前半がレイマ視点
後半から日向ハルの視点でお送りします。
並行世界からの来訪者である穂村克己と新坂朱音、レックスとの対話の後、情報整理のために一旦レッド達を戻らせた私は今度は穂村克己と対談を行うことにした。
しかし、対談といってもなぜか彼の傍にはヒラルダが座っており、親の用事を待つ子供のように足をぷらぷらさせて暇そうにしている。
……元の世界では敵同士とはとても思えない光景ではあるが、こいつは人間ではなくエナジーコアが疑似的な生命体の姿を形どっているということなのだから驚きだ。
その上、この世界では弱体化しており本来はこの世界の怪人以上の強さを持っているというデタラメさ。
彼から話を聞くだけでも怪人勢力を超える怪物どもがポンポン現れる世界の地球が未だに平和を維持していることが奇跡としか言いようがない。
「そちらの世界では私と君はどういう関係なのだ?」
並行世界の自分のことを聞くのは少し不思議な心境だ。
私の問いかけに穂村克己……カツミ君は少しだけ悩むそぶりを見せてから微笑む。
「恩人……んでもって友人だな」
「友人、なのか」
「訳ありで両親もいないからそっちの方でも助けてもらったり、あとは……映画とか教えてもらったな」
意外にもちゃんとしたコミュニケーションはとれているようだ。
我ながら狂人扱いされていると思ったのだが。
「不愉快に思うかもしれないが……君のことを調べさせてもらった」
「? ……この世界での俺のことってわけか」
「ああ」
ここまで来て信用していないというわけではないが、やはりこの世界にも穂村克己という人間が存在していたのか確認をするべきだと判断した。
「この世界にも穂村克己と呼ばれる少年はいた」
「いた、というと?」
「八年前の飛行機事故で亡くなっていた。……本人かどうかは分からないが……」
「……そっか」
なにを思ったのか彼は視線を下に落として、安堵とも悲しみともとれる笑みを浮かべた。
「それだけ分かれば十分だ。ありがとう」
「……君は……」
いや、あまり追求するべきではないのだろう。
先ほどの表情からして彼が飛行機事故そのものにあっていたとしたら、その時点の生死が歴史の分岐点となっていたのかもしれない。
……それを今、どれだけ思考しようとも正しい答えが出るはずもない。
だから、この話はこれで終わりだ。
「長話に付き合わせてすまなかった。君もしっかりと休んでくれ」
「レイマは?」
「君たちのデータを参考にしてパワードスーツの強化を行う。時間はないができる限りのことをしようと考えている」
レックスの言葉通りなら猶予は一週間ほどしかない。
この身を犠牲にしてでも人類勝利の可能性を上げていかなければ。
「レイマ」
「む?」
早速作業に取り掛かろうとするとカツミ君が声をかけてくる。
彼は隣のヒラルダに目を向けてからこちらを見る。
「身体、治せるかもしれないぞ?」
「む!?」
カツミ君の突然の提案に目を見開く。
私の肉体はプロトゼロスーツにより再起不能寸前にまで追い込まれ、今では車椅子なしでは動けないほどだ。それを治せるとは……まさか、プロトXとは別のスーツの力で……?
「ヒラルダ? いけるか?」
「うーん、いけるんじゃないの?」
「そういうことだ」
ものすっっっごいざっくりした感じなのだが!?
しかし、このボロボロの肉体が治る可能性があるならば試してみたい。
戸惑いながらも了承すると彼は早速、ヒラルダの方を向いた。
「ヒラルダ、変身だ」
「まったくもう、今回だけだからね」
彼の手がヒラルダへと伸びた———その瞬間、彼の左手首のチェンジャーから微かな光が発せられる。
銀糸が形作った小さな鎌。
ヒラルダの首にめがけて伸びたソレはカツミ君が突き出した右の手のひらに突き刺さっていた。
「ひんっ」
数舜遅れて殺されかけたヒラルダの小さな悲鳴が響き、滴った鮮血がラボの床に落ちていくがそれに構わず彼は静かに声を発した。
「やめろ」
『———!!!!?』
「こいつがいなきゃ俺は今頃ここにはいない」
い、一瞬で私のラボが修羅場に……!?
というより、大丈夫なのか!? 掌おもいっきり貫かれているのだが!?
