今回は主人公視点となります。
本格的な夏となって、蒸し暑くなってきた頃。
バイトが休みの俺はアルファと一緒に、姉さんのいるKANEZAKIコーポレーションへと足を運んでいた。
「今日はお前達に重大なミッションがある!!」
その際に、俺はレイマに呼び出されブリーフィングルームへと呼び出された。
俺以外にその場にいるのはきららだけしかおらず、葵もアカネもその場にはいない。
「……他のメンツはどうした!?」
「アカネは夏期講習。葵は後で遅れてくるらしい」
「お前らのヒーロー意識の低さにびっくりだわ!! このナインジャーめが!!」
きららの言葉に威勢よく叫んだレイマは次に俺の方を見る。
「カツキ君、さっきアルファも来ていたはずだが……」
「えーっと、アルファは軽い熱中症になってしまったようで……今はハクア姉さんのところに……」
『うぅ、あたまいたいー』
『アルファ、貧弱だなー』
『プロトうるさい……』
『ちゃんと寝てなよー、もう』
この炎天下に慣れていなかったようだ。
今は姉さんのいる医務室で横になっているようだから、後で向かってあげなくては。
「う、うぅむ。それでは仕方ないな……」
「ちょっと私とカツキ君の扱い違すぎひん……!?」
「シャァラップ! ……まあ、二人いれば十分、むしろ好都合か」
するとテーブルに腰かけたレイマが顔の前で指を組む。
深刻そうな雰囲気を醸し出した彼は、そのまま言葉を発する。
「大森君の様子が変なのだ」
「「変?」」
大森さんが? なんで?
首を傾げる俺ときららに、レイマが頷く。
「なんというべきか、最近は仕事が出来すぎているというか……前は、仕事のできる変人だったのに、今では仕事のできるキャリアウーマンな部分も出てきているというか……」
「めっちゃ失礼すぎひん?」
「さすがに大森さんが可哀そうなような……」
社長から見てそんなにおかしいのか?
「なので、君達には大森君の異変の謎を調べてほしい!!」
「いや、社長が調べればええやん」
「俺は避けられているからな。何故か」
「嫌われとるやん」
「俺は嫌われてない!!!」
「いや、必死か」
大森さんに異変か……でも確かに心当たりはないこともない……。
「二日前、大森さんからお菓子の差し入れをいただきましたけど……あと、ついでに連絡先も交換しました」
「まだ貢いでんのかあの特オタァ!!」
「レイマ!?」
「カツキ君、知らない人から食べ物もらったらダメだって言われてるやん」
「大森さんって言ったよな俺!?」
その場でテーブルを叩くレイマに、さも当然のようにおかしなことを言いだすきらら。
いったい二人ともどうした!?
夏の暑さに参っているのか!?
「午後に改めてお礼を言いに向かったんですけど、なんか大森さんちょっと機嫌が悪くなっていたんですよね」
「大森君はいつも機嫌が悪いぞ?」
「社長の前では、の間違いやん」
「大人が泣く姿を見せてやろうか? 見るに堪えんぞ?」
睨み合う社長ときららの仲裁をしつつ、話を続ける。
「その後、休憩時間でいただいたお菓子を一緒に食べたらすぐに機嫌もよくなって……もしかしたら、日常生活に悩みとかを抱えているとか、そういうものかもしれません」
大森さんは、俺がここに来た時から親切にしてくれている人だからな。
レイマの頼みだから、というわけではなく純粋に力になってあげたい思いもある。
「とりあえず、彼氏ができたという事実はないことは確実だな」
「え、いや、どうしてですか?」
「君は……知らなくてもいいことだ」
なんか諭されてしまった。
とにかく、俺ときららは今日、大森さんの異変を調べることになってしまった。
一日や二日で分かるとは全く思えないんだけど、そこらへんはレイマも分かっているのだろうか?
