本当に申し訳ありません。
はじめはモータルイエロー視点。
中盤から主人公視点へと移ります。
私が星界の戦士として力を授けられたのは、もう気が遠くなるほど昔のことだった。
兄さんと私、たった二人の家族と共に滅びゆく惑星でいつ死ぬかも分からない毎日を過ごしていた時に、宇宙から囁かれるように振ってきた声。
星界存在“ゼグアル”
黒く、点々とした星の輝きを放つ星雲を纏った男の巨人は私たちに力を授けてくれたのだ。
『星界エナジーは星と星を繋げる力』
『宇宙は今、危機に陥っています』
『暴虐を尽くす巨大な悪意が宇宙そのものを呑み込もうとしている』
『貴方達を加えた5人の戦士ならば巨悪を打ち倒し、この銀河に平和をもたらすことができるはず』
正直にいうなら、銀河の平和とかどうでもよかった。
この地獄のような星から兄さんと出たかった。
常に略奪と死の危険に怯えながら、生きる目的もなく屍のように生きている日常を投げ出して、こことは別の景色を見に行きたかったんだ。
そのためなら星界エナジーを受けて誰かと戦うくらい訳ないとすら思えた。
……それが間違いだと気づいた時にはもう遅かったわけだけど。
「はぁい、イエロー」
「……何の用よ」
星界剣機を繋げる母艦の研究室で一人作業を進めていた私の元に、厄介ごとを持ち込んできた禍々しい桃色の戦士が気軽な様子でやってくる。
今は変身を解いているのか、肩に触れるくらいの髪の地球人の少女の姿だ。
「そう邪険にしないでよぉ。私、貴女のことは結構気に入っている方なんだよ?」
「反吐が出る」
無駄に気安く接してくるヒラルダに毒づく。
こいつのせいでピンクは危うく処分されかけた。
その間接的な原因であり、なにを考えて行動しているか理解できないこいつに信頼なんてできるわけがない。
レッドとグリーンはこいつを使える駒、もしくは戦力としてしか見ていないけれど……。
「生命維持装置はちゃんとできたのかしらー?」
ヒラルダがポッドの中を覗き込む。
光に満ちた筒に入れられたピンクは、眠ったように目を閉じている。
「……目覚めはしないでしょうね。どちらにしても正気を保っているかどうかすら分からないわ」
「いっそのこと死なせてあげたら?」
「……ッ!」
「わぁ、怖い怖い」
睨みつけると、おちゃらけるように両手を上げたヒラルダが軽薄な笑みと共に私から離れる。
「何しに来たの」
「貴女にちょっと見せたいものがあってね」
「……」
「そう警戒しないでよー。今しがたできた作品を誰かに自慢したくなっちゃっただけなの」
「……作品?」
ヒラルダがレッドに固有のラボを要求していたのは知っていたけど、この短期間でなにかをしたのだろうか?
「土台はもうできていて、後は場所だけだったんだけど……星界戦隊の新隊員になったことで都合のいいラボを貰ったからねー」
「見に行く必要ある?」
「あるあるすっごいある!」
……ここで断っても纏わりつかれそうだ。
ため息をつきながら手元のコンソールを操作し、生命維持装置をオートモードにさせる。
目を閉じているピンクの姿を一度見ながら、上機嫌なヒラルダについていく。
「さあ、ここだよー!」
母艦内のワープを用いて到着した先はヒラルダにあてがわれたラボの扉の前。
手慣れた様子で扉を開閉したヒラルダに、背中を押され足を踏み入れた私の視界に映りこんだのは———、
「なに、これ……」
———ラボの端から端まで並べられたポッドであった。
中に誰か入っている……? まさかこれは生命維持装置……いや、違う。
「全員、死んでいるの……?」
ポッドにいれられている顔にも見覚えがある。
「こいつらは……」
「貴方達が排除した序列30位から21位の面々ね」
「どうして、こいつらがここに……?」
レッドの独断で行われた上位30位から21位の星将序列の排除。
レッドがそれを敢行した理由は、単純に『待ちきれなかったから』というものだった。
「あ、私が回収しておいたの。勿体ないし後々、使えそうかなって思って」
「使えそう……?」
いったい、こいつは何を言っているんだ。
勿体ないから死体を回収したとか頭おかしいんじゃないか?