「確かにこいつは敵だ。んでもってかなりしつけぇし思い込みが激しい面倒なやつだ」
「ん? んん? あ、あれ、なにも刺されてないのに刺された痛みが……?」
「だけどな」
頬を引き攣らせるヒラルダを半ば無視した彼は続けてチェンジャー……プロトXへ語り掛けていく。
「いつか決着をつけるが今じゃねぇ。こいつとの因縁は元の世界できっちりと片をつける。分かったか?」
『———……』
傷をいたわるように引き抜かれた鎌が銀糸にほどけ、彼の傷口に触れる。
すると、まるで逆再生するように彼の手のひらの傷が治っていき、最後には傷口そのものが縫合するように消える。
再生……いや、目視できないほどの糸で“修復”したのか?
「怒ってねぇから気にすんな。寂しかったんだろ? ちゃんと分かってる」
『———……』
パ、パーフェクトコミュニケーション……!!
私から見てもものすごく面倒くさそうな性格をしているプロトXに対して完全な対話を成し遂げている……!
「ねえ、大丈夫?」
「は? 全然痛くねぇわ。勘違いすんじゃねぇぞ、今のはお前を助けたわけじゃねぇ」
「えへへ……」
「お前には借りがある。んでもって俺も納得した形で決着をつけてぇから、庇っただけだ。もう一度言うが……勘違いすんじゃねぇぞ」
「えへへへ!! ツンデレだ!!」
「は? ツンデレってなんだよ」
カツミ君はともかくヒラルダは敵対している自覚はあるのだろうか。
傍目で見ると構ってもらって嬉しい小動物なのだが。
「はぁ……レイマ、床を血で汚しちまったし治すのは掃除した後でいいか?」
「あ、ああ」
どこか疲れた様子の彼の傍らで満面の笑みを浮かべるヒラルダを見て「こいつも面倒くさそうな性格してそうだなぁ」と考えまた引いてしまうのであった。
なんだかマグマ怪人との戦いが終わってからお姉ちゃんの様子がおかしい。
なんというか……そわそわしているというか、落ち着きがないというか、性格が怪人が現れる前に近くなっているような気がする。
でもそれは悪いことじゃなくて良いことなのは分かっている。
むしろ元気がなくて、自由さがないお姉ちゃんを見ている方が痛々しい。
「お姉ちゃん」
「ん?」
マグマ怪人からの襲撃を終え、お姉ちゃんたちが拠点に戻ってきてくれた。
拠点からマグマ怪人の攻撃が見えていたけれど本当に世界の終わりって感じの光景だった。
空から溶岩の雨が降って、大きなビルと同じ姿に変わって……最後には
遠くから見えたのはそれだけ。
拠点にいる私たちがなにも理解できないままマグマ怪人は倒されて、お姉ちゃんたちは帰ってきた。
怪我もなにもなく戻ってきてくれたことを嬉しく思いながら帰ってきたお姉ちゃんを迎えたわけだが……。
「なにかあった?」
「……なにもぉ?」
嘘だ。
露骨に目を逸らし挙動不審気味に斜め下に視線を落とした姉をジト目で見る。
この姉のこともそうだけど、最初の拠点だった場所から帰ってきた人たちもどこかざわついた様子だったし、怪人以外のことでなにかあったのかもしれない。
……。
……あのものすごいマグマ怪人が倒されたのってもしかして……。
「黒騎士さんがここにいるって本当?」
「なんで知ってるの……!?」
「知らないけど、マヌケは見つかったね」
「ハッ!?」
駆け引きとかする必要もなく姉がちょろくなったんだけど。
でも本当にあの黒騎士さんが……いや、あの人の強さを考えればマグマ怪人を倒せてもおかしくない。
むしろ納得してしまった。
「深くは聞かない。多分、皆に隠している理由もあることだし———」
「ハルなら会っても大丈夫そうだし、会ってみる?」
「会う」
ちょろいのは私もだった。
こちらからの配慮を一瞬で上辺だけのものにされながら、部屋を移動しだしたお姉ちゃんの後ろをついていく。
「私に教えていいの……?」
「今、司令に確認したら特別に許可をもらえた。……それに、ハルが一番最初に彼と接触したから」
それはそうだけど……。
でもまた会えてちゃんとお礼を言えるのは嬉しい。
「黒騎士さんってどんな人だった?」
