前話を見ていない方はまずはそちらをー。
今回は久しぶりのハイル視点でお送りいたします。
カツミ君がまたいなくなった時、自分の足場が突然なくなったみたいな……そんな喪失感に襲われた。
記憶を失っていた間、ふと胸の奥で湧き上がっていた正体不明の感情。
彼がいなくなった時とそれが同じだったんだって今更気づいて、どうしようもない気持ちに泣きたくなった。
サニーさんからは、カツミ君は別の次元に飛ばされたって言われても、私なんかじゃ想像もできない場所にいることしか分からなかったから全然安心できなかった。
彼が帰ってきたのは、いなくなってから十日くらいが過ぎた頃。
また大変な目にあったのか、以前とは違う姿に変身して———彼はまた黒騎士として戦っていた。
「……はぁ」
「ハイル、ため息をすると幸せが逃げる」
少し前のことを思い出してため息をついてしまう私に、紫の髪の美女———イレーネさんがそんなことを言ってきた。
星将序列八位という侵略者の上位者がのほほんとした顔で隣を歩いていることにもう疑問すら抱けなくなった自分に苦笑いしながら、私は先を歩くもう一人の自由人に目を向ける。
「新しいゲームなに買おうかなー」
第七位のレアムちゃん。
居候となっているマンションの主であるジェムさんの姉であり、この人も序列上位者らしい。
しかも今のツインテールの金髪の美少女姿は身体があった頃の姿を形どったものというだけで、本来の姿は意思を持ったエネルギー体ということ。
「はぁ……」
イレーネさんは言動とはかけ離れた長身のかっこいい系の美女で、顔の花を形どったタトゥーのような文様は化粧で隠し、黒を基調とした衣服に身を包んでいる。
その一方でレアムちゃんはスウェットというオシャレという概念を消滅させた利便性のみを求めた服装をしており、身バレ防止のためにサングラスをしているだけというもの。
どちらも美人だ。
どちらもすっごい美人なのに、癖が強すぎる。
そして、間に挟まれている私の場違い感がもうすごい。
これは新手の罰ゲームかなにかだろうか?
「サニーさんに頼まれたのは分かるんですけど、どうして二人もついてくるの?」
「「暇だから」」
わぁい、暇で宇宙上位戦力が二人も護衛に来るとか笑えない……。
がっくりと肩を落としながら私は、周りを見渡す。
場所は拠点のマンションからちょっと離れた街道を歩いていて、これからサニーさんに言われたお店に向かっているところ。
「待ち合わせ場所は……えぇと、ここからそう遠くないカフェだね」
「甘いものが飲みたい」
イレーネさん、すごくかっこいい女性の見た目なのに結構な甘党なんだよね……。
味覚が子供みたいというか、キリっとした表情で実は歌のことしか考えていないというか。
「サニーはどうしてあんたに今から会うやつを合わせようとしているの?」
「それは私にも分からないよ。でも、仲良くしてあげてとは聞いてる」
いきなりサニーさんからイリステラ……ステラって人に会ってほしいと言われて、久しぶりに外を歩いているけどなんでその人と会うのか全く分かっていない。
でも悪い人ではないってことだけは証明されているから、特に不安はないけれど……。
「ハイル、あそこの店」
「あ、あれだね。行ってみよう」
街中にあるレトロな雰囲気のあるカフェ。
なんというか、初見だと入るのに躊躇しそうな空気のお店を見つけて近づいていく———そのお店の扉の近くに誰かいることに気づく。
「こ、ここで合ってるのかな? で、でも入りにくいし、間違ったところに入ると怖いし……い、今からサニーに電話しようかな」
なんというか、ものすごく挙動不審だ。
日の光できらきらと光る綺麗な銀髪に緑と青のメッシュが入った儚げな美少女。
目元を隠すほどの前髪でも分かるくらいに美人だと分かる少女に「また美人か」と内心で思う。
「多分あの人かな?」
明らかに普通の人じゃないし、とりあえず声をかけてみる。
「あの」
「ひぇんっ……あっ、すみません! お店のご迷惑でしたよね!! 今どきます!!」
「ステラさんですか?」
「あぇ……あ、そうです私がイリステラです……」
また一癖も二癖もある変わった人だ。
でもサニーさんの言った通り、悪い人ではなさそうなので安心した。
多分、いや絶対地球の人じゃないんだろうけど。
「とりあえず中に入ろう?」
「お仕えさせていただきまする……」
なんか家臣ができてしまった。
人と話すこと自体苦手なのかガッチガチに固まってしまったステラさんを連れて、私たちはカフェに入る。
「……ふーん」
「レアムちゃん、ゲームは後だよ」
「分かってる。我慢できない子供じゃあるまいし」
レアムちゃんがステラさんに意味ありげな視線を向けている。
基本、一部のこと以外周りに興味がない彼女がそんな目をしていることを疑問に思いつつ、席へと移動する。
そのまま軽い注文を済ませた後、ステラさんが弾けるような大きな声を発した。
「あ、ああああ、あのっ、イリステラ! よろしくお願いします! 私の名前は!」
「入れ替わってる入れ替わってる」
これ頭の中でシミュレートして暴発しちゃった感じだ……。
しかも自己紹介二度目だし。
「私は此花灰瑠。えーっと……訳あってサニーさんに保護されてる地球人かな?」
「イレーネだ」
「……レアムよ」
私以外の自己紹介が簡素すぎる……!!
