前話を見ていない方はまずはそちらを。
今回はカツミ視点から始まります。
学校で怪人からの襲撃を受けた。
一般生徒のいる無防備な状況での襲撃、しかも相手は確実にアカネを狙っている。
もし彼女の身になにかあったらと考え戦慄していたが……当のアカネが生身で怪人をバラバラにしたと聞いてちょっと引いた。
現在はアカネが敵を引きつけ葵ときららが生徒の避難と護衛を行っているらしいが、俺もコスモと一緒に現地へ急行した。
だがその最中によりにもよってヒラルダからの襲撃を受けた。
「ふふふっ、こっちだよ!!」
「そこをどけやァ!!」
建物から建物へ跳躍を繰り返し攻撃してくるヒラルダ。
真昼間、人の通りの多い街中での襲撃。
前の戦いのように作られた空間ではないので無茶な攻撃もできない。
「嫌だね!!」
『
レッド エナジー
RED ENERGY↴
『
赤いエネルギーを伴いヒラルダが衝撃波を繰り出してくる。
ッ、野郎! 街を狙って……!!
瞬時に手の中にアクアシューターを召喚し技を繰り出す。
『
『
『
『
銃口から放たれた青く渦巻くエネルギーの奔流が街へ落ちようとしていたヒラルダの攻撃を撃ち落とす。
街への被害を防げたことを確認し今一度ヒラルダを睨みつけると、奴はビルの屋上に着地しながらおちゃらけたように肩を竦めた。
「さっすが。簡単に防がれちゃった♪」
「街ばっか狙いやがって……!!」
「しかも私の干渉もシャットアウトしてるし、もう進化しちゃってるねー」
レイマの補助とシロの頑張りもあってヒラルダのジャミングはもう対策済みだ。
だがそれでも街そのものを人質にされているこの状況はまずい。
「正攻法でやると圧倒されるのは目に見えているからねぇ。それに―――」
「くたばれヒラルダァ!!」
「今、二対一だしっ!!」
ヒラルダの背後からエネルギーのマントを噴出させながら上昇した緑と金の戦士———コスモがライオンセイバーで斬りかかる。
斬撃を拳銃型の武器ではじき返したヒラルダはバックルに手を添える。
「乱暴ねぇ!!」
『
ピンク エナジー
PINK ENERGY↴
『
腕に纏わりつくように滲みだした桃色のエネルギーがチェーンソーを形どりながら、コスモへと迫る。
それに対してコスモは動揺することもなく、ベルトから取り出した鍵のようなものをライオンセイバーへと差し込んだ。
「その攻撃は、もう視えてるんだよ!!」
『
『ガブッ!』
『
瞬間、コスモの姿が煙のように分裂し、ヒラルダの攻撃をすり抜ける。
振るわれる攻撃を全て回避したコスモは煙を纏いながら、さらにライオンセイバーのトリガーを引いた。
『
『
「くらえぇ!!」
「ッ!」
ライオンセイバーの刃からたくさんの人魂が放たれ、ヒラルダへと殺到する。
直撃を受け、後方に飛ばされた奴は空中で態勢を整えながら———突き出した掌をコスモへと向ける。
「あぐっ!?」
コスモのベルトに干渉されたか!!
無防備な彼女がヒラルダに攻撃される前に、重力を操りこちらへ引き寄せる。
「迂闊に近づくな!! お前のスーツは奴に干渉されるんだぞ!!」
「い、言うのが遅い!! それより早く下ろせ!!」
話を聞いていなかったのはお前なのに!?
ッ、あいつまだ何かしようとしているなァ!!
『
ブルー エナジー
BLUE ENERGY↴
『
『
「さあこれはどうかなぁ!!」
また技を発動させたヒラルダが青色の粒子を周囲に散布する。
青色の粒子は空間を侵食するように塗り替えながら———ヒラルダの姿をいくつも作り出す。
ただ分身を作り出したわけじゃない。
そのどれもが形が大きく歪んでおり、出来の悪いブリキ人形のように蠢いていた。
「なにあれキモ!?」
ヒラルダの声で一斉に話し出す分身にコスモが顔を青ざめさせる。
ジャミングと聞いてまたなにかしらの干渉をしてくるかと思ったが、これはベルトそのものではなく空間そのものに干渉して幻影を見せているって感じか……!!
