書籍の発売を5月予定とご報告させていただきましたが、
諸事情あって発売予定を1か月後の6月に延期することとなりました。
活動報告にも追記という形で書かせていただきましたので、そちらをご参照ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294882&uid=45172
ヒラルダをベルトにし変身することで決着をつけることができた。
しかし戦っていた場所が思い切り街中なので一般人に結構見られてしまった。
「どうすっかな、この後」
リバースヴェノム、濃い桃色の姿に変わった俺は周囲を見回して困り果てる。
星界戦隊の力は別の世界に置いてきてしまった影響でカードを使った能力の大部分が失われ、先ほどのヒラルダが変身していた形態とほぼ能力は変わらないと見てもいい。
『カツミ!!』
『ガーゥ!!』
先ほど変身解除するために一旦外したプロトとシロが戻ってきた。
……というより、
「シロはいつも通りだけど、プロトお前その姿は……」
『さっきの変身の影響でこうなっちゃったの!!』
シロはいつもの白色のメカオオカミの姿だけど、プロトは黒色のメカオオカミになってしまっている。
二体ともプロトXを連想させる十字の模様が施されているけど……こう見ると、やっぱり双子なんだなって思わされる。
「プロトもシロもちゃんとレイマに調べてもらおう」
『うぅん、気は進まないけどしょうがない……』
『ガァーウ』
プロトとシロが肩に乗ったことを確認しつつ、とりあえず走って人の目を逃れようと考えていると頭上を白い飛行機型のビークル———ホワイト5が高速で飛来し、ゆっくりと下降してきた。
『かっつん乗って!!』
その声と共にビークル後部のハッチが展開されるのを確認した俺は、その場を跳躍しビークルに乗り込む。
すぐにハッチが閉じられるのを確認した俺は変身を解除する。
「ふぅー、ん? おい、なんでベルトのままなんだよ」
『え、い、いやぁ、だって今変身解くと酷い目に合わされそうだし……』
「???」
どういうことだ?
変身を解いてもベルトから戻らないヒラルダを不思議に思っていると、機内の奥から見慣れた三人娘が飛び込んできた————変身した姿のまま。
「「「カツミ君!!」」」
「おぐえ!?」
スーツに身を包んだアカネ、きらら、葵のヘルメットの強打を受け呻く。
っっっ、ここで文句を言うのは簡単だが、心配をかけたのは事実。この痛みは甘んじて受けよう。
「カツミ君だよね!? 偽物じゃないよね!?」
「どう見ても俺だろ。つーか、俺の姿真似る奴の方がやべーだろ」
「このちょいひねくれた感じ……本人だ!!」
「お前俺のことどういう風に見てんの……?」
俺は基本素直だろうが。
「前の時とは違って、アルファもプロトも存在を感じられてなかったから本当に心配したんよ?」
「悪い。さすがに俺も別の世界に飛ばされるとはおもわなかった」
「別の世界……マルチバース……!? 実在したの……!?」
「葵、知ってんのか?」
「異なる次元の平行宇宙でしょ? 常識だよ」
どんな常識……?
マルチなんとかのことはよく分からんが、葵は俺の身に起こったことをある程度理解しているようだ。
「つーかお前らどけ!! さっきからスーツのヘルメットが痛いんだよ!!」
「あ、ごめん。無事再会できたのが嬉しくて」
「本当に悪かったよ……」
俺も好きで並行世界に行ったわけじゃないが心配かけちまったからなぁ。
三人がどいたところで、立ち上がった俺は機内の通路から操縦席に移動し、操縦しているハクアのところに顔を出す。
「ハクア」
「っ。かっつん……」
『ハクア様。後の操縦は私にお任せください』
「ありがと、タリア」
レイマのスーツのエナジーコア、タリアが操縦を代わったことで操縦桿から手を離したハクアは、勢いよく俺の胴体目掛けて近距離からのタックルを食らわせてくる。
「またかッ!」
「かっつん、これで何度目だよぉもー!!」
好きで行方不明になってるわけじゃねぇよ!?
ほとんど俺の意思関係なく行方不明になってるだけだからしょうがねぇじゃん!!
「だってだって、かっつん目を離したら遠くに行っちゃうからもうどこかに隔離した方がいいかなってアルファと話し合って……」
「いや、こえーよなにやろうとしてんだよ」
「でも司令とコスモに止められて……」
やっぱり頼れるのはレイマだな……!!
