追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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ギャグ回のはずでしたが、なぜかこっちの話に。
ルプスフォーム、三つ目の形態のお披露目ですね!(暗黒微笑)



狡猾さ、恐るべき形態

 最近、侵略者が襲ってくる数が増えたような気がした。

 それに、少しずつ強くなっているとも思える。

 いったい、侵略者はどういう目的で地球を狙っているのか、その目的は依然として理解できないが、それでも俺は戦わなければならなかった。

 そうしなければ、戦うことのできない多くの人が犠牲になってしまうから。

 

kono tikaraha!? nanda nanimono nanoda!?」

3nin gakaridazo!?」

uwaaaaa!?」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 相変わらず何を話しているか分からない宇宙人の一体を、炎の剣で両断させる。

 痩せ細った骸骨のような姿をしたそいつは、炎に包まれ俺の眼前で爆発し、視界は炎に包まれる。

 

CHANGE(チェンジ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)!!』

 

 瞬時にショットブルーに切り替え、青い装甲を纏い水を払いまき散らされた爆炎をかき消した俺は、振り返ると同時に手に出現させたリキッドシューターを、二人目の宇宙人、頭が青い炎に包まれた宇宙人へと向ける。

 

ku kurunaaaaa!!」

「……」

 

 掌から放たれる炎。

 歩いて近づきながら、こちらに迫る前にその全てをエネルギー弾で撃ち落とす。

 ルプスダガーと連結させ、銃剣とさせたそれを腹部に突き刺し、必殺技を発動させる。

 

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) STINGER(スティンガー)!!』

 

ya yame!?」

 

 ダガーを突きさされもがく宇宙人に密着させたリキッドシューターから圧縮されたエネルギー弾が放たれ、その身体を大きく吹き飛ばし―――壁に激突すると同時に、青色の粒子を広げながら消滅する。

 残るは一体。

 バックルのスライドを一度指で弾き、白い装甲のセーブフォームへと戻る。

 

CHANGE(チェンジ) SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!!』

 

 形態変化をさせながらビームらしき攻撃を、リキッドシューターに取りつけたダガーで防御するように弾く。

 

hi!? ki kiiteinai!!」

 

 俺に背を向けどこかに逃げようとする。

 三体目のイカのような上半身を持つ宇宙人。

 逃げるなら、最初から侵略なんかしようとしなければいいものを……!!

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 その手に持ったリキッドシューターを投げ捨て、三度目の必殺技を発動。

 強化された脚力のまま背を向ける宇宙人に向かって大きく跳躍し、必殺の蹴りを放つ。

 

「ハァァ!!」

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

gya——!?」

 

 恐怖に歪んだ顔を見せた奴が振り向いた瞬間、その胴体にエネルギーが纏った蹴りが叩きつけられる。

 衝撃により後ろへ蹴り飛ばされた奴は、空中でビリビリと電撃をまき散らすと地面に落ちる前にその身体を爆発させた。

 

「はぁー」

 

 蹴った反動で後ろに跳ぶように着地した俺は、緊張を解くように軽く息を吐きだす。

 いつまで続くんだ、これは。

 近くに一人でやってきた『ルプスストライカー』に跨りながら、俺はその場を走り出す。

 

「ん?」

 

 今、なにか視線のようなものを感じた気が……。

 

「……気のせいか」

 

 多分、一般人だろう。

 空からの侵略者が現れてから一か月と半月。

 戦いは、終わる気配を見せずそれどころか苛烈さを増していた。

 


 

 

「すみません! 遅れました!」

「おーう。そこまで混んでねぇから大丈夫だぞー」

 

 怪人を倒した後、すぐにバイトへと戻る。

 急いで手を洗いエプロンを着た俺は、いつもの業務を始める。

 

「カツキ君、最近忙しそうだねー」

「ははは、色々ごたついてしまいまして」

 

 常連のお客さんと軽く会話をしながら、テーブルを拭く。

 時間帯的には来る人も決まっているので、自ずと顔見知りも増えてしまう。

 眼鏡をかけたスーツ姿の男性は、穏やかに微笑みながらコーヒーを飲む。

 

「おうおう、こいつは忙しくしてるぜ。バイトを抜け出すこともしばしばだ」

「す、すみません……」

「まったくだ。あーあ、もううちが潰れたらどうしてくれるんだ」

 

 ややオーバーな仕草で肩をすくめるマスター。

 本音で言っている訳でもなく、普通に茶化すように言ってくれている彼に苦笑を返しているとカランカラーン、と扉のベルが鳴り、店に新たなお客さんが入ってくる。

 

「いっらしゃいませー」

 

 入ってきたのは紫色の髪の男性であった。

 長髪の男は、手に紙袋のようなものを持っており、カウンターの席に座った彼は荷物を足元に下ろす。

 彼に水の入ったコップを差しだした俺は、いつものように話しかける。

 

「ご注文が決まりましたらお呼び――」

「いや、まさか君のような人が彼だとは思いもしなかったよ」

「はい? 彼……?」

 

 男がこちらに顔を向け、にやりと笑う。

 

「白騎士、さ」

「ッ!!?」

「場所を移そうじゃないか。ここじゃ、ねえ?」

 

 まさか、こいつも宇宙人なのか……!?

