前話を見ていない方はまずはそちらをー。
あらゆる生物は私に支配されるために生まれている、とそう思い込んでいた。
暗黒物質という宇宙に満ちるものを操る無敵の力。
これまでその力を破られたこともなく、自力で手傷すら与えられるものすらいなかった。
だが、それは大きな思い上がりだった。
暗黒物質が無敵の力だったとしても。
私の想像を超える化け物相手では全く意味をなさない。
「ぁ、が、……はっぁ……!!」
生きている。
星の崩壊に生じた重力に吞み込まれかけはしたが、鎧を自ら破壊し重力の奔流に一瞬の隙間を作ることで、小さなワームホールを生成しなんとか生き延びることができた。
だが、ようやく作れたワームホールも小さく、生存のために四肢を捨て胴体のみで逃げなければならなかった。
「し、死んでいた……あのままあそこにいたら……」
逃げた先はどこぞと知れない惑星の中。
生命体はなく、破滅を待つだけだった惑星は、干上がった大地と赤銅色に染められた空に支配された……まさしく今の私のような有様であった。
そんな中で私はボロボロの身体をなんとか再生させながら、恐怖に震える身体を抑え込む。
「あれは、存在してはいけない……生物だ……」
暗黒物質は奴の前では意味をなさない。
なぜなら、そういう運命として確定されてしまったから。
しかしまだ、奴のいる世界から逃れられてはいない。
どれだけ逃げても、奴は追ってくる。
それだけの憎悪と怒りを向けて、確実にこの私を殺すためにやってくる。
「逃げなければ、奴のいない……次元へ……どこでもいい!! イリステオ!! 私を、俺をここから逃がせ!! イリステオ!!」
唯一、並行世界への移動を可能にしている序列一位のイリステオの名を呼ぶ。
しかし、どれだけ奴の名を呼ぼうとも一位は答えない。
ただ虚しく、私の声が響くだけだ。
「———ッ、ふざけるなぁぁぁぁ!! 誰がお前を一位にしたと思う!! クソ、ヴァースが、あのくたびれたジジィが離反しなければこうはならなかった!! あああああ!! クソ、クソクソ!!」
どれだけ罵倒を叫んでも、返事は戻ってこない。
残酷な現実に打ちひしがれていると、さらなる絶望の印が空に映り込んだ。
「あ、あ……」
螺旋模様の極彩色が空に広がり、その中心に空いたワームホールから———奴が出てくる。
赤と金、そして極彩色に輝く円環を背負った怪物。
その絶望は、地上にいる私を無機質に見下ろすとその全身から夥しい光を放ちだした。
『……』
遥か彼方からでも視認できるほどの光は奴の両手に集まり、青い巨大な弓のような形へと変わる。
そして背中の円環から極彩色のエネルギーが矢を形成し、奴はそれを大きく番えた。
「……」
リィィィン!! と、鉱物を擦り合わせた悲鳴のような音が響き渡る。
そして、収束した光が溢れんばかりの力と共に放たれる。
光の矢に収束されたあまりあるエネルギーは、溢れ出すように解き放たれ、惑星へ降り注ぐ破壊の雨となって大地を焼き焦がし、星を容易く貫いていく。
「う、うわああああああああああ!!?」
ただの一撃すらも星を貫くそれを目の当たりにし跳躍と共に回避しようとするが、破壊の雨は無差別に大地に降り注ぎ、例外なく無様に逃げる私の両足を消滅させた。
勝てない……傷を負わせることすらもできないっ!
今は、逃げなければぁ……!