コスモも不真面目ではあるが常識的だし……!!
「とにかく、ちゃんと戻ったんだから泣きやめよ……」
「私赤ちゃんだから感情の制御できないの……」
「都合のいい時だけ赤ん坊になるな」
こいつ一時期俺の姉として振舞っていたことを忘れているのだろうか。
ハクアをなだめた後に席に戻し機内の通路に戻ると、ようやく変身を解いたアカネ達が俺のことを待っていた。
「カツミ君、そろそろその腰のベルトについて説明してほしいな」
「あー、ここに戻ってきてからの映像は見たか?」
俺の質問に三人は頷く。
「とりあえず色々なことがあったのは分かるよ。でも、まずは敵だったはずのヒラルダが君と変身している理由を教えて欲しいんや」
「敵の敵は味方理論?」
まあ、これは説明しなきゃ駄目だな。
こいつは結構な頻度で敵対しているし、未然に防いでいるとはいえ一般人を危険に晒した悪者だ。
「おい、ヒラルダ。そろそろ人の姿に戻れ」
『このままじゃ駄目?』
「駄目だ」
『でもジャスティスクルセイダー怖いし』
そう言ってアカネ達を見ると、彼女達も聞こえていたのかにっこりと笑みを浮かべる。
「えー、怖くないよー? 酷いなぁー」
「心配せんでも痛みは一瞬や」
「辞世の句を残す時間を与えてやろう」
『ヒィィィ悪鬼!?』
処す気満々じゃねぇか。
どうみても冗談で言っているのは分かるので特に何も言わないが、ヒラルダは真に受けたのかベルトを震わせる。
『ねえ、こいつら怪人よりやばくない!?』
「は? 当然だろ。怪人をぶっ倒したのは俺たちだからな」
『わぁ、カツミ君もおかしい側だったぁ!!?』
怪人よりやばいってそりゃそうだろ。
そもそも怪人よりやばくなけりゃ、あいつらに勝てるわけがないしな。
「どっちにしろ話さなきゃいけねぇんだからさっさと離れろ」
『……分かった。ついでに本当の姿も見せてあげる』
……本当の姿?
疑問に思うと同時にベルトから光の玉に変わったヒラルダが、光に包まれながら地面へ降り立ち、人の姿を形どった。
人の姿になった彼女を視線を下げて見た俺たちは、予想外の姿に驚きを隠すことができなかった。
●
ビークルのステルス機能を用いて第二本部へと帰還した。
ビークルから降りるなりヒラルダとシロとプロトが大森さんとグラトが率いるスタッフに連行されてしまったが、事前にレイマからの連絡と、他ならぬヒラルダ自身の許可もとっていたので特に俺からすることはなかった。
「一か月も離れていないのになんだかとても久しぶりに帰る気分になるな……」
まずはレイマの元へ、といきたいところだがまずはアルファだな。
あいつああ見えて三歳児だし、大人ぶっているもののハクアとほとんど変わらんくらいに打たれ弱い。
一旦、アカネ達とは別れた俺とハクアはそのままアルファが塞ぎこんでいる部屋へと向かうことにした。
「アルファは部屋にいるんだな」
「うん。かっつんの部屋にいる」
「おい。なぜ俺の部屋にいる……?」
俺がいない間にやりたい放題かまさか?
微妙にハクアも視線を逸らしたので、こいつも俺の留守中に無断で部屋に入ったりしてないよな?
「大体二週間だけど、プロトとアルファの感知できない別世界に行っちゃったから、今までの失踪と違って本当にかっつんと一生会えないと思って怖かったよ」
「そうか……」
当然か、普通に考えりゃ別世界だなんて意味不明だもんな。
遠いどころの話じゃねぇし。
「でもアルファは気づいてると思うよ。多分、かっつんがこの世界に戻ってきた時とか」
「なんか分かるらしいってのは知ってる」
あいつが認めたオメガが俺だから存在を感じ取れるとかなんとか。
そんなもんになった記憶もねぇし、なんなら俺は地球のオメガのような怪物じゃねぇから実際どうなのか分からない。
「……本当に大変だったんだからね?」
「お前ら以外は大丈夫だったのか? ハルとかコスモ、新藤さんとかは?」
「あー」
アカネ達以外の身近な面々の名前を出すと変な反応を返されてしまう。
「なにかあったのか?」
「いや、コスモとマスターは特に心配してなかったけど……なんか、ひょっこり帰ってくるみたいな感じで……」
なんか別方向に信頼されてないか? 実際、ひょっこり帰ってきちまったわけだが。
じゃあ、なにかあったのはハルの方なのか……?
