追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。
主人公視点となります。


カツミ、未知との遭遇

 天塚家になし崩し的に居候させてもらうことになってしまった。

 さすがにお世話になるのは悪いとは思ったのだが、思いのほか天塚家の両親の押しが強く、なによりななかと、弟のコウタが引き留めるので頷いてしまったわけだ。

 家族に苦手意識を持っていた自分がすんなりと頷いてしまったことに、正直自分でも驚いた。

 いつもの俺なら断るはずだったのに。

 もしかして、この三年間の空白の記憶の中で俺は変わることができたのだろうか?

 自分の意識と、無意識の乖離を不思議に思いながら、俺はまた天塚家で朝を迎えることになった。

 

「……なにやってんだか、俺は……」

 

 強い要望もあって俺はコウタの部屋に布団を敷いてもらい、寝かせてもらっているわけだが未だに慣れない。

 朝の6時に目を覚まし身体を起こした俺は額を手で押さえながら、頭の中に思い浮かんでは消えていく記憶の断片を整理する。

 

「きらら、か」

 

 天塚きらら。

 俺は彼女を知っていた。

 どうして知っているのかは分からないが、悪い人間ではない。

 むしろ近しい、友人のような親近感を抱かせることに、最初は戸惑いを覚えた。

 

「はぁぁ……」

『カツミ、おはようっ!』

「ああ、おはよう。プロト」

 

 いつの間にか喋るようになっていたプロトに返事を返しながら、プロトチェンジャーを手首につけ布団をたたんだ後に立ち上がる。

 

「ガウ!」

「ん? ああ、起こしにきてくれたのか」

 

 すると、足元から白いオオカミが鳴く。

 先日、きららがどこからか持ってきた喋るオオカミの玩具。

 シロと呼ばれたそいつは、俺を見上げるともう一度呼ぶように吠えてくる。

 

「ガウ! ガウガウ!」

「あまり騒がないでくれないか? コウタが起きるから」

「クゥーン……」

「いや、落ち込むなよ……」

 

 本当にリアルな反応を返してくれるな。

 昨今の玩具はこんなにすごいのか……。

 すると、寝ぼけたコウタが布団から手を伸ばして、シロを掴むとそのまま抱き寄せる。

 

「が、ガウ!? ガーウ!」

「……微笑ましいな」

『ゴメンね、シロ……』

 

 とりあえず、俺はそろそろ起きるか。

 わちゃわちゃと動くシロに静かにするように言ってから俺はリビングへと移動する。

 

「おはようございます。コヨミさん」

 

 エプロンを着て朝食と弁当を作っている女性、コヨミさん。

 きらら達の母親であり、驚くほどあっさりと俺たちの居候を認めてくれた人でもある。

 

「あら、おはよう、カツミ君。いつも早いわねぇ」

「最近はよく眠れているので」

 

 ……いつも見ていた悪夢も、ぴたりと見なくなったしな。

 これも記憶を失う前の俺が関係しているのだろうか。

 まだきらら達を起こす時間ではないので、コヨミさんに促され朝食の席へと座る。

 

「む、おはよう。カツミ君」

「おはようございます。今日は早いですね。オウマさん」

「全く、前に言っただろう……」

 

 軽くため息をついた天塚家の亭主、オウマさんは新聞を折りたたむ。

 

「——お義父さんでいいと」

「さすがに飛躍しすぎでは……?」

 

 初対面からそう呼ぶように言われているがさすがに気恥ずかしいものがある。

 何よりその時はきららが思いっきり、オウマさんの背中をどつくという衝撃的な光景を見てしまった。

 

「時にカツミ君」

「はい?」

「男とは常に選択を強いられる生き物だ」

「はぁ……」

「しかし、選べない選択というものが人生に一度……いや、結構あることもある」

「結構あるんですね……」

 

 突然なんの話だろうか?

