追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

129 / 224
二か月もお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
一月中はちょっとごたついててこちらの更新が滞ってしまいました。

今回は三日に分けて三話ほど更新する予定です。



前半がアズ視点
後半でジェム視点でお送りします。


閑話 星界雲器

「私は!!」

 

「無事です!!」

 

 

「あっはっはっはっはっは!!」

 

 さきほど投稿された動画を見て思わず手を叩いて笑う。

 まさかここまでおかしなことになるとは思いもしなかった。

 此花灰瑠を確保し損ねた時はもうどうしようかと思ったけど、中々に愉快なことになっているようだ。

 

「なるほど、よく考えたわねぇ。サニーの入れ知恵かなー?」

 

 私の認識改編の妨害を受けずに克己に安否を伝える手段として、動画を投稿するのは面白い方法だ。

 映像は残るし、なにより認識改編の影響を受けない克己に対して危険なく伝えることができるからだ。

 

「目論見は失敗したけど此花灰瑠を巻き込むことに成功した」

 

 思い通りにいかないことには慣れっこだ。元よりそういう運命に生まれてきた身だ。

 

「……でも此花灰瑠は確保したかった。クソ、サニーのやつ……あいつ好き勝手にやる癖に行動が読めないのがね。あのオカマなんなのよホント……」

 

 彼女を捕まえていれば克己を戦いに煽る算段をつけられていたはずなのに。

 その計画もパーだ。

 今、彼女はサニーに確保され、七位と八位の元にいる。

 

「八位も七位も脅威ではないけど……同時に相手取るのは面倒くさい」

 

 てか間違いなく戦っている場所が更地になるので、ジャスティスクルセイダーと黒騎士の介入を避けられない。

 混沌は大歓迎だが台無しにすることは望んじゃいない。

 

「……ルインも割って入る可能性もあるしそこも気を付けないと」

 

 面白半分で私を放置しているクソチートバグ女が克己の激情に当てられ参戦するようなことがあれば、地球どころではなく銀河の危機だ。

 比喩でもなんでもなく文字通りに一切合切が滅ぼされる。

 

「……ん?」

 

 近くに歩いてきていた小さな存在に気づく。

 人間基準で七歳ほどの黒髪の子供……だけど、その姿は普通とはかけ離れていた。

 

「あら、眠れないのかしら?」

「……」

 

 例えるのなら人の形をした暗闇。

 着ている服を除く全てが影のようなものに包まれており、その両目を覆うように頭にはベルトが巻かれている。

 

「ごめんね。起こしちゃったみたい」

「……」

「気にしなくてもいい? 気にもしてないわ。だって君は道具なんだから」

 

 椅子から立ち上がり、子供を抱き上げる。

 相応の重さを腕に感じながら、私はその子に語りかける。

 

「駄目じゃない。ちゃんと休んでいなきゃ」

 

 ここは深い、それは深い地下世界。

 広大な洞穴の中に作り出された怪人の巣窟。

 怪人の能力で創造、作り出された悪趣味な内装の通路を歩きながら私は腕の中のこの子に語り掛ける。

 

「貴女の命は私が使っているんだらもっと大事にしなさい」

「……」

 

 言葉は返さない。

 声を出す機能はあるはずだが、肝心のこの子は声を発することはしなかった。

 私が教育を疎かにしているからか、その必要性を感じていないのかもしれないが……まあ、喋られても困るだけだしどうでもいい。

 

『ヴァァァァ!!』

 

 通りがかった通路にはめこまれた透明なガラスになにかが激突する。

 ガラスを隔てた先にいる獅子のような姿をした“怪人”は理性の欠片のない表情で腕の中のこの子に敵意を向けている。

 

「まだやって(・・・)ないの? しょうがない子だ」

「……」

「ついでにやっておきなさい」

 

 そう語り掛け、この子の目を覆う目隠しをずらす。

 露になる瞳———そこから光が溢れ出て、ガラス越しにいる怪人を照らす。

 

『ギ、ヴァァァ!?』

 

 瞬間、内側から肉をあふれ出した怪人が苦しみだす。

 元の形からどんどん肉塊へと変わり、別の何かへと姿を変えていく。

 全く以てして悪趣味極まりない力だなぁ。

 

「これを貴方のお父さんは問答無用にできていたんだから恐ろしいわ」

「……ッ……ッ」

 

『ァ、アァァ……』

 

 変形の果てに現れたのは魚のような顔をした人型の怪人。

 女性型の体躯よりも大きな透明感のある尻尾をしならせた怪人には見覚えがある。

 

「音喰怪人じゃない。これは当たりを引いたね! 偉い!!」

「……」

 

 わしゃわしゃと髪を撫でまわす。

 ジャスティスクルセイダーの火事場のクソ力でやられちゃった子じゃーん!!

