今回は主人公視点でお送りします。
新たな拠点となる本部の案内を終えた後、早速ハクアのための戦闘訓練を行うことにした。
場所は本部内の演習場。
ここも以前の本部とは大きく異なり広く作られており、周りを気にせず訓練に励むことができる。
しかしいきなりハクアに実戦形式の模擬戦闘をさせてもうまくいくはずもないので、まずは俺とアカネが見本として模擬戦闘を行うことになった。
「記憶喪失の君を鍛えていた頃が懐かしいよ!」
「あの時はありがとよォ!」
ホログラムにより疑似的な街中の風景が映し出された演習場。
その場所で変身を済ませた俺とアカネは、互いの武器を手にしながら攻防を交わしていた。
現在の俺の姿はシロと共に変身した白を基本とした姿、ブレイクフォームだ。
「それ!」
赤いスーツを纏ったアカネが自身の身の丈ほどの長剣を流れるように振るう。
こちらもそれに合わせ逆手に持ったルプスダガーで剣を受け流しお返しとばかりに蹴りを放つが、それは後ろへ下がり避けられる。
このまま追撃といきたいところだが……。
「そう甘くはいかねぇよ、なッ!」
……下がりながら返す刃で飛ぶ斬撃を放ち距離を詰めようとする俺の動きを潰す徹底っぷりだ。
ダガーの一閃で斬撃を切り裂きながら、懐かしい気分になる。
黒騎士時代は何度もこいつらと戦ってきたが、そのたびにこいつらは強くなってきた。
そして、今も尚成長してくれている。
『
「なら、これだ」
『
斬撃主体の姿、ブレイクレッドで迎え撃つ。
手の中に出現させたフレアカリバーを握りしめ、剣に纏わせた炎をレッドへと放つ。
「赤い姿だね!」
「記憶喪失ん時はボコボコにされたが今は違ぇぞ」
真っ二つに両断された炎からレッドが剣を振り上げ飛び出してくる。
こちらも下から振り上げるように剣をぶつける。
「「———ッ!」」
得物を弾かれるもその場に踏みとどまり、俺もアカネも一歩も後ろへ下がらず剣を振るう。
刃がぶつかり甲高い金属音が響いていくと共に周囲が斬撃と炎が広がっていく。
時間にして数秒ほど。
その一瞬で数えるのも億劫なほどの剣戟を交わした俺は、大きく振り下ろされたレッドの上段の剣をステップで回避し———バックルを三度叩く。
『
さらに逃げられねぇようにレッドの腕を掴み、フレアカリバーの柄でバックルの側面を叩き必殺技を発動させる。
「お前ならこの程度訳ねぇだろ!」
「いぃ!?」
『
『
フレアカリバーから炎を吹き出し、眼前の空間そのものを呑み込むほどの火炎を放つ。
吹き飛ばされながらもギリギリで防御が間に合ったアカネを目視で確認し———さらに駄目押しとばかりにあふれ出るエネルギーにより刃を赤熱させたフレアカリバーでの一閃を叩きこむ。
「くぅ! こっちだって!」
「!!」
やけくそに斬撃を放って俺の技を打ち消した……!?
んな力技……、ッッ!?
技の余波でできた煙を突き破り、一直線にこちらに斬りかかってきたアカネの攻撃をフレアカリバーで受け止める。
「そぉっれっ!」
カイィィン! という快音が響き、フレアカリバーの刃に亀裂が入る。
……分かっていたがとんでもねぇな。
それに、やっぱ剣の扱いはこいつの方が上だ。
「剣だけじゃないよ!」
「んん?」
アカネが自身のチェンジャーに手を添え、なにかを指で挟み込むように持つ。
彼女は手を鋭く振るい、指に挟んだそれをこちらに投げつけてくる。
「手裏剣!? 忍者かオメーは!?」
それは、刃の部分が赤熱した十字型の手裏剣。
見るからに物騒なもんだと分かった俺は咄嗟にその場を跳びのいて手裏剣を避けるが、地面に突き刺さった手裏剣は炸裂と同時に爆発する。
爆発する手裏剣!? 狙いも正確とかマジでどうなってんだ!!