 すごく低い声で話すもんだから大事な話だと錯覚してしまう。

 

「そういう時はな、逆に考えるんだ。……全部選んじゃってもいいんだと」

「いや、普通に駄目だと思うんですけど」

「私は許そう」

「何を……?」

 

 謎の許可を得てしまったことに困惑しかない。

 天塚家に住む家族はちょっと変わり者揃いだ。

 しかし、その空気に妙になじんでしまったことを自覚しながら、俺はきらら達を起こしに二階へ上がるのだった。

 

 

 

 きらら達が学校に向かった後、俺とアルファは一週間ぶりに外へ出ることになった。

 極力アルファの認識改編を使わないようにするためにフードを被って家を出ようとすると———、

 

『そんな変装で外にいくなんて駄目じゃない……! 二人とも、服貸してあげるからそれを着なさい……!』

 

 と、まあコヨミさんに半ば強引に服を貸してもらい着ることになってしまった。

 俺の服はオウマさんの、アルファの服はきららから貸してもらったものだ。

 

「きららの服、大きい」

「薄目で見ると男っぽいな」

 

 大きめのトレーナーに、長い黒髪まとめてその上から帽子をかぶったアルファは、前ポケットに手を差し込みながらやや不満げな声を上げる。

 こういうのを何というのか? ボーイッシュとでも言うのかな?

 

「そういうカツミは女装させられそうだったね……」

「ウィッグを持ってこられたあたりで嫌な予感がしてたからな」

 

 ハロウィン用とか言ってたけど、なぜウィッグなんてものがあるんだ。

 俺、どう取り繕っても男なのに女装なんてしたら余計に悪目立ちしてしまうじゃん……。

 なんとか説得してオウマさんの服を借りることで落ち着いたけれども。

 

「で、アルファ、出かけるっつったってどこに行くんだよ」

「サーサナスっていう喫茶店だよ」

「喫茶店? なんで?」

 

 こいつ喫茶店になんか行く趣味あったのか?

 どこにいくにもとことこついてくるだけで、そういう店とか行かないばかりだと思っていたんだが。

 

「記憶喪失になってたカツミがバイトしてたところ。少し前に認識改編をしてカツミがそこで働いてる認識を変えておいたの」

「……じゃあ、雇ってくれた人も俺のこと忘れてるんじゃないか?」

「ううん。その人の記憶は改変してないから大丈夫」

 

 ……ということは、それなりに俺の事情を知っていたってことか?

 アルファも信頼しているようだし、ちょっと気になるな。

 

「俺はどんな風に働いてた」

「笑顔、人当たりのいい好青年、スマイル」

「……」

 

 それはきっと俺じゃねぇ……!

 しかし記憶の中ではそれっぽい記憶もあるのは事実。

 というより、料理すらも作っていたことに自分で驚いたわ。

 

 電車を乗り継ぎ、その喫茶店があると思われる街に移動する。

 そのままアルファについていき喫茶店のある場所へと向かうが……変装の甲斐あってかまだバレていないようだ。

 

「あ、カツミ、あそこだよっ」

「……やってるな」

 

 普通に営業してる。

 俺のせいで閉まっていたなんてことになっていなくてよかった。

 

「とりあえず入ってみよう」

「お、おう」

 

 アルファに促されるままに喫茶店の扉を開き、中に入る。

 イメージとしては明るいバーといった感じだろうか?

 窓際に二人用のテーブルがいくつも並び、ほのかなコーヒーの香りが漂ってくる落ち着いた雰囲気の店だ。

 

「ここがそうなのか?」

「うん。変わってなくて安心したよ。マスターもいるはずだけど……」

 

 すると、厨房と思わしき扉が開かれ小走りで誰かがこちらに駆け寄ってくる。

 真ん中にライオンの柄が描かれたエプロンを着た“少女”は俺とアルファの前で立ち止まると———、

 

「いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!!」

「「……」」

 

 ものすごいぎこちない笑みを浮かべて俺たちを出迎えた。

 ぴしり、とウェイターと思わしき少女が固まり、妙な沈黙が店の中を支配する。

 緑色の髪の変わった子だな。

 まさか、俺の記憶がないこの三年の間にファッションとかそういうブームに大きな変化が生じているのか……?

