、静まり返っていた広間に、ざわめきが波のように広がり始める。

 

「組み分け、か」

 

 ぽつり、と呟く。

 マクゴナガル副校長は、詳しい内容を何も話してくれなかった。

 魔法使いらしく、魔方陣の上に乗って呪文を唱えるのか? それとも、怪しげな水晶玉で占ったりするのだろうか?

 いずれにしろ、この人数だと時間がかかりすぎると思うから、簡易的な儀式だと思うが……  

 正直、不安はあまりなかった。どこまでも広がる湖と星空の向こうに、このホグワーツを見た瞬間から――不安なんて吹き飛んでしまっていた。むしろ、この素晴らしき城で魔法を学べることに対する期待ばかりが膨らんでいく。

 それに、たかが寮を決める組み分けで死ぬような目にはあわないだろうし、高い金を払ってまでして学用品までそろえた子供を『儀式不適合だから退学!マグルの中等教育学校に行きなさい』って真似はさすがにしない……と思う。

 

 ありえないと信じよう。

 

「おや、1年生だ」

 

 そんなことを考えていると、壁の中から人が現れた。

 半透明で、どことなく古めかしい――ダイアゴン横丁で見かけた魔法使いたちよりも一段と古めかしい衣装を身に纏っている。

 彼らは、自らを『ゴースト』、つまり、死んだ人間だと名乗り、ピーブズがどうとか、思い思いのことを言って、再び壁の中へ去って行った。いや、壁を通り抜けたというべきか……

 それにしても、死んでゴーストになるなんて、不思議な現象だ。

 しかもゴーストというのに、眼鏡をずらして『眼』で睨みつければ、最初は視えなかったが、注視してみると、きりきりと痛む頭痛と共に、彼らにも線が薄らとついていることが分かった。幽霊になっても、『死』が待っているなんて、嫌な感じがする。

 いくら『魔法界』でも、『不死』という概念はないのかもしれない。もしくは、あったとしても『禁忌』か、あるいは……。

 

「セレネ、どうしたの?眼鏡の調子が悪いの?」

 

 ロングボトムが、話しかけてきた。

 先程見つけたヒキガエルをしっかりと抱きしめ、不安そうな顔をしている。

 私は外しかけた眼鏡を元に戻し、ロングボトムに向き合った。

 

「いいえ、ちょっと曇っていたので拭いていただけです。――あっ、副校長先生が戻ってきましたよ?」

 

 丁度良い具合に、マクゴナガル先生が戻ってきた。

 

「みなさん、始まります。着いてきなさい」

「うぅ、とうとう組み分けが始まるんだ」

 

 ロングボトムは、蛇に睨まれた蛙のように震えだす。お腹が痛み始めたのか、片手で腹を撫でていた。

 どうやら、無事に話題を逸らすことが出来たらしい。内心、ホッとしながら歩みを進める。

 他の生徒たちの足取りは、どことなく重い。無理もない、これからやる儀式の内容を知らされていないのだから……。

 私も、彼らの列に混じって大広間に入った。

 

「うわぁ……」

 

 広間に入った瞬間、思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。

 大広間の中には、まさに『魔法』に満ち溢れた『黄金』と呼ぶにふさわしい空間が広がっていた。つい、浮き足立ちそうになる。

 何千というろうそくが空中に浮かび、4つの長いテーブルを照らしている。テーブルには、おそらく四つの寮ごとに分かれて上級生が客席し、ろうそくの明かりでキラキラ輝く金色の大皿とゴブレットが置いてあった。

 まだ、何も置いていないということは、これから食事が配られるのだろうか。しかもこの量となったらかなりの時間が必要だ。きっと、これにも魔法を使うに違いない。

広間の奥の上座には、もう一つ長いテーブルがあって、先生方が座っていた。

 スネイプ先生や、ハグリッドもそこにいた。マクゴナガル先生は、上座のテーブルの所まで私達を引率する。私達を興味深そうに眺めてくる上級生の視線が痛い。

 

「空じゃなくて天井よ、魔法で夜空のように見えるだけ。『ホグワーツの歴史』という本に書いてあったわ」

 

 ハーマイオニーが得意げに話し始めた。

 私もつられて上を見上げてみる。すると、そこには夜空が描かれていた。

 プラネタリウムに負けず劣らずの夜空だと、感心してしまう。いや、プラネタリウムとは違いこちらの夜空には雲もある。

 

 魔法って凄い!