「さぁて、どんどんいくよ!」
「なんでそんな投げるのうまいんだよ! お前、銃下手くそだったはずだろ!!」
「刃物を投げるのは得意なの!」
どういう理屈だそれは!? 確かにアースん時とか剣ぶん投げてたけれども!
長剣を地面に突き刺し、両手の指に手裏剣を挟み込んだアカネは、連続して爆発する手裏剣を投げつけてくる。
「こなくそ! 全部撃ち落としてやるわァ!!」
『
青の姿に変身し、リキッドシューターを出現させる。
精密性と感覚に優れたこの姿で、嵐のように迫る手裏剣を撃ち落としていく。
「赤い姿のまま戦ってよー!」
「無茶いうんじゃねぇよ!」
いつの間にか手裏剣から槍へと持ち替えたアカネ。
彼女の突きをリキッドシューターの銃身で防御しながらルプスダガーで斬りつける———が、それすらもクナイのような形状の武器により防がれる。
「チッ」
舌打ちをしながら銃撃を放つ。
クナイを投げつけ、エネルギー弾を撃ち落としながら後ろへ下がったアカネは先ほど地面に突き刺した長剣を引き抜きながらどこか高揚した声を漏らす。
「やっぱり、君相手だと私の全部が出せる」
「どんだけ武器使うんだよお前……」
「それは君には言われたくないかな」
いや、手裏剣に槍に今度はクナイってどこの時代に生きているんだ。
つーか、さも当然のようにエネルギー弾をクナイで相殺するんじゃない。
ここまで来ると逆に感嘆としてくるわ。
「もうちょっとやろうか」
「……そうだな」
「やっぱ、君も楽しんでるじゃん」
本音を言えばそうだが、それを口にしたらつけあがりそうなので言わない。
無言の俺にさらに嬉しそうに笑ったアカネが肩に乗せるように剣を構え、こちらに飛び出した。
こちらもそれを迎え撃つべく、バックルを叩きながら地面を蹴る。
『
「ハァァ!」
「オラァ!」
赤色の剣と電撃を纏った斧。
それらの衝突は演習場を覆いつくすほどの閃光を迸らせたのだった。
「それで、ハクア」
「参考になったかな?」
「なるわけないよね!!?」
模擬戦闘後、同じフィールド内で観戦していたハクアが疑似的に作り出された岩陰から出てきながらそんな答えが返ってきた。
現在の彼女は白騎士……まあ、ジャスティスホワイトと名付けられた姿に変身しており、その姿はシロによってよりアカネ達のスーツの見た目に近いものになっていた。
「だよなぁ。さすがにやりすぎちまったようだな」
「巻き込まれると思って怖かったよ……」
別にレッドと力比べをするつもりはなかったんだけどな。
なんかこう、ノリに乗ってしまったというか。
「さすがにいきなりかっつんみたいな戦いはできないと思うけど、自分の力はある程度は把握できたよ」
「そうなのか?」
「うん。このスーツのスペック自体はアカネ達のスーツより高いみたい。あくまでスーツの性能に限ったことだけで技術的な部分では私はアカネ達には到底及ばないけれどね」
シロが作っただけあってそこらへんは高スペックなのか。
「あとは解析能力に特化していることと、シグマサーベルの属性変化による多彩性を考えるとシロは私にかっつんのサポートをさせたかったんじゃないかなって」
『ガウ!』
「……どうやらそうみたいだな」
バックルのシロが反応するように鳴いたのでその通りのようだ。
「今から私がかっつん達の戦いに入り込めるわけがないから、私は私にできることをやっていこうかなって考えたんだ」
「できることっつーと? あんまり危険なことをしてほしくないんだけど」
「まずはビークルの操縦マニュアルを暗記したんだ」
「えっ、あの分ッッ厚いのを!?」
ハクアの言葉に驚くアカネ。
俺はビークルの操縦マニュアルなんて見ていないので分からないけど、あれってそんなに取り扱い説明書長いのか?