 

「ハッ!? お、おおお、お前……!?」

「ん? 俺?」

 

 我に返った少女が俺を指さしながらわなわなと震える。

 もしかして変装を見破られたのか……?

 

「う、うわああああ!?」

 

 そのまま赤くなった顔を抑え、少女はそのまま店の奥の方へ引っ込んでいってしまった。

 

「……あれがマスター?」

「違うけど、新しく雇った子かな? マスターは男の人だよ。多分、カツミも知ってる人」

「俺?」

 

 自慢ではないが俺の交友関係は限りなく狭い。

 学校でも基本話す相手が隣の席の此花(このはな)しかいなかったからな。

 

「おいおい、客目の前にしてあいつどこに行ってんだよまったく……って、んん?」

 

 気だるそうな様子で出てきたのは30代ほどの男。

 バーテンダーのような黒と白の服を着た男は、こちらを見ると目を丸くさせる。

 俺は、その男が誰なのか知っていた。

 

「新藤さん? ここでなにやってるんですか?」

 

 マグマ怪人と一緒に戦った自衛隊の人たちの一人。

 最後、ヘリに乗っていた彼がどうして喫茶店のマスターを……?

 

「……やっぱ記憶が戻ってんのか。つーか、それはこっちのセリフだ」

「え、俺ってここでバイトしていたんですか?」

「まあ、そうだな。……とりあえず座ったらどうだ?」

 

 知り合いって言ってたけど、まさかこの人だとは思いもしなかった。

 新藤さんに促されるままに席に座ると、彼は俺たちにコーヒーを差し出してくれる。

 

「あの子はどうしたの? 新しく雇ったの?」

「あー……そう、だな。お前らがいなくなったんで雇ったんだよ。まあ、さっきの様を見ればまだまだなのは分かるが」

 

 俺の顔を見るなり逃げるってある意味ショックだよな……。

 

「あいつのことは気にしなくていい。それよりお前、記憶はどこまで思い出してんだ?」

「俺が白川克樹だった頃のことは全く」

「記憶喪失になって思い出したと思ったら、また記憶喪失か。難儀な人生を送ってんなぁ、お前も」

 

 もしかして俺だって知っていて雇ってくれていたのか

 でも正体は明かしていないし、もしかしてアルファが?

 

「んで、白川には会ったのか?」

「白川? 俺?」

「いや、お前の姉だよ。まあ、義理ってのは知っているが……」

 

 記憶の中にいる姉のことか。

 記憶を失っていた俺の姉を名乗っていたことには別に怒ってはいないが……俺の中で会うべきだって思いもある。

 

「アルファ、場所は知ってるか?」

「知ってるけど……」

「じゃあ、近いうちに会いに行くか。お腹を空かせていないか心配だから……ッ」

 

 また自然に口が動いた。

 こういう自分でもよく分からない言葉が気持ち悪い。

 

「ま、お前らのことは誰にも言わねぇよ」

「ありがとうございます」

「おう、ついでに飯も食っていけ。金はいらねぇからよ」

「え、でも……」

 

 さすがにそれは悪いと口にしようとすると、新藤さんは手を軽く振る。

 

「俺たちはお前に恩があるからな。気にすんな」

「新藤さん……」

 

 厨房のある部屋へと入っていく彼を見送り、自分の手を見つめる。

 未だに俺の記憶はばらばらのままだ。

 名前も分からないやつもいるし、見覚えのない怪人を倒している記憶もある。

 

「完全に思い出してぇが……」

 

 それを思い出したら俺はいったいどうなってしまうのだろうか。

 白川克樹としての記憶と、穂村克己としての記憶を思い出して、何も起こらないはずがない。

 

