前話の隠し要素に気付いた人は本当にすごい。
見つけた方が出てこなければ、当分は隠したままでしたが今回の話を合わせてヒントを公開します。
アルファの文字色は白で統一されております。
今日はなにやらデータを取るために変身しなければならないようだ。
レイマに呼ばれ、地下の修練場へやってきた俺は、彼から渡された『プロトチェンジャー』を腕に取りつける。
二年間、共に戦ってきた相棒だ。
『さあ、カツミ君。試作装備のデータを取る。チェンジャーは腕に嵌めたかな?』
「もう装備はついているのか?」
『もちろん、抜かりはない。多少の勝手は違うだろうが心配はない。……では、装着してみたまえ』
いつものようにチェンジャーの側面のボタンを連続して三度押す。
ジャスティスレンジャーの変身とはかなりプロセスが異なるらしいが、彼女たちは変身の際に認証を二段階行っているらしいので、ああいう感じらしい。
俺のは誰でも変身できるがその分危ないといった感じだ。
『CHANGE——PROTO TYPE ZEROォ……』
そんなことを考えている間に変身を完了させる。
いつもと変わらないスーツかと思いきや、各部に色々なものが追加されているではないか。
「両腕と両足、それに首元か。なんだかバイクのマフラーみたいだな」
なんかすごいゴテゴテするようになってしまった。
『それは余剰エネルギーを放熱、推進力にする機構だ』
「余剰エネルギー?」
『君は常に限界を超えたエネルギー出力で敵を粉砕するが、その際に発揮されるエネルギーにはどうしても無駄が生じてしまう。今、君のプロトスーツに取り付けられたそれは、それを最大限に生かす試作品なのさ』
つまり、無駄になるはずだったエネルギーを別のところに使う感じか。
試作ということは、次のプロトスーツに搭載されるって考えてもいいんだよな?
『プロトスーツは君に完全適合しているが、君のために作られたものではない。常に限界を超えることができる君には、その能力に応じた機能、武器を詰め込むべきだ』
「それが、これか?」
『ああ、間違いなく、君専用の装備になるだろう』
まだ自分のスーツが作られるということに現実味がない。
幾分か今、自分が置かれている状況に前向きになろうとしている今なら、スーツの変化も受け入れることができるかもしれない。
『では、まずは動いて確かめてくれ』
「了解」
『危険があれば、即座に分離させる』
いつものように動き出す。
一瞬だけ出力を上げたその瞬間、腕、足、首元に外付けされた機構が発動し、白色のエネルギーが尾のように伸びる。
「おお!」
『うん、成功だな! さすがだ。では、無理のない程度に動いてくれ!』
その場を飛び出し、加速するままに駆ける。
いつもは一瞬の加速による慣性を利用していたが、これは加速がずっと続いていくような感じだ。
地面を走り、壁を蹴り、天井を走り、あらゆる場所を足場にしながら高速移動を続ける。
「この加速は……!」
ウィィィィン!!と、首から伸びる白い尾がマフラーのように揺らめき、加速を促す。
『では、軽く仮想エネミーと戦闘してくれ』
スライドした地面から人型のロボットが出現する。
目視と同時に、飛び蹴りを繰り出してから減速せずに次のロボットの首を粉砕し、流れるようにすれ違うエネミー全てを処理する。
一瞬で、出現した仮想エネミーを処理したところで、ようやく足を止める。
『計測結果は?』