 

「やはり魔法で作られた天井なのですね。超高性能プラネタリウムかと思いました」

「あら、知らないの?ホグワーツの中だとマグルの機械製品は狂うのよ?」

「―――そ、そうですよね」

 

 ……しまった。

 そうとは知らずに、ステレオを持ち込んでしまった。

 イヤホンがあれば問題ないだろ、と思ってトランクに詰めた私のバカ。少し落ち込んでしまう。狂ったまま動かなくなる前に、クイールの所へ送り返そう。

 愛想笑いでその場をごまかしながら、なんとか別の話題を探す。

 

「それにしても、とても綺麗な場所ですね。本物と見間違えてしまいます」

「そうね―――あれ?ねぇ、セレネ。あの帽子は何かしら?」

 

 ハーマイオニーは、不安そうに前を指した。

 指先を辿れば、この歓迎色が漂う晩餐会には相応しくない薄汚れた帽子が鎮座していた。

 

「さぁ……分かりません」

 

 素直に答えた時だった。

 なんと帽子が動き出して詩を歌い始めたのだ。

 AIか? あの帽子は人工知能が内蔵されているのか? 私が目を疑っている間にも、帽子の唄は進んでいく。

 どういう仕組みか分からないが、この帽子が「組み分け」をするらしい。詩の内容は四つの寮の特色を謳ったものだった。

 

・グリフィンドール

 

勇敢な騎士道精神を持った人が集まる寮

 

・ハッフルパフ

 

心優しく忍耐強い人間としてできた人が集まる寮

 

・レイブンクロー

 

勉学に対する意欲が一際強く、学力の高い人が集まる寮

 

・スリザリン

 

どんな手段を使ってでも目的にたどり着こうとする人が集まる寮

 

 

 

 簡単にまとめると、こんな感じだった。

 私はどこの寮に入るのだろう?

 私は、まだ記憶が確かに持てなくて、どこか曖昧な存在だけど、それでも、この数週間で、多少なりとも自分の傾向が分かってきていた。

 

 まず、グリフィンドールは……たぶん違う。

 私に騎士道が似合うとは思わない。だいたい騎士道なんて堅苦しいとさえ、思ってしまう。騎士様は人助けとか利害関係なしに率先して行うのだろうが、自分はメリットとデメリットについて考えてから動いてしまう。正々堂々な行動も性に合わない。

 だから、たぶん違う。

 ハーマイオニーはその寮に入りたがっているみたいだが、どうなのだろう?知的なハーマイオニーはレイブンクローが似合う気がする。ちなみにロングボトムは、ハッフルパフだろうか?先程も私に気遣ってくれたし、なんだか全体的に優しい感じがする。

 

 さて、グリフィンドールは消去するとしたら、残る寮は3寮。

 だが、ハッフルパフもない。私は、自分が優しいとは思わない。もし、優しいのであれば、これまでのセレネを考えてから行動する以前に、ロングボトムを助けるために動いただろう。

 そうなると、残るはレイブンクローかスリザリン。優等生路線まっしぐらの『セレネ』なら、レイブンクローが一番向いているのかもしれない。

 

 

「名前を呼ばれたら順に前に出てきてください。

 ハンナ・アボット!」

 

 金髪のおさげの少女が前に転がるようにして出ていく。

 ハンナと呼ばれたその少女に、マクゴナガル先生が古びた帽子『組み分け帽子』をかぶせると彼女の目が隠れた。

 

 そして一瞬の沈黙。

 

「ハッフルパフ!」

 

 右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、ハンナはハッフルパフのテーブルに着いた。

 

「ねぇ、改めて聞くけど、セレネはどこの寮がいいの?」

 

 後ろに並んでいるハーマイオニーが、こっそり尋ねてきた。

 

「そうですね、平穏に暮らせるならどこでもいいです。

 さきほどの帽子の歌を聞く限りですと、消去法で『レイブンクロー』か『スリザリン』でしょうか?」

「『スリザリン』!?」

 