「はぁ……。……ッ!」

「どうしたの? カツミ、いきなり立ち上がって」

 

 なにか、近くにいるな。

 粘りつくような悪意。

 怪人に襲撃されるときと同じ悪寒を感じ取った俺は、手元のチェンジャーを確認しながらアルファに声をかける。

 

「アルファ、ここを認識改変で“隠せ”」

「! 分かった」

「カツミは?」

「外の奴らを片付けてくる」

 

 外に出るなりこれとか……。

 ため息をつきながら店を出る。

 平日だからか、人の通りはほとんどない道を進む。

 

「……」

 

 目前の曲がり角を早足で進み、背後を振り向くと同時に俺の後をついてきていた奴の腕を掴む。

 「うわっ」という高い声が聞こえ、その緑の髪が見えると俺は思わず呆気にとられた顔になってしまう。

 

「……お前はさっきのへなちょこ店員」

「だ、誰がへなちょこだ!!」

 

 新藤さんの店で雇われていた緑髪の少女。

 いや、こいつは店を出た俺についてきただけで、店の近くにいたのはこいつじゃない……!

 

「お目にかかれて光栄だ。黒騎士」

 

 逆方向からの声。

 そちらを振り向くと先ほどまで誰もいなかった場所に、ジャスティスクルセイダーのようなスーツを身にまとった二人の戦士が立っていた。

 赤いスーツの男と青いスーツの男だ。

 

「……。お前らか、気持ち悪い視線を寄越してきたのは」

「星将序列11位“星界戦隊 モータルレッドだ”」

「———」

「で、隣の彼が同じく序列12位、モータルブルー。よろしくなっ!」

 

 ……二人だけか? 随分と中途半端な戦隊野郎どもだな。

 どこかに後三人隠れているのか?

 

「せ、星界戦隊……!? あのイカレ共が地球にいるのか……!?」

「お前、知ってんのか?」

「ハッ、い、いや、全然知らない。あんな奴ら、見たこともないぞ!」

 

 ……知っているっぽいなぁ。

 こいつも何かしら事情がありそうだが、まずは目の前の二人からだ。

 

「君が噂の黒騎士かぁ。評判はよく聞いている!」

「……」

「いやはや、他のメンバーが遅すぎて待ちきれずに会いに来てしまったよ!」

「……」

 

ARE YOU READY(準備はいい?)? 』

NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

 

 耳障りな声を全て無視して、問答無用で変身を行う。

 目の前の二人が警戒すると同時に俺の体をスーツが覆っていく。

 

TYPE 1! ACCELERATION!!(行こう! 至高のその先に!!)

 

EVOLUTION!!(進化!!)

STRONG!!(最強!!)

INVINCIBLE(無敵!!)!!』

SUPER(最高!!)!!』

 

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

 

 胸に刻み込まれる“1”の数字。

 進化したプロトスーツを纏った俺に、モータルレッドは若干の驚きの籠った声を上げる。

 

「君と俺たちがここで戦えば周囲がどれだけ破壊されるだろうね! 君は正義のヒーローなんだろ! それじゃあ、駄———」

 

 すれ違いざまにモータルレッドと名乗ったお喋り野郎の頭を手刀で落とす。

 一瞬遅れてレッドの首が落とされたことに気づいたモータルブルーの胸に拳を打ち込み、絶命させる。

 

「なら、壊される前にぶっ倒せばいいだけだろ」

「……これが、黒騎士……序列上位が、こんな簡単に……」

 

 二体の怪人の死体の傍にいる俺を呆然と見ている緑髪の少女。

 攻撃はさせてないが、一応怪我の有無だけは聞いておくか。

 

「怪我はなかったか?」

「あ、ああ……」

「まったく、なんだよ星将とか意味わかんね。……いや、待て」

 