「他にもまだまだ
「いったい、何をするつもりなの……?」
星将序列の死体を集める時点で碌なことではない。
しかしよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに無邪気な笑みを浮かべたヒラルダは、ポケットからモータルピンクに変身する際に用いる道具、星界チェンジャーを取り出す。
「チェンジャーはね。星界エナジーを効率的に運用する道具であると同時に一種のろ過装置でもあるの」
「それは、知ってる。……貴女まさか!」
「そう、そのまさか!」
『
ヒラルダがその手に出現させた銃にチェンジャーのアタッチメントを嵌め込み、一番近いポッドの機械の窪みに銃口を差し込み———そのトリガーを引く。
「さらにさらに! ガウスから失敬した地球産オメガの怪人因子をミーックス!」
ポッド内の亡骸を星雲に似た色のエネルギーと紫色の煙が満たす。
ついには姿すら見えなくなり、次第になにかが潰れ、膨れ上がるような不気味な音がポッドから響いてくる。
「じゃ、お披露目ー」
ヒラルダが手元の装置を操作し、ポッドを開かれる。
すると先ほどまで屍だったはずのポッドからゆっくりと大柄な体躯の怪人が姿を現す。
黒い甲殻のようなものを纏った人型の怪人。
鋭利な角に、かぎづめのついた両腕。
その黄色の光を放つ双眸にはなんの感情も映しておらず、一層不気味さを引き立たせていた。
「……ッ」
元の面影がないほどに変わり果てたその姿を目にした私は、言葉を失う。
「名付けるなら、星界怪人かな? どう? 私の言葉が分かる」
「ハ……イ……」
「よしよし、じゃあ、君の主はだれかな?」
星界怪人と呼ばれたそいつは凶器とも思える腕を軽く掲げると、その指をヒラルダと———その後ろにいる私へと向ける。
「アルジ サマ……」
「おぉ! よしよーし、いい子だね! 実験は成功! 調整がうまくいってよかったよぉ」
無邪気に微笑みながら星界怪人の黒光りする頭を撫でるヒラルダ。
従順に動く人形……にしているの?
感覚からしてかなり強そうだけれど、まさかこんな方法で……。
「どう? すごいでしょ?」
「これは、なに?」
「星界戦隊が従える星界怪人……まあ、とどのつまり戦闘員だね。はー、これでようやくそれらしくなってきたー」
それらしくなってきた?
「こんなものを作っていったいなにがしたいの……!!」
「勿論、戦いだよ!」
こちらを振り返ったヒラルダは楽しそうな笑みを浮かべていた。
地球人の邪気など感じさせないその表情に言いしれない不気味さを抱く私に、彼女は続けて声を発する。
「ようやく雑魚を当てて彼を成長させる茶番が終わったんだよ? それならもう遠慮しなくてもいいってね!」
私の反応を待たずにヒラルダは再び後ろを振り返り、星界怪人と目を合わせる。
「さーて、まずはこの子がどれだけやれるか試してみようかな? 彼の新しい力も観察しなきゃいけないし、後何体かも増やしておこっと!」
……。
私はなにもできない。
ヒラルダの行動も、目先の目的に囚われて周りが見えていないレッドのことも。
これから、星界戦隊はどうなるのだろうか。
一つ分かるのが、私達……いいえ、私の行く末は決して甘いものじゃないということだけは分かる。
思いのほかあっさりと襲撃を受けた本部へ入る許可は降りた。
入る際に色々と手順を踏まなければいけないが、それでもあの独房へと向かうことができると分かって少しだけ俺は安堵した。
別になにか用事があったわけでもない。
ただ……あの場所は俺にとっても思い出深い場所でもあるので完全に封鎖される前に行っておきたかった。
「……」
「……」
「……」
「……」
待ち合わせ場所に到着し、全員で本部まで移動することになったわけだが……移動の仕方がいつぞやの時と同じように俺を中心にしてアカネ、葵、きららが取り囲むようにしていた。
「ちょっと待って……!」
変装をしているはずなのに異様な注目を集めるフォーメーションを見せる彼女たちに待ったをかけた俺は、今一度帽子を目深にかぶりながら道の端へと移動する。
「これ前にもやったよねぇ!?」
「いや、カツミ君がバレないように気をつけなきゃって」
「何が潜んでいるか分からんもんな」
「私は普通に隣に陣取ってただけ」
どういう思考回路だよ!
もう悪目立ちだよ!? すっげぇ目立ってたじゃん!!
「俺、変装してっから大丈夫だろ!」
「いや甘いよ。声と素振りだけで君と特定するやばい人もいるからね」
「んなはずないだろ。……おい、なんでお前ら俺から目を逸らすんだ……?」
え、そんな変態みたいな特技を持っている輩がいるの?
怖すぎるんだが?