あの後、俺ときららはブリーフィングルームから出て、大森さんと他のスタッフたちのいる研究室へと足を運んでみた。
大森さんは暫し席を外しているようなので、まずは研究室内にいる数人のスタッフから話を聞いてみることにした。
『大森? ああ、最近ちょっと変わったよな。なんというか、最近元気というか』
『仕事中に、菓子のつまみ食いをすることが多くなった』
『同じ仕事量してるのに、大森だけいやに平気そうなんだよなぁ』
『まあ、仕事にはなにも問題はないし、別に気にしなくてもいいと思います』
やはり他のスタッフたちも大森さんの変化に気付いているようだ。
次の人に話を聞きながら、俺はメモに話の内容を書き綴る。
「最近の彼女ねぇ。なんだか二重人格みたいに性格が変わっているのよねぇ」
「二重人格? 具体的にはどのような感じで?」
「いつもの大森と、なんかいやに静かでクールな感じの大森って感じ。あと普段は小食なのに、前に一緒にカフェにいったら、もうどんどん頼んでびっくりしたわー」
成長期かしらねー、とぽやぽやした様子で呟くスタッフさんに頷く。
ふむ、二重人格疑惑か。
……もしや侵略者の魔の手が……?
いや、それならもう既に動き出していてもおかしくないはずだ。
「それはそうとカツキ君、今公式の白騎士くんグッズの商品展開に関わっているのだけど、それについて話をさせて――」
「え?」
「今忙しいので、その話は後にしてくださいねー」
首を傾げるときららに腕を引かれ、その場から移動させられる。
いったい、どうしたんだ……?
「商品展開ってどういうこと?」
「グッズというものはね、カツキ君。誰でも欲しがるものなんよ……」
「そうなのか……むっ!」
研究室に入ってくる影にいち早く気付いた俺は、きららの手を軽く引いて、近くのテーブルの影へと隠れる。
「ど、どどど、どうしたの!?」
「シッ、大森さんが来た。静かに」
なぜかすごくビックリしているきららから、入ってきた大森さんへと視線を戻す。
欠伸を噛み殺した彼女は、眠そうな様子でデスクへつき、作業を始める。
「真面目に仕事してる……」
「そうだな……」
その様子を影から覗き見る。
彼女は真面目にパソコンと向かい合っており、なにもおかしな様子はない。
「こういうのってスパイ映画みたいでワクワクするな……!!」
「なんのスパイ映画なん?」
「スパイキッズ」
「予想の斜め上すぎるわ……!? 私達生まれてないよ……!?」
楽しい映画だったな……!
後ろから伺う限り、大森さんは真面目に仕事をしているだけだ。
「なんか、異常はなさそうだな。というより、今俺達がしていることが異常なのでは?」
「……そうかも」
レイマに頼まれているとはいえ身内とも言える大森さんを調べることになるとは……。
彼も大森さんのことを心配しているのだろうか?
……ん?
「なんかしきりに時間を気にしているな」
「そわそわもしてるなぁ」
ちらちらとデスクの上に置かれた時計を目にしている。
途端に作業に集中できていないのか、挙動不審になる大森さんに首を傾げていると、彼女の前に置かれた時計がピピピ、と小さなアラームを鳴らす。
いや、正確にはアラームが鳴った瞬間に、それを止めた大森さんがカバンから何かを取り出し、華奢な見た目からは想像もできない挙動で席を立ち、どこかへ向かっていった。
「え、大森さん!?」
「どこ行くん!?」
突然の行動に驚く俺ときららに、近くに座っているスタッフが声をかけてくる。
「昼だからだよ。なんか最近、昼になるとものすごい早さで飯食いに行くんだ」
「そういえば、お昼時……」
「お昼ご飯食べにいったんか……」
そこまでお腹が空いていたのだろうか?
……なんだか、俺の知る大森さんとは本当に印象が違うな。
もうちょっと調べてみるべきと判断した俺は、きららと共に大森さんを追う。
「いや、待って大森さん歩くのめっちゃ早ない!?」
「み、見失うな!」
すれ違う人を減速もせずに避けて歩く大森さんを小走りで追いかけるが、その差は狭まることはない。
どれだけの速さかは知らないが、あそこまで急ぐなんてどれだけお腹が空いていたのだろうか。
「み、見失ったわ……」
ついには上階の社員食堂にまでやってきたわけだが、彼女の姿を見失ってしまった。
とりあえず、人が混みだす前に二階のテラスへ移動し、そこから一階の食堂テーブルを眺めながら大森さんを探すことにしたが……あっ!
「きらら、あそこにいたぞ!」
「あ、本当だ! お弁当広げてる!!」
二階のテラスから一階の食堂のテーブルに座っている大森さんの姿を見つける。
なにやら、目立たない場所で食べるようだが……ん? 食堂で頼まないで弁当箱を取り出した……?