 信じられない!! と、ハーマイオニーは驚愕を露わにした。その隣にいるロングボトムも驚いて目を大きく開いている。何か不味いことでも言っただろうか? とりあえず、理由を説明することにする。

 

「私は、騎士道精神は持ち合わせていませんし、ハッフルパフが求めるような忠実は持ち合わせていませんから。

 となると、レイブンクローかスリザリンかと思いまして」

「セレネはスリザリンは止めておいた方がいいわ。闇の魔法使いを多く輩出しているって言うし、評判を聞く限りだと『最悪』よ!?」

 

 かなり真剣に訴えかけてくる。

 そんなに評判悪いのか、スリザリン。チラッとスリザリンのテーブルの方を見る。

 まぁ、確かにガラの悪そうな奴もいるが、ガラの悪そうな奴ならグリフィンドールやレイブンクローにだっている。

 

「そうでしたか……たとえどこの寮に組分けされても、よろしくお願いします」

「そうね。出来れば同じ寮がいいけれど」

 

 ハーマイオニーが囁いたその時だった。

 

「セレネ・ゴーント」

 

 私の名前が呼ばれた。

 いつの間にか私の番が来たらしい。私は前に進み出た。

 

 全校生徒が私の方を見てる。

 先生方も私の方を見ている。

 突き刺さる視線が痛い。

 

 少しだけ緊張してきた。私が、こんなに注目されたのは初めてだ。

 けれど、ここは記憶にあったセレネらしく堂々と歩く。周囲の視線なんて気にしてない、と言わんばかりに。

 マクゴナガル先生が私の頭の上に、すっぽりと帽子をかぶせる。 私の視界を闇が覆った。

 

『む!?まさかゴーント家の子かね?』

 

 頭の中で低い声が聞こえる。 恐らく帽子の声だろう。こうして帽子と対話をしながら、寮を決めるのかもしれない。

 

「ゴーントの家名を御存じなのですか?」

『もちろん知っている。まさか生き残りがいたとはな』

「生き残り?つまり、私以外は全て死んでいるということですか?」

『いや、1人だけ生きている可能性がある奴はいるが……

 おしゃべりはこのくらいにしておこう。ゴーントの家系ということは君の寮は決まっておる。

 その寮に入れば偉大なる魔法使いへの道が開けるだろう。

 君の入るべき寮は―――

 

 スリザリン!!』

 

 帽子が、最後の言葉を広間に向けて叫んだのが聞こえる。

 途端にスリザリンから、歓声が湧きあがった。帽子を取ると、私はスリザリンの席へと向かう。

 そうか、私はレイブンクローではなく、スリザリンだったか。予想は外れたが、それにしても『ゴーントの家系』で選ばれるなんて……これまで家系なんて意識したこともなかったけど、有名な家系なのか?

 そんなことを考えながら、ふと途中でチラリっとハーマイオニーやロングボトムの方を見た。2人とも『信じられない』という顔をしている。少し近くに佇んでいたハリーも、同じような顔をしている。マルフォイも意外そうな顔をしていた。

 

 

 少し、心外である。

 

 そこまで嫌われているのか、スリザリンという寮は。

 でも、私を迎え入れてくれた上級生は普通に私を歓迎してくれた。私は、先にスリザリンに迎え入れられていた体格のいい女子生徒の横に座った。

 

「あんたさ、てっきり『グリフィンドール』かと思った」

「どうしてですか?」

 

 初対面で、そんなことを言われるなんて。

 私が『わけわからない』という顔をしていると、その女子生徒は言葉を付け足した。

 

「アタシはミリセント・ブルストロード。聖28一族のブルストロード家出身よ。

 あんたは、列車の中でヒキガエル探してた子でしょ?」

 

 その瞬間、記憶が蘇る。

 そうだ、確か……ロングボトムのカエル探しの時に尋ねたコンパートメントで、

『いないわよ、さっさと出て行って』

 と、追い出された。あまりいい思い出ではないが、ある意味、十分に予想出来る反応だ。他人のカエルの行方なんて、普通は興味がないわけだし。

 

 

