今回は主人公視点です。
怪人が闊歩する都市。
そんな物騒な世界に飛ばされた俺は、ヒラルダと共に一時安全な場所に避難することにした。
「結構時間がかかっちまったが、ここなら早々バレないよな」
「いい感じの廃墟ね」
場所は瓦礫に囲まれた一つの廃墟。
比較的損壊が少なく、元はマンションだったと思われる一室はそこそこ広く、休息を取るのに丁度いい場所だ。
……外はもう暗くなっちまったが、休める場所を見つけられたのはよかった。
「窓も光が漏れないようにバリケードがされてるし、前の住人はちょっと前までここにいたっぽいね」
でもちょっと狭いかもー、と文句を垂れながら埃を払ったソファーに座るヒラルダ。
幸い、明かりはヒラルダが気紛れに持っていた宇宙製のランタン? のようなものがあったおかげで困らない。
だが、それ以外役に立つものは持っていないようなので後は現地で調達するしかないってことだ。
「俺のいたアパートより広いから文句言うな」
「えぇ、どんな狭いところに住んでたのよ……」
狭いなりに便利だったんだぞ。
クーラーが壊れた夏は死ぬほど暑かったけど。
「ねえ、お腹空いたー」
「……」
我儘を言い出すヒラルダに額を抑える。
そんな俺の反応を楽しむようにヒラルダは続けて駄々をこね始める。
「喉も乾いたー」
「水ならあるだろ」
「それバケツにくんだ泥水じゃん!! なんで持ってきたの!!」
威勢のいいツッコミを放つヒラルダ。
この泥水は必要だから持ってきた。
「水も食いモンも欲しいならお前も手伝ってもらおうか」
「え、え? な、なに?」
「変身するぞ」
困惑するヒラルダにバックルに変わってもらい、変身を試みる。
腰に装着し、アンチヴェノムスコーピオへの変身を完了させる。
手を軽く払いベルトからカードを取り出そうとしたところで……頭の中で声が響く。
『ちょ、ちょっとなんでここで変身!?』
「その状態でも喋れるようになったのか」
さっきの戦闘では全く喋れなかったらしいからな。
一枚のカードをベルト側面のホルダーから取り出し、バックルに装填する。
「ぐっ、うぅ……清らかなる桃色エナ……ぬんっ!!」
『すっごい抗ってる……』
勝手に名乗りを上げようとする身体を気合で止め、軽く深呼吸をする。
モータルピンクの真の姿、リリーフピンク。
俺たちが戦った正義の心を忘れた奴らではないこの姿は、レッドの重力操作と同じく特有の能力を持つ。
「こいつになった理由は……これだ」
泥水を溜めたタンクに掌をかざし、桃色のエネルギーを放射する。
放射されたエネルギーはタンクそのものを呑み込み———浄化させる。
水だけではなくタンクまでもが綺麗になった光景を目にしたヒラルダは、感心したような声を漏らす。
『なるほどねぇ。浄化がピンクの真の力ってこと』
「これで水は綺麗になったはずだ。そしてもう一つ」
続けてカードを取り出し、フォームチェンジを試みる。
「豊穣万歳ッ、緑の賢じッ……はぁ、はぁ……」
『もう素直に名乗ればいいのに……』
こんな恥ずかしいポーズ人前でできるか!!