「ほう、駅前の弁当屋“鈴峰”の毎20食限定の夏の彩り尽くし弁当ですか……」
「「ん!?」」
俺ときららの隣からの声。
驚きながら振り返ると、そこには菓子パンと牛乳を両手に持った葵が口元をもぐもぐさせながら、下を覗き込んでいた。
「まさか、あれを入手できる者がいたなんて……大森さんも、中々の曲者」
「葵、あんたいつここに……?」
「ん、ついさっき」
ものすごい自然に溶け込んでたな……。
その菓子パンとパックの牛乳は自前に買ってきたものだろうか?
「きらら、どうしてこんな面白いミッションに私を呼ばなかった?」
「いや、遅れてきたのあんたや。てかどこいってたんや」
「暑かったので朝10時までクーラー効かせた部屋で重役睡眠かまして、カツキ君のカフェに行って来たけど休みだったので、来てやったのだ」
え、サーサナスに行ったのか?
それは悪いことをしたな。
「あ、ごめん。言ってなかったな、今日マスターが私用で休みになってたんだよ」
「ううん、全然気にしてない。……きらら、この埋め合わせはきっちりしてもらうぜ」
「あんた、今日こそしばいたろかぁッ!」
「お、おおおお、落ち着け!! その手に持った椅子をどうするつもりだ!?」
二階のテラスに置いてある椅子を軽々と持ち上げるきららを羽交い絞めにして止める。
嘘だろ!? この子、力つっっよ!?
「騒ぎを起こしたら大森さんに気付かれちゃうからダメだって!?」
「フゥー! フゥ―!! フゥ―!!」
「謝るから、これで落ち着いて」
するとどこからともなく取り出したもう一つの菓子パンの袋を開けた葵が、怒りを鎮めているきららの口にパンを押し込んだ。
「むぐぐ……」
「さて、大森さんはどうしているかなって……」
スマホを取り出し、カメラのズーム機能を用いて大森さんの様子を伺う葵。
きららは、不貞腐れたようにもぐもぐとパンを食べており、俺はなんだかドッと疲れた気分になりながら、改めて自分たちの状況を考えて、肩を落とす。
「ふむふむ、大森さんは米とおかずを計画的に食べるタイプと見た。今、大森さんの頭の中に浮かんでいるのは、どのようにご飯とおかずを効率よく合わせて食べるかという思考に他ならない……」
「いるんか、その情報?」
「普段の大森さんはそこまで几帳面じゃない」
「社長もそうだけど、あんたら大森さんに対して失礼すぎやろ……!!」
ここまで言われる大森さんとは……?
普通にいい人だと思うんだけどなぁ。
……いっそのこと、普通に話してみればいいのでは?
こんな隠れて探るようなことしなくても大森さんなら教えてくれるだろうし。
そうと決まれば、ポケットから取り出したスマホで大森さんへの電話を試みる。
「昼ごはん中に申し訳ないけど……」
コール音の後に、すぐに電話に出る音が鳴る。
『はい、もしもし! 大森です!!』
「ああ、大森さんですか? すみません、お昼時に」
『あ、あ、いえ! まだ食べていないので大丈夫ですよ! カツキ君!!』
明るい声で出てくれた大森さんとの会話を試みる。
『電話をかけてくれるなんて珍しいですね……!』
「いえ、最近大森さんの様子がおかしいと聞きまして、レイマも気にしているようですし、何かあったんですか?」
『あー、いえ! 特に心配はいりませんよ! 私は私のままですから!!』
やはり心配は杞憂だったようだ。
口ぶりからして様子がおかしいということも自覚しているようだし、このことをレイマに伝えて今回のミッションはしゅうりょ――、
「……エっ?」
『どうしましたか?』
スマホを耳に当てながら欄干によりかかり、一階にいる大森さんのいる席を見下ろして、言葉を失う。
「電話をして……ない?」
『いえ、していますけど?』
今話しているけど、下にいる大森さんは電話すらせずに黙々と弁当を食べている。
にこやかにすら、話していない。
「……」
『あ、あれぇ? カツキくーん? おーい?』
誰だ。
この電話の先にいるのは誰だ?
それとも下にいる大森さんは誰だ?