『仮想エネミー、2.31秒で沈黙。……圧巻の性能ですよ』
「すっげぇなぁ、これ」
全身に取り付けられた追加パーツが、放熱するかのように煙を吐き出すと、そのままプロトスーツから分離するようにボロボロと地面へと落ちていく。
「え、こ、壊しちゃったぞ!?」
『心配するな。こちらで分離させただけだ。これ以上は君の動きそのものに耐えられないからね』
「そうなのか……よかった……」
壊したらすっごい悪いしな……。
しかし、これで試作なのか? 今の時点でも相当やばい性能をしていると思うんだけど。
『プロトスーツに取り付けられたそれは未だ未完成。私が理想とする数値の三割にも満たない。だからこそ、これから作るであろうスーツは……我々の想像を超える最高傑作になるだろう』
まだ、俺達が必要になるのだろうか。
正直、俺としてもまだ戦いがあることを予感してしまっているが、それにしてもレイマは急いでいるようにも思える。
『君の戦闘を構想に取り入れたジャスティスクルセイダーの強化装備も並行して作っている。これからに備え、油断せずにこの
明るくそう言葉にしたレイマ。
スピーカーの奥からスタッフさん達の笑い声が聞こえてくるあたり、彼も人望のある大人なのは間違いないようだ。
『それじゃあ、次をお願いしようかな。特撮オタクの大森君、次の装備を射出したまえ』
『特撮オタクは余計! です!! では、黒騎士くん、次の試作装備を送りますのでお願いします』
「はい、分かりました。……あ、この前の三色わらび餅、ありがとうございました」
『! いえいえいえ、喜んでもらえてなによりです』
大森さんにお礼を言いつつ、演習場の壁から出てきた箱からアタッシュケースを取り出す。
台に置き、ボタンを押して開くと煙と共にケースが開き、試作装備が出てくる。
『……お前、いつか駄目な男に貢ぎそうだな』
『駄目な人には貢いでいません。これはいつもありがとう的な想いを籠めて送っているだけなの、でッ』
入れられた武器を取り出す。
手甲? なんかメリケンサック的なものもついているし、俺の武器なのかな?
『その割には目の色が怪しい気配を放っているんだけどなぁ、25歳独し――』
『主任、その口溶接させられたい?』
『ごめんなさい……』
結構、色々あるな。
レッドとブルーとイエローのものもあるということは、あいつらが学校行っている間に、俺が彼女たちの分の新武器のテストをするってことか。
まあ、ここに住まわせてもらっているようなもんだしな。
試作兵器のテストをした後、俺はレイマに言われ担当医である白川伯阿のいるメディカルルームへと訪れていた。
俺とそう変わらない年頃といった彼女は、手元の用紙に文字を書き込みながら、いつものように俺に質問を投げかけてくる。
「さあて、かっつん。昨日はよく眠れた?」
「眠れてる」
「ご飯はたくさん食べてる?」
「しっかり食べてる」
「運動はしてる?」
「毎日三時間のトレーニング」
「———」
同じような内容の質問を毎回する。
それに辟易としながら真面目に答えていくと、彼女はやや安堵したように手元のバインダーを机に置く。
「良好良好。精神的にも安定しているっぽいし、これなら外出許可も早く出せるんじゃないかな?」
「別に外に出たいってわけじゃないんだが」
「出るべきだと思うよ? かっつんはちょっと他のことに無頓着すぎる」
無頓着……無頓着なのか?
