カツミ君が記憶喪失だということは確定した。
きららが彼と共闘し、実際に彼が本物と確かめたことから、記憶を失っていることは分かった。
その話し合いも含めて、私達はいつもの部屋に集まったわけだが、ちょっと話題が逸れて今は別の会話をしていた。
「ま、なんと言われようが私が最初に変身されたことには変わりはないから」
「順番は関係ない。私の方が使用頻度は高いはず」
彼の変身形態のバリエーションはどう見ても私達の武器と属性によるものだ。
それはつまり、彼が記憶を完全に忘れている訳ではないことを意味する。
加えて言うなら、最初に別形態に変化したものが最も印象に残るということでもあるはずだ。
睨み合う私と葵。
我関せずとした様子で、腕を組み目を瞑っているきらら。
そんな混沌とした状況の中、同じ席に座っていた黒い髪の少女は呆れたため息を零した。
「君達、そんなことで張り合って悲しくないのかな?」
ジト目で私達のやり取りを眺めているアルファ。
見れば見るほど同性から見ても美少女な彼女の呟きに、私達は肩をすくめる。
「こういうことでしか、話せないからだよ?」
「他になにを話せるの?」
「ご、ごめんなさい……」
なぜか私達の顔を見て顔を青ざめさせられる。
いったい、どうしたのだろうか? まったく理由が分からないなぁ。
「あのさ、そんなしょーもないことよりも、ずっと重要なことがあるんよ」
すると、腕を組んでいたきららがそんなことを口にする。
「よく言うじゃん。ノー実装イエロー」
「同情するけど、僻みはよくない」
「私、もうイエロー呼びやからね?」
「「……」」
「ねえ、これ本当に大丈夫!? 君達、本当に仲いいのかな!? 驚くほどの空気の重さなんだけど!?」
ものすごくいたたまれない様子を見せる彼女に、さすがにやりすぎたかと思う。
とりあえず剣呑な雰囲気を納め、笑みを交わす。
「まあ、冗談はここまでにして」
「うんうん、私達仲良し」
「そうやねぇ」
一瞬で和やかな空気になった独房内。
アルファは、お人形さんのように端正な顔を疲れさせながらベッドに倒れる。
「うぅ、もうやだよぉ、カツミぃ、会いたいよぉ……」
あざとい。
もう見た目の可愛さと仕草からして、あざとすぎる。
「アルファちゃんって同性に嫌われそうな性格してるよね」
「それって言外に私のこと嫌っているってことにならない?」
「……」
「無言はやめて……?」
笑顔のまま首を傾げる私に声を震わせるアルファ。
嫌いではない。
嫌いではないが、気の抜けない相手でもある。
色々な意味で。
「さて、話の続きやけど……私が言いたいのは、姉のことや」
「「……」」
「カツミ君の姉を名乗る不届き者がいる」
先日、きららがカツミ君本人から聞き出したような
「記憶喪失の彼に刷り込みをさせるなんて……」
「しかも姉を名乗って家族になるなんて……」
「「その手があったか……!」」
「時々、君達の思考の飛躍が恐ろしくなるよ。私ですら、そんなこと考えつかなかったよ……?」
私ときららの呟きにアルファがドン引きした様子を見せる。
しかし、葵はそれほど気にした素振りもなく、掌を前に掲げる。
「いや、私後輩ポジを狙っているから別にって感じ」
「少しも後輩感出してなかったよね……?」
「カツミ先輩は、私の先輩ですから」
「突然、要素出してきたじゃん……このファッション理系……」
今更……? 多分、カツミ君、普通に同級生だと思っているんだけど。
そういえば、最初に普通に話すようには言っていたから時々葵が一つ年下だという事実を忘れてしまう。
「あわよくば、同級生だからいいかなって」
「きらら、この子腹黒いよ!! 私達が卒業した後に狙ってるよ!!」
「うわああああ!? もう三年やぁぁ!?」
「こっちは現実を見てる!?」
「なにこの惨状……」
卒業後の進路やなにやらを想像し頭を抱えるきらら。
実際、ジャスティスクルセイダーとしての活動によって貯金的にはとんでもない額があったりするが、やはり大学には行きたい。
そういう思いがあるが、今の侵略者が来るような状況ではそれも難しいかもしれない。
「ふ、普段、君達。学校とかはどう抜け出しているの?」
「え、チェンジャーで光学迷彩化して、あとは立体投影したホログラムが代わりに授業受けてる」
「大丈夫なのそれ……?」
「余程のことがなければ大丈夫だよ。クラスに協力者がいるし」
もしホログラムがバレそうになってもフォローしてくれるようにしている。
彼女たちの尽力もあって私達はジャスティスクルセイダーとして動けていると言ってもいい。
「あ、私の能力使ったらもっと簡単に授業を抜け出せ――」
「もし認識改変しようとしたら、気絶させるからね?」
「ご、ごめんなさい……」
ものすごい怯えようを見せるアルファ。
そこまで怖いことしたかなぁ。
「気軽に能力を使ったらダメだからね。いくら相手がアルファちゃんを狙っているかどうか分からないといっても、もしもってことがあるからね」
「いや、分かっているよ。ここのことと、ここにいる人たちが悪い人じゃないのは知っているし。信頼してないわけじゃない。でも……」
言い淀んだ彼女が続けて言葉を発する。
「いつになったら、カツミを元に戻してくれるのかなって……」
「……私達も同じ気持ちだよ」
「オメガは、アルファを終わらすための存在でもあるから、彼には私の力が通じない。彼が自分自身から許可を出さない限りは……」
現状で彼の記憶を元に戻す方法は分からない。
無理やり記憶を思い返すようなことをすれば、逆効果であることを社長に言われているために迂闊に刺激することもできない。
それに……今の彼は、明るくて……記憶を戻さないほうがいいなんてことも、ありえるし。
「あのさ……」
「おーぅ、お前ら寂しい青春を送っているようだなー!」
すると力強いノックの後に、社長が独房へと入ってくる。
彼の手には大きめの端末が握られており、彼はそれを操作しアルファに見せる。
「お前の言う通り、先日数時間だけ時空に乱れが生じた。もしかするなら、彼はまたどこかへ連れ去られていたのかもしれない」
「……やっぱり……」
一週間ほど前、またカツミ君の気配が消えてしまったらしい。
気配は数時間ほどすると戻ってきてくれたようだが……またカツミ君は敵の宇宙船に連れていかれてしまったのだろうか?