イレーネさんはいつも通りだけど、レアムちゃんはどうしたの? 睨みつけている……ってわけじゃないけど、怪訝そうにステラさんを睨んでいるし。
ほら、仲良くする気配が微塵も感じられない二人に彼女も涙目になってる!!
「え、えーっと、この二人は護衛みたいなものだから気にしなくてもいいからっ。それよりさ、貴女のことを教えてくれない!?」
「っ、はい」
注文した飲み物がテーブルにやってきたところで、私はステラさんがどのような人か聞いてみる。
ステラさん———イリステラという名前の女性は、ついこの前に地球に住み始めたらしい。
大きな目的こそなかったらしいけれど、彼女は絵を書くことが好きらしく今は漫画の練習をしているとのこと。
「漫画を描くのが好きなんだ」
「はい。でも漫画に限ってじゃなくてなにかを描くこと自体が好きなんです。自分で作った物語を読んで楽しんでもらうと嬉しいから」
私の友達に漫画とかアニメとかがものすごく好きだった友達がいる。
カツミ君に度し難い属性をつけていた(一部事実だったけど)変な子だったけど、ステラさんと顔を合わせたら仲良くなれていただろうなぁ。
……今は私のことを忘れちゃっているけど。
「でも私一人だけの視点じゃいい漫画も作れないって最近気づかされたんです」
「今日は見聞を広めるためにここにって感じなんだ」
「はいっ、後はハイルさんと知り合って、できればお友達になれれば……って」
口に出して気づいたのかステラちゃんは慌てて手を横に振る。
「す、すみません。図々しかったですよね」
「ううん。むしろ友達にならない理由はないよ」
なんというか、この子を見ていると守ってあげたくなるというか……滅茶苦茶褒めてあげたいって思いにかられてしまう。
「ありがとうございます! 私、今まで友達がいな……」
ぱぁぁ、と明るい笑顔になったステラさんだが、なにかを思い出したのかハッとした顔になる。
「いえ、今日……ちゃんとできたんです。初めての、友達」
「……そっか。地球で仲良くなった友達?」
「はい。私の書いた漫画にものすごく批評してくれて、でもちゃんといいところを褒めてくれて……でへ、えへへ!」
かわいい。
ぎこちなくではあるが、嬉しそうにはにかむステラちゃんに私もつられて笑顔になる。
「その人は知らないんですけど私にとっても恩人みたいな方なので、そんな人に友達って言われてとても嬉しかったんです」
「恩人なんだ」
「はい! 最初に顔を合わせた瞬間死ぬかと思いましたけど!!」
それは果たして恩人なんだろうか。
結構バイオレンスな人っぽいな……。
「あのさぁ」
密かに疑問に思っていると、今まで無言だったレアムちゃんが口を開いた。
突然声を駆けられたステラさんも面を食らった様子だ。
「な、なんですか……?」
「……あんた、何位?」
なんい? ……まさか、イレーネさんやレアムちゃんのような序列のことを言っているのだろうか。
この子が侵略者のランキングに名を連ねているとは到底思えないけれ———、
「二位、です」
「えっ」
今、二位って言った?
聞き間違いじゃなくて、八位や七位よりも上の順位を言ったの……?