自分でも自覚していないが、そこまで外に魅力があるかどうか分からない。
もうスーツを着なくていいならそれでいい。
だけど、その後どうするのかだなんて……本当に考えもしていなかった。
「そんなに人と関わることが怖い?」
「そんなことはないけど……」
「そうだよね。君が怖いのは、自分が関わった人間が酷い目にあうことだもんね」
「……」
動揺してしまう。
まるで心が見透かされるような感覚に顔を上げると、俺と白川の視線が合う。
「だから、自分の使命が終わった時、死ぬつもりだった」
「! いや、俺は―――」
「それとも別の誰かのために死ぬつもりだった?」
違う、という声が出ない。
どういうことだ。
間違いなく違うはずなのに、肝心の言葉が出てくれない。
「君は自覚しているのかどうか分からないが……君の心が不安定な理由は過去の影響もあるけど、それだけじゃない」
「……」
「少なくともオメガと戦った後。あそこまで心が強かった君が、ただ一度の敗北であそこまで打ちのめされるのは、ちょっと不自然に思えた」
オメガと戦った後、俺はすぐにジャスティスクルセイダーと戦ったはずだ。
疲労のあまりその間になにが起こったかはよく覚えていない。
なにも起こっていないはずだ。
俺は、負けて錯乱して自分の押し隠した本心を口にしてしまっただけの、はずなんだ。
「君にとって、衝撃的ななにかが後押ししたのかな?」
「分からない。俺にも……覚えてないんだ……」
「……そっか。ごめんね、変なことを訊いてしまって。あー、くそ、本当にごめん。あまり踏み込むんじゃなかった。ようやくいい方向に向かってくれているのに……」
髪をがしがしと乱暴に梳いた白川が気まずそうに謝ってくる。
別に謝るほどのことはされていないし、俺も怒ってなんかいない。
ただ、自分のことが少しだけ分からなくなった。
「君の場合、私から偉そうに言えるわけじゃないんだけど……もうちょっと大事なものの幅を広げた方がいいと思うよ?」
「……考えて、みる」
「頷いてくれるだけでも上々だ。さあ、かっつん。なんか適当にお菓子でもつまんで時間でも潰そうじゃないか」
そう言った白川は、人目につかない足元の戸棚から菓子のようなものを取り出そうとする。
しかし、それと同時にメディカルルームの扉が開き、誰かが入ってくる。
「やっべ……ん? おや、どうしたんですか? ここに来るなんて珍しいじゃないですか」
「少し彼に話があってね。……席を外してもらってもいいかな? あとなぜ、私を見るなり、隠そうとした菓子を広げだす?」
やってきたのはレイマだ。
金髪の痩身の男で、ちょっと変わった性格をしているが気のいい人物の彼が、なぜここに?
俺にケーキのような菓子を渡した白川が退出すると、レイマは先ほど彼女の座っていた椅子に腰を下ろす。
「カツミ君、俺は今まで君に隠していたことがある」
「宇宙人だって?」
「そっちではない! ……いいか、私はな。ジャスティスクルセイダーの司令であり、KANASAKIコーポ―レーションの社長であり、君と彼女たちのスーツを作り上げた開発主任なのだ」
……。
「ふーん」
「ふーんて、怒らないのか?」
「いや、むしろ怒られるのはスーツ盗んだ俺の方だろ。むしろレイマにはよくしてもらっているから、怒る理由はないよ」
「君は純粋すぎる!?」
「レイマ!?」
椅子から転げ落ちたレイマがその場で三回転ほど、床を這いずる。
ひとしきり満足したのか、服を整えながら彼は立ちあがる。
「すまない。取り乱した」
「お、おう……」
斬新な取り乱し方だ。
なんか、レイマも話しかけにくそうにしているし、まずはこっちから話を振っておくか。
「あのさ」
「む、なんだ?」
「新しいスーツを作るって言っただろ? プロトスーツは、どうなるんだ? もしかして破棄とか……しちゃうのか?」
俺の質問に一瞬きょとんとした表情を浮かべたレイマ。
すぐに笑みを浮かべた彼は、ゆっくりと首を横に振る。
「そんなことするはずがないだろう。むしろその逆、プロトスーツの核となるエナジーコアは新しいスーツへと受け継がれていくんだ」
「エナジーコア?」
「ジャスティスクルセイダーと君のスーツの中心部と言える部分さ。これがあって初めてスーツは力を持つ」
スーツの中心部か。
なにかしら特殊な素材が使われていると思っていたが、まさかそんなSF映画みたいなものがあったとは……今さらながら驚きだな。
「エナジーコアは、人間の適性でのみ発動する。プロトスーツに使われたコアと君との相性は最高なんてものじゃない。むしろ、プロトスーツのコアでなければ意味がないんだ」
「なるほど……」
「だから、君の心配は杞憂なのさ」
……良かった。
プロトスーツには愛着があるのでそのコアが新しいスーツにも使われるようで良かった。
「……ようやくカメラの映像は切れた。本題に入ろう」
自身の時計を目にしながらレイマは懐から、なんらかの資料を取り出す。
それを数秒ほど見つめて、大きく深呼吸をした彼は真面目な様子で俺と顔を合わせる。
「カツミ君。今から質問をするけど、気分を害さないでほしい」
「あ、ああ」
なんだろうか改まって。
レイマの真剣な表情に、なにかしらの大事な話だと察した俺は身構える。
彼が最初に見せた資料は、どこかで撮ったであろう写真であった。
「ジャスティスクルセイダーが活動しているその間。君は怪人以外の何かと戦ったはずだ」
「……? なんのことだ?」
「……やはり忘れさせられているか。さすがだな」
写真に視線を向ける。
そこには、人の姿をした機械のようななにかが粉砕されている。
血液のような青い液体と部品が周囲にまき散らされており、近くには千切れたコートのようなものと、帽子がある。
「邪悪は地の底から、正義は宇宙から、だ」
「その、言葉は……」
俺があの路地で聞いた黒コートの言葉じゃないか。
なぜそれを今?