「ハルちゃんは……かっつんが行方不明のショックで活動休止に」
「活動休止!!?」
大事件じゃねぇか!?
俺がいなくなって多方面に混乱もたらしているじゃねぇか!!
「まあ、かっつん帰ってきたしすぐに復帰すると思う」
「そんなあっさり復活できるもんなの……?」
「葵の妹だし大丈夫でしょ」
ちょっと否定できない保証の仕方やめろよ……。
なんか並行世界とは別方面でこっちのハルも大変なことになっているような。
ハルの方もフォローするべきか……。
くっ……。
「またコラボ雑談配信をやるしか……っ」
「そんな苦渋の表情をするものなの……?」
「仕方ねぇだろ……!」
ハルの配信を楽しみにしてるやつらがいるのは知ってんだ。
そんな彼女を活動休止に追いやってしまったケジメはつけなきゃならねぇ。
後でハルとレイマに相談するとして、今はアルファだ。
「着いたか……」
「苔が生えそうなレベルで落ち込んでたから気を付けてね」
「そんなに……?」
一か月も離れていないがものすごく久しぶりな感じがする。
俺の部屋への扉を前にし特に気負わずにスライド式の扉を開くと、待ち伏せしていたのか扉の前に立っていたアルファが身体を倒すように俺の胸に飛び込んできた。
アカネ達とハクアとも違う弱弱しい抱擁を受け止めながら、アルファの頭に手を置く。
「突然いなくなってごめんな」
「……今度こそ、会えなくなっちゃうかと思った」
こいつは俺の存在を感じ取ることができるが、俺が別の世界に飛ばされちまったことで、それを感じ取れなくなった時のこいつの心境は壮絶なものだったはずだ。
俺がアカネ達の前で自爆しようとした時と、記憶を失った時に加えての今回の件だ。
「あいつのせいだ……」
「あいつ?」
「あの、ルインとかいうやつのせいでまたカツミがどこか行っちゃうんだ」
脳裏にザインとの戦いの後のルインとの会話がよぎる。
あいつが俺をどこかに連れていく、なんてことはない。
「今回の件にあいつは絡んでねーよ」
「でもいたんでしょ。匂いがする」
低い声で顔を上げたアルファの真っ黒な瞳が俺の顔を覗き込む。
傍にいるハクアが彼女の顔を見て「ひんっ」と小さな悲鳴を上げてるが、俺はそれ以上にこいつの言葉に引っ掛かりを覚えた。
匂いがする? あいつの? はぁ?
「あいつ俺にまたなんかしたのか!? なにされたか分かるか!?」
「えっ、いや……カツミ、違くて……」
「なにが違うんだ!?」
「え、えぇと……匂いが、するだけだよ?」
なんだそれだけかよ。
そもそもこいつルインに会ったことねぇから匂いもなにもないと思うんだが。
声を震わせ、視界を左右に揺らすアルファに安堵のため息を零す。
「まったく、どいつもこいつも俺が無防備な時に好き放題する奴らばかりだからな……」
「そ、そうだね……」
「か、かっつん、唐突に私も刺されたのなんでかな?」
前科があるからな。
まったく油断も隙もあったもんじゃねぇぜ。
「ハクア、病み路線無理だよこれ……」
「仕方ないけど、かっつんは好意と愛情の違いが分かってないから意味ないんだよ……」
だが思っていたよりもこいつらが元気そうで安心した。
なんだかんだでこいつらは五歳児未満だから心配していたんだよな。
「かっつん、後もう一人会っておくべき人がいるんだけど……」
「風浦さんか?」
「……うん」
ヒラルダが一時期身体を乗っ取っていた一般人だった女性、風浦桃子さん。
星界エナジーという力を生成する力に目覚めてしまった彼女は今、この第二拠点本部にいるがあの人のことも心配だ。
「風浦さんにも会いに行く……けど、一緒に連れて行かなきゃならない奴がいる」
「それってヒラルダ? 会わせていいの?」
「先延ばしにしていいわけでもねぇからな」
ヒラルダが怖気づく可能性もあるし、風浦さんに下手に隠しておく方が不誠実だ。
どうなるかは分からないが、避けては通れねぇことなので俺も気合をいれていかないとな。
愛を知らない悲しい戦士……()
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