「さ、再生を———」
『ヴァァァァァ!!』
「ぎぃ!?」
両足の再生よりも先に光線よりも速く眼前に迫っていた奴が私の頭を掴み、地上へ叩きつけた。
「ぐ、あ……がああああ!?」
頭蓋が軋み地上に押し付けられた俺の身体が持ち上げられる。
俺の首を掴んだ奴は、大地を焼き続ける滅びの雨をものともせずに憎悪と怒りの咆哮を上げ―――その右の手の中にエネルギーを集約させる。
「———」
奴を中心に空間が極彩色に浸食されていく中、その右手に形作られていくのは尋常ならざるエネルギーで生成された赤い輝きを放つ光の剣。
柄も握り手もなく、ただの
「あ……あ……」
その斬撃に音はなかった。
全てが破壊され、奴が立っている場所以外の全てが空間ごと塗り替えられ、崩壊していく。
奴からしてみれば攻撃しているのではなく、力を解放しただけだったのだろう。
「———」
死へ意識が向かっていく刹那。
ようやくこの恐怖も、絶望も抱くことがないことを考えて———私は心の底から安堵しながら、自らの死を受け入れた。
世界が、割れている。
力任せに力を振るい、ザインを跡形もなく消し飛ばした俺の視界には赤黒い色に汚された宇宙と、その宇宙に刻まれた極彩色模様の斬撃の残滓が映り込んだ。
宇宙に途方もない傷跡を残した赤い亀裂は、ひび割れどんどん広がっていく。
それが、怒りに任せた自身がもたらしてしまった破壊の跡だと俺自身が一番理解していた。
「……」
あれほどまで抱いていた怒りはなくなっていた。
目の前でザインの野郎を消し去った後は、抱いていた怒り以上の悲しみと、息苦しさに、俺はその場で膝をついて途方に暮れた。
「……俺は」
バックルが外れ変身が解ける。
光に包まれたバックルが分解され、それぞれがプロトとシロに戻る。
『カツミ、大丈夫!?』
『ガウゥ!!』
「プロト……シロ……」
変身している時、意識はちゃんとあったんだ。
ただあまりの怒りでザインを殺すまで止められなかった。
誰にやらされたわけでも暴走させられたわけじゃない。
俺が、俺の意思で奴を始末するための力まかせにベルトの力を使ってしまった。
プロト、シロを復讐の道具のように扱ってしまったんだ。
「ごめんッ。俺は、お前達も……!!」
『私たちのことはいいから!! 身体になにか異変は!?』
『ガゥ!!』
そういえばザインとの戦いで大怪我をしていたはずだが治ってるな。
身体に痛みもないし、変身する以前とそれほど変わりはない。
「俺は大丈夫。身体もなんともないし、全然平気だ」
『あれだけの力を使って、なんともないの……? で、でも無事なようで安心したよぉ……』
よく見ると、チェンジャーとシロの形状が少し変わっている。
それぞれに銀色の✕印の装飾が施されていて、まるで別世界のプロトのチェンジャーみたいだ。
……。
別世界のプロトはもういない。
だけど、彼女の優しさは俺の命を救ってくれた。
『カツミ、私たちをこの世界に呼んだのは……』
「ああ、別の世界のお前だ」
『……』
プロトとしては奇妙な感覚だろうな。
別の世界の自分が命を捨ててまで、もう一人の自分を呼びだしたなんて。
黙り込むプロトに声をかけようと口を開きかけると———不意に俺の背後から音もなく伸びた腕が首に回される。
「カツミ」
「……」
誰だ、なんて分からないはずもない。
音もなく俺の首に手を回してきたルインにため息をつく。
首を絞めるでもない、抱き着いてくるように腕を固定させたルインに俺は辟易とした反応を返す。
傍にいるプロトとシロは突然のことに慌てふためいている。
「……今、お前と戦う気分じゃない」
「もちろん。ああ、分かっているとも」
引き剥がすのも面倒なのでそのまま地面に腰を下ろす。
必然的に後ろで抱きすくめる奴も座るが、今は抵抗する気力もなくされるがままになる。
「そういえば、なんで呼吸ができるんだ……?」
ここは地球でもないし、なんなら星でもない。
少ない足場が残されただけの宇宙空間の中だ。
今だって、宇宙を彷徨っているだけで空気なんてあったもんじゃないはずだ。
「ここはお前が支配した空間だ」
「はあ?」
「お前のためにある場所が、なぜお前を殺そうとする?」
「……こんな世界、あるかよ」