「黒いコートを着た彼らは、ある存在を探して地球にやってきた。……それを君が倒した」
「……いえ、倒してないぞ? 俺はそのまま無視してその場を去った」
「いや、認めなくてもいいんだ。これは、あくまで確認なんだ」
レイマが俺の両肩に手を置く。
「君がアルファに選ばれたのは知っている」
「……ッ!?」
「だからこそ、君が殺したと知って驚いた。だが他の人間は彼女の名も、その名前も認識することができなかった!!」
あのアンケートで、彼女のことを知ったのか?
いや、口ぶりからしてもっと前から……?
「彼女の生存を確認するためにあのアンケートを公表し、世間の反応を見た。彼女は間違いなく生存し、どこかにいる」
その言葉で視界が曇り頭に僅かに鈍痛が走る。
くっ、なんだ? 駄目だ、思い出すな……!
「……ッ、アルファは俺が倒した。それ以上でもそれ以下もない。俺が、彼女を……」
「ああ、君の行動は何一つ間違ってはいない! その認識のままでいい! だが、ここにいるのならば、これだけは聞かせてくれ! アルファ!」
レイマの視線は俺には向いてはいなかった。
周りを見渡し、ここにはいないはずの何者かを探しているようだった。
「いつ、
「分かった」
「教えるから」
「彼から、手を放して」
「社長、そろそろ部屋に戻ってもいいかなって……えぇ……」
どうやら白川が戻ってきたようだ。
俺と談笑していたレイマは、彼女に気付くと笑みを零しながら振り返る。
「ああ、いらっしゃい白川君。どうだい? 今、カツミ君と映画談議に花を咲かせていたわけだが、君もどうかな? 今、ちょうど『宇宙人ポール』という映画について話していてね。次はスタートレックでも――」
「別に構わないんですけど……なんか大事な話でもしていたんじゃないんですか?」
「この話こそが大事な話だよ」
ドヤ顔のレイマにげんなりとした顔になる白川。
彼女は今度は俺の方を向く。
「かっつん、本当にそうなの?」
「ああ、ここに来てからスーツの話と、映画の話をしていたくらいだぞ」
「……本当みたいね」
なにを疑っていたのだろうか。
事実その通りなんだが。
軽く首を傾げると、ふとレイマが椅子から立ち上がる。
「あれ? レイマ、行くの?」
「ああ、君達との会話は有意義だった。私もそろそろ仕事に戻らねばならないからな。後は頼むぞ、Dr.白川ッ!」
「さっさと出ていけ、変態野郎」
「なんでそんな酷いこというの……?」
落ち込みながら退室していくレイマ。
彼を見送っていると、目の前に座った白川がやや訝し気に俺を見てくる。
「どうした?」
「いや、なんかさ。……大丈夫?」
「? いや、なにが? 俺は全然平気だぞ」
「……そう、かっつんがそういうんなら、いいんだけど」
何か言いたげな様子の白川。
彼女が何を心配しているのか分からないが、レイマはなにもおかしなことはしていないはずだ。
まあ、映画談議についてはもう少しやってみたかったけどな。
地味な重要回。
社長は影でめっちゃ頑張ってる人でもありました。