 正体が知られた……!? いや、それ以上にここはマズイ!!

 男に無言で頷いた俺は、シロのいる鞄をこの場に持ってくるついでにマスターに声をかける。

 

「すみません、ちょっとこの人が話があるっていうんでちょっと外に行きます」

「はあ、またかよ。……まあ、それならしょうがねぇか。早めに戻ってこいよー」

「はーい」

 

 平静を装いながら男と一緒に外へ向かう。

 扉に手をかけて外に出ようとしたところで、俺の前に見慣れた白い髪の少女が現れる。

 

「姉さん……!?」

「あ、かっつん。早めにお昼休みとれたからきたんだー。……どこかに行くの?」

「あ、ああ。大丈夫、すぐに戻るから。ハクア姉さんはここで待っていてくれ」

「? うん。分かった」

 

 首を傾げながらも店に足を踏み入れる姉さん。

 余計にここで戦いを起こしてはいけないと思いながら、俺と宇宙人と思われる男はそのまま道を歩いていく。

 

「さて、ここらでいいかな」

「なに、を」

 

 不意に男はなんらかの装置を起動させる。

 瞬間、俺と男を包み込むように暗闇が発生し、次の瞬間にはどことも知れない空間に連れてこられる。

 周囲には、男以外に十人ほどの様々な姿の武装した宇宙人がいる。

 

「彼らは、私の配下の者だ。皆、星将序列200番台の猛者たちだ」

「……お前は、誰だ」

「ははっ、いや、失礼」

 

 紫色の前髪に触れながら、余裕の表情のまま男は自己紹介をする。

 

「私はユルガ、星将序列201位をさせてもらっている者だ」

「……」

 

 星将序列とはなんだ。

 さも、こっちが知っているように序列とか言っているが。

 

「201位? それは低いのか? 高いのか?」

「勿論、高いさ。ああ、言葉が通じていなかったんだな。それは失敬」

 

 まさか今までなんか名乗り上げていたそれも関係しているのか?

 毎回、数字だけ聞こえていたのでなにかと思ったが……。

 

「星将序列というのは、100位からその力の質も、能力も大きく異なっていくんだ。だから、それから下の序列は正直、実力差もほぼないピンキリだ」

 

 つまり101位から下はほぼ変わらないってことか?

 なんで、それを俺に話すのだろうか。

 正直、興味なんてないのだけど。

 

「だから、無条件での序列の押し上げはまさしく破格なことなんだ」

「俺を倒せば、上がるってことなのか?」

「その通り!」

 

 正解、とばかりに指を差すユルガ。

 

「君が昼間倒したのは私の部下だ。星将序列……えぇと忘れたからいいか。まあ、彼らに発信機を仕込んでもらい、君の位置を割り出した。それほど難しい話ではなかったよ」

「……お前らも、そいつらと同じことになるとは思わなかったのか?」

 

 もう聞いていられるか。

 バックルからシロを呼び出し、変身しようとする。

 さっさと倒して、店に戻らなければ―――!

 

「君の働いている場所に爆弾を仕掛けた」

「……は?」

 

 変身を行おうとしていた手が止まる。

 ばく だん?

 

「半径500メートルを焦土にさせるものだ。爆発すれば、その付近にいる命は軽々と消滅するだろうねぇ。あ、これはそのボタンだ!」

 

 おもむろに取り出した緑色のスイッチ。

 手で握るタイプのそれをこれみよがしに見せたユルガは、なんの躊躇もなしにそのボタンを押した。

 

「おっと! 今、間違えて押してしまった! 君の家族も友人も全員なくなってしまったようだ!!」

「……!?」

「ははは、冗談だよ。本物はこっちだ。でも君が抵抗すれば、私は迷いなく押すよ?」

 

 変身をすれば爆発させる。

 あの場にはマスターも姉さんも、他の人達もいる……!

 

「さあ、その物騒なそれを置いて、私達に殺されてくれたまえ。白騎士くん」

 

 大人しく従うしかない。

 バックルへと変えたシロを地面に落とす。

 それと同時に、宇宙人の一人がその拳で俺の腹を殴りつけた。

 

「ぐっ……」

「変身できなきゃ、その程度かァ、おい」

「おいおい、気が早いぞ。ギャダ」

「仲間を殺されてんだ。しっかりといたぶってやらなきゃ気が済まねぇよ!」

 

 そっちから地球に攻めに来ておいて何を言ってんだ……!

