追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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今回はレッド視点となります。


歓迎と新ビークル(レッド視点)

 カツミ君がジャスティスクルセイダーの本部であるKANAZAKIコーポレーションにやってきた。

 今回、彼をここに招いたのは協力の取りつけと、彼の状態を確認するため。

 彼を自分好みに育てようとする度し難いラスボスに彼がどれだけの影響を受けているか、それを確かめるというのも目的の一つだ。

 そうして彼を社に招き、社長のやりすぎな演出により私達が正体を現すはずだった。

 

「で、葵、どういうこと?」

「ここを使った」

 

 トントン、と指で自分の頭を指さす葵。

 そこはかとなくイラっとしながら先を話すように促す。

 

「白騎士の逃走経路をデータで算出し地図に載せる」

「うん」

「人間の思考は根本的なもので本能に固定されるから、追跡を撒こうとする彼の移動ルートから微細な傾向、向かう方向を限定させ、彼がどの方向に向かっているかを確定させる」

 

 全然分からんないんだけど……!

 これ理系なの? 私の知る理系とは全然違うんだけど。

 

「そこから彼が拠点にしているであろう大まかな場所を予測。初めて白騎士が確認された公園付近であることから、その周辺に彼がいると見て、理系ダウジングを行った」

 

「ちょっと待って、いきなり話がオカルトに入ったよね……!? おかしいよね!?」

「それ理系やないやん! オカルトやん!!」

 

「フッ、分からないかな? バーサーカーブラッドグラディエーターイエロー

 

 瞬間、きららの手が葵の頬を掴む。

 驚きに目を見開く葵に私は目を細めながら笑みを浮かべる。

 

「次、その名前を口にしてみろ。私達、貴女になにをするか分からないよ?」

「おう、口に気をつけぇや。いてこますぞ?」

「ふぁーい、ふぃをふゅけまーふ」

 

 社長なら怖気づくが葵は全く堪えた様子はない。

 当然だ、彼女も私達と共に修羅場を潜り抜けた猛者。

 多少の脅し程度でビビる程度ならとっくの昔に死んでいたことだろう。

 

「科学を突き詰めるとオカルトに行きつくものなんだよ?」

「怖い。怖いよ、きらら。この子マジで言っているよ」

「それで実際見つけているあたり怖すぎる……」

 

 何者なんだこの子。

 少し前は理系被れだったのにどうしてこうなった。

 

「それで、カツミ君……あっ、カツミ先輩が働いているバイトに客を装い潜入して、ちゃっかり彼に話し相手もしてもらって親睦を深めて名前を教えて颯爽と帰ったわけだけど」

「やりたい放題じゃん……」

「抜け目がないわ……」

「アルファも彼と同じところで働いてたよ」

 

 ピシリ、と空気が凍る。

 へぇ、アルファがねぇ、いつの間にか白川ちゃんのところに住んで同じところでバイトしているとは。

 

「アカネ、とりあえず社長室に戻らない?」

「そうだね。社長も説明していると思うし、私達の自己紹介もしなきゃね」

 

 葵に出し抜かれたことは業腹極まりないが、今日は大事な日だ。

 しっかりと自己紹介をし、彼との協力関係を盤石なものにしないと。


 

 社長室に戻ると、社長がカツミ君にジャスティスクルセイダーの活動について説明していた。

 ここでは全てを説明することができないので、あくまで簡単にだがそれでも彼は真面目な様子で話を聞いている。

 そんな彼に近づいた私達は改めて自己紹介をする。

 

「はじめまして、私はレッドの新坂朱音。よろしくね、カツキ君!」

「私は天塚きらら、分かっているかもしれへんけど、私が君と一緒に戦ったイエローや」

「昼間に会った私がブルー」

「あ、はじめまして、俺は白川克樹と申します」

 

 彼の口から白川という苗字が飛び出し私達の動きが一瞬止まる。

 私ときららがアルファの背中に隠れている白川ちゃんをじろりと見ると、彼女は顔を青ざめさせながら上擦った声を零す。

 姉を名乗る上に苗字も名乗らせるなんて羨ましいけしからん。

 

「まさか、ジャスティスクルセイダーが俺とそう変わらない年頃の子だとは思いもしなかったよ。新坂さんもとんでもない強さだったし」

「あ、あの時はごめんね……」

 

 あの巨大化怪人を倒した際に起きた悲劇。

 うっかりして血まみれのまま彼にいつもの調子で話しかけるなんて普通じゃなかった。

 後で散々説教されて反省したわけだが、やはり本人には謝らなくてはいけない。

 しかし、カツミ君は驚いた表情を浮かべた後に、柔らかく微笑んだ。

 

「いいんだ。怖かったのは事実だけど、君達のおかげで危険な怪人が倒されたんだ。怖かったけれど、あの攻撃は見事だった。怖かったけれど親し気に話しかけてくれたのも同じ立場として歩み寄ってくれたんだよな。怖かったけど」

「カツキくん……!」

「ねえ、今怖かったって何回言った?」

「四回」

「恐怖刻みつけられとるやん……」

 