しかもこいつ……! こっちの感覚も狂わせてきているな!!
「黒騎士! あいつを一気に吹き飛ばせよ!!」
「奴は性格が悪い。一気にこいつらを消し去ろうとすればその攻撃そのものを街に向けるように仕向けるはずだ」
わざわざ肯定してくるあたり性格が悪い。
だが面倒なのは事実だ。
「ならボクが指さした方向に攻撃しろ!!」
「いけるのか!?」
「いくら奴でもボクの
———よし、信じるぞ!!
手の中に作り出したグラビティバスターをガンモードにさせ、グラビティグリップを装填させる。
銃口に黒色のエネルギーを集約させ、コスモの指さした方向にエネルギー弾を放つ。
「あそこだ!! 外すなよ!!」
「任せろ!!」
放たれた重力弾はピンポイントでヒラルダに直撃し、幻術で作られた空間を破壊する。
両腕でエネルギー弾を防ぎ、腕の鎧をボロボロにさせながらも無事なヒラルダは笑みを零しながら俺達から離れた場所に降り立った。
「忘れてたよ。貴女の目が良いこと」
「ヒラルダ……!!」
「私、そんなに貴女を怒らせるような真似してたっけ? 全然心当たりないんだけどー?」
「ボクに星界戦隊をけしかけたのはお前だろ……!」
「……そういえばそうだった。でも強くなれたし、晴れてそっちの仲間になれたんだからむしろ感謝してほしいくらいじゃない?」
「~~~ッ!!」
隣からぶちぶちぶち!! というキレる音が聞こえそうなくらいに苛立っているコスモを諫めながらヒラルダを見上げる。
このまま戦っても街を人質にして被害が広がるだけだ。
つーか、今の戦い方はこいつらしくない。
勝つ気がねぇのはいつものことだが、今回ばかりは露骨に足止めしてこようとしている。
「……お前、今度は誰と手を組んだんだよ」
「えへ、分かっちゃった?」
「蛇のようにしつけぇお前がこんな意味不明な足止めをする時点で別の思惑があるのは分かり切ってんだよ。……怪人側についたのか? それとも、今レッドが戦っている十位とか?」
アカネが今、十位と戦闘をしているということは既にレイマから聞いていた。
かなりの実力者でアカネと互角以上に戦っている、だとか。
それならこの襲撃が偶然とも思えない。
「正解っ! 今回、私は第十位に協力を持ちかけられて君を足止めすることになりましたー!」
ぱちぱちー、とふざけた態度で拍手をするヒラルダにまたキレそうになるコスモを諫めつつ、俺は思考を巡らせる。
つーことは狙いはアカネ達か? 俺よりも先にジャスティスクルセイダーを片付けて俺と戦おうとでもしているのか? だがそれなら怪人に敵対なんてせずに徒党を組んで戦えばもっと有利に戦えたはずだ。
それなのに奴は怪人を殺し、アカネに戦いを仕掛けた。
そもそもの怪人勢力と敵対しているのか定かではないが、その十位がなにをしたいのか見えてこない。
「十位はなにを考えている」
「知らなーい」
「……」
「怒らないでよ。実際本当に知らないんだ。姿どころか顔も見せない冷酷な殺戮者、突然序列内で頭角を現しあっという間に十位に上り詰めた頭のおかしい暗殺者の思考なんて私に分かるはずないでしょ」
ヒラルダにとっても十位は分からない存在ってことか?