 第八位対策に使える怪人でもあるのがヨシ!!

 まあ、それ以外のメンツにはちょっと今じゃ力不足だけど、当たりなことには変わりない。

 怪人ガチャSR枠ってところかな。

 

「ふふ」

 

 地球のオメガが万物の生命の在り方を歪める怪物だとすれば、この子はその予備・バックアップとしてオメガ自らの手で分裂させた品種改良(・・・・)に特化した怪人といえるだろう。

 怪人しか作り変えられないし、一日にそれができる回数に制限もある。

 だがその分、より綿密な改良も可能だし、残しておいた怪人の細胞を利用することで量産も可能だ。

 

「さあて、貴方の部屋よ」

 

 通路から一つの部屋へと足を踏み入れる。

 その先にはニューのために用意した子供部屋があり、そこにはおもちゃやベッドなどが置かれている。

 とりあえずニューをベッドに寝かせ、影に包まれた漆黒の髪を撫でつける。

 

「本当に父親とは似ても似つかない」

 

 父親はまさしく怪物といってもいい姿だった。

 元々が人間かどうかすら分からないほどの常軌を逸した怪人。

 その子供とも呼べる存在がこんな小さくかわいらしい姿をしているとは誰も思いもしないだろう。

 

ν(ニュー)。貴方は優秀な失敗作よ」

 

 失敗作だからこそうまく扱えるようになった。

 それほどまでに先代の力は強力すぎて扱いにくかったんだよなぁ、うん。

 

「よく眠るといい」

「……」

 

 ニューが小さな寝息を立てたことを確認し、私は通路を出る。

 

「まったく、手がかかる。少しは私の分裂体を見習ってほしいものだわ」

 

 克己の傍にいるもう一人の私———とは名ばかりの自我を持った同じ肉体を持つだけの別人の“アルファ”。

 まあ……ただ放っておいただけで育てた覚えもないんだけどね。

 

「さて、ちょっと情報確保のために七位の動画を確認っと……ん?」

 

 端末を開き動画の続きを見ようとしたところで、通路の先に黒い渦のようなものが現れていることに気づく。

 ……んー、随分と珍しいお客さんだ。

 

「———おやおや、星界存在がわざわざ私に何の用かな?」

 

 星界存在。

 別次元に住んでいるという形のない生命体。

 意思を持った宇宙だとか星雲とか色々と言われているが、私からすれば話していて面倒くさいやつら。

 

「ゼグアルは元気?」

『奴は、いない』

「幽閉したの間違いだろう? 皮肉も分からないのかしら? 次元の寄生虫共が」

 

 星界存在ゼグアル。

 次元宇宙の平和を守ることを使命とした善の心を持つ意思……のはずが、今や隙をつかれてどっかの星の核に閉じ込められ幽閉されているマヌケだ。

 

『取引だ。α(アルファ)

「その名で呼ぶな。星雲もどきが、捻り殺すぞ」

 

 手元に白い渦を作り出し、それを黒い煙に向ける。

 渦巻く次元の穴を侵食・干渉し、その奥にいる星界存在(クズども)の存在を捻じ曲げる。

 

『———ッ、———ッ』

「私がお前らを調子づかせる理由はないんだよ? ねぇ、一応は対等な関係にしておきたいけどいい加減私の地雷を分かって欲しいなぁ」

 

 きりきり、と音を鳴らす星界存在を解放する。

 まったく学習能力のないやつらの相手をするのは本当に嫌になるよ。

 

「で、取引だって? お抱えの星界戦隊が壊滅させられて手駒がいなくなったから?」

『所詮はゼグアルが集めた寄せ集めの命』

「汚染して弱体化させた上に死んだの間違いじゃない? 挙句の果てに星界核も奪われ利用された。だから私に接触するしかない」

 

 ヒラルダっていう子だよね。

 あの子は結構強かで面白い。

 

『星界エナジーを生み出す生命体———星界雲器(ステアスピリチア)が発生した』

「!……へぇ。なるほど、だから……それで? どの星に現れたの?」

『地球だ』

 

 ……まッッッた地球かよ!