 彼の恩情に涙を流しそうになる。

 記憶を失う前とは性格も全然違うけれど、こういう人を気遣う優しさは間違いなく彼のものだ。

 

「俺の方こそ、今まで好き勝手に戦ってすまない」

「ううん、君のおかげで侵略者の被害を未然に防げたんだよ」

 

 登場を予期することのできない侵略者の出現を誰よりも早く察知し対応していたのは他ならない彼だ。

 責める謂れなどあるはずがない。

 

「レッド、感動に打ち震えるのは後にしろ。まずはこの場を移動するぞ」

「どこかに行くんですか?」

「ああ、ジャスティスクルセイダー、真の作戦本部だ。諸君! エレベーターに乗りこめぃ!!」

 

 大仰な素振りでエレベーターを指さす社長。

 彼の言葉に頷いたカツミ君は、白川ちゃんへと振り向いた。

 

「じゃあ、ハクア姉さん、行こうか」

「ヒュ!? う、うん、そ、そぉだねぇ」

 

 白川ちゃんがちらちらとこちらを見ているが私ときららは変わらず笑顔だ。

 にも関わらず、これ以上なく顔を青ざめさせた彼女はカツミ君と共にエレベーターへと向かって行く。

 

「あ、社長。この人数で行くのも無理があるので二回に分けていきましょう」

「そうやねぇ、その方が安全やし」

「安全第一」

 

 私達の突然の提案に社長が首を傾げる。

 

「え? いや、我が社のエレベーターはこの人数程度―――」

「……?」

「分けていこうか! ウン!」

 

 私達の無言の圧力に一瞬で屈した社長。

 

「じゃあ、社長はカツキくんとアルファちゃんと一緒に向かってください」

「あ、ああ」

「その後は私ら三人と、白川ちゃんと一緒に下に向かいますので」

「ヒッ!? か、かっつん! わ、私も一緒に「かーつきっ! 一緒に行こ!」……ぁっ」

「わっ、押すなよ。アルファ」

「私もいるぞ。……私もいるからな?」

 

 そう言って早速エレベーターに乗り込んだカツミ君の姿が社長たちと共に消える。

 アルファは後だ。

 エレベーターの起動する音に絶望の表情を浮かべる彼女の肩に手を置いた私ときららは、ゆっくりと言葉を発する。

 

「ハクアネエサン? その呼び方までは知らなかったなぁ。白川ちゃん」

「さ、ハクア(あね)さん。話、聞かせてもらいましょか?」

「ひんっ……」

「同居生活について後で洗いざらい吐いてもらう」

 

 事情は聞いている。

 彼女の生い立ちを考えればそれもしょうがないと思えるが、やはり話は聞いておかねばならない。


 

 ジャスティスクルセイダーの本部は本社の地下に存在する。

 そこに向かうにはスタッフと私達の持つ専用のカードキーがなければならず、それ以外の社員には存在を秘匿されているのだ。

 白川ちゃんに尋問お話をしながら地下に降りた私達は、エレベーター入り口で待っていたカツミ君達と合流する。

 

「ハクア姉さん、どうした?」

「慣れないエレベーターに酔っちゃったみたい。だ、だだだ大丈夫」

「そうか? ははは、意外と子供っぽいんだな。……その割には、猫みたいに震えているんだけど……」

 

 まだ話は終わっていないが今はこれぐらいでいいだろう。

 そのままエレベーターから移動していると、先頭を歩く社長が不意に声を発する。

 

「カツキ君、君の変身アイテムは持って来ているかね?」

「はい。シロ」

『ガウ!』

 

 彼の持っているカバンからメカじみた小さなオオカミが顔を出す。

 ……ベガに無理やりバックルをつけられた時と同じ変身アイテム、見た目の色こそは変わっているが間違いなくそれは敵が所有していたものだ。

 

「やはり、意識を持っているか。失礼、それ……いいや、その子を私に見せていただいても構わないかな?」

「うーん、シロ大丈夫?」

 

 抱えたシロと呼ばれたメカオオカミと目を合わせるカツキ君。

 なんだかペット感覚に驚くが、ふと私とシロの目が合うと、怯えたような声を上げて大人しくなってしまう。

 

『クゥーン』

「大丈夫みたいです」

「では」

 

 シロを受け取った社長は謎の眼鏡をかけるとぐるりと全体を見回す。

 

「スーツの素体は私の試作品のコピーか。あのアンポンタン共め。適正関係なくこの子を無理やり装着させていたのか? だからこそのゴミ箱(ダスト)か。そりゃキレても無理はない。コアには命があるというのに……なんとも、度し難い連中だ」

『ガゥ』

 

 ぶつぶつと何かを呟いた後に彼はすぐにカツミ君にシロを返した。

 

「後で戦闘記録の方を確認してもいいだろうか? ああ、安心してくれ。下手に手を加えるようなマネはしないさ」

「それなら、いいのですが……」

「信用してくれていい!! なにせ私は社長だからな! 契約も約束も地球も何もかも守り通す男だ!! フハハハ!! さあ、ついてきてくれぇ!!」

 