若干、息を荒立たせながら緑の姿になった俺は、手にエネルギーを集め種子を作り出す。
「……確か、観葉植物が置いてあったよな」
『見る影もないくらいに荒れてるけどね』
部屋の中に放置されていた枯れた観葉植物を引っこ抜き、部屋の真ん中に持ってきた鉢に種子を放り投げる。
そこからリリーフグリーンの主武装である柄の長い大斧を取り出し、柄の部分で種子をいれた鉢を軽く突く。
『腐敗させるのがモータルグリーンならリリーフグリーンは……』
柄から発せられたエネルギーが鉢に流れ込んだ瞬間、とんでもない速さで種子が成長———十秒も経たずに立派なトマトを実らせた。
それを確認し、変身を解いた俺は摘み取ったトマトをヒラルダに渡す。
「ほらよ」
「あ、ありがとう」
俺もトマトを手に取り口にする。
……見た目以上の栄養があるな、これ。
これ一つだけで腹いっぱいになりそうなくらいだ。
「星界戦隊の力は星を守るためのものだった」
レッドが重力、ピンクが浄化、グリーンが豊穣、ブルーが治療、イエローが防衛。
危機に瀕した星を再生、防衛するための力をそれぞれ備えた集団。
それが星界戦隊だった。
「八位に負けたからああなった……ってのは少し意味が分からねぇな」
やっぱりその辺もコスモが言っていた裏で糸を引いている存在が関係しているのだろうか。
いつかそいつらとも戦わなくちゃいけねぇと考えると、確実に始末しておくべきだな。
まだ会ってもいねぇが毒にしかならねぇ奴らと見た。
「カツミ君さぁ」
「……なんだよ」
こいつ、いつの間にか君付けするようになってないか? これから行動を共にするわけだろうから別にいいんだが。
ソファーに背中を預けたヒラルダは、天井を見上げながら言葉を発する。
「桃子になにかあったって言ってたよね」
「ああ」
「具体的にどうなってんの?」
風浦さんのことか。
ヒラルダが地球に潜伏する際に利用していた女性。
今は元の世界の安全な場所で守られているが、彼女を取り巻く状況は一切好転していない。
「私が憑りついていた時は身体に異常はなかったし、無理はさせてなかったんだよ? もしかしてメンタル的なやつ? それはまあ、悪いと思ってるけど———」
「いや、違う」
「じゃあ、なんなの?」
……言ってもいいか。
現状で彼女の身に起こっていることは星界エナジーを放出しているということしか分かっていないわけだし。
「目覚めた風浦さんの身体から星界エナジーっつーエネルギーが放出されてたんだよ」
「……はぁ? え、それってどういう感じで?」
「彼女が入院していた部屋が無重力になったりだ。調べると、どうやら風浦さんの身体の中で星界エナジーが生成されるようになっているらしい」
俺の言葉を聞いたヒラルダは途端に顔を青くさせ頭を抱えた。
飄飄とした態度を取ると予想していた俺は、彼女の反応に目を丸くする。
「あちゃー……これは、やっちゃったかなー。桃子には悪いことしちゃったかも」
「事情を知ってんなら教えろ」
「流石に私に責任があるから素直に話すわ」
こいつがここまで殊勝な態度になるということはそれだけのことが起こっているんだな。
計画してやったことではなく、ヒラルダにとっても予想外のことなのかもしれない。
「私って星界戦隊のコアを取り込んだ……てのはそっちも把握しているでしょ?」
「ああ。だがそのコアは今でもお前が持ってんだろ?」
風浦さんの身体にはコアなんて言う異物は存在しなかった。
星界エナジーは彼女の身体そのものから発生している。
「本当はありえない話なんだけれど、私と同化している時に桃子の身体にコアが適合して……あの子そのものがコアと同じ機能を有する存在になってしまったのかもしれない」
「……。それはやばい話なのか?」
「やばいもなにも異常なんだよ」
焦った表情のままヒラルダが言葉を続ける。
「星界エナジーは自然生成されることはない。別の次元に存在するコアでのみ作られる特別なエネルギーなんだよ」
「それを風浦さんは……」
「星界エナジーを単体で生成するなんて普通じゃない。これじゃ別次元の奴らが桃子を狙いに……っ」
そこまで言葉にしてヒラルダがハッとする。
なにかに気づいたのか、また頭を抱えて唸った後に俺を見る。
「ねえ、カツミ君。また現れた怪人ってさ、君たちになにか要求してこなかった?」
「要求? いや、俺は別に……いや待て、アカネが学校を襲撃されたときに、すてあなんとかを出せとか言われたらしい」
「多分、それ桃子のことを指してると思う」
怪人共が求めるすてあなんとかが風浦さんだっていうのか!?