 と、内心の絶叫を抑え込みポーカーフェイスを保つ。

 

『星界エナジーを単独で生み出す奇跡。我らが待ち望んだ存在だ』

「食い尽くすの間違いでしょ? あーいやだいやだ、寄生することでしか生きられない奴らはなぁー」

 

 星界存在、とは名乗ってはいるものの本来はこいつらは別に星界とはなにも関係のない奴らだ。

 星界エナジーを食らう怪物。

 そんな厚かましい存在がこいつらなのだ。

 

『力を惜しまない。お前の目的に我々の力は役立つはずだ』

「……。それもそうよねぇ」

 

 事実、これまでの怪人じゃちょっと力不足かなぁとは思っていた。

 そんな時にこの提案。

 多少の危険はあってないようなものだし、受けてもいいかも。

 

「じゃ、協力関係結ぼっか」

 

 私の声の直後に黒い淀みから五色の光を放つ球体が吐き出され、私の手に収まる。

 

「星界核ね。ま、ちょっと小さいけどこれでも十分かな?」

『約束、違えるなよ』

「分かってる。ま、人任せにするんだから黙って見てなさい」

 

 ばいばーい、と手を振ると黒い淀みは霧散して消える。

 

星界雲器(ステアスピリチア)の発生か。つくづく唯一無二の宇宙よね、ここは」

 

 星界エナジーを自ら作り出す地球人には興味がある。

 既にジャスティスクルセイダーに回収されているという時点で、難しいどころの話ではないけど。

 

「ふふふ、いいもの手に入れたなぁ」

 

 地下に降り注ぐ作り物の光に星界核を当て、こらえきれない笑みを零す。

 これでまた色々できそうだ。

 

「新たな怪人事変を始めてみるのも楽しそう」

 

 彼らの残虐さを、地球人は忘れている頃だ。

 思い切り思い起こしてやろうじゃないか。

 

「だけど、その前に」

 

 もっと彼の戦う理由(・・・・)を増やしてやろう。

 此花灰瑠を攫う目論見が失敗し私のプランがおじゃんになった———が、この失敗を利用して次のプランを今即興で考え付いた。

 

「———」

 

 ぱちん、と指を鳴らす。

 ただむなしく音だけが響いていくけれど、今私が行った異変は———もう一人の私、克己の傍にいるアルファは気づいてたはずだ。

 

「さあ、これからの戦いは認識改変はなし」

 

 分裂体の認識改変を私の認識改変で相殺させることで、能力を広範囲に及ばすことをできなくする。

 これでもう分裂体は都合のいい認識改編を行うことができなくなり、此花灰瑠は世間から“いなくなった”まま。認識改編を使えるようにするためには妨害している私を倒さなければいけなくなるわけだ。

 

「私がこれだけしたんだ。彼らもそれ相応のリスクを負ってもらわなきゃなぁ」

 

 ま、小さな改変能力は使えるけどそれは私も同じだ。

 重要なのは大規模な認識改編はもう使えないこと。

 

「ふふふふ」

 

 道半ばで死んでも構わない。

 全てを失っても構わない。

 この私の行動が、意思が、いつかルインという絶対強者の命を刈り取る切っ掛けになればそれで満足なのだから。

 


 

 此花灰瑠が人格的にも壊滅的な姉とあそこまで打ち解けていることは正直驚きであった。

 サニー様から此花灰瑠とレアリのゲーム実況を動画として投稿しろと提案されたときは失礼にも正気を疑ってしまったが、実際にやってみれば驚きの連続であった。

 あの姉と。

 怠惰でおバカで自由人でどうしようもないほど人の話を聞かないあの姉と、コミュニケーションを取れている。

 

「楽しそうではあったな」

 

 戦いでしか自身の生きている意味を見いだせなかった姉が周りのものを壊さずにあそこまで楽しそうにしているのは珍しいどころの話ではない。

 姉に気にいられている……という意味では此花灰瑠はこちらに得難い存在になっているのかもしれん。

 弟としての言葉で言うのなら———俺の代わりに姉を御してくれる人材が現れて助かっている。

 

「ジェム様、粗茶です」

「ありがとう。MEI」

 

 メイド服に身を包んだMEIが湯飲みに淹れられた茶を差し出してくる。

 それを口に運びながら、ソファーに力なく寝ころんでいる此花灰瑠へと振り返る。

 

「いつまで落ち込んでいるんだよ」

「全国に私の全力シャウトが公開されたらこうもなります……」

 

 姉とのゲーム実況に疲れたこともあるが、動画が投稿された事実に打ちのめされているようだ。

 どうせ認識改編で穂村克己以外覚えていないんだから、気にしなくてもいいのに。

 

「気付いたのは穂村克己だけだから別にいいだろ」

「穂村くんだから駄目なんですよ!?」

「……別にいいだろ。大声ぐらいでなんだよ」

「貴方には血も涙もないんですか!?」

 

 いや、ないんだが。

 あるとしたらオイルくらいだ。

 助けを求めるように傍らに控えているMEIに助けを求めると、彼女は首を横に振った。

 

「今のはジェム様が悪いと思います」

 

 一瞬で俺のメイドが敵に回ったんだが……?