「とにかくさっきのじゃ逆に目立つから普通に歩こうぜ」
溜息をつきつつ再び歩き始める。
今いるのはアカネの家のある方面から電車を乗り継いでジャスティスクルセイダーの本部のあった場所へと向かっているところだ。
現在は建物の周囲を封鎖・監視しているということで関係者以外は入ることすらできない状態にある。
「俺達は非常用の隠し通路から入ればいいんだっけ?」
「うん。私達も何回か使ったことがあるから大丈夫だと思う」
本部近くの人気のない路地裏へと入り込む。
太陽が差さないためか暗いが、三人は迷いのない足取りで前へと進んでいく。
「ここだね」
封鎖されている範囲外のなんの変哲のないビル。
葵が壁に僅かにある窪みにチェンジャーを掲げると、ピッ! という音と共に赤いセンサーの光がチェンジャーを読み取り、壁そのものがスライドし、奥へと続く通路へとつながった。
「おお……」
「社長が遠隔で予備電源をいれてくれたみたいだね」
「それじゃあ、行こか」
隠し扉みたいなギミックに新鮮な気持ちになりながら通路へと足を踏み込める。
やはり本部とあって地下でもかなり頑丈なつくりのようで、前の戦闘の影響で壁に罅が入ったりだとか、崩れている様子もない。
階段を降りて、先にあるハッチのようなものを開けると……見慣れた本部の内装が視界に映り込む。
「こうやって入っていたのか……」
「緊急の時だけだけどね」
本部は地下にあるので直接的な被害はない。
ただある程度の重要な機材は運び出されているようで、開けっ放しになっている部屋にはなにもなかった。
さっそく目的の場所である俺が収容? されていた独房へと向かう。
「……ここに入るのも久しぶりに感じるな」
独房とは思えない物で溢れた部屋。
レイマとスタッフさん達からの差し入れと、アカネ達が持ってきてくれたものがほとんどだ。
俺が記憶喪失の時も来たことがあるけど、俺としての意識がある時に入るのとでは色々と感覚が異なってくる。
「……今思うとあれだね」
「どうした?」
アカネの方を向くと、彼女は独房の真ん中に置かれたテーブルと椅子を指さす。
「椅子、最初から五つ用意されてたんだね」
「あー、そういうことか。俺がここに入れられた時からアルファはずっと傍にいただろうしな」
あいつのことだから俺がここにいる間も色々と自由に本部の中を移動していたんだろう。
……多分、そん時は寂しい思いをさせちまったかもしれねぇな……。
なんとなくここに居たときから使っていた椅子に座ると、なぜかアカネ達も席に座る。
「そういえばきらら、ソラはどうしてんだ?」
「ソラ? コスモちゃんのこと?」
……あっ、そういえばあいつの本名はコスモだったか。
認識が偽名のままだったから改めないとな。
「あの子ならすぐにうちに溶け込んだで……。うん」
「まあ……そうだろうな」
いい家族だったと思う。
普通の家族というのもいまいちよく覚えていないし分からない身としては、素直にそう思えた。
「ななかもこうたもカツミ君が離れるって聞いて最初はぐずってたけど、今はコスモちゃんで遊……コスモちゃんとゲームするくらいには仲良しや」
「ハッハァン!! ボクが1位だこのクソガキ共ォ!! お前らこのボクを嘗めたことを後悔させてやっ、甲羅ァァァ!?」
「コス姉! おっさきー!」
「わーい」
「ガオ」
「あ、待って! それズルい! レオ! なんでお前もそんな上手っ……さっきの甲羅お前!?」
「うん……とっても楽しそうやったで……」
「そ、そうか。そりゃよかった」
なんか遠い目をしているけれども。
でも馴染んでいたようでよかった。
「アカネの家はどうだった?」
「賑やかだったぞ。アカネの姉二人もいい人たちだったし」
「カツミ君。あれはいい人たちじゃなくて、私欲にまみれた俗物っていうんだよ?」
「お前の姉なのに!?」
ものすごい晴れやかな笑顔で姉をこき下ろしたんだけど!?
い、いったいなにがあったんだ……?
こ、こういう家族間の話題には触れない方がいいんだろうか?
……そっとしておくべきか。
「私には妹がいる」
「なんだ唐突に。お前ら全員、兄弟か姉妹がいるんだな」
「つまり私は姉属性も兼ね備えているということなのだよ……!!」
「……? どうあってもお前は俺の年下だろ?」
「きゅん」
なんで今ときめき音なったのぉ?
