前話を見ていない方はまずはそちらからどうぞー。
過去話。
黒騎士くんが政府と協力してマグマ怪人と戦ったお話。
主人公以外の人物の視点となります。
《一年と五ヵ月前》
怪人とは、組織の一部にしか知らされていない未知の脅威のはずだった。
銃や爆薬では足止め程度しかならない化物。
約半年前に出現が確認されたソレは街中で暴れまわり、多くの死傷者を出してその姿を消してしまったが、一度だけの出現に留まらず何度もその姿を現し人類に殺意を向けてきた。
今となっては、多くの一般人が怪人の存在を知り、恐怖している。
だが怪人発生から数ヵ月後が経った頃、とんでもない怪人が日本国内で姿を現した。
この作戦は不可能をそのまま書類に移し込み隊員の顔面に叩きつけたようなものだった。
KANEZAKIコーポレーションとかいう大企業が用意したとかいう謎の最新鋭、大型ヘリによる、長距離運搬任務。
運ぶ荷物が普通だったらまだマシだったんだが、失敗すれば自分達だけではなく日本そのものが危険に晒される任務だ。
これで怖気づかないはずがない。
今、今日触れるばかりの最新鋭のヘリを動かさなきゃならない同僚は、生きた心地がしないだろう。
全てが謎だらけだ。
本来なら、絶対に通るはずのない外部の企業からの干渉を受けていること自体が異常でしかなかった。
だが、異常事態がそのような疑問を挟む余地を抱かせなかった。
新たに現れた怪人は、マグマのような体表を持つ人型の生き物。銃弾も爆弾も、あらゆる火器も通じることはなかった。
偉い学者さんの見解によると、この怪人は地上からエネルギーのようなものを吸い取って自分の力にしているらしい。
だから、攻撃を食らっても再生するし、無尽蔵に近いエネルギーで攻撃し続けることもできる。
絶対に倒せない怪人。
この状況を重く見た政府は、予想だにしない行動に出た。
国内で噂されている怪人を多く倒す正体不明の仮面男―――黒騎士に怪人の討伐若しくは無力化を依頼したのだ。
「目標地点まで距離、約三〇〇〇!!」
眼下に映る広大な海。
遥か遠くから聞こえるように錯覚する同僚の声が答える。
作戦は佳境に入った。
ここで、しくじってしまえばここまでの努力も、資金も、何もかもが無駄になる。
「———下ではどうなっているんだ……! なあ、黒騎士さんよ……!!」
ヘリの下部に取り付けられたワイヤーの下には正方形型のコンテナが釣らされていた。
中の広さが六畳ほどの規格のものと比べ、小さなそれは多重に装甲で固められ、どんな攻撃にでも耐えられるほどに堅牢に作られていた。
だが、防ぐのは外からの攻撃ではなかった。
ドゴォ!! という何かを殴打するような音が響き、コンテナが左右に揺れる。
「ぐ……!」
取っ手に捕まり、振動に耐える。
同僚が懸命に姿勢制御をしてくれているが、一つ間違えばワイヤーが切られコンテナは真っ逆さまだろう。
しかし、そうしている間もコンテナ内からは連続して何かがぶつかり合う音が響く。
「くそ、本当は二人だけじゃないのに……!」
本来はもっと大人数で作戦に当たるはずだったのだ。
だが、マグマ野郎が暴れてヘリに乗るはずだった隊員達が重傷を負い、ヘリに乗れるのが俺達しかいなくなってしまった。
それでも、任務を続けなければならない状況だった。
「彼は大丈夫なのか!?」
「分かるはずがないだろ!! コンテナから脱出しようとする奴を押さえるために、自分も中に入ったんだぞ!?」
あんなのと同じ空間にいれば瞬く間に消し炭になってもおかしくない。
だが事実、あのコンテナからは依然として戦いが続いている。
打撃を繰り返し、コンテナに開けられた僅かな隙間からは、風が吹き込まれる音と、時折炎が噴き出しては消えていく。
彼の纏うあのスーツのおかげかは分からない。
だが、まともじゃない。
あんなの、空想の中でやるような戦いだ。
「ッ、目標地点到着!」
「了解!!」
俺は手元に持っているスイッチのカバーを取り外し、ヘリ下方のコンテナを確認する。
まだ中では戦っている音が響いている。
秒読みを口にしながら、指に力を籠め―――スイッチを押す。
「———投下!!」
タイミングに合わせてコンテナの下部を遠隔操作で開き、中にいる怪人を海面へと落とす。
「オオオオオ!!」
まるで大地のような唸り声と共に、煙に包まれたなにかが海面へと落下していく。
確認できた水しぶきは一つのみ。
どこだ!? 一緒に落ちたのか!? 確認できないぞ!!
