今回は少し遡ってブルーVSモータルイエローの戦いから始まります。
モータルイエロー視点でお送りします。
星界戦隊は、既に死んでいる。
正義感に溢れたレッドは、正義という邪悪に酔いしれる外道に堕ちた。
笑顔を振りまいていたピンクは、かつての思い人だったレッドへの恋慕の感情以外をなくし狂える人形に変わった。
思慮深く、兄貴肌なグリーンは好戦的で残虐な正反対の愚か者になり下がった。
心優しくどんな時でも仲間を支える強さを持っていた私の兄———ブルーは、残虐な所業を繰り返す彼らの行いを何度も、何度も何度も何度も……目の当たりにして、心を壊してしまった。
私は、どうだろうか。
壊れることもできず、彼らの終わりを見届けるためにまだ生きている。
反転した星界エナジーにより生成された機械で構築された仮初の肉体ではなく、生身の肉体のままで戦い続けているのは、彼らと自分は違うという意思の表れなのか。
それは、自分でも分からない。
「貴女のソレ、跳躍弾っていうの」
地球の守護者、ジャスティスクルセイダー。
そのブルーとの戦闘は、有利なはずの私が翻弄されていた。
「狙いが正確すぎるんだよね。文字通りの必中、多分そのマスクの視界内でロックオンさえすれば当たると見た」
当たっている。
あえてそれを口に出さずに前方にいるブルーに跳躍弾を撃ち込む。
次元の影を通り、実体化したそれは容易くブルーの身体を貫くが、同時に風船の弾ける音と共にその姿は煙のように消える。
「なら、対処法は簡単」
また囮を撃ち抜いたか!
撃ち抜いた囮から煙が噴出し、周囲へと拡散する。
視界を覆うそれらを手で払いながらも、照準を向けようとするがそのどこにもブルーの本体がない。
『私が透明人間になればいい』
側方からの光。
それが奴の銃が放った光と判断し、避ける。
「挑発して私の動揺を誘おうってことね」
ジャスティスブルー。
正確無比な射撃を行う戦士。
でも奴の恐ろしいところは意味不明な挑発と、罠で敵を翻弄し仕留める狡猾さにある。
『当たってる。耳が痛い』
「隠れてないで出てきたらどう!!」
『爆発して死ぬのに? 意味ないよ』
声、は聞こえるがどこから聞こえているのか分からない。
でも心配はない。
跳躍弾は私の武器の一つでしかなく、むしろ私の本領は防御にある。
「効かないわよ! 地球人!!」
星界エナジーにより発現するバリア。
指定した範囲と、それから外の境界を歪めることで文字通りの絶対防御を発揮させる無敵のバリアだ。
それにより、ブルーの放つ攻撃は全て弾かれる。
逆を言えば、この力がなければ私は黒騎士の拳で殺されていたわけだけど……!!
「どこを狙おうとも、このバリアは絶対に壊せないわよ……!!」
『この世界に絶対はない』
「まだ言うか……!!」
話が通じている気がしない。
こちらの地球人の言語が間違っているのか?
それともこいつがおかしいのか?
半ば混乱しながら、その場を移動しようと足を踏み出したその時———、
「ッ、地雷!?」
いつの間にか足元に設置されていた円形の何かが破裂———飛び出した人型のデコイの頭が私の顔面に直撃する。
「うぐっ、
転がりながらも着地した次の瞬間、地面についた手がまた何かを踏む。
———ッ、しまッ。
「あぐっ!?」
今度は本物の地雷型のトラップが爆発し、衝撃に体を地面に叩きつけられる。
防御は間に合った!! まだスーツは生きている……!
早く体勢を立て直して——、
「……ッ後ろ!!」
僅かな足音を察知し背後を振り向くと同時に銃を放つ。
放たれた跳躍弾は、銃口の先にいるブルーの“スーツ”のど真ん中を貫いた。
『……なぜ……? バ……ジジッ』
撃ち抜かれた
本体を貫いた確かな手ごたえ。
一瞬の声の後に微動だにせずに沈黙するブルーの姿に安堵する。
「た、倒した……」
『残念、大外れ』
「!?」
貫いたはずのブルーから聞こえる声。
安堵に胸を撫でおろした直後のそれに大きく動揺した私は、背後から聞こえる銃声に反応できなかった。
右肩に衝撃が走り、手に持っていた武器が遠くに吹き飛ばされる。
「あ、がっ……!?」
地面に倒れながらも弾が飛んで行った方向を見れば、そこには隣のビルから狙撃型の銃を構えた
『貴女を殺すと面倒なことになりそうなので、痺れさせるだけにしといた。……聞きたい話もあることだしね』
う、動けない……!!