「こう見えて私、頭はいいからね」
「アルファもそうだけど、そういえばお前も頭良かったな」
アルファはそうだが、ハクアも物覚えがいい。
それこそ生まれて間もなく一般常識と医療関係の知識をものにしてしまうほどだからな……。
「ま、今度から私はパイロットになるから大船に乗ったつもりでいるといいよ!」
「本当に大丈夫かよ……」
レイマが認めているならそれでいいが……。
なんだろうか、一時は姉として生活していたから無性に心配になってくる。
戦える云々抜きにしてもなぁ。
「でもハクアちゃん、ビークルに乗れるようになったって言ってたけど何に乗るの? 私達が使ってたヘリ?」
「ううん。かっつんの“ホワイト5”を社長が空を飛べるようにグレードアップさせたやつ」
あのでかい車みたいなやつを改造したのか。
前はブラック4との合体で飛べるようにしていたが、今度はそれなしでも飛べるようになったってことか。
「アカネ達のビークルもグレードアップされているらしいから見てみたら?」
「うーん。そうだね。実際に使うにしても機能とか確認しないといけなさそうだし社長に許可貰って見に行ってみようか。カツミ君はどうする?」
「は? 行くが? 今すぐ行こうぜ」
「食いつきスゴイじゃん……」
改造された合体ロボ。
興味がないわけがない。
その前に上の管制室にいるきららと葵と合流してから——、
「「「!」」」
頭上で警報が鳴り響き、緊急事態を現す赤い光が周囲を照らす。
これはレイマが言っていた侵略警報ってやつか。
っつーことは、星将序列のやつらが来やがったってことだな。
警報の直後、総司令であるレイマからの指示で俺達は本部の格納庫へと移動することになった。
そこにはアカネ達と俺が使っていた4機のビークルがそれぞれ格納されており、以前とは少し形が違っているように見えた。
「社長はここに来るように指示したけどどうするんやろ?」
「ビークルで行くのかな?」
先ほど合流したきららと葵がそんな会話をする。
俺、アカネ、ハクア、コスモも周りを見渡していると一基だけ格納されていないビークルがあることに気づく。
「あの白いやつは……」
ホワイト5。先ほどハクアが言っていたやつだ。
見た目も車に近い外見から太めの戦闘機のような外観へと様変わりしている。
普通にかっこいいな、と思っているとホワイト5の開かれた後部の入り口から、レイマが出てくる。
「お前達! 説明している時間はない!! 早くこちらに来い!!」
彼の声に従いホワイト5の後ろから中に入り込む。
中は見た目通りにかなり広い。この前に見たスパイ映画で見た戦闘機の中身みたいだ。
「全員、壁の椅子に座りベルトを締めてくれ。白川君、マニュアルは覚えたと言っていたな?」
「え、あ、まあ……って、私が操縦するんですか?」
「補助は私とタリアがする。シミュレーションで十分以上の成果を上げた君ならば、この『WHITE“V”改』を手足のように操れるはずだ」
ハクアが操縦することもそうだが、レイマが補助をするって……。
「レイマも行くのか!?」
「ああ! 私もいつまで経っても奥に引っ込んでるわけにはいかないからな!! 今日からこの金崎レイマは現場主義だ!!」
「意味が分からないんだが!?」
まさかあのスーツが完成したのか?