 腹を押さえながら立ち上がろうとすると、目の前の宇宙人が牙をのぞかせた歪な笑みを浮かべる。

 

「どちらにしろ、お前達は終わりだってんのにバカな奴だなぁ」

「……!」

 

 姉さんを、失うわけにはいかない。

 たった一人の家族なんだ。

 また、あの時みたいに家族を失うわけにはいかない。

 

「あの、時?」

 

 あの時?

 あの時ってなんだ?

 俺の今の家族は姉さんだけだ。

 それ以上に、誰か、いるはずもない。

 

「———ぁ」

 

 頭が痛い。

 まるで、記憶の奥底をなにかで抉られるような感覚と共に、俺の頭に思い浮かんだのは―――俺の、知らない記憶であった。

 

『なんで あんたが 生きてるのよ』

『おまえが かわりに 死ねば』

 

 目と鼻の先で呪いの言葉を吐きながら息絶える両親。

 先に、父さんが死んだ。

 その次に、助けられるちょっと前に、母さんが死んだ。

 俺に、ありったけの憎悪を叩きつけてきて、死んだ。

 そして、心無い言葉を浴びせるたくさんの誰か。

 奇跡の子とはやし立て、欲しくもない言葉も口にする見ず知らずの誰か。

 

気味の悪い子

気にするな どちらにせよ 追い出すんだ

必要なのは 金だけだ

 

 俺を余所者として受け入れた、二つ目の家族。

 これが、俺の記憶?

 こんなものが、俺の記憶なのか?

 ふざけるな。

 こんなもの、家族でもなんでもない。

 俺の家族は―――、

 

――私の可愛い カツミ

――貴様の姉は いったいどこにいるんだろうなぁ?

 

「……あ、あ……あ」

 

 この記憶に、悪夢の中にハクア姉さんの姿はどこにもいなかった。

 そのことに気付いてしまった俺は、猛烈な悪寒に襲われる。

 殴られた痛み以上に、心が引き裂かれそうになる。

 嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!!

 

「——嘘だ」

 


 

 相手はただのガキだ。

 それも、十数年ぽっちしか生きていないガキ。

 いくらその強さで星将序列の者を倒したとしても、あくまでその心は年相応に弱く、少し弱点を突けば壊れてしまう。

 私の予想通りに、白騎士と呼ばれ浮かれていた奴は無力化した。

 

「……」

「さあ、あとは君を始末して序列を――」

 

 ゆらりと立ち上がった奴の腰に音もなくベルトが装着される。

 

「おいおい、いったい何をして……!」

 

 それに驚く間もなく、ひとりで(・・・・)にバックルが動き出し、ベルトに装着される。

 漆黒に染まったバックルのオオカミの瞳から、黒い煙が溢れだしその身体を包み込む。

 

AXE YELLOW(アックス イエロー)……ジジ……ERROR(エラー)!!

 

 ……ッ!?

 ノイズがかった音声が鳴り響く。

 

WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!!』

 

 危険を周囲に知らしめるかのように、アラートが鳴る。

 それに伴い、周囲の温度が低くなったような、背筋が凍り付くような悪寒に苛まれる。

 

「な、なんだ? なにが起きている!?」

 

 データにない変身。

 それも、明らかに異常さを感じさせるもの。

 

ENDLESS(エンドレス) RAGE(レイジ)!! WEAR(ウェアァ) DEATH(デス) WARRIOR(ウォーリアァ)!!』

 

 黒い煙から現れたのは、漆黒の複眼を闇夜に光らせた、闇の戦士。

 赤い稲妻を纏い、不気味な音声を未だに鳴らしながら、奴の周囲に浮かんだアーマーが空中で歪みながら、装着されていく。

 

EVIL(エビル) BLACK(ブラック)!!  HAZARD(ハザード)FORM(フォーム)!! 』

 

 ゆらりとその場に立っていた奴は、まるで感情を感じさせないような仕草でじろりとこちらに視線を向けた。

 

EAT(イィト) KILL(キル) ALL(オォル)……』

 

 その瞬間、最も近くにいた配下の星将序列243位のギャダの頭が消え失せる。

 悲鳴を上げる暇もないまま崩れ落ちる彼から、黒い戦士へと目を向けると―――奴は軽く掲げた右腕で掴んでいた首だけとなったギャダの頭を、見せつけるように地面へと落とした。

 なにをしたのか理解が及ばない。

 我々の、理解を遥かに超える化物に、この場にいる全員が恐怖に怯えだす。

 

「ハ」

 

 くぐもった声が仮面から響く。

 

「ハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

 なんの感情もない、いや、まるで無理やり感情を引き出したように嗤う黒い戦士を目にし私はようやく気付く。

 私は、目覚めてはいけない何かを、目覚めさせてしまったことに。




悪夢でしかない記憶のみを思い出してしまった彼が目覚めた、善意を失った黒騎士フォーム。
音声もてんこもりにしておきました(親切)

この話を書いた後に、ユルガ君をベガ君の兄弟に設定しておきました(無慈悲)

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