そう考えるとものすごく不安になってくる。
「この件についてはより入念な調査をしておく」
「分かった」
「もうすぐ侵略者の接近、転移を予測する装置も完成する。色々と思うところもあるだろうが、お前達も耐えるように」
私達が遅れている現状は変わらない。
今は焦らず、ただ待つしかない。
「それとお前達が使うビークルを作ることになった」
「ビークル? 乗り物のことですか?」
「その通り。お前達のエナジーコアで動くものだから、それほど作ること自体は難しくない。カツミ君のバイクと同じようなものだと認識してくれればいい」
彼のアレと同じか。
彼を追うこともそうだが、それがあれば移動も楽になっていいかもしれない。
「まあ、そこまで小型なものではない。いずれはカツミ君のようなバイク型も作れればいいが、現状は無理だ」
「武器は?」
「勿論だ。操縦者であるお前達それぞれに応じた武器を内蔵させる予定だ」
もしもの時は乗り物に乗ったまま奇襲できるということか。
そう考えていると、ふと何かを思い出した社長が顔を上げる。
「ああ、そういえばこの前、部下達を出し抜いて一人で焼肉に行っていた時の話なのだが」
「なにやってんのあんた……?」
「偶然、白川君と会ってな。ハハハ」
白川ちゃんと?
比較的新しく入ったスタッフで、カツミ君の精神的なカウンセリングをしていた子だ。
あの騒動の後に辞めちゃったはずだけど、社長が会っていたのか。
「彼氏連れだったぞ」
「「「「!?」」」」
なぜかアルファまでも驚いているが、まさか白川ちゃんに!?
思いっきり動揺する私達に社長が噴き出すように笑いを堪えた。
「うっそぴょ~ん! 恋愛経験ナシンジャーズが一丁前に危機感を抱いているじゃなーい! ぷっぷぴぃー!!」
「「「……!!」」」
「お、落ち着いて! たしかにむかついたけど、変身するのはやりすぎだって!!」
アルファに感謝するんだね……。
無言のまま座る私達に一瞬で元の調子に戻った社長は肩をすくませる。
「まあ、弟連れではあったがな。意外にもブラコンというやつらしい」
「白川ちゃん弟がいたんやねぇ」
「意外……。プライベートなこと、全然話さなかったけれども」
がばりとベッドから転げ落ちるアルファ。
普段から考えられない驚くほどの機敏さで立ち上がった彼女は、呆然とした様子で何かを呟く。
「は、え? どういうこと?」
「どうしたの? アルファちゃん」
かつてないほどに動揺したアルファが頭を抱える。
いったいどうしたのだろうか?
「ね、ねえ、変態」
「なんだ? あと、いい加減変態呼びはやめてくれないか? この四カ月ずっと変態呼ばわりなんだが」
地味に傷つく社長を無視し、彼女は言葉を続ける。
「し、白川伯阿に弟はいないはずなんじゃないのかな?」
「……なんだと?」
え? 弟がいない?
アルファは白川ちゃんについてなにか知っているのか、と思っていると、つい先ほど話していたことを思い出す。
姉を名乗る謎の人物。
あの騒動の後に退職した白川ちゃん。
「本当に、その弟は、彼女の弟だったの?」
まだ疑惑の段階ですが、シグマも怪しいと思われはじめましたね。
アルファに恐怖を刻みつけたレッド、
後輩ポジを狙うブルー、
密かに姉ポジを狙うイエロー、
そして、ツッコミと化したアルファでした。
もしかすると、今日中にもう一話更新できるかもしれません。