不可思議な感覚だけを抱かせる十位の存在に疑問が尽きないでいると、不意にレイマからの通信が入る。
『カツミ君! 十位が撤退した!!』
「被害は? レッド達は無事か?」
『怪我人はなし!! レッドも消耗こそしているが無事だ!!』
良かった。
だがレッドが消耗か……彼女がそれだけ消耗する相手が十位ということになる。
「さて、こっちも依頼完了の連絡が来たからそろそろ帰らせてもらうわ」
「ハァ!? 行かせると———」
「待て、コスモ」
コスモを手で制するように止め、ヒラルダを見る。
星界エナジーとやらを用いた転移で移動しようとした彼女は一旦手を止めて俺を見る。
「もう一つ聞かせろ」
「んんー?」
「お前、風浦さんに何をした?」
「???」
風浦さんの身に起こっている現象。
それについてヒラルダに訊いておかなければならない。
俺の問いかけにヒラルダは意味が分からないと言った感じで首を傾げた。
「何をしたって……特になにもしてないけど」
……誤魔化している訳でも嘘をついているわけでもない。
じゃあ、こいつは風浦さんの身に起こったことを分かっていないのか?
「……ま、いいや。じゃあ、次は本気で殺し合いましょうね、カ・ツ・ミ」
すぐに興味を失った奴は手をひらひらと振りながら粒子を纏い、煙のように消えてしまった。
その場に残された俺は変身を解きながら思考に耽る。
「ヒラルダが何かをしたってわけじゃないのか」
「あいつなら嘘をついてもおかしくないぞ」
同じく変身を解いたコスモの言葉に呻く。
あいつ、本当に言っていることが滅茶苦茶だからな。
それに多分気分屋なのでその場その場で言っている言葉がコロコロかわっていくのも厄介だ。
「遠目でアカネ達の無事を確認しておくぞ」
「え、ボク、バイト中に抜け出してきたから早く戻らなくちゃならないんだけど」
「嘘つくな。休憩中で暇してるってシンドウさんが言ってたぞ」
「くっ」
油断も隙もないやつだな。
どうせ帰りになにか買い食いしようとしていただろこいつ。
『カツミ君、大変だ!!』
「どうしたレイマ?」
またレイマから通信が入り応答する。
先ほどとはまた違った慌てように、またなにかあったのか? と身構えていると俺の視界に動画のようなものが表示される。
それは———アカネが生身で怪人を始末している一部始終。
アカネを襲撃した怪人の視界を通したものと、窓の外から映し出されたその映像に言葉を失う。
コスモも同じ動画を見たのかドン引きしながら俺の肩を叩いてくる。
「うわ、おいカツミ。これやばくないか?」
「レイマ! この映像は!?」
『今しがたネットに流された動画だ!! やってくれたな怪人共ォ……!! レッドの凄まじい姿が全世界に流出してしまった……!!』
アルファの認識改編が機能しない今、もうこの状況は取り返しのつかないものになってしまったということになる。
最初に依頼を持ちかけられた時は、正直びっくりした。
なにせ相手は星将序列10位。
あの悪名高い謎の戦士からのものだったんだから。
しかもその内容も滅茶苦茶で、序列一桁、最低でも二桁上位レベルの実力者でないと到底不可能な『黒騎士の足止め』という無茶ぶりの依頼だ。
普通の頭をしているなら考える余地もなく断るくらいにはやばいものだ。
まあ、私は普通の頭をしていないので嬉々として受けたんだけどね。
星界エナジーを取り込み大幅なパワーアップを果たした私なら黒騎士を足止めすることができる。
勿論、彼が本気をだされると私が一方的なサンドバッグにされるだけなので“人の多い街”をフィールドとして立ち回り、彼に本気を出されないようにしていた。
『あんたの無謀さにはほとほと呆れるわ』
「そんなこと言わないでよー。こっちも本当に必死だったんだからさぁ」
十位との待ち合わせに指定された廃墟に先に到着した私は、一先ず別の拠点でモニターという名の助手をさせている元星界戦隊のイエローに連絡をとっていた。
役目を終え、幾分か肩の荷が下りた彼女はしばらく眠りについたままの兄のブルーの傍で塞ぎこんでいたものの、すぐに立ち直り私の補助をするようになってくれていたのだ。
……まあ、そうなるように私が思考を誘導したってこともあるけど、私にとっては使い勝手のいい下僕のようなものだ。
『10位って何者なの?』
「序列の近い君が知らないなら私も知らないとは思わないのかな?」
『思わないわね。あんたの気持ち悪さは常軌を逸しているから』
私じゃなかったら心に傷を負っていることを平気で言うなこのイエロー……。
「10位の正体は私も知らないんだ。てか多分、誰も知らないんじゃないの?」
『正体不明。一度も顔を晒したことのない戦士……って噂は本当なの?』
「事実だろうね。なにがどういうわけか知らないけど、アレは自身の正体に繋がるであろう痕跡の一切を残さない。私も正直、今回は驚いているんだよ」
あの十位がここまで派手に動くなんて。
だからこそ乗ったともいえるけれど。
「十位の獲物はジャスティスクルセイダーだろうね」
『……根拠は?』
「私と同じ匂いがする」
『おえっ』
今なんで嗚咽したのかな……!? 私から吐きそうな匂いがするとでも!?