「不思議な人」
それはお姉ちゃんのことでは? ……とは口には出さなかった。
多分、お姉ちゃんの不思議なところと黒騎士さんの不思議なところは全く別物だと思うから。
「あとこことは別の世界から来た人」
「……はい?」
「一応言っておくけど嘘じゃないよ?」
そこからお姉ちゃんの口からとんでもない話が飛び出してきた。
黒騎士さんが別の世界の地球から飛ばされてきた人で、彼は前にいた世界と同じように怪人と戦ってきたそうだ。
他にも別の世界のアカネさんもいるし、宇宙人もいるというものすごいSFチックな話の連続で頭が混乱しかけるけど、今私たちの周りで起こっている状況もSFには変わりないのでギリギリで現実として受け入れることができた。
「彼はいい人。これから一緒に戦ってくれるし」
「一緒に戦ってくれるんだ……」
そう聞いて、これからの怪人との戦いに希望が見えてきたような気がしてくる。
彼の強さもそうだけど、その存在が私達にとってなくてはならないものだと漠然と感じていたからだ。
「あと、ハルを助けてくれた……。私は彼のことを信じる」
「……お姉ちゃん」
彼がいなければ私はスマイリーに怪人にされてそのまま死んでいたことだろう。
そう考えるだけで背筋が凍るような思いに駆られるし、もし……もしも怪人になった私がお姉ちゃんと戦うようなことになっていたら……。
「……考えないようにしよう」
今はそんなことになっていないから、考えるだけ無駄だ。
「あと内緒の話だけど」
「うん?」
「私のことが好きなんだと思う」
「えーっと」
ごめん、意味が分からなかった。
話がものすっごい斜め上に飛躍して思考が三秒ほど停止した私に、こちらを振り返ったお姉ちゃんは「むふー」と言わんばかりのどや顔を浮かべる。
「初対面で私の名前を呼んだ。しかも下の名前」
「ごめん、お姉ちゃん。私、黙っていたけど私も初めて会ったときに呼ばれてた」
「ハルも呼ばれていたマ?」
口調が崩壊する姉。
言わなければよかったか? と内心しまったと思っていると、口元に手を当てた姉が思案顔を浮かべる。
「つまり家族ぐるみの付き合い……ってこと!?」
意味不明にメンタルが強いな……。
謎のポジティブによりさらなる方向に思考を飛躍させた姉に逆に関心する。
だけどそうか……黒騎士さんのいた地球では、別の私とも関わっていたってことなんだ。
別の私のこととはいえ、ちょっと複雑だけど嬉しくもある。
「ん、ここだよ」
「司令さんの研究室の近くなんだ……」
話している間に目的地についたのか、一見してなんの変哲のない鈍色の扉の前に立ち止まる。
護衛も警備も誰もいない扉の前に移動したお姉ちゃんは、軽く扉をノックする。
『ああ』
短い返事の後、すぐに扉が開かれ背の高い女性が顔を出してくる。
え、黒騎士さんって女性だったの!? と驚いたが、出てきた女性の顔を見てさらに驚愕する。
「君は……」
「アカネ、さん?」
いや、違う。
アカネさんにものすごく似ているけど身長も年齢も違うように見える。
お姉さんか誰か……? でもここは黒騎士さんの部屋だし……。
「君が、アオイの妹のハルか……」
「え、あ、はい……」
私を見て目を丸くさせた女性は僅かな沈黙の後に、私の隣にいるお姉ちゃんに鋭い視線を向ける。
「……ブルー。妹をここに連れてきたのか?」
「うん。司令には許可をもらった。レックスさんはどうしてここに?」
「彼に少しばかり話があっただけだ。……私の方はもう済んだ。あとはお前たちが話すといい」
そう言ってレックスと呼ばれた女性は扉を広げ、道を開ける。
部屋の中を見ると、ベッドの傍の椅子に腰かけている黒髪の青年がいた。
「カツミ、君に客だ」
「ん? 誰ですか?」
レックスさんの声に彼はこちらを見る。
「ハル?」
僅かな素振りと私の名前を呼ぶ声だけで、その人が黒騎士さん本人だと分かってしまった。
実は無茶苦茶痛くて痩せ我慢したカツミくんでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。