 でも、主である俺にAIである彼女が反抗してきた事実は密かに嬉しく思ってしまうな。

 

「なあ、おい。ハイル」

「なんなんですかぁ、ヴァルゴさん」

 

 そんな状況を見かねたのかサニー様をして常識人とまで言われた鳥型のデバイス、ヴァルゴが止まり木から降りてくる。

 

「まずはお前の存在をカツミに知らせられてよかったじゃねぇか」

「でもぉ……」

「あいつはお前が大声だしたくらいじゃ気にしねぇって。それとも、そのくらいでお前のことを見損なうような小さい男か?」

「……」

「違うだろ?」

「……うん」

 

 常識人だぁ……。

 え、言葉こそ乱暴だけど相手に促す形で納得させている。

 本当にゴールディが危険と称したスーツなのか……?

 

「じゃあ、しゃんとしろよ。こんなところでくじけてる様じゃいつまで経ってもあいつに近づけねぇぞ」

「……わかった」

「よし」

 

 ぽんぽん、鼓舞するように翼で頭に触れるヴァルゴに此花灰瑠が頷く。

 まともすぎて逆に普通じゃないとさえ思えてきてしまうほどの常識人っぷりだ……見た目はメカ鳥なのに。

 

「この後はどうすればいいんですか? このまま待機ですか?」

「ああ。お前は序列六位に狙われている状況にあるから下手に動かない方がいい、というのは何度も聞いたな?」

 

 憎悪のアズ。

 サニー様曰く厄介極まりない友人と称されたお方がただの地球人を狙っている状況そのものが異常とも言える、が……此花灰瑠の存在そのものが穂村克己の地雷(・・)ともなれば話は大きく違ってくる。

 彼女を失えば、穂村克己にどのような影響を与えるか分からん。

 というより考えたくもない。

 黒騎士時代の時点で序列一桁に足を突っ込んでいたような怪物がさらなる強化を経て、その上さらに怒りに任せた進化をするなんて……。

 

「とにかくまずは学ぶことを始めた方がいい」

「学ぶ?」

「今、この星が置かれている状況と、穂村克己……ジャスティスクルセイダーの敵のことを」

 

 厳密にいえば我々もその敵の区分にいるのだろうが……俺とMEI、そして黒騎士は実質的に戦闘に関わらないようにしているので範囲外だ。

 

「じゃあ、この黒騎士さんが教えてやろう」

 

 そこで椅子に座りながらぼーっと端末を眺めていた第八位、イレーネ様が此花灰瑠の肩に腕を回しながら現れる。

 突然動き出す一桁クラスにいちいち恐々とさせられる。

 

「い、イレーネ様? 失礼ながら貴女様は教えることに向いてないような気が……」

「私には妹がいた」

「それがなんの理由に……?」

「姉もいた」

「……。そ、そうですか」

 

 ま、全く意味が分からなかったが納得するしかないようだ。

 もうこれは此花灰瑠に丸投げするしかない。

 半ば諦めながら彼女を見ると、特別緊張した様子もなく自身の肩に顎をのせ脱力しているイレーネ様に声をかけていた。

 

「イレーネちゃん」

 

 イレーネちゃん!!??

 じょ、序列一桁をちゃん付けだとぉ!? 

 俺が動画を編集している間にどんなやり取りがあったんだ……!?

 

「教えてくれるのはありがたいけど、どうしてなの?」

「カツミ。ハイルと仲がいい」

「うん」

「ハイルと仲良くすると私の印象が良くなる」

「清々しいくらいに打算的ぃ……」

 

 しれっと口にしているがイレーネ様にここまで執着される穂村克己が恐ろしくなる。

 その条件が全力状態のイレーネ様と戦い生き延びるというのが理不尽すぎる。

 とにかく此花灰瑠についてはイレーネ様に任せつつ、俺たちがサポートするという形でいいだろう。

 ……と、その前に。

 

「此花灰瑠、スマホを出せ」

「え、なんでですか?」

「追跡防止のために機能を停止させる」

「今日まで大丈夫だったんじゃ……?」

 