 もう一度地面に倒れ伏したモータル共の死体を見ると、一瞬のノイズと共にそいつらは機械仕掛けの人形へと変わる。

 

「さすがだ! さすがすぎるよ! 黒騎士!!」

 

 上からの声に目を向けると、先ほど始末したはずのモータルレッドとブルーが現れる。

 空を飛ぶボードのようなものに乗った二人は、こちらを見下ろすと先ほどと変わらない調子で話し始めた。

 

「こんな簡単に俺たちの素体が殺されるだなんて思いもしなかった!」

「……」

「しかも成す術もなく……ああ、これだ! まさしく君は俺たちが求めてきた宿敵だ!」

「はぁ?」

 

 何言ってんだこいつ。

 宿敵だとか頭おかしいんじゃねぇか?

 

「この星でもそうなのだろう? ヒーローには宿敵が必要だと! つまり君が俺たち五人が力を合わす敵だ!! そうだろう? ブルー!」

Aa…… Aa…… MOU IYADA OWARASETEKURE

「そうか! 君もそういってくれてうれしいよ!!」

 

 ヒーローだと?

 まあ、俺はワルモノだから宿敵扱いされても別にどうとも思わんが、こいつが自分をヒーローと名乗ったことに妙な憤りを抱いた。

 少なくとも俺の知るヒーローはそんなことを自分で口にしたりはしない。

 必要としていたのは宿敵ではなく、平和な……誰もが笑って生きていける日常だったはずだ。

 

「今回はその前哨戦! 敗北を喫した俺たちが次の戦いへの糧にするための戦いだ!」

「……負け犬根性が染みついた似非戦隊どもが」

 

 建物を蹴り上がり、一瞬でモータルレッドの頭上へ移動する。

 いちいち反応が遅い、レッドの頭に蹴りを叩きこみ人のいない道路へとその体を叩きつける。

 

「ぐばッ!?」

「五人そろえば強いとか、そういう能力かもしれねぇが……」

 

 最初から二人で来る馬鹿ども相手に手加減をしてやる理由はない。

 再び空中を蹴り、呆然と上を見上げていた緑髪の少女の近くに着地する。

 

「おい、へなちょこ店員。お前、名前は?」

「え? ぼ、ボクはコス……い、いや、こ……小翠(こみどり) (そら)、だ」

 

 こみどりそら、か。

 変わった名前だな。

 

「ソラ、今から俺はこいつらをここから遠ざけるが、周りに被害が出ないとも言えない」

「あ、ああ」

「だから、お前が避難させろ」

「うぇ!?」

 

 返事を待たずに地面を蹴り、モータル共が叩きつけられた道路の傍へと移動する。

 移動により生じた風で砂煙をかき消すと、ひび割れた道路の真ん中にボロボロの姿のブルーと、無傷のレッドが立っていた。

 

「圧倒的な強さだな! これほどの強さの敵は今までに見たことがない!!」

「仲間を盾にしたのか」

「いや? いやいやいや、それは違うよ! 彼は身を挺して俺を守ってくれたんだ!!」

 

 ここまで来ると不気味だ。

 こいつの本体は別にあるのか?

 だとすればこの余裕に納得がいく。

 

「だからこそ俺は諦めない!! 例えこの五体が四散しようともお前に一矢報いてやる!!」

「……茶番は終わりか?」

 

 どこか芝居がかった声にいら立ちを募らせながら、拳に力を籠める。

 本体がどこにいようが関係ない。

 何度も何度もぶん殴ってその精神ごと砕いてやる。

 

「———そこまでよ」

 

 赤色の剣を取り出したモータルレッドに、拳を叩きこもうとしたその時———ズガァンッ! という発射音と共に頭上から飛来した橙色の光を放つ何かがモータルレッドへと向けて連続で飛来してくる。

 

「あ?」

 

 それは“杭”。

 とてつもない熱量を内包したそれは、反応もできないモータルレッドの胴体と両腕を貫き、地面へと縫い付けてしまった。

 加えて、俺と奴を分断するように落下し、即席のバリケードすら作ってみせた。

 