同僚のパイロットが焦りを孕んだ声をかけてくる。
「彼は! 彼も落ちたのか!?」
「姿、確認できない!!」
「よく探せ!!」
ここまで来て見捨てるとか冗談じゃないぞ……!!
焦燥しながら、海面を凝視していると、ヘリの扉を開けて身を乗り出した俺の足元に、黒い手甲に包まれた手が現れる。
「うぉ!?」
ヘリの扉から上ってきたのは黒いスーツに身を包んだ男、黒騎士と世間で呼ばれている彼であった。
その身体から煙を噴き出しながら、足を投げ出すように扉の縁に座り込んだ彼は、大きなため息を零した。
「あぁー、死ぬかと思ったー」
「まったく、心配したんだよ。もう」
どこからともなく現れた少女が黒騎士の隣に座る。
さして、その様子を気にせずにようやくあの怪人を深海に落としたことに安堵する。
「大変だった? でもやったじゃん。まあ、君ならこれくらいできても不思議じゃないもんね」
……そうだ、一応の安全確認をしなければ。
俺も周囲と黒騎士の様子を見て、なんの異常もないことを確認しつつ声をかけてみる。
「君、大丈夫……なのか?」
「……ええ、あの、お疲れさまでした。お互いに大変でしたね………」
———子供だ。年は中学生か? 高校生に上がった頃だろうか?
仕草と声からして、なんとなくそれを理解した俺はなんとも言い難い感情に苛まれる。
上はこのことを知っているのか?
彼が、黒騎士と呼ばれた人物が子供だということを……?
「さすが私の見込んだ黒騎士さん。そうでなくっちゃ」
「アルファ、うるさい纏わりつくな、鬱陶しい」
「うりうり~」
仲のいい二人を見ていると、先ほどの激闘を忘れ和やかな心境になる。
緊張が解けたはずみもあって、思わず声をかけてしまう。
「仲睦まじいな。まるで恋人同士じゃないか」
「いいえ、恋人同士。言ったでしょ?」
「———ああ、そう言っていたな。君達は恋人だったんだ。うん、上官から聞いていたんだ」
ははは、こりゃ変なことを聞いてしまったな。
状況が状況の後だ、安堵のあまり笑みが零れてしまう。
「アルファ、やめろ」
「はいやめまーす。彼とはお友達なの、だからここに一緒にいるんだよ?」
「ああ、そういえばそうだったな。すまない、忘れていたよ」
少女に頷く。
少女と黒騎士が“お友達”だということは、上官からもしっかりと聞いていたからな。
記憶もちゃんとあるし、間違いない。
……そうだ、肝心なことを忘れていた。
「あのマグマ野郎は……倒したのか?」
少女を睨む黒騎士に怪人が倒せたかどうかを確認する。
「いえ、今はアレは倒せないようです」
「待ってくれ、それでは……」
「今は倒せませんが、次には対策を立てられるはずです。その時に、また俺を呼んでください。さすがに、自分の住んでいる国を滅ぼされちゃたまらないですから」
あんな恐ろしい敵にもう一度立ち向かってくれるというのか。
近くにいただけで、怖気づいてしまった自分が情けなくなってくるな。
「ありがとう。君のおかげで俺達は助かった」
「……い、いえ、そういうつもりで動いたわけじゃありませんから」
「照れてる? もしかして照れてるのかな?」
「……ッ」
彼が右手で少女をどけようとする。
俺は彼の右手になにかがついていることに気付く。
彼の前腕を握りしめるようについている、黒い罅割れたな―――、
「それ、腕か!?」
「あ、奴の腕……のようです。どうやら掴みかかられた時に捥ぎってしまったようで……必要ですか?」
怪人の生態を研究するとかで貴重なサンプルにはなるだろうが……。
まさか、よりにもよってあのマグマ野郎から腕をもぎ取ったのか?