 今日の今日まで此花灰瑠は携帯端末を持ったままだった。

 理由としては六位と穂村克己の反応を見るため、というのがサニー様の目的だったようだが、このまま持たせておくのは危険すぎる。

 

「アズの操る地球産怪人はなにをしてくるか分からない。もしかすると、物理的にスマホの電波から追跡してくる怪人もいるかもしれない」

「うっ……」

「壊すわけじゃない。機能停止させ、専用のデバイスに保管するだけだ。代わりの高性能端末も用意しているからそっちを使え」

「……はい」

 

 だてに地球産怪人の猛威に晒されたわけでもないようで、状況をすぐに理解した此花灰瑠はやや遠慮気味にスマホを俺に渡してきた。

 それを受け取り、背後の用意しておいたボックス型のデバイスにいれる。

 

「穂村君がスマホを持っていたらなぁ……」

「奴は持っていないのか?」

「多分、彼の周りにある機械って冷蔵庫とか扇風機くらいだったと思う……」

「……そうか」

 

 どんな環境で生きていたんだあいつ……。

 どこか寂しそうにデバイス内に置かれたスマホを見る此花灰瑠。

 さっき言った通り、あくまで怪人の干渉を防ぐためのものなのでデータもなにも消去しないので、手早く処理を済ませていく。

 

「……ん? 今、ぴこんってメッセージが」

「スパムというやつだろう。気にするな」

「いや、でもこれ……」

 

 デバイスに顔を近づけ、画面に映ったメッセージを見ようとする。

 

< 天塚きらら

 

K

ハイル、気づいたなら連絡して 10:43
      

 

 

「———え?」

「じゃ、機能を停止させるぞ」

 

 此花灰瑠の声の直後にブツリとスマホの画面から光が消えた。

 それに合わせ、デバイスが起動し物理的に外部から干渉できないように折りたたむように変形する。

 

「い、今! 私の友達からふっつーにメッセージが届いたのですが!!」

「なんだって? そんなはずないだろうが。お前のことを覚えている地球人は穂村克己ただ一人だけのはずだ」

「そのはずですけど、確かに来てたんです!!」

「んなバカな……」

 

 なにかの見間違いじゃないのか?

 胡乱な目で此花灰瑠を見ると、傍で控えていたMEIが軽く手をあげる。

 

「ご主人様。たしかにハイル様の端末に彼女宛てのメッセージが」

「……マジか」

 

 MEIの記録違いとは考えにくい。

 では本当に此花灰瑠にメッセージを送る人物が? 第六位の地球規模の認識改編を回避した地球人が穂村克己以外にいるとでもいうのか?

 

「……その友人の名前はなんだ?」

「天塚きらら、だけど……」

「「……」」

 

 無言になってしまう俺とMEI。

 奇しくも同時に思考回路がフリーズしてしまい、一時的に旧世代のアンティーク並みの処理能力に落ちてしまう。

 

「ありえない話ではないが、はぁぁぁぁ……」

 

 ジャスティスクルセイダーの正体は地球に潜入してからいの一番に突き止めた。

 穂村克己と同じ学校に通う三人の少女。

 奴らの正体を知った時、そのあまりの“普通さ”に戦慄したことは記憶に新しい。

 あんな……あんな宇宙でも見ないような無慈悲な戦士が普通の生活を送っているという事実はそれくらいに俺を驚かせたのだ。

 

「よく聞け、此花灰瑠」

「な、なんですか?」

「その天塚きららはな、ジャスティスクルセイダーのイエローだ」

「……、……え?

 

 俺の言葉に今度は彼女が動きを止める。

 しきりに視線を左右に揺らしながらひとしきり動揺した彼女は声を震わせる。

 

「イエローって、あの?」

「ああ」

「怪力乱神とか呼ばれてて」

「ああ」

「バスターゴリラだとか」

「ああ」

「……」

 

 そこまで口にして頭を抱える此花灰瑠。

 

「だから穂村君のこと根掘り葉掘り聞いていたんだぁぁぁ……。てっきり隠れ黒騎士くんオタクで恥ずかしいから隠していたんだろうなぁって微笑ましく思ってたのにぃぃぃ……。きららはずっと穂村君と同じところにいたんだなぁぁぁ……」

 

 なにやらブツブツと何かを呟いているが、あえてそれを聞こうとは思わなかった。

 こういうのは触れずにいた方がいいのだ。

 どうせ穂村克己が後々苦労するだけだしな。

 




劣化コピーすることで扱いやすくなったオメガの分裂体ニュー君。
そして、ついに身近にいた脅威(?)を知ったハイルでした。



次回の更新は明日の18時を予定しております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。