……いいや、ここで問い詰めている場合じゃない。
まずはこの戦闘機を発進させて現場に向かおう。
「ハクア、頼んだぞ」
「……分かった!」
そう言葉にしたハクアはチェンジャーに触れて変身を行った。
『
『
「よし、絶対に皆を現場に送り届けるよ!」
白いスーツを纏い操縦席へと座った彼女は手慣れた動作でビークルを起動させていく。
「どうしてハクアちゃん変身したんだろ……」
「スーツの感覚補助ならば亜音速の移動に対応できるからな。加速に伴うGに関しては……そちらの説明をする時間もないので割愛させてもらう」
ビークルが垂直に浮き上がり、格納庫内の扉が大きく開かれる。
「行きます!!」
「うむ! 『WHITE“V”』! 発進!!」
レイマの声に合わせ、ハクアが手元のレバーを一気に前に倒した瞬間、猛烈な加速と共にホワイト5は空へと昇る。
凄まじい速度だが、それにより生じる圧力も微塵も感じない。
「今後、異星人侵略の際にはこのWHITE“V”での出撃が主となる! こいつはこぉの私が作り上げたあらゆる場所・空間での移動を可能にさせた万能ビークル!! 目的地までひとっとびで到着し、傍迷惑な侵略者に鉄槌を食らわせる白い死神なのだぁ!!」
「……おい、ゴールディって頭おかしいのか?」
「たまにテンション振り切れるけど、いい人だから……」
声を潜め話しかけてくるコスモの声に視線を逸らす。
「タリア。白川くんのサポートを任せる」
『お任せを。ハクア様、緊張なされているようなので心安らぐ音楽などをお聞かせいたしますか?』
「そういう方面のサポート!?」
『冗談です』
「意外と茶目っ気あるね君!?」
ハクアは大丈夫そうだな。
すっげぇ勢いで景色が変わっていくけど普通に操縦できているようだ。
「よしっ。……すぐに目的地には到着するだろうから、今回の侵略者について簡潔に説明する!!」
『!』
今回の侵略者……。
いったい、どんなやつなんだ?
「先ほど地球外に五つの宇宙船が現れた。恐らくこれは星界戦隊の船だろう」
「あの不死身野郎、性懲りもなくやってきやがって……」
「あんな目にあったのに、斬られたりないのかなぁ」
「使いまわしキャラってくらいに再登場してくるじゃん」
「船ごと粉々にすれば戻ってこれへんよなぁ」
「ボクは星界戦隊よりお前らの方が恐ろしいよ」
いい加減にしてほしいところだが、あいつらだってバカじゃない。
なにかしらの策があって出てきたはずだ。
「奴らだけならば対処も容易かっただろうが……今回星界戦隊はその船からいくつもの物体を街へと落下させたのだ」
「物体?」
「今、映像に出す」
空間に映像が浮き上がり、現在の都市状況が映し出される。
見えたのは、地面や建物のいたるところに突き刺さる黒い円錐状の……なんだこれ?
「なんですかこれ? 都市中に突き刺さっているのは分かりますけど……」
「こいつにスキャンをかければその正体も分かるはずだ」
映像がモノクロに切り替わって円錐状の物体の中身が透過される。
中には、まるで胎児のように丸くなり眠っている———数週間前に現れた黒い異星人の姿があった。
「これは……!? まさか落ちたやつ全部にこいつが入っているんですか!?」
「だろうな。もう一つ言うなら、これらはすぐにでも動き出してもおかしくはない。……これは私の予測ではあるが、星界戦隊は我々を待ち構えている」
「……甞めた真似しやがって」
余裕の表れかそうじゃねぇかは分からんが、あれをなんとかしなきゃ大変なことになるぞ。
「避難は進めているが街への被害は避けられないだろう。我々のするべきことは一刻も早く、星界戦隊並びに量産型怪人を掃討することにある」
『———マスター。後30秒で侵略者・星界戦隊が占領した区域に入ります』
「分かった。私はここから指示を出す、君達は可能ならばあの量産型怪人が解放される前に星界戦隊を排除してくれ! ———頼んだぞ!!」
「「「はい!」」」
「では全員、戦闘準備!!」
レイマの声に応じ、ベルトを外した俺は立ち上がりながらXプロトチェンジャーに手を添え変身を行う。
星界戦隊自体は警戒はするが、そこまで脅威でもない。
だが、ヒラルダとかいう桃色のやつが何をしでかすか分からないのが不気味だ。
基本刃物ならなんでも投げられるアカネと、サポート兼パイロットとなったハクアでした。
次回は本格的にVS星界戦隊になるかと思われます。