「そういえば、その時に尋ねたコンパートメントで会いましたね」

「お人好しと言ったら『グリフィンドール』か『ハッフルパフ』って相場決まってるからね。

 で、あんたは馬鹿そうに見えなかったから『グリフィンドール』って思ったのよ。

 まさか、スリザリンに来るなんてね」

 

 少し『嫌悪』の色が強い視線が突き刺さる。

 なんかむかつく。だが、そんな色を微塵も出さずに、私は平然を装った。これでマグル生まれだと知られては、ますます馬鹿にされる。ここは、魔法使いの家系だと示した方が良いのだろう。

 

「帽子が『ゴーント家の人はみんなスリザリン』って言っていましたが――ゴーントって家系を知っていますか?」

「『ゴーント』? 聞いたことがないわよ。どうせちっぽけで細々と続いてきた家系でしょ?

 あんた、自分の家系のことも知らないの?」

「両親は物心つく前に死んで、以後はマグルの家で過ごしていましたので」

「それは災難だったわね。まぁ、これから7年間、よろしくね」

 

 ミリセント・ブルストロードが手を差し出してきた。

 口調に反して、意外と礼儀はあるみたいだ。聖なんたら一族といっていたが、魔法界の名家のお嬢様に違いない。私はその手を握り返した。

 

「やぁ、ゴーント。君もスリザリンだったんだね」

 

 ブルストロードと少し話をしていると、隣に誰かが腰を掛けてきた。

 ドラコ・マルフォイだ。

 どうやら、彼もスリザリンだったらしい。

 

「あなたもスリザリンだったんですね」

「……僕の組み分け、見てなかったのか?」

「ごめんなさい、見ていませんでした。7年間、よろしくお願いします」

 

 そう言って手を差し出せば、ふんっと鼻を鳴らした。

 どうやら、先程のことをまだ根に持っているらしい。腕を組んだまま、マルフォイは口を開いた。

 

「とりあえず7年間、僕に迷惑をかけるなよ。それにしても驚いたな。君はレイブンクローか、グリフィンドールかと思ったのに」

 

 何故、そろいもそろってグリフィンドールかレイブンクローと言われるのだろう。

 記憶にあったセレネらしく演じているので、レイブンクローというのは分かる。だが、そんなに私はグリフィンドールらしく見られているのだろうか。

 

「ほらごらん、有名人の組み分けだ」

 

 視線を向けてみると、ハリーが壇上に上がるところだった。

 ハリーが組み分けってことは、ハーマイオニーとロングボトムは終わってるに違いない。

 見回してみると、2人ともグリフィンドールの席に座っていた。

 心の中に冷たいものが、じんわりと広がった。

 

 まぁいい。今は、ハリーの番だ。

 

 広間に奇妙な沈黙が広がる。そして、あちらこちらから囁き声が聞こえてきた。

 そういえば、ハリー・ポッターは有名人だったことを思い出す。

 

「どうせグリフィンドールよ」

 

 ミリセントが、吐き捨てるように言った。

 私はああ、と納得する。

 

「たしか、ハリーは魔法界の英雄でしたっけ?」

 

 なるほど、騎士道精神を謳うグリフィンドールは、英雄と呼ばれる人間を輩出している寮なのかもしれない。事実、この国では『騎士道=英雄』というイメージがある。例えば、アーサー王伝説がその筆頭だ。アーサー王もガウェイン卿やトリスタン卿など騎士道を遵守する騎士たちが英雄と謳われてきた。

 

 しかし。

 

「赤子の時に、ヴォルデモートとかいうサイコパスを倒したから英雄だなんて。本当かどうか、本人に自覚がないのに英雄扱いなんて……少し迷惑でしょうね」

 

 私の知る限り、ハリーは自分のことを英雄だと認識していなかった。

 むしろ、虐待されていた。クイールから聞いたが、彼の両親は幼い頃に亡くなり、いまは叔父叔母のところで暮らしているらしい。担任時代は『児童相談所に通報するべきかどうか……』と悩んでいたそうだ。

 

「だいたい、ヴォルデモートって……どうかしましたか?」

 

 そう呟いてから、周囲の様子がおかしいことに気がついた。

 私の周りだけ、不自然に静まり返っている。マルフォイもブルストロードもハリーの方を見ていたはずなのに、私の方を見て唖然としていた。

 