感銘を受けたように声にだしてそういった葵に素直に引く。
「い、妹にされてしまうぅ……」
「勝手になろうとしないでくれないかな?」
「なんて傍迷惑な奴や。ここで処した方がええか?」
そしてなぜかアカネときららに小突かれている。
この意味不明なやり取りも俺にとっては懐かしく、見慣れたものだ。
「……ここで色々あったな」
こいつらに倒されて捕まって、この独房にいれられた。
最初はどうなるかと思っていたが思いのほかここで過ごした日々は楽しかった。
……まあ、こいつらのある意味で非常識な部分には困らされたりはしたけどな。
「カツミ君はどうしてここに来ようと思ったの?」
「ん? いや、なんとなくだよ。特に理由はない。……いや、強いて言うなら……そうだな、俺もケジメってやつをつけようと思ってな」
アカネの質問に答えようとして、ふと答えを改める。
ここに来た理由は特にないが今だからこそ言っておくべきことがある。
「え、結婚?」
「はぁ?」
「……」
素でそんな反応を返したら葵がテーブルに突っ伏した。
いったい何なんだこいつ。
左右にいるアカネときららが無表情で脇を小突き回しているけれども。
「……記憶が完全に戻ってからゆっくり話す暇なんてなかったからな」
「色々と騒がしかったもんね」
本部の場所がバレてしまい移動を余儀なくされたこととか。
単純に俺の住むところがなくなったとか。
なので今ここに来てようやく落ち着いたこの三人とゆっくりと話す機会ができたわけだ。
「俺が記憶を失った日のこと、覚えてるか?」
俺の言葉に三人が頷く。
セイヴァーズとかいう小物共が攻めてくる前に彼女たちとしたやり取り。
あの時は中途半端なもので結局それから先は言えずに俺は記憶を失って、こいつらに迷惑をかけてしまった。
だからこそ今、あの時の言葉の続きを言っておく。
あとで羞恥のあまり悶えるであろうことは自分で予想できるけれども。
「あの時、俺はお前たちの追加戦士になってもいいって言った。……まあ、結構共闘しているし今更だって話でもあるが。その意思は今でも変わってない」
「カツミ君……」
「まあ、なんというか……あー、なんだ」
自分でもガラでもないことを言っているのを理解しているので、一気に気まずくなって視線を逸らす。
でもここまで口にして引く方が恥ずかしいのでこのまま話していくしかない。
「これからよろしくなってことだ。あと、俺と友達になってくれ」
照れながらそう言葉にして、アカネ達へ視線を向ける。
すると意外にも彼女たちは若干呆けた表情を浮かべていた。
「嘘……」
「カツミ君が……」
「デレた……?」
「お前ら空気読めよォ!?」
俺、結構頑張って言ったんだぞ!?
まるで俺が常に素直じゃねぇみたいな反応しやがって……!!
「やっぱ今のなしな!!」
「えー、なしじゃないよぉ! もう私達友達じゃーん!」
「なあ、お祝いにお昼食べに行こか?」
「これ完全にルート開いたのでは?」
「いきなり馴れ馴れしいなオイ!!」
どういう距離感!?
なんか一気に距離詰めてきて逆にびっくりなんだが!?
「じゃあ、あれかな? 私たちが初友達ってこと」
「いや、別にお前らが初めての友達ってわけじゃないけど」
「えぇ!? 誰なの!?」
「学校で隣の席だった奴」
「!!?」
まるで俺が友達が一人もいねぇみたいな言い方しやがって……!!
俺だって友達の一人や二人くらいちゃんといたわ! ……多分。
さっきまでの空気が台無しじゃねぇかと思っていていると、不意に俺達の腕に巻きつけられたチェンジャーが音を鳴らす。
これは……。
『お前達! 侵略警報だ!! 各地に正体不明の異星人が姿を現し暴れている!!』
「数と場所は!」
『現状で五体! 場所についてはこれから座標で送る!! 各自、向かってくれ!!』
異星人にとっちゃ休日なんて関係ないってか。
まあ、それは地球の怪人だって同じだったんだ。
今更驚くことでもないが、イラつく理由にはなる。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
「せやね」
「ごーごー」
椅子から立ち上がり独房から出ていく。
最後に部屋を後にするとき、今一度部屋の中を見渡す。
「……ようやくこっから踏み出せたかな」
怪人と戦ってきた時は、ずっと一人で戦ってきた。
ずっとそれでいいとさえ思っていたが、今日この日までの積み重ねで力を合わせることも悪くないとも思えた。
地球を取り囲む状況は相変わらず最悪の一言に尽きるが、それでも俺は戦い続ける。
———この地球を、守るために。
第百話目でようやく素直になれたかっつんでした。
第一部からここまで長かった……。
そしてヒラルダが作り出した星界怪人。
こちらもようやく戦闘員?のような存在を出せました。
ずっと前書きか後書きで書こうと思い、その都度書き忘れていましたが、
更新の度に、どの部分に“ここすき”とされているのか見るのが楽しみになっている自分がいます(笑)