よりにもよってなぜ怪人共が彼女を? それこそ星界エナジーとは関わりがないだろ。
「おかしいと思ってたんだよ。なぜか地球の怪人が星界エナジーで強化されていると思ったら、もうこっちの世界に干渉してこようとしてきただなんて」
「あの怪人の妙な強化は星界エナジーによるものなのか?」
「ええ」
つまり、星界戦隊のことも含めてもう俺らに喧嘩を売ってきていたってことか。
……上等だ。
怪人諸共全部ぶっ飛ばしてやらァ……。
『クァー、クァー!』
「ん? なんの声? 鳥?」
「……おぉ、もう来たのか」
トマトを口に放り込み、玄関の扉を開ける。
すると一匹のメカメカしい形状をした鳥が部屋に入ってくる。
「見てきてくれたか?」
『クァー、クァー』
話しかけると羽ばたきながらコクコクと頷いてくれる。
「……なにそれ?」
「お前から出てきたメカフクロウ」
「メカフクロウ!!? し、知らないよそんなの!!」
本人も気づいてなかったのか……。
「いつ出てきたの!?」
「ここを探してる時。なんか光の玉と一緒に出てきて……使い方も変身した時に分かってたからそのまま偵察に向かわせてた」
「ぐ、うぅぅぅ!! 私の意思以外が屈しちゃってるぅぅぅ……!! 尻尾振っちゃってるぅぅぅ……!!」
ソファーの上でもんどりうつヒラルダを放って、メカフクロウへと向き直る。
掌サイズのメカフクロウは手首に留まると、未来感あふれる時計に変形する。
「ここから、えーと……」
使い方通りに時計側面に指を添え———ホログラムを投影させ、集めた情報を映し出す。
「周辺の地図みたいだな」
「ねえ、なんで私より使い方心得てるの? ねえ、カツミ君?」
街、というより都市の全体図か? 青い立体図で見せてくれているから分かりやすいな。
三角錐で強調されているのが俺達のいるところで、この赤い領域は……危険地帯ってところか?
「なるほど、怪人が集まっている場所はここってわけか」
「三か所くらいあるねぇ。ありきたりで言うなら怪人の巣ってところかな?」
面倒だが、逆を言えばこの三か所をなんとかしちまえば安全が確保できるってことだ。
いつまでも隠れているわけにはいかねぇし、元の次元に帰る目途がつくまでできることをしておかねぇとな。
「一番近くにあるところは……ここか」
№1と書かれている怪人共の巣。
他二つと比べて危険範囲が大きいそこを指でタップすると、さらにホログラムが現れる。
「……」
空からの映像だろうか。
瓦礫で作り出された巨大な巣。
東京ドームより大きなそれは異質な雰囲気を放っており、映像はさらにその奥を映し出していく。
「うひゃ~。やばめな場所ね」
「ああ」
まだ作られたばかりなのか?
巣の中へと入り込み、地上に近い場所が見えるところまで行くとそこには見覚えのある怪人共と———ハチの巣のような形状をした牢獄に幽閉された人々の姿が映り込む。
「おっ、生存者。てかこの世界初の人間じゃない?」
「……待て、様子がおかしい」
檻の中を拡大すると、閉じ込められている人々は生きる希望を失ったかのように動こうともしていない。
だがその一方で、別の檻を映すと異様な光景が入り込む。
『やあ、あはははや、やめ、あははは!!!!』
『ひぃ、ひひっはははここから出しっ、はははは!!』
映し出されたのは檻の中で狂ったように笑う人々。
そのあまりの異様な光景に隣から覗き込んでいたヒラルダは息を呑む。
「な、なにこれ……」
「……。スマイリーか」
笑顔を強制させる怪人。
胸糞悪い怪人の情報に苛立ちが募るが、檻の外からやってきた木っ端怪人が扉を開け、笑い転がされている男性を無理やり連れだしているところを見て眉を顰める。
『ははっ、嫌だ、嫌だァァァ!!』
『オマエ、ツギ』
笑いながら抵抗する男を無造作に放り投げた怪人は、地面でうずくまる男性の背中に———何か結晶のようなものを張り付けた。
張り付けられた結晶は光を放ち、それをつけられた人は途端に苦しみだす。
『はがははは!! か、怪人に、なりたくあはははは!!』
結晶から煙が噴き出し、男の身体を包み込む。
そのまま十秒ほどして煙が晴れた時には、男はもう人間ではなかった。
『バァァァァァ!!!』
人間を、無理やり怪人に変えさせた……のか?
その光景を動画として目にしたヒラルダは口元を手で押さえ、顔を青ざめさせていた。
「ちょ、ちょっとなにこれ……笑いながら怪人にされてるの……?」
「……相変わらず人の神経を逆撫でする奴らだなァ、オイ」
でも安心した。
こっちの世界でもお前らは問答無用で排除してもいい存在だって分かったからな。
「ヒラルダ。悪いが、また力を貸してもらうことになる」
「……あー、もう分かった! 仕方ない!!」
人間を見下し、舐め腐った怪物ども。
今日まで調子に乗ってきたようだが———それも今日で終わりだ。
「徹底的にぶっ潰してやる」
どこの世界に飛ばされても怪人がいたら俺のやることは変わらねぇ。
自由を脅かすバケモノ共は全員根絶やしにしてくれる。
星界戦隊という惑星救済チーム。
それぞれが別方面でえげつない能力を有していました。
次回は明日の18時更新予定です。