バリバリと、簡単に右腕から腕を引きはがした彼は、煤を落としながら立ち上がろうとして―――不意に、海面へと視線を落とす。
「……少し、ここで待ってもらってもいいでしょうか?」
「え、なにを――」
「あいつ、まだ上がってくるようです」
「ッ!!」
咄嗟に私も彼の視線の方を見る。
『ウオオオ!!! アァァァァァス!!!!』
海面から溺れるように顔を出すのは、溶岩が黒く染まったような外殻に包まれた怪人。
無理やり水面に浮かび上がっているのか!?
いや、あの様子じゃ落ちるまで時間の問題のはずだ。
「放っておけば、このまま海底まで真っ逆さまに落ちていくだろうけど……」
「ふふふ、ちゃんとやらなきゃいけないことはわかっているようだね」
「……お前の予想通りだなんて、癪に障るけどな……」
無言のまま海面を見る彼。
どことなく不安を抱いた俺は、とりあえず声をかけようとするが、それよりも速く彼は右手に持っていた怪人の腕を握りなおす。
「次に備えるべきだ。次にこいつと戦うために……」
「うん、その通り。その腕を使うんだ。それなら、彼も溶かせない」
自身の持つ怪人の腕を見つめる彼。
思わず声をかけると、彼は仮面に包まれた顔をこちらへ向ける。
「俺が戻ってこなかったら、ここから離れてください」
彼は行く気だ。
先ほど、あんなに疲れ切るまで戦い続けたのに。
得体が知れない存在だ。
だが彼は断じて、怪人ではない。
不器用な優しさを持った子供だ。
「いや、ここで待っている! 絶対に君も帰ってくるんだ!!」
自分の立場関係なしに思わず口にしてしまった言葉。
ある意味で責任問題になる言葉にしまったと思うが、それを言われた彼は、仮面越しではあるがとても驚いているのが分かった。
「いってらっしゃーい」
「……いってきます」
「いつも学校に行くときは返してくれないのに……これは大きな進歩だね」
「……お前に言ったんじゃねぇよ……」
最後に何かを呟いて彼がヘリから飛び降りた。
海面で暴れる怪人の上に落下した彼は、そのまま右腕に持っていた怪人の腕を黒く染まったその胴体へと叩き込んだ。
海中へ深く沈んでいく怪人と黒騎士。
戦闘の衝撃で海面にまで伝わる衝撃。
焦燥のまま、彼の姿を見逃さないように海面を凝視する。
「やっぱり、やっぱりやっぱり……君しかいない」
すぐ隣からの少女の声が聞こえる。
異常はない。
この大型のヘリには俺と同僚の二人しか乗っていないんだ。
だから、この少女がいても、不思議じゃないんだ。
だって彼女は、黒騎士のお友達なんだから。
「……アレ?」
「———おい! 彼が上がってきたぞ!! こちらで確認できた!!」
「え、あ、い、今引き上げる!!」
海面から上がってきた彼の姿を確認し、急いで縄梯子を準備する。
「——ふふ」
こうして、困難を極めた作戦が終わりを告げた。
黒騎士と政府が協力体制を結んだ事実は隠蔽されてしまったが、彼と共に戦ったことは我々にとっても意味のあったことだと、今でも信じている。
ムテキでもノックバックはある。(小説版)
怪人を特製コンテナに詰め込んで大地から離した上で、太平洋沖の深海に落とすというのが作戦でした。
黒騎士くんは一緒にコンテナに入って怪人に脱出されないように殴りまくっていました。
ヘリにいた人数? 黒騎士くんをいれて三人です。
女の子? 顔も声も思い出せませんが、たしかに黒騎士くんのお友達です。
上官? ちゃんと上官の方も許可を出していました。
おかしいところは、なにもないはずです。