「あ、あはは、すみません……後で伺います……」
『あ、はい』
声を震わすのを耐えながら電話を切る。
「そ、そっかぁ……今は夏なのか……夏、なんだよな……」
いるはずのないもう一人の大森さん。
レイマの疑問も、これまでのちぐはぐな証言も全てが繋がった。
「二人とも!!」
「ひゃ!?」
「ん?」
俺の声に下を伺っていた二人が驚きながらこちらを見る。
こ、こここ、これはアカンやつだ……!!
「これ以上、このことに関わるのはやめよう……!!」
「ど、どうしたんや!? 顔、真っ青やけど!?」
こ、これは言っていいのか?
言った時点でたたり的なのが来ないとは限らない。
どう口にしていいか混乱していると、きららと葵の手首に巻かれているジャスティスチェンジャーに光が点滅する。
「よっしゃぁ! 侵略者をぶっ倒しに行くぞ……!!」
「いつになくやる気や……?」
「なにがあったの……?」
侵略者の出現に、ここぞとばかりにその場を走り出す。
伝えるならば、レイマに言うべきだな……!!
少し様子を見て、俺の身に何も起こらなければレイマに相談しよう!!
侵略者の出現を察知してすぐに俺達は、それぞれの変身を済ませた後にビークルに乗り空を駆ける。
『今回の侵略者は三体!! どうやら徒党を組んできているようだ!!』
「「了解!」」
「ああ!」
今回は三体……?
今まで複数体の時もあったが、序列持ち三体となれば中々に厄介なことになりそうだ。
とりあえず大森さんのことを忘れて、これからの戦いに集中しよう。
そう考えていると、俺達の元に夏期講習で離れていたレッドが合流する。
「レッド、合流したよ!」
「やっとか赤点レッド」
「遅いでー」
「赤点じゃないよ!? これでも成績は良い方だよ!? それより、今回の敵は三体なの?」
「どうやら、そのようだ!!」
目的地に向かいながら情報共有を済ませる。
被害が出る前に倒す!
いつものように気合を込めて、前方へ加速しようとしたその時――バックルのシロが俺に警告を促す反応が頭に届く。
その瞬間、側方から透明な何かが俺のバイクに激突する。
「ぐぁ!?」
激突した何かはそのまま俺の乗っているバイクごと、真っすぐに突き進む。
四体目の侵略者か!? それにこいつは……。
「あの時の青い奴!?」
「……」
俺と似たバイクのようなビークルに乗っている青い戦士、星将序列67位のコスモってやつか!?
このまま、どこかへ連れていかれると判断した俺は、追ってこようとしてくれるレッド達に声を張り上げる。
「こいつは俺に任せて、レッド達は他の怪人を!!」
「……ッ! 分かった!!」
レッド達が先に向かったことを確認し、俺はバイクにブレーキをかけ、無理やり体当たりをかましてきたそいつから距離を取る。
依然として青い戦士は俺と同じ空を飛ぶバイクで追ってくる。
「ッ、なんだ! お前は!!」
『
「お前の相手は、このボクだ!」
『
俺は刃のついた弓を、相手は青色の銃と剣が一体化した武器を取り出し、バイクの上で斬り合い、射撃を交わす。
火花が散り、エネルギー弾が飛ばされ、それを切り払う。
パワーはブレイクフォームと互角……いや、あっちの方が少し高いくらいか!
「ハァァ!!」
『
「ッ」
いきなり必殺技だと……!!
バックルを手で押し込み、必殺技を起動させ始めた奴に会わせて俺もバックルを叩く。
「ならこっちもだ!!」
『
コスモの足には青色の炎のようなオーラが、俺の右足には黄金色の光が纏われる。
亜音速のまま空を駆けた俺達は、そのまま一旦大きく距離を取った後に――バイク同士向かい合うよう突っ込みながら、加速する。
「お前は、一体俺になんの用なんだよ……!!」
このまま何もしなければ衝突する。
漠然とそんなことを考えながらもさらに加速し続け、距離が狭まると同時にバイクから跳躍し、蹴りの態勢に移る。
しかし、それは相手も同じであった。
「白騎士ィィィ!!」
『
「ハァァァ!!」
『
『
空中で激突した蹴りが、稲妻のような轟音を立てる。
蹴りを撃ちあいながら、光が溢れだす。
その光景を間近で目撃した俺は、この相手がこれまでとは明らかに異なる“敵”であることを予感せずにはいられなかった。
カツキ君、ホラー体験ををする。
そして、早速コスモちゃんの襲来となりました。