ステラさんの言葉にレアムちゃんは特に驚きもせずに、それどころか納得のいった表情で頷いた。
「……でしょうね。あんた滅茶苦茶強いじゃん。なんでそんな弱弱しいフリしてんの?」
「フリじゃないです……」
え……え?
「レアムちゃん、二位って……」
「こいつ星将序列二位。つまり私とイレーネより強いってことよ」
「ええええ!?」
「ごめんなさい……」
ごめん失礼だけれど、全然そんな風に見えない!!?
むしろ戦いとはかけ離れた一般宇宙人だとばかり……!!
「ふーん……」
「ひぃぃ……」
じろり、と睨みつけるレアムちゃんに怯えるステラさん。
その姿は演技とも思えず、本当に怖がっているように見える。
「私、地球で悪いことはしませんっ。す、するつもりないし、わ、私地球好きですから! 私に、優しくしてくれる人がいますし!!」
ステラさんが涙目で必死に言葉を吐き出す。
その言葉にレアムちゃんは、小さなため息をついた。
「まー、前の二位は嫌いだったし、貴女が新しい二位なら文句ないわ。イレーネも文句ないわよね」
「イリステラ、歌は好きか?」
「文句ないみたいね」
平常運転のイレーネさんを無視してステラさんにそう言い放ったレアムちゃんは、言いたいことを言えたのかストローを加えてぷくぷくとグラスの中で気泡を吹き始める。
そんな彼女に安心して胸を撫でおろしたステラさんだったが、不意になにかを思い出したように彼女は足元から紙袋を持ち上げた。
「あっ、これ……ここに来る前にいただいたんです。お菓子らしいです、どうぞ!」
「え、ありがとう。気にしなくてもよかったのに……」
「さっき言った……と、友達の方が用意してくれたんです」
え、可愛い。
可愛いの大洪水か。
この子の初友達になれなかったことをひたすらに悔やむばかりなんですけれど。
両手で丁寧に渡されたそれを受け取る。
「ハイル、なんのお菓子?」
「いやいや、貰ったものなんだから。……はぁ、ステラちゃん、開けてみてもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
許可をもらってから紙袋の上から中身を覗き込んで———お菓子が包まれている包装とは別に入っているものを見つける。
それは、贈り物としてはあまりにもそぐわない、紙パックのジュース。
一つだけ分かりやすくいれられたそれを思わず手に取った私は、我ながら呆然としながら呟く。
「……フルーツ、ジュース」
贈り物のお菓子に合わせるものとしては不釣り合いな、安価な紙パックのジュース。
だけれど、それは私と彼が学校に通っていた時……ううん、彼が隣の席にいた時に私がいつも飲んでいた好きな飲み物。
彼が私の記憶からいなくなってから、なぜか飲まなくなってしまったソレがどうして紙袋に……と不思議に思って、気づく。
「……っ」
「え、あ、え、ハイルさん?」
「ハイル、あんたどうしたの? 泣いてるの?」
そんなはずがない。
こんな偶然あるはずがない、と思っていても、この不器用な渡し方は彼が隣にいた時と変わっていないものだった。
彼の存在を感じ、思わず浮かんでしまった涙を拭った私は、あたふたとしているステラちゃんに声をかける。
「あの、ステラちゃん」
「はい?」
「これ、くれたのって。さっき言ってた友達?」
「はい、そうです! とっても優しい人なんです!!」
……そっか。
これ以上の確認は必要ないね。
深く聞かなくても、ステラちゃんが誰と友達になったのかちゃんと分かった。
「その人に、ジュースありがとうって伝えておいてね」
「? わ、分かりました!!」
「うん、ありがとう」
なんだかもう、色々な意味でびっくりしちゃって疲れちゃった。
肩から力を抜いて手元のカフェオレを口に含んで———あれ? って思う。
……。
……ん?
「え、ステラちゃんの初めてのトモダチ……?」
いや、待って? カツミ君?
君ってそんなに友達認定甘かったっけ?
今回出たフルーツジュースの下りや、カツミとハイルの関係性を描いた外伝のお話がこちら↓となります。
【外伝】となりの黒騎士くん
https://syosetu.org/novel/244552/
第四話「となりのホムラくん」
https://syosetu.org/novel/244552/4.html
今回の更新は以上となります。