「どうしましたか?」

「ご、ゴーント? 今、『あの人』の名前を……」

 

 その先の言葉は、グリフィンドールから湧き上がった歓声で聞こえなかった。

よく聞き取れないが、どうやら私は言ってはならないことを言ってしまったらしい。もう少し、調べてから話すようにしよう。そうしなければ、『優等生』の皮がはがれてしまう。

 私は、とりあえず

 

「ごめんなさい」

 

 とだけ、謝っておいた。

 

 

 その後、宴が始まった。

 宴の前にダンブルドア校長が立ち上がり、なにか言うのかな?と身構えると、校長はにっこりと微笑んだ。

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。在校生の諸君、久しぶりじゃ。歓迎会を始める前に、わしから言うことはこれだけじゃ。

 それ、わっしょい、こらしょい、どっこらしょい。以上じゃ。それでは、宴を始めるとしようかのう」

 

 私がぽかんとしていると、ダンブルドアが手を挙げる。

 すると、金色の皿の上に、大量の料理が現れたのだ。私は少し、眼をぱちくりさせた。この怪奇現象について、上級生は何も語らず、賑やかに食事を始める。先輩方が食べているので、これはホログラム的な何かではなく、本当の料理なのだろう。

 

 私は手近なローストビーフを皿に取ると、おそるおそる一口、食べてみる。

 

「……おいしい」

 

 料理は頬が落ちるくらい美味しかった。

 ちょっと味付けが濃いような気もしたが、それを打ち消せるほど美味しい。もしかしたら、意識が回復してから、いや、今まで食べた中で、最もおいしい料理かもしれない。

 

「ふん、まあまあな料理だな。僕の屋敷の料理の方が凄いけど」

 

 マルフォイが高説を述べている。

 彼はぺらぺらと自分の家の料理がどれほど美味いのかを語っていた。彼の隣に座った少し犬に似た顔立ちの女子生徒が、うっとりと聞き入っている。

 

 彼の話を聞き、相槌を打っている者がいるなら、もう自分は関係ないだろう。

 私はそう判断すると、素晴らしき料理を味わうことに専念するのだった。ローストビーフにシェパードパイ、ヨークシャープディング、そして、見たことのない肉や野菜料理の数々……なお、ニシンの頭が飛び出てるパイやウナギのゼリー寄せには、手を付けなかった。

 

 

 最後のデザートも食べ終わり、ナプキンで口を拭いていると、再びダンブルドア校長が立ち上がった。

 

 

「皆大いに食べ、大いに語り合ったことだろう。寮へ行く前に一言二言、伝えなければならないことがある。

 まず、校庭にある禁じられた森への立ち入りは禁止じゃ。1年生と一部の上級生に注意しておくぞ」

 

 一瞬、ダンブルドアの青い瞳がグリフィンドールの方へと向けられた。

 おそらく、そこに「一部の上級生」がいるのだろう。

 

「続いて、管理人のフィルチさんからじゃ。授業の合間に廊下で魔法を使うことは禁じられておる。同時に、噛みつきフリスビー、叫びヨーヨーなど使用を禁じられている魔法道具一覧の長いリストに記されておる。もし、気になる生徒がいれば、見に行くと良い」

 

 ダンブルドア校長はそう言いながらも「きっと、誰も見に行かない」と思っているような口ぶりだった。フィルチと呼ばれた管理人は、少し怒ったように校長を見ている。

 

「最後に一つだけ言っておこう。

 今年度に限り、4階の右側の廊下は立ち入りが禁じられている。そこに近づいてはならない。恐ろしい死が待っているからのう」

 

 恐ろしい死。

 最後の言葉だけ、ダンブルドアの口調に真剣な色が混ざった。

 周囲の上級生も息を飲む空気が伝わってくる。廊下で魔法を使うな、とか噛みつきフリスビーを使うな、なんてことはダンブルドアにはどうでもよくて、最後の4階の廊下の話だけは本気のようだ。

 

 よほどのことがない限り、近づかないようにしよう。

 

 死ぬのは怖い。

 そう思えてしまうくらい、死のイメージは強烈である。

 わざわざ4階に近づいて、『』の世界に飛び込むような真似はしたくなかった。

 

 

 

 

 


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