 いつもよりちょっとだけ増しな笑い声をあげた社長がそのまま通路を進んでいく。

 すると、最初に彼は最近新しく作られた『ビークル整備室』の扉を開ける。

 

「ここがジャスティスクルセイダーの所有する三機のビークルを保管、整備を行う空間だ」

「おおお……かっこいい……!」

「そうだろうそうだろう」

 

 広い空間の中にはそれぞれ赤、青、黄、のビークルが並んでいる。

 私達が巨大化怪人との戦いのために用いる乗り物であり、三タイプの合体形態を持つオーバーテクノロジーの塊みたいな兵器である。

 

「それなのに、そこの実践主義の羅刹共は最初から合体しろなど、声無しで合体させろなどロマンの欠片も持ち合わせない奴らなのだ。それだからムードもなにも分からないKY女子なのだ」

 

 カツミ君の前だぞ私……!

 社長をしばくのは後……!

 衝動を理性で押さえ込む私達だが、その一方でカツミ君の視線は私達のビークルの隣へと向けられる。

 

「こっちはなんですか? この、白色と黒色、二つある乗り物は」

 

 白い大きなアーマーを思わせるビークルと、私達と同じ飛行機型のビークルの二機。

 それらに目を向けた社長は、カツミ君の肩に手を乗せる。

 

「白い方は君のものだ。……まだ調整が済んではいないがな」

「え?」

「ホワイト5。君のバイクと合わせることで真価を発揮するビークルだ」

「あの、黒いのは……」

「あれも君のではあるが……今は、違う」

 

 社長はカツミ君へと向き合う。

 

「元々、我々は君と協力関係を結ぶつもりであった。君はジャスティスクルセイダーと同じく、人類、否、地球という星の希望であるのだ」

「そんな、大袈裟な……」

「大袈裟なものか。……いやマジで

 

 思わず口調を崩す社長にカツミ君は困惑する。

 ここでボロが出ると、またカツミ君が記憶操作をされてしまうので、それとなく先へ向かうように促そう。

 

「社長、先に行きませんか?」

「あ、ああ、そうだな。その通りだ。ブリーフィングルームに移動しよう。まずはそこで話でもしよう」

「は、はい」

 

 これからブリーフィングルームで正式に彼に協力を結ぶ。

 そうなれば、連携も取りやすくなるし、協力して侵略者を倒すこともできるようになる。

 その場を移動し、廊下へ向かう。

 その最中、私の視界でカツミ君の持つ鞄からシロがどこかへ飛び出すのを目撃する。

 

「ん? どうしたの? アカネ」

「アルファちゃん、今シロがどこかに行かなかった?」

「見てないけど……どこかに行ったの?」

「かっつんが呼べば来ると思うよ?」

 

 それもそうかな?

 彼の変身するためのアイテムでもあるし、彼が呼べばすぐに駆け付けるだろう。

 特に気にせずに部屋を後にし、廊下へと出る。

 

「さて、次に向かうブリーフィングルームでは君のために用意したカードキーと連絡用の端末を……どうした? カツキ君?」

「……ッ」

 

 廊下を出ると同時にカツミ君が右手で頭を押さえる。

 すぐさま彼に白川ちゃんが駆け寄ると、彼女は焦った様子で私達を見る。

 

「これから侵略者が来るって! それもたくさんらしい!!」

「ええい、昨日の今日だぞ!! ジャスティスクルセイダー出撃準備!! カツキ君は……!」

「俺も、現場に向かいます! 先導しますからついてきてください!」

「ならば、白川君とアルファは彼を地上へと案内してくれ!」

 

 なぜか先ほどいたビークルの保管庫から飛び出してきたシロを手に取り、走り出すカツミ君達。

 私達も瞬時に思考を切り替え、ビークルのある部屋へと戻り、出撃の準備を行う!!

 私ときららが、それぞれのビークルに飛び乗ると葵が何かに気付く。

 

「……あ」

「どうしたの? 葵?」

「なくなってる……」

「なくなってるってなにが?」

 

 青いビークル『ブルー2』に乗り込んだ葵の指さした方向を見て私もきららも言葉を失う。

 

「おい、どうした! 早く出撃しろ! 敵は待ってはくれないぞ!!」

「社長……あの、カツミ君に作ったビークルが……」

「あれはまだ調整中でまだ動かせ―――って、ない!? 二機とも!?」

 

 つい先ほどまで存在していた白いアーマー型のビークルと黒い飛行機型のビークルの二つが、どういうわけか消えてしまっていたのだ。

 あ、もしかしてカツミ君のシロが食べちゃった……とか?

 

「NOOOOOO!?」

 

「と、とにかく出動するよ!」

「そ、そうやね!」

「出撃ー」

 

 変身を行いながら私達は、そのままドッグから地下を通ってそれぞれ別の場所から地上へと飛び出すのであった。

 

 




|M0)シロ「その白と黒のビークルは…俺が飲み込んだ」

ジャスティスクルセイダーは皆仲良しです。
次回、ちょっと特殊な侵略者が来るかもです。

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