状況が全く分からない。
どうして私が後ろから撃たれたの……!?
「な、なんで! 確かに、あれが本体のはず……!! 貴女が、どうしてそこにいるのよ……!!」
『スーツは囮だよ』
私は奴のスーツを貫いた。
事実、倒れた視界には未だに直立したまま動かないスーツが……。
「!?」
いや、これはスーツじゃない!!
スーツの右腕部分と変身に用いるチェンジャーだけが抜き取られた、むしろ抜け殻同然の……!!
『武器を撃つだけなら、右腕だけのスーツで事足りる。ガワで騙せればそれでよかった』
「でも、どうやってそこまで——」
『よく見なよ』
奴の空っぽのスーツの内側に何かがいる……?
すると、青い円形の機械のようなものが現れ、そこから奴の声が響いてくる。
『新装備『ジャスティビット』の試作機。貴女がデコイに気を取られている間に、ここまで運んでもらって……その後は、録音した音声と仕込みで貴女を翻弄したってこと』
「……録音した音声……?」
『爆発して死ぬのに? 意味ないよ』
戦っている最中に聞こえたブルーの声。
『どう? 一緒に聞かなくちゃ違いが分からないでしょ? いざという時に備えて録音しておいたんだ。……役に立つとは思わなかったけど』
まさか、これは奴が近くにいると思わせるための……!?
話がかみ合わないと思っていたけれど、まさかこんな……。
『獲物が一番隙を見せる時はなんだと思う?』
「……勝利を、確信した……とき」
『正解。早めに決着をつけてよかった。黒騎士くんの攻撃を防ぐやつに弾当てるの面倒そうだったから』
悔しいけれど、完敗だ。
ブルーは最初からこちらを詰みにきていたんだ。
動けない私の元に、ドローンに掴まりここに戻ってきたブルーが再びスーツを装着する。
「……貴方達の仲間も終わりのようだね」
「……」
見上げると、あちらのレッドとイエローが奴ら専用のビークルに乗り込み船を破壊しに向かおうとしている。
「これで、よかったのかも……」
私には終わらせる勇気はなかった。
もしかしたら、元に戻るかもしれないとそんな淡い希望を抱いてはいたが、もう……罪を重ねすぎた。
せめて仲間の最期を見届けようともう一度上を見上げたその時、私の視界にジャスティスクルセイダーのビークルとは別の光が映り込む。
「あの、光は……七位———」
言葉にできたのはそこまでだった。
流星のように落ちてきた光は、黒騎士が戦っている球体へと激突———そのすぐ後に尋常じゃない電撃を周囲にまき散らしたのだ。
幸い、直撃こそは当たらなかったけど、飛んできた電撃が私の足場を崩しそのまま真っ逆さまに落ちていくことになった。
身体が動けないままでもバリアは張れたのは本当に助かった。
おかげで落下の衝撃で致命的な傷を負わず、瓦礫の下敷きにならずに済んだ。
しかし、だからといって私の置かれている状況が好転したわけでもないし、むしろブルーが打ち込んだ特殊な攻撃のせいで動けない分最悪とさえ思えた。
『
でも崩壊した建物のがれきに包まれたその空間で……私はその黄金色の光に魅入られた。
脅威の戦士、黒騎士が生身の姿で、金色に輝くドライバーを手に今まさに変身を行っていたのだ。
「ふん!!」
『PERFECT!!』
ベルトにバックルが差し込まれ、勢いと共に黒騎士が右手を空高く伸ばす。
同時にかれの頭上から光の柱がエネルギーフィールドとなって展開し、さらに大きな輝きを放つ。
力強く、喝采するような音声と声が鳴り響き、彼の身体を黒を基調としたアンダースーツが包み込む。
『
『
『
『
全身を順に覆っていく白いアーマー。
金属音と共にはめ込まれていく中で、空中で構成された赤、青、黄、黒の羽を模したプレートが胸部に組み込まれるように連続して装着されていく。
『
さらに白い鎧の淵を覆うように金色の装飾が浮かぶ。
腰回りを覆うマントが形成されたことで、その恐るべき姿が完成される。
『
『『『
殻を破るようにフィールドを吹き飛ばし、完全な変身を遂げた黒騎士———否、白騎士。
奴は空高く掲げた自身の掌を見つめたその後に、後ろにいる白髪の女へと振り返る。
「……」
「……あ、あああ、姉と名乗ってごめんなさい……」
「いや、責めてるつもりはないんだが……」
「出来心だったんです……」
「計画的じゃなかったのか……」
意味不明な会話。