「あが、ッ!?」

「ごめんなさいね。序列上位にこんなところで暴れられると、とても困るのよ」

「さ、サニー様……!?」

 

 地面に縫い付けられたモータルレッドの傍に降り立ったのは、橙色の戦士。

 大柄な体を覆う鎧の胴体は、まるで後ろから大きな翼に抱かれているかのような姿をしている。

その頭部も片目の部分も翼に覆い隠されており、唯一露出している右の複眼は青色の輝きを放っていた。

 特に目を引いたのは、右腕に取り付けられた杭打機のような武器。

 恐らく、あれで攻撃を行ったのだろうが……。

 

「本体に意識を戻しなさい。これは命令よ」

「……了解しました」

 

 地面に縫い付けられたモータルレッドの体から力が抜ける。

 奴が戦闘不能になったことは正直どうでもいい。

 問題は今、現れた奴だ。

 

『カツミ、あいつ……』

「ああ」

 

 発射音は一つ(・・)だった。

 にも拘わらず、モータルレッドを縫い付け、即席のバリケードを作り出した杭の本数は三十以上。

 なにより、目の前にいるだけで伝わる“圧”は似非レッドと比べるまでもなく強い。

 

「はぁっ、まったく……勝手なことばかりして困っちゃうわ。よりにもよって、ここで戦いを起こすなんて正気かしら」

「おい」

「あら? ごめんなさいね、蚊帳の外にしちゃって」

 

 こちらを振り向いた橙色の戦士は、右腕の杭打機のような武器を粒子へと変えて消し去るとおもむろにその両腕を上げた。

 

「敵意はないわ」

 

 降参するように武器を消した男に俺も拳を下ろす。

 

「あら? 信じるの?」

「あんた強いだろ。それに、敵意もない」

 

 さすがに変身は解かないが。

 しかし、本当に強いなこの人。

 まともに戦えば、周囲の被害どころじゃないだろ。

 

「あんた誰だ」

「フフ、サニーよ。ま、記憶を失う前の貴方には名乗ったんだけどね」

 

 そう口にするとサニーと名乗った男の腕に取り付けられた何かが外れ、橙色の機械の鳥へと変形する。

 それと同時に彼の身体の鎧が解除され、中から大柄な男性が出てくる。

 

「……っ!?」

「ちょっと!? 変身を解除したのに、もっと警戒するって失礼じゃない!?」

「怪物!?」

「乙女よ」

「オカマ……!?」

「乙女よッッ!!」

 

 おとめ……?

 思わず構えかけた拳を下ろすと、サニーは気やすい様子で俺に近づいてくる。

 

「とりあえず、ここを離れましょう? 貴方も騒ぎはごめんよね?」

「あ、ああ」

 

 妙に馴れ馴れしくて調子が崩れるな……本当に敵かこいつ?

 若干距離を取りつつ変身を解く。

 さすがにこれだけの戦闘をしたら人も集まってくるだろうし、目の前の怪しい人の言う通りここを離れなければ。

 

「……どこに行くんだ」

「私の推しのいる喫茶店よ」

 

 ……。

 

「もしかして、サーサナスか?」

「ええ。私、そこのマスターにを盗まれちゃったの」

 

 新藤さん……まさかそっちの人だったのか……!?

 上機嫌な様子のサニーからさらに距離を取りながら、俺はマグマ怪人の時にお世話になった人の驚愕の真実に心底震えるしかなかった。

 




マスターとコスモちゃんに迫る乙女の脅威……!

モータル達も序列に見合う強さを持っているのですが相手が悪すぎました。
黒騎士君の瞬殺性能が高すぎる……。

一番好きなオカマキャラは『トライガン』に登場するエレンディラ・ザ・クリムゾンネイルさん。
強キャラすぎて好きです。



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