あんまりな反応をするイエローに追及しようとすると、この廃墟に私以外の誰かが足を踏み入れる気配を察知する。
それが誰かすぐに理解した私は笑みを浮かべながら後ろへ振り返る。
「やあ、十位。それともレックスとでも呼ぶべきかな?」
『どちらでも構わない。呼び名など私には最早意味のないものだ』
やってきたのはフルフェイスのマスクで頭を覆った背の高い女性。
スーツ姿ではなくほぼ生身で現れた十位に内心で驚きつつ、表に出さないようにする。
「言われた通り依頼は完了したよ?」
『ご苦労。報酬はそちらに振り込んでおく』
「いいや、そのことなんだけど———ッ」
話を切り上げようとする十位の声に被せるように言葉を発しようとした瞬間、私の喉元に剣が添えられていた。
十位が後少し動かすだけで首がすっぱりと断ち切られる距離。
———なるほど、無駄な話をするつもりはない、ね。
でも私にはそんな脅し関係ないね。
「協力関係を結ぼう!」
『お前は信用できない』
「こっちは黒騎士、貴方がジャスティスクルセイダー。利害は一致しているはずだよ?」
『……』
沈黙する十位。
やっぱり私の考えは合っていたようだ。
『私の狙いはジャスティスクルセイダーなどではない』
「嘘だね。今日の戦闘、君はジャスティスレッドとの戦いだけに拘っていた。……おっとこれ以上深くは聞かないよ? さすがに私と君はそこまで仲がいいわけじゃないからね」
興味はあるけど今十位と事を構えるほどの余裕は私にはない。
今日だって本当にギリギリだったんだ。
「正直さぁ。ジャスティスクルセイダーって鬱陶しくてさぁ。このままじゃ黒騎士とも満足に戦えなさそうなんだ。だから君がジャスティスクルセイダーを狙ってくれれば、私も思う存分に黒騎士と殺し合えるわけだよ」
『なら、お前が黒騎士を相手どるということか?』
「そうなるね」
暫しの沈黙の後、ゆっくりと刃を引いた十位が剣を手元から消し去る。
……動きも全然対応できなかったな。
スーツなしでもとんでもない殺気をしていたし、まるでレッドみたいだ。
アレも滅茶苦茶怖い殺気の出し方してるもんなぁ。
『……分かった』
「というと、契約成立?」
『余計なマネをすれば殺す』
怖っ。
噂通りに殺気をまき散らしたようなやばい奴だな。
でも、噂以上に面白そうだ。
「私、貴女のことも興味出てきたんだよね」
『……』
「顔を晒さない戦士。その仮面の下にどんな表情が隠されているのか、それがものすごぉーく気になる」
『私に素顔はない』
ぼそり、と呟いた十位がその場から離れていく。
暗闇に包まれた奥へ進んでいきながら、彼女は言葉を発する。
『名前も、存在も、なにもかもを置いてきた』
序列10位。
その全てが正体不明の戦士と呼ばれた彼女だが、その実態は私が想像している以上に複雑で……凄惨な、私好みの生き方をしている奴かもしれない。
怪人視点の恐怖映像が拡散されてしまいました。
ある意味でアズに動画という形でやり返されたようなものですね。
次回は恐らく掲示板回となります。
今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございます<(_ _)>