奴がなにかを口にしようとしたその時、空高くから光の柱と共に———新たな肉体を得たレッド達が武器を伴い攻撃を仕掛けた。
「ッ、やめなさい!!」
咄嗟に声を発した時には既に遅く、白騎士の手に握られた赤色の剣が炎と共にレッド以外の三人を一瞬で半壊させた後だった。
地面に落ちる半壊した仲間を目の当たりにしたレッドは、その力の差に笑みすら保てなくなる。
「白くなったから勝てるとでも思ったのか?」
「あ、あああああ!!」
レッドがその大剣を振るう間に、白騎士はそれ以上の速さと正確さで彼の両腕を斬り飛ばした。
……分かり切っていた結果に、思わず呆れてしまう。
「……俺が剣を使うか。まったく、なにが起こるか分からねぇもんだな」
「が、ぁ……」
「お前らも、ここまで来ると哀れに思えてくる」
半壊するレッドを前に白騎士がバックルの上部にあるボタンを指で叩く。
『
さらにもう一度、叩く。
『
「あれがお前らを縛り付けているのか?」
『
バックルの側面を叩いた彼は頭上に指先を向ける。
「まずは目障りな船からだ」
『
『
指先に集められたエネルギーが無音の後に空へと放たれる。
暗闇を引き裂くように伸びる閃光。
その一撃は、私たちの船の一つ———ピンクの船を貫いた。
「あ、あああああ!?」
“本体”に直撃を受けたピンクが苦しみの声を上げる。
レッドとグリーンはその異常な様子に狼狽えているけど、当の白騎士は慈悲など与えはしない。
「なに、バカなことしてるのよ……!!」
死なないことが強いわけじゃない。
何千、何万と繰り返されていく死に慣れすぎたとはいえ、戦っちゃいけない相手と戦おうとするのは駄目でしょ……!!
「白くなったわねぇ! 黒騎士!!」
「!」
頭上から耳をつんざくような電撃が轟き、落下してきた七位が同時に強烈な電撃が黒騎士へと降りかかる。
……って、これ私まで巻き込まれ———、
『
『
「ふんッ!!」
『
『
電撃が地上に落ちる前に白騎士がダガーから放ったエネルギー刃が相殺させる。
こちらも命拾いしたわけだけど……噂通り、七位は性格も戦い方も厄介すぎる……。
「あいつ、厄介だな。……ハクア、怪我は?」
「だ、大丈夫」
「まずはお前を逃がさなきゃならねぇが……」
『
「ん?」
突然、白騎士の前に黒色の乗り物が転送される。
『カツミ、ハクアを乗せて!』
「うぉ……デロリアンみたいだ……」
「かっつん、チョイス古くない……?」
あれは、凍土のアリスタとの戦いで白騎士が用いた乗り物……?
奴は後ろにいた白髪の女を抱えると、そのままソレに乗せる。
「ハクア、俺の姉を名乗ったことについて後で話を聞かせてもらうからな?」
「は、はぃ……」
「だから怒ってないからな?」
白髪の少女を乗せた乗り物の扉が閉まる。
空を飛び、その場を離れる乗り物を見送った白騎士はそのまま空に浮かぶエネルギーで身体を構成された女———序列七位へと向き直る。
「さあ、続きをやりましょうか!」
「とりあえず、テメェの相手は後!!」
ぴしゃり、と言い放たれた言葉に七位の纏う電撃が僅かに小さくなる。
全身が雷のエネルギーで構成されて表情が分からない七位が、どこか子供のように両手を握りしめる。
「待ちきれない! 今戦いたいの!!」
「じゃあ、後からちゃんと戦ってやるから大人しくしてろ」
「やだ」
「……」
「……」
次の瞬間には跳躍した白騎士と七位が空中で激突していた。
白騎士はその手に黄色の斧を持ちながら、電撃をものともせずに七位に攻撃を仕掛ける。
『
『
白騎士の姿が炎に包まれる。
爆炎を吹き上がらせた斧を振り上げただけで、空高く火柱が上がり七位を呑み込む。
「! こんなにすごい炎初めてよ!!」
炎を吹き飛ばしながらも七位は飛び出し、電撃を放つ。
しかしそれらは白騎士の纏う炎がバリアのように防ぎ、焼失させてしまう。
「な!?」
「レッドのようにうまくはいかねぇが———ッ」
斧を投げ捨て剣を持った白騎士が、両手で持った剣の切っ先を七位へと向ける。
「これぐらいはできる!!」
一瞬で炎に包まれた剣を薙ぐように振るい、幾重にも包まれた斬撃を放った。
七位はさらに喜色の様相を見せながら、目では追えないほどの速さで斬撃を回避する。
「遅いわ! 全然ね!」
「なら、追いつけばいいだけの話だろ!!」
『