傷つき壊れかけた赤い宇宙。
俺がそうしてしまった自覚がある分、納得よりも嫌悪感の方が大きかった。
顔を顰めた俺を後ろから覗き見たルインは、首に回した腕を片方だけ解き、虚空に手を伸ばした。
「ここは少しばかり騒々しい。
空に一直線の亀裂のようなものが走り、赤と金色の織り交ざった異様な宇宙を前に、ルインは払うように手を動かす。
すると、彼女の手の動きに合わせ宇宙が
塗り替えられたのは星々が浮かぶ黒色の空。
先ほどとは明らかに違う静かな光景———この技を、俺は知っていた。
「最初に戦った時に見せたやつか」
「いいものだろう? かつては私だけに許された力だった。今は、私とお前の二人だけだ」
「壊すことしかできない俺よりも……大分マシだろ」
「……」
さっきの姿になれば同じことができるだろう。
だけど、それだけだ。
「運命のアルファのことは残念だったな」
「……俺のせいだ」
「ああ、その通り。お前のせいだ」
俺の言葉にルインは否定せずにはっきりとそう口にした。
「お前のためにこの世界のコアは死を選んだ。お前がそう選ばせた」
正直、はっきりと事実を叩きつけてくるルインの言葉に俺は内心で感謝していた。
俺のせいでこの世界のプロトは死んだ。
死を選ばせてしまった。
それは絶対に変えることができないことで誤魔化すことのできない事実なんだ。
「よくやってくれた、と。よくもやってくれたなと言いたい気持ちでいっぱいだ」
「なんでだよ……」
「お前に癒えぬ傷を残した。心に残る、ということは当人にとっては得難いものだからな」
なにが言いたいのかまったく理解できねぇわ。
これまでのルインとは何かが違う。
言葉にするのは難しいが、今のこいつには独特の圧がない。
「お前がさっき殺した男は私の父だ」
「ッ」
「平行世界の、とはつくがな」
「……。なんだよ、かたき討ちでもしようって……いや、そんな殊勝なことするやつじゃねぇよな。お前は」
口ぶりからしてそんな感じじゃないだろう。
むしろ、父親のことを心底どうでもいいとさえ思っているような感じだ。
「私は父に存在を否定された。生まれるべきではなかった、とな」
「……」
「別にそれで傷ついたわけでもなかった。だが失望はした。誰もが私と同じ視座にいない。最強と持て囃された愚かな父でさえも、私を死の間際まで忌み子と罵り無様を晒した」
———少し、俺と似ているなとは思った。
抱いた感情もなにもかも違うが、俺とこいつの境遇は少しだけ似ていた。
「誰一人として私と同じ者はいない。そう諦めていた。だが―――」
首に回された腕に僅かに力が籠る。
「カツミ。お前は私と同じになった」
「……ルイン、俺は———」
「不思議だ」
俺の言葉を遮り、ルインは続けて声を発する。
「お前の覚醒を待ち焦がれていたんだ。その時を迎えて喜びの感情が沸き上がるはずだったが、私の中に沸き上がった感情はそれだけではなかった」
「……」
「それがなにかは私にも分からない。だが……運命のアルファを失い悲しみに暮れるお前を見ていられなくなった。……これはいったい、なんなのだろうな」
知らねぇよ、とは無造作に返せなかった。
これまでの楽しそうな声ではなく、彼女自身も少し困惑した声だったからだ。
だが、それに対する答えは俺も持ち合わせていなかった。
「———っ」
唐突な眠気に襲われる。
ルインになにかされたわけじゃなく、体力的にも精神的にも限界だったのだろう。
眠気に抗えず、閉じていく俺の目元にルインが掌を乗せる。
「大きな力を使ったな」
「疲れただろう? 今は眠るといい」
「心配するな。まだ元の世界には戻さない」
「全てが終わった地球で別れを済ませてから、お前の世界に戻してやろう」
結局、ルインはなにが言いたかったのだろうか。
だが、一つだけ分かったのは俺が怒りに任せて至った覚醒は、俺だけじゃなくルインにまで変化を与えたということだ。
最終フォーム強くしすぎか……? と一瞬悩みましたが、そもそもライダー作品にオーマジオウとかいう最強魔王がいたのでヨシ! と判断しました。
今回の更新は以上となります。
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