光と共に白騎士の姿も消える。
空ではいくつもの閃光が連続して走り、私の知覚外の戦闘が繰り広げられる。
「なん、なのよ……」
あんな化物がどうして地球なんかにいるのよ。
ジャスティスクルセイダーもそう。
ただスーツを着ただけの人間なのに、私たちを容易く上回る強さを持っている。
「なんだ、イエロー。お前動けないのか」
「……黒、騎士」
「うん。黒騎士だぞ」
地面から体を起こして空を見上げている私の隣に、いつのまにか黒騎士が膝をかかえるように座っていた。
改めて見ても、むかつくくらいに顔が整ってるわね。
軽く深呼吸をして感情を落ちつけてから彼女がここにいる理由を尋ねる。
「貴女が、負けたの?」
「その通りだ。とても楽しかった」
「……楽しかったって……」
私たちと最初に戦った時は、そんな感情すらも抱いていなかったということか。
複雑な心境の私を知らずか、黒騎士は膝を抱えたままぼけーっと空を見上げる。
「地球には手を出さないと約束させられた」
「それは……ご愁傷様」
「? 別に地球にいちゃ駄目って言われていない」
「……は?」
居座るつもりなの?
黒騎士は、頭上で白騎士と戦っている七位を見ると子供のように頬を膨らませる。
「もう少しで捕虜になれたのに、邪魔された」
「は?」
「七位、許さん」
……こいつはいったい何を言っているのだろうか。
元から話が通じないタイプだったけど、今の発言はもっと理解できなかった。
そう考えている間に、頭上での戦いに変化が見られた。
『
「攻撃がすり抜けた!?」
液体と化した奴が流れるように空中を滑る。
直後に七位の身体を包み込むように纏わりつき、流体のまま七位を瓦礫のある地上へと叩きつける。
「っぐ!? お、おおおおう!?」
さらにその上で数度、連続して地面と壁に叩きつけられた七位は、実体となった青い姿の白騎士により空へと蹴り上げられる。
「まだだ!!」
瞬時に赤い姿へと変えた白騎士が手を大きく翻すと空中に幾重にも重なった炎剣が現れる。
それらは全て七位へと向けられ、一斉に放たれ連鎖的に爆炎を引き起こし、空そのものが炎に包まれていく。
「ぷはっ!! あぁ、もうこんなに楽しいのは初めてだわ!!」
それでもなお、七位も白騎士も消耗した様子を見せないままに戦いは続いていく。
「もっと、もっとたくさん攻撃してほしいっ!」
どちらも化物だ。
私は元から乗り気ではなかったけれど、どうしてレッドはアレに勝てると思っていたのだろうか。
「ああ、この命に手がかかる感じすごくいい!!」
「んなこと知るかよ!!」
「私、今ものすごく生きているもの!! 血が通っていたあの時みたいに!!」
「他の奴に迷惑かけてまですることじゃねぇだろうが!!」
七位の喜ぶ姿に白騎士は心の底から面倒そうに腕を回す。
私が言うのもなんだが、序列一桁は変人が多いと聞いていたけど、七位も例外じゃないようだ。
「白騎士は能力の多彩さで、黒騎士は純粋な近接能力と速度に特化しているようだ。……フフフ、白騎士はちゃんと剣を使ってる」
隣でぽわぽわとした様子で白騎士から視線を外さないこっちの黒騎士も同じだけど。
というより、剣云々はどうでもいいでしょ。
「面倒くさいから、お前はぶっ飛ばす!!」
「へぇ、楽しそう!!」
「言ってろ!!」
『
『
白騎士が自身のバックルを叩くと、今度はその姿が黒へと変わる。
あふれ出した七位の電撃と、黒い重力の波を放つ白騎士の力がぶつかり合い、戦いの場は混沌化していく。
『
ダガーの一閃で道を切り開いた彼がバックルを叩き、白い力を身にまとう。
『
二度目に鳴り響く声。
白い力は灼熱色に。
『
虚空に出現した銃の群れが七位を照準に捉え、一斉にエネルギー弾の雨を降らせる。
灼熱色は、青空へ。
『
感情をあらわにさせ稲妻を放つ七位の蹴りと、同じく雷撃を纏った斧がぶつかりあう。
周囲に光が満ち、その力が———七位を上回る。
『
「歯ぁ、食いしばれ!!」
『
黒いオーラを纏った拳が下から上へと繰り出されると同時に白騎士の眼前の空間の重力が逆転し、七位のエネルギーで構成された身体が浮き上がる。
現象すらも超越させる力の奔流を前に、私は開いた口が塞がらない。
「重力の檻!? 私が逃げられないほどの……!! あ、ぐッ!!」
体を空間ごと固定させているの……?
あれじゃあ、いくら七位でも逃げられない!
「あ、はぁっ! 存在固定! そういうのも使えるのね!!」
「笑ってられんのも今の内だぞ!!」
「笑うわよ!! だって楽しいもの!!」
跳躍した白騎士が蹴りの体勢に移る。
瞬間、七位の背後に新たなワームホールが作成され、その体ごと押し込むかのように———重力を纏った蹴りが直撃する。
「月までぶっ飛べ電気女!!」
『
『
「ッッ」
弾けるように周囲に衝撃が走る。
七位は重力の檻に閉じ込められながらもワームホールへと叩き込まれ、その消失と共にこの地球から完全に姿を消してしまった。
「……」
ワームホールが砕け散り、亀裂が修復した直後はあれほど轟音が鳴り響いていた戦いの場は異様なほどの静寂に包まれていた。
「当分、戻ってくるんじゃねぇぞ……」
七位ですら、退けた。
分かっていたことだけど、相手は想像以上の化物だ。
例え、上位クラスであっても二桁程度の私達では元から無理な話だったんだ。
「さて、こっからが正念場だな……」
「……?」
まだ、何かをしようとしているの?
戦う相手はもうこの場にはいないはず。
それにも関わらず準備運動をするように腕を伸ばした白騎士は、大きく息を吸った。
「スゥ……ルイィィィィン!!!」
空気を震わすほどの声から出てきたのは、何者かの名前。
その名前に誰も反応する者もいないまま、白騎士はさらに声を張り上げる。
「見てるのは分かってんだよ!! 勿体ぶってねぇでさっさと出てこい!!」
———ルイン?
いったい、誰を呼んでいるんだ?
「そういう、ことだったのか」
「黒騎士?」
「地球に拘っていた理由。なるほど、納得した」
いったい、なにが起きているの? 白騎士が呼んでいるのは誰なの?
この場の全ての人間に聞こえるほどの怒声を発した白騎士に、誰もが首を傾げる中———異変は起きた。
白騎士のすぐ前に出現する黒い渦。
小さく、人一人分ほどしか通れないほどのそれを私の頭が認識したその時、見えない力で押しつぶされるように私の身体が地面へと叩きつけられた。
「ッ、ぐ、ぁ……!?」
身体が無条件に地面に吸い寄せられるように、這いつくばる。
「な、に……よ。こ、れ……!?」
「下手に抗うな」
黒騎士は僅かに肩を震わせているだけで平気なようだが、周囲に目を移せば私だけではなく、この場にいるすべての地球人が私と同じように地面に縫い付けられるように地に伏せている。
あのワームホールの奥から発せられる
「生物は皆、根源的な恐怖には逆らえない」
「な、に……?」
「しかし、何事にも例外というものが存在する」
黒騎士が指さした先には、白騎士だけがなんの影響を受けていないように、その場に立っていた。
———足音が聞こえる。
そこまで大きくないはずなのに、はっきりと近づいてくるその音に背筋が凍るような感覚に苛まれる。
「あぁ、まったく、本当に愛い奴だ」
鈴の鳴るような声。
声そのものが酒気を帯びているかのように、思考を痺れさせる。
ワームホールの先の空間から、悠然とその足で現れたのは———この世ならざる存在。
「この私を呼び出すなど、お前が初めてだぞ?」
青い肌と、紺色の髪。
全てを見通すような琥珀色の瞳。
この世のものとは思えないほどの美貌と、完璧な肉体。
「だが許そう。それだけの価値と強さがお前にはあるのだから」
白い布をドレスのように身体に巻いただけという簡素な装いでこの場にやってきた女性は、白騎士のすぐ前にまで歩み寄ると蠱惑的に微笑む。
「カツミ、我が愛しき宿敵よ。さあ、お前に呼ばれ来てやったぞ?」
あまりにもあっさりと、私たちを、この銀河を統べる無敵の存在がこの地球という舞台に現れた。
呼ばれなくても、普通に来る気満々だったルイン様。
でも主人公に呼ばれてしまったのでウキウキでやってきました。
次回の更新は明日を予定しております。
恐らく